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魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


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風は再び吹く

アルズは剣を後方に構えたまま動かなかった。


瞳からは光と涙が流れ続けている。


「……アルズ……どうしちゃったの……」


フィリアは不安そうに見つめた。


(もしかして、力を与えすぎたのかな……)


ヴァムプレスによる負荷に身体が耐えられなくなったのではないか。


そう思った。


(解除しなきゃ……)


フィリアが魔法を解除しようとした、その時だった。


「ベルデは……間違えていない……」


「アルズ!!」


フィリアは思わず手を止めた。


「ただ……やり方を知らなかったんだ……」


「大切な人を守ろうとしただけなんだ……」


アルズはベルデを見据える。


「待ってろ……今、解放してやる……」


剣を握る手に力を込めた。


意識をコアへ向ける。


(微かに光る緑色の部分……あそこだ)


(あの中に精霊がいる)


(チャンスは一度きり)


(精霊を解放しながら空洞を光で満たすんだ)


アルズは静かに機会を待った。


(精霊……頑張ってくれ……)


ベルデは苦しそうに頭を抱えていた。


その瞬間だった。


一瞬だけ顔が上がる。


「今だ!」


アルズは見逃さなかった。


「うぉぉぉぉぉっ!!」


後方に構えていた剣を前方へ突き出す。


剣先から黄金の閃光が放たれた。


一直線にベルデのコアへ向かう。


「帰って来い! ベルデ!!」


閃光が左胸を貫いた。


「ぐはぁっ!」


ベルデの背中から緑色の光が溢れ出す。


光は部屋の入口へ向かって飛んでいった。


アルズは叫ぶ。


「ベルデ!」


「アウラはお前が思っているより強かった!」


ベルデが顔を上げる。


「だからきっと……」


「お前が前を向いて生きることを望んでいる!」


「……アウラちゃん……」


ベルデの瞳から涙が零れた。


「ごめん……」


黄金の光が左胸を満たしていく。


やがて収束し――


バタンッ。


ベルデはその場に倒れ込んだ。


「ハァ……ハァ……」


アルズは膝をつく。


「アルズ! 大丈夫?」


フィリアが慌てて駆け寄った。


「ハァ……大丈夫だ……」


アルズは呼吸を整えながらベルデの過去を話した。


フィリアは静かに耳を傾ける。


「そうだったの……」


「寂しかったのね……」


「心にできた空洞を埋めようとして、無意識に精霊を飲み込んでしまったんだ」


「誰も悪くないのね……」


フィリアの目にも涙が浮かんでいた。


「良かった……本当に良かった……」


ギィィ……


入口の扉が開く。


フィリアは警戒して身構えた。


「待って、フィリア」


「彼女が風の精霊だ」


入口から緑色のオーラを纏った少女が姿を現す。


「あなたは……女神像の!?」


「助けてくれてありがとう」


少女は柔らかく微笑んだ。


「私は風の精霊ウェンティー」


「は、初めまして!」


フィリアは慌てて一礼する。


「私はフィリア・グレイスと申します」


「俺はアルズ・スクレット」


「よろしくね」


「アルズは光の力が使えるの?」


「たぶんな」


アルズは頭を掻く。


「自分でもよく分かってないんだ」


ウェンティーは優しく微笑んだ。


「その力はきっと世界を救うわ」


「英雄と呼ばれたミナトのように」


「ミナト!?」


アルズは目を見開く。


「教えてくれ! 英雄ミナトのことを!」


「ごめんなさい」


ウェンティーは首を横に振った。


「私はここに留まる精霊だから、外の世界はあまり知らないの」


「セフィラから聞いた話よ」


「そっか」


アルズは少し残念そうだ。


「まぁいいか」


「旅して、この目で確かめればいい」


「フフッ」


ウェンティーは笑った。


「面白いヒューマンね」


「ヒューマンだってわかるのか?」


「どう見てもヒューマンじゃない?」


「確かに」


フィリアも小さく笑った。


「ベルデを救ってくれてありがとう」


「俺一人じゃ無理だった」


アルズはフィリアを見る。


「フィリアがいたから救えたんだ」


「ありがとう」


「そ、そんなことないわよ」


フィリアは顔を赤くした。


「こちらこそありがとう」


「さて」


ウェンティーは二人を見た。


「風の加護を受けに来たのよね?」


「そうだ」


「私は受けられないからアルズだけね」


フィリアが肩を落とす。


ウェンティーは首を傾げた。


「どうして?」


「え?」


「フィリアも受けられるわよ?」


「えぇっ!?」


「私は闇属性だから……」


「あら、気付いていないのね。あなたは全属性に対応できる能力を持っているわ。闇属性が得意ってだけよ」


「そうなの!? セフィラさんは分かって送り出したのかな……帰ったら聞き出さなきゃ」


「さぁ、二人ともこっちに頭を向けて」


アルズとフィリアは頭を下げた。


ウェンティーは二人の頭に手を置く。


緑色のオーラが二人を包む。


「いくわよ」


頭部が温かい。


心地良くなるのがわかる。


いつも優しく頬を撫でる風。


時に厳しく叱るような暴風。


前に進む勇気を与え、喜びを与えてくれる。


「はいっ! 終わったわよ」


「なんだか身体が軽くなったような」


フィリアはその場で飛び跳ねた。


「これで風の力が使えるわ。ただし、今の能力にあったものだけね。鍛えれば使えるものも増えるわ」


「私は風の魔法を使えるってこと?」


「うん、使えるわよ。感覚を掴むまで時間がかかるかもしれないけどね。加護を与えても使いこなせる人が少ないのよ」


「なるほど。フィリア、帰って修行だな」


「そうね、頑張らなきゃ」


アルズとフィリアは向き合って拳を掲げた。


「ウェンティー、ありがとう」


「どういたしまして」


ウェンティーは笑顔で答えた。


「それと、お礼に魔石を渡すわ」


ウェンティーは緑色の魔石をアルズへ差し出した。


その時だった。


「……うぅ……」


ベルデが目を覚ます。


ベルデはゆっくりと上半身を起こした。


「……私は……一体……」


ウェンティーが近寄る。


「あなたは悲しみのあまり心に空洞ができたの」


「私では埋めることができなかった……ごめんね」


ベルデは俯いた。


「精霊様……私はアウラちゃんに喜んでほしくて……」


ウェンティーはそっと抱き締める。


「大丈夫」


「そのままのあなたで大丈夫よ」


「アウラちゃんもきっと喜んでいるわ」


ベルデの瞳から涙が溢れた。


「精霊様……」


しばらくの間、ウェンティーは優しく背中を撫で続けた。


「あなたにも加護を与えないとね」


緑色のオーラがベルデを包む。


「終わったわ」


「やっと加護を与えることができた」


「ありがとうございます」


ベルデは深く頭を下げた。


ベルデはアルズを見る。


「……色々、すまなかった」


「これからどうするんだ?」


「魔王のところへ戻るのか?」


ベルデは首を横に振った。


「戻らない」


「しばらく自由に生きてみようと思う」


「この世界を見て回るわ」


アルズは小さく息を吐いた。


「そっか」


「どこかでまた会うかもな」


「フフッ」


ベルデも笑う。


「その時はまた遊んでもらえると嬉しいわ」


「あぁ、いつでもいいぜ」


ベルデは翼を広げた。


吹き抜けの天井へ向かって飛び立つ。


その顔には、もう迷いはなかった。


フィリアは手を振って別れを告げている。


「フィリア、そろそろ戻ろうか」


「うん。セフィラさんに報告しなきゃ。聞きたいこともたくさんあるし」


「二人とも元気でね。セフィラに天井を直すように伝えて貰えると助かるな」


「わかったよ」


アルズはウェンティーが寂しそうに感じた。


「また来るからさ。世界で見た事を話すよ」


「うん、楽しみに待ってるね」


ウェンティーは嬉しそうだった。


二人はウェンティーに別れを告げ神殿を後にした。



――風の町プラーナ。


町はリサとテラの結婚式の準備で賑わっていた。


「式の日程も決まったし、アルズとフィリアに知らせなきゃ」


リサは楽しそうに歩く。


すると、


一匹の猫が目の前を横切った。


「かわいい!」


思わず追いかける。


猫は路地裏へ入っていった。


「待って〜」


夢中で追いかける。


やがて行き止まりに辿り着いた。


「あれ?」


「猫ちゃんがいない……」


その瞬間。


後ろから誰かに羽交い締めにされた。


「ンンッ!?」


湿った布が口元を覆う。


必死にもがく。


しかし力が入らない。


意識が薄れていく。


「これでいいのか……」


男が呟いた。


「あぁ、間違いない」


もう一人が答える。


「次期領主だ」


リサの意識は闇に沈んだ。


その頃、


アルズ達はまだ知らない。


新たな悲劇が始まろうとしていることを。


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