結ばれた想い
オルトは自室へ戻った。
そこにはリサがいた。
手首などは縛られていない。
「手荒な真似をしてすまなかった。どうも俺は不器用でよ」
オルトは頭を掻いた。
「よかったら名前を教えてくれないか?」
リサは一呼吸置いて答える。
「リサと言います。なぜ、このような事を?」
オルトはゆっくりと息を吐いた。
「リサか……良い名前だ」
オルトは微笑む。
「ダークエルフは昔から雑に扱われていたんだ。俺の両親も死ぬまで働かされた……」
「そんな……」
リサは驚いた。
エルフ領に、このような現実があったことを知らなかった。
「生まれながら皆平等だと思っている。あくまで俺の持論だ」
オルトは俯いた。
「なんとか声を届けようとした。でも届かなかった……誰もダークエルフの言葉を聞いちゃくれないのさ」
リサは拳を握る。
「私も知りませんでした……領主家の一員として恥ずかしいです」
オルトは顔を上げた。
「私も変えたいと思います」
「へへっ、ありがとよ」
オルトは少し照れくさそうに笑った。
「明日の正午に領主様と対談することになった。自分の言葉で伝えるよ」
「そこでリサを解放するから、もう少しだけ我慢してくれないか?」
リサは静かに頷いた。
「そうだ。お腹は空いてないか?」
その夜、オルトとリサは食事をしながら語り合った。
――風の町プラーナ。
アルズとフィリアはクレールに説明していた。
「そうですか……わかりました。明日の正午に席を設けましょう」
クレールは二人を見据える。
「よろしければ、お二人にも出席していただきたいのですが……」
アルズとフィリアは顔を見合わせた。
「わかりました。出席させていただきます」
フィリアは丁寧に答えた。
「ありがとうございます。今夜はここで休んでください」
「では、明日の正午に……」
二人はクレールに一礼して謁見の間を後にした。
アルズとフィリアは客室へ続く廊下を歩いていた。
「オルトさんって人、悪い人には見えなかったわ」
「そうだな」
アルズは頷く。
「純粋に声を届けたかったんだろうな。もしかしたら刑罰も覚悟しているのかもしれない」
フィリアは腕を組んだ。
「夢の国みたいに見えても、影では現実が揺らいでいたのね……」
少しだけ表情を引き締める。
「明日の対談、なんとか成功させなくちゃ」
「そうだな」
アルズも頷いた。
「プラーナには世話になったし、力になってやろう」
二人は客室へ向かい、明日に備えて休むことにした。
――翌日。
「おはようございます」
「アルズ、フィリア。今日はよろしくお願いいたします」
クレールは二人に頭を下げた。
「やめてくださいよ。私たちは大したことはしていませんから」
フィリアは慌てる。
「いいえ」
クレールは静かに首を振った。
「私の落ち度に気付かせてくださいました」
「さぁ、こちらへ」
アルズとフィリアは案内された席に腰を下ろした。
「領主様。客人がお見えになりました」
兵士が告げる。
「お通しになって」
扉が開く。
オルトとリサが入ってきた。
「リサ! 大丈夫?」
フィリアは思わず声を上げた。
「うん、大丈夫よ」
リサは微笑んだ。
「オルトさん、こちらへ」
「あぁ」
オルトは静かに席へ着いた。
領主とアンブルフの対談が始まった。
クレールが口を開く。
「まず、対談を始める前に謝罪をさせてください」
「!?」
オルトは目を見開いた。
「領主として全体を見ることができておらず、ダークエルフの皆様には不快な思いをさせてしまいました」
「誠に申し訳ございません」
クレールは深く頭を下げた。
「い、いやっ」
オルトは慌てる。
「分かってくれるなら、それでいいんです」
「こちらもリサさんを誘拐するなどという卑怯な手段を使ってしまった。本当に申し訳ない」
オルトも頭を下げた。
「では要求についてですが――」
対談は順調に進んだ。
議会設置。
労働環境の改善。
貧困層への支援。
すべてが前向きに話し合われていく。
オルトは何度も頷いていた。
「それじゃ……要求は通ったってことか……」
「もちろんです」
クレールは微笑む。
「このような素晴らしい提案は早急に実現しなければなりません」
オルトは思わず笑った。
「ハッ、ハハハ……」
目頭が熱くなる。
「俺の言いたいことを全部言ってくれた」
「是非、お願いします!」
オルトは深く頭を下げた。
そして立ち上がる。
「さぁ、俺の役目は終わった」
「領主様、犯罪者の俺を裁いてくれ」
クレールは真っ直ぐオルトを見つめた。
「私はあなたを裁きません」
「……え?」
オルトは固まった。
「あなたが良ければ――」
クレールは微笑む。
「議員として迎えたいのです」
(親父……お袋……)
オルトの身体が震える。
(やったぞ……)
涙が溢れた。
「よろしく……お願いします!」
その後、クレールとオルトは正式に調印した。
議員はクレール、オルト、テラ。
それぞれ補助役を置き、新たな議会が発足する。
「今はまだ小さな議会ですが」
クレールは微笑んだ。
「エルフ領の発展と共に大きなものとなるでしょう」
「ダークエルフの皆さんにも住まいを用意します」
「共に協力していただけますか?」
オルトは涙を拭った。
「はいっ!」
リサが駆け寄る。
「オルトさん、良かったね!」
満面の笑みだった。
「ありがとう……」
オルトは言葉を詰まらせる。
「ありがとう……」
リサは出来上がった書面を見つめた。
「本当に変わるんだね……」
その瞳は希望に満ちていた。
アルズとフィリアは顔を見合わせる。
「誘拐されてたわよね……」
「そのはずだけど……」
二人は苦笑した。
この日を境に、エルフ領は本当の意味で一つになった。
夢の国と呼ばれた土地は、多くの声を受け止める国へと変わり始めたのだった。
「アルズ! フィリア!」
リサが駆け寄る。
「本当にありがとう!」
「結婚式、必ず来てね!」
「うん、絶対に行くよ」
「あぁ」
リサは大きく手を振った。
しばらくしてクレールがやって来た。
「この度はお恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」
クレールは一礼する。
「それと、リサを……このエルフ領を救っていただき、ありがとうございました」
「出来れば議員として滞在していただきたかったのですが……」
アルズは静かに首を振った。
「お気持ちはありがたいです」
「でも、やらなければならないことがありますから」
「そうでしたね」
クレールは優しく微笑んだ。
「旅の途中で困ったことがあれば、いつでも頼ってください」
「はい。ありがとうございます」
「お二人は結婚式に参加してくださるのですか?」
「はい!」
フィリアは元気よく答えた。
「楽しみにしています!」
クレールは嬉しそうだった。
「当日は、いっぱい楽しんでくださいね」
「喜びに満ち溢れていますから」
そう言い残し、その場を後にした。
「フィリア、そろそろ帰ろうか」
「そうだね」
二人は魔女の森へ帰った。
セフィラに出来事を話す。
「それは大変じゃったのぉ」
セフィラは二人を労った。
「しかし、争いをせず解決へ導くとは見事じゃ」
「エルフ領の未来も明るいのぉ」
「凄いでしょ!」
フィリアは胸を張った。
「私、頑張りましたからね!」
「うむうむ」
セフィラは満足そうに頷く。
「して、結婚式はいつじゃ?」
「三日後です」
「待ち遠しいわぁ」
「エルフの結婚式は盛大じゃ。その目に焼き付けておくのじゃ」
「はい!」
三人は夜遅くまで語り合った。
窓の外では、優しい風が木々を揺らしている。
エルフ領には、新しい風が吹き始めていた。




