架ける橋
――魔王城。
ズワルトは誰もいない謁見の間で玉座に腰を下ろしていた。
「ヴィオーラ」
「はっ! お呼びですか?」
秘書のヴィオーラは素早く姿を現した。
「我の計画を知っているのはお前だけだ」
「はい」
「私が間違っていると感じたときは言ってくれ。二度とあのような事が起こらないように……」
「魔王様の計画は順調です。アルズは成長しております」
「そうか。ベルデはどうだ?」
「はい。先程、報告がありました。ベルデはアルズによって正気に戻ったと……風の加護を受けたようです」
「光の力が目覚めてきたな」
ズワルトは微笑んだ。
ヴィオーラは静かにその様子を見ている。
「アルズはまだ未熟だ。己の感情を理解していない」
ズワルトは目を閉じ続ける。
「英雄ミナトがいない今、アルズにかかっておる。引き続き頼むぞ」
「はっ! 仰せのままに」
――魔女の森。
「ただいま戻りました!」
フィリアは小屋の扉を開き元気よく言った。
「おぉ、よくぞ戻ってきたのぉ」
セフィラは二人を抱き締めた。
「お腹が空いたじゃろ? 食べながら土産話を聞かせておくれ」
「はい!」
三人は食卓を囲み、風の神殿で起こった事を話した。
「なんと!? 精霊がベルデに取り込まれていたとは……」
「セフィラさんは知ってて神殿に行かせたと思ってましたよ」
フィリアは肉を頬張りながら言った。
「それにウェンティーに色々教えて貰いました」
「私は全属性を使えるみたいですよ!」
「ウェンティーのやつめ、お喋りじゃのぉ」
「知ってたんですかぁ?」
フィリアはセフィラの顔を覗き込む。
「神殿から帰ったら驚かそうとしておったのに……」
セフィラはウェンティーに計画を崩され悔しがっている。
「アルズも何か聞いたのか?」
「はい。この世界で唯一、光の加護を受けたヒューマンは英雄ミナトだと」
「くぅ〜。ウェンティーめ、ワシのセリフを全部取ったわい」
「この目で確かめますから大丈夫ですよ」
セフィラの目つきが変わる。
「うむ。ベルデと精霊を同時に解放するとは底が知れぬのぉ」
セフィラは黙って水を飲み干した。
「間違いなくアルズは光じゃ。光は全ての属性を統括する。己の力を認識して精進するのじゃ」
「はい!」
「そうじゃった」
セフィラは何かを思い出した。
「明日、プラーナに行って香辛料を買って来てくれぬか。残り少なくなってきてのぉ」
「わかりました! アルズと行ってきます」
フィリアの頬が自然と緩んだ。
「悪いのぉ。今、町は賑わっておってのぉ。ついでに遊んでくるといい」
「お祭りですか?」
フィリアが反応した。
「うむ。リサとテラの結婚式が近づいておってのぉ。次期領主の結婚式とあって町も賑わっておる」
「わぁ、リサの結婚式が決まったんだ」
フィリアは目を輝かせる。
「アルズ、楽しみだね」
「あぁ」
アルズは考え事をしていた。
自分は光を扱う。
全属性を統括する力。
聞こえはいいが……
(使い方を誤らないように注意しないと……)
翌朝。
「では、行ってきます」
「うむ。気を付けてのぉ」
アルズとフィリアはプラーナの町に向かった。
「えっと、先に香辛料を買っておきましょ。その後、町を見て回ろう!」
フィリアは張り切っている。
「はしゃいでいるな……」
アルズは何となく嫌な予感がした。
二人はセフィラから言われた香辛料を購入した。
「よし、ミッション終了! さぁ、行こう」
店が並ぶ通りを歩く。
住人の話し声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫なのか。噂が本当なら」
「あぁ、リサ様が誘拐されたってやつか」
「!?」
アルズとフィリアは耳を疑った。
「アルズ、生命の樹に行こう」
「あぁ、急ごう」
二人は生命の樹へ走り出した。
生命の樹の根元は兵士達でごった返していた。
「何かあったのか?」
アルズが兵士に話しかける。
「あぁ、リサ様が帰って来ないのだ。捜索部隊を編成しているところだ」
フィリアはアルズが情報収集している間に門番に許可をとっていた。
門番はアルズとフィリアの事を覚えていたため、中に通してくれた。
廊下でテラと遭遇した。
「アルズ! それにフィリアも」
「テラさん、リサは?」
フィリアは詰め寄った。
テラの表情が曇る。
「昨夜から帰って来ないのだ……今から捜索に向かう」
「何か情報はないのか? 俺達も力になるぞ」
アルズは真っ直ぐテラを見つめた。
「おそらくここから西に拠点を置く『アンブルフ』というダークエルフの集まりだ」
「アンブルフ……」
「ダークエルフは昔から酷い仕打ちを受けていてな。今はそのようなことはないのだが……名残は残っているようだ」
「急がねば。アルズとフィリアはクレール様に会ってくれないか。気が気でないと思われる」
「分かった」
テラは頷いて駆け出した。
アルズとフィリアはクレールの部屋に入る。
「クレールさん、リサが……」
フィリアは焦っていた。
「存じております……」
クレールは落ち着いた様子を振る舞っていたが、アルズとフィリアには無理をしていることがバレていた。
「先程、アンブルフのリーダーより書面が届きました」
「内容は?」
アルズが一歩前に出る。
「次期領主を返して欲しければ……」
要求は三つあった。
一つは貧困層への支援及び保護。
二つ目は労働環境の改善。
三つ目はエルフ領の発展の為に議会を設置すること。
「……以上です」
クレールは一呼吸置いて続ける。
「盲点でした……民のことを何も理解していませんでした……」
「今からでも遅くはない! どれもエルフ領の未来を考えた要求だ。相手には声を届ける場所がなかっただけなんだ」
アルズは強く言い放った。
「そうですよ! クレールさん、返信の書面を書いてください!」
フィリアには考えがあった。
「まず、三つの中で最優先することは議会の設置です。議会の設置には議員が必要になります」
フィリアは続ける。
「議員としてアンブルフのリーダーを迎えるのです。要求の内容を見れば適任だと思われます。残りの二つは議会を設立して話し合うと書けばどうでしょうか」
「わかりました。すぐ書きますので少々お待ちを」
クレールは書面の作成を始めた。
アルズとフィリアは見守る。
「出来ました」
「俺達が持って行きます」
クレールは書面をアルズに渡した。
「アルズ、急ごう。テラさんたちが向かってる」
「攻撃しては元に戻れなくなる。行こう」
アルズは歯を食いしばった。
「アルズ、フィリア。よろしくお願いします」
アルズとフィリアは生命の樹を飛び出した。
テラが率いる部隊は着実に進んでいた。
「気を抜くな! 周りを警戒しろ!」
「はっ!」
「隊長! 前方にアジトらしき建物が見えます」
「あそこにリサが……一気に行くぞ! かかれぇ!」
「おお!」
部隊はアジト目掛けて走り出した。
入口へと到達した瞬間、
「アタッシェ!」
兵士の足元から鎖が出現し足止めする。
「なんだ!?」
「みんなぁ、止めて!」
フィリアが叫ぶ。
「なんとか間に合ったな」
アルズは安堵した。
テラのもとに向かう。
これまでの事を話した。
「俺達に任せてもらえませんか?」
「そういうことならば……よろしく頼む」
アルズとフィリアはアジトの中に入った。
「なんだぁ? お前らは何者だ?」
「領主クレールより書面をお持ちしました。代表者の方と会いたいのですが……」
フィリアは堂々としていた。
「信じられるかよ。ガキがくるところじゃないぞ」
「そのへんにしておけ」
奥から大柄な男がやってくる。
「失礼したな。俺はアンブルフのリーダーをやってるオルト・ルーキスだ。話を聞こうか」
「私はフィリアと言います。こっちはアルズです。領主クレールから預かった書面になります」
フィリアは書面をオルトに渡した。
オルトは書面に目を通す。
「なるほど、領主は理解してくれているのか」
「では、次期領主を返してもらえますか?」
「まだだ!」
「えっ!?」
「帰って領主に伝えろ。明日の正午にそちらに行くと……そこで話を詰める」
「(フィリア、ここは引いた方が良さそうだな)」
「(そうね、刺激しない方がいいわ)」
フィリアは大きく息を吸った。
「わかりました。では明日の正午にお待ちしております」
「あぁ、頼んだぜ。心配するな、次期領主の命はとらねぇよ」
オルトの目に偽りは感じなかった。
だからこそアルズの胸には、わずかな不安が残る。
本当にこれで終わるのだろうか――。
アルズとフィリアはテラに事情を説明し、プラーナへ戻った。




