仲間だから
アルズはキメラから目を離せずにいた。
「キメラ……」
そっと剣を構える。
「あぁ、奴は相手が息絶えるまで逃さない……勝てるわけがない……」
ヴェルクは足が震えていた。
「やるしかないな……フィリア、支援を頼む」
「了解よ! 全力でいくわ」
アルズとフィリアは覚悟を決めた。
「お前ら……正気か? 死ぬぞ……」
ヴェルクは怯えている。
「ヴェルク、俺達が戦っている間に逃げるんだ……」
「なっ、何を言ってるんだ……奴からは逃げられねぇ……」
「なら、やるしかないわね……ヴェルクは隠れてて」
「!?」
ヴェルクは信じられなかった。
(誰しも、自分が一番大事と思っているのではないか……。自分の命を犠牲にして助けようなんて……)
(あ……足が動かねぇ)
その時、
「グォォォォッ!」
キメラの咆哮が響く。
鋭い爪を立て、アルズに襲い掛かる。
バァン!
「くっ……」
アルズは辛うじて弾き返した。
キメラは後方へ跳び退き、態勢を立て直した。
「……やめて……くれ」
ヴェルクの声は細々としていた。
「ヴェルク……。俺達は仲間だ。仲間を助けるのは当然なんだよ」
ウィンクルムソードが黄金に輝き、姿を変える。
「そして、俺は……どんなに強い相手でも、最後まで諦めない!」
「アルズだけじゃないわ。私も同じよ!」
「!?」
(なんだ……この感覚……)
(初めてだ……心が軽くなっていく……)
(これが……『信頼』というものなのか……)
フィリアはアルズに支援魔法を付与していた。
キメラがフィリアに狙いを定める。
再び爪を立て、襲い掛かる。
「マズイ……間に合わない」
アルズは咄嗟に飛び出したが、キメラの動きが速く届かない。
「あ……」
フィリアは魔法障壁を出すタイミングを逃した。
「フィリア!」
アルズが叫ぶ。
フィリアは目を瞑り、腕を盾にして衝撃に備えた。
ドォォン!
(あれ……衝撃がない……)
フィリアはゆっくりと目を開ける。
「……ヴェルク!?」
フィリアの目の前に、巨大な斧でキメラの攻撃に耐えているヴェルクの姿があった。
「ヴェルク……どうして……」
「へへ……。アルズとフィリアがこんなにも俺を信頼してくれているっていうのに……情けねぇ」
「ありがとよ……」
ヴェルクは手に力を込めた。
「うぉぉぉぉっ! 俺の仲間に手を出すんじゃねぇ!」
バァン!
キメラの手を弾き返す。
地面を蹴って跳んだ。
斧を両手で握りしめ、力一杯振り下ろす。
「くらえぇ!」
ザシュッ!
ヴェルクの攻撃はキメラの左目を切り裂いた。
「グァァァァッ!」
キメラは痛みで悶絶している。
「ヴェルク、凄いな」
アルズが駆け寄る。
「すまなかった……なんでこんなに臆病になってたんだろうな」
ヴェルクは斧を肩に担ぐ。
「俺はドワーフ族だ!」
「打たれ強さと体力なら誰にも負けねぇ! 前線は俺にまかせろ」
ヴェルクはアルズとフィリアを見て笑った。
「分かった。一緒に戦おう」
「頼りにしてるわよ。ヴェルク」
フィリアはヴェルクにありったけの支援魔法を付与した。
「いくぞ!」
三人の連携はキメラを圧倒していた。
ヴェルクが攻撃を受け、アルズが攻撃する。
フィリアは二人の立ち回りを冷静に見て判断し、適切な魔法を発動する。
「トドメだ! アルズ!」
「うぉぉっ!」
アルズはキメラの脳天にあるコアに剣を突き刺した。
キメラは大きな地響きを立てながら倒れ、そのまま動かなくなった。
「やったぞ!」
「勝ったぁ!」
「ふぅ……」
アルズとフィリアは喜び、ヴェルクは胸を撫で下ろした。
「ヴェルク、ありがとう。あなたがいなければ、私は死んでいたかもしれない……」
フィリアは今にも泣き出しそうだ。
「よせよ。俺の方が感謝しなくちゃならねぇ。二人に大切な事を教わったからな。それに……」
ヴェルクは頭を掻く。
「仲間だろ?」
ヴェルクは照れながら言った。
「うん!」
アルズは周りを見渡した。
「さて、ミスリルを回収して帰ろうか」
「おうよ。これだけあれば、お釣りがくるぜ」
「それじゃ、今晩は美味しいものを食べましょ」
「いいな! またエルフの店にしようぜ」
三人は丁寧に回収したミスリルを、マジックボックスに収納した。
「こんなもんかな」
アルズは腕で汗を拭う。
「そうだな。少し残しておいた方がいいだろうな」
「そろそろ帰りましょ」
三人は互いの顔を見て頷いた。
――ミーデ
街についた頃には、日が暮れかけていた。
ヴェルクには、街がいつもより明るく見えた。
「先にやることをやっておこう」
「おうよ。まずは換金だ」
ミスリルを金貨に換えて協会に向かう。
「ここで待っててくれ」
アルズとフィリアは、協会の入口で待つことにした。
「アルズ。ヴェルクの悩みが解決してよかったわね」
「あぁ、正直ダメかと思ったよ。ヴェルクがいると心強いな」
「そうだね。あんな大きな斧を振り回して凄いよね」
「俺も強くならないとな。そういえば……」
アルズはフィリアの顔を見た。
「セフィラさんに、何を言われたんだ? 小屋を出る時に耳打ちしていただろ。気になっちゃって……」
「あぁ、あれは……。そのうち分かるわよ」
「……そっか」
アルズは少し残念な気持ちになった。
その時、協会の扉が開いた。
「待たせたな! 飯にしようぜ」
「お疲れさま。もう大丈夫なの?」
「おうよ。全て終わったぞ」
「よかった。んじゃ、打ち上げだな」
『おぉ〜』
三人はエルフの店に向かった。
『かんぱ〜い』
「改めて……。アルズ、フィリア。本当にありがとな。助かった」
ヴェルクは頭を下げている。
「やめろよ。俺達だって、ヴェルクがいなかったらキメラを倒せなかったよ」
「そうよ。私の命の恩人だよ」
「ハハハ……照れるぜ」
店員が料理を運んできた。
「お待たせしました。『エルフの喜び、盛り合わせ』でございます」
豪華な料理がテーブルに並ぶ。
「わぁ、キレイ……」
「さっ、食べようぜ」
『いただきます!』
三人は豪華な料理に箸が進む。
「そういえば……」
ヴェルクは食べながら言った。
「その剣だが、変化した時の輝きは忘れられねぇ。俺の目に狂いは無かったな」
「今晩、その剣を預かっていいだろうか? 試したいことがあってな。魔石とか持ってないのか?」
「魔石か……」
アルズはマジックボックスに手をかざす。
「闇の神殿と風の神殿で手に入れた物ならあるけど……これでいいのか?」
「……!?」
ヴェルクは目を見開く。
「まったく……アルズにはビックリさせられてばっかりだな」
ヴェルクは魔石を指差す。
「それがいいんだ! その魔石で試してみたいんだ。預かっていいか?」
「あぁ、構わないよ」
「よっしゃ! 腕が鳴るぜ」
「なんか、楽しそうでいいわね。アルズ、いつものアレを頂戴よ」
フィリアは話に入れずに拗ねていた。
「んぁ、そうだったな」
アルズは小瓶を取り出して、フィリアに渡した。
「ありがとう。それでぇ、魔石を使うと強くなるの?」
「親父から聞いた話だと、英雄ミナトの剣は、この世界の加護を全て受けて完成すると……」
ヴェルクは顎に手を当て続ける。
「だから、神殿で手に入れた魔石を使えばいいんじゃないかと思ってな」
「なるほどな。どうせ各地の加護を受けるつもりだ。魔石も回収しておくよ」
「ここは土だっけ? その神殿にも行かなくちゃね」
「土の神殿な……」
アルズは、ヴェルクの表情が曇ったのを見逃さなかった。
「ヴェルク……。俺達は仲間だよな?」
「もちろんだ!」
「土の神殿の話をするときに、表情が曇るのはなぜだ? 何かあるんじゃないのか?」
「……」
ヴェルクは黙り込む。
アルズとフィリアは待つ。
「……実は、俺の弟が土の神殿に行ったっきり、帰って来ねぇんだ……」
『!?』
「正確には消えた……。神殿に皆で探しに行ったが、何処にも姿は無かった……」
「そ、それはいつの話だ?」
「……五年前だ」
「そんな……神殿に行って消えるなんて。精霊は? 精霊は何か言ってなかった?」
ヴェルクは、顔を左右に振る。
「加護を与えた後、帰って行ったと……」
静かな空気が流れる。
「だから……」
「行かないほうがいい! もう……失いたくないんだ」
ヴェルクは本音を吐き出し俯いた。
賑やかな店内で、三人のテーブルだけ時間が止まったようだった。
店の外から、三人を見つめる影があった。
まるで、岩のような身体を隠すのに苦労している。
「……」
その影は、ただ黙って三人を眺めていた。




