↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/37

喜んでくれるなら

少女はベルデに駆け寄った。


「ベルデちゃん、遊ぼうよ!」


「もちろん! でも、外に出て大丈夫なの?」


「うん! 今日は身体の調子がいいの。お父さんとお母さんもいいって言ってくれたの」


「それは良かったね。でも、無理はしないようにね」


「うん、分かった!」


(この子は身体が弱いのか……)


ベルデは少女を気遣うように微笑んだ。


「アウラちゃん、何して遊ぼうか?」


「ベルデちゃんの狩りが見たい!」


「構わないけど、いつも私の狩りを見て楽しいの?」


アウラは少し考えてから答えた。


「楽しいというか……勇気をもらえるから」


「勇気?」


「私も頑張って病気を治さなきゃって思えるの」


ベルデは少し照れたように笑った。


「そっか。じゃあ私も頑張るよ」


「うん! ベルデちゃんはこの村で一番強いからね」


アウラは嬉しそうに続ける。


「私は嬉しいよ」


「それじゃあ狩場に行こう」


ベルデとアウラは狩場へ向かった。


アルズも後を追う。


ベルデは空高く舞い上がる。


上空から獲物を探していた。


アウラはその姿を憧れの眼差しで見つめている。


「いた!」


ベルデは獲物を見つけると急降下した。


鋭い爪を立てる。


ザシュッ!


獲物は一瞬で絶命した。


「やっぱりベルデちゃんは凄いよ!」


「ゴホッ、ゴホッ……!」


「アウラちゃん!?」


ベルデは慌てて駆け寄る。


「大丈夫!? もう帰ろう?」


「ごめん……興奮しちゃって……」


「ありがとう。さぁ、帰って休もう」


「うん……」


二人は村へ戻った。


アウラは自宅のベッドで横になっていた。


ベルデは傍で見守っている。


「ベルデちゃんは私に喜びを与えてくれるの」


ベルデは驚いたように目を瞬かせる。


「私にとってヒーローなんだよ」


「何言ってるの」


ベルデは照れ臭そうに笑った。


「病気を治して、一緒に狩りをするんでしょ?」


「うん……」


アウラは寂しそうに笑う。


「でも、自分の身体のことは自分が一番分かるの」


ベルデの表情が曇った。


「最後までベルデちゃんの勝つ姿を見ていたいな」


「そんな悲しいこと言わないで!」


ベルデは思わず声を上げた。


「私が治してあげるから!」


「ありがとう」


アウラは微笑む。


「そういえば魔王軍の幹部候補生に選ばれたんだよね?」


「うん」


「ベルデちゃんは私の自慢だよ」


ベルデは言葉を失った。


何を返せばいいのか分からない。


アウラは理想を自分に重ねている。


その想いが嬉しくて、


そして少し苦しかった。


その夜。


ベルデは村中から病や治療に関する書籍を集めた。


必死に読み漁る。


少しでもアウラを救う方法を探したかった。


気付けば朝になっていた。


翌朝。


ベルデは狩場でピグを仕留める。


栄養価の高い肉だった。


「アウラちゃんに食べてもらおう」


そう呟いて村へ戻る。


「おはよう、ベルデ」


アウラの母親が迎えた。


「おはようございます。これをアウラちゃんに……」


「いつもありがとうね」


母親は優しく微笑む。


「あの子、ベルデの話をすると目を輝かせるんだよ」


「私は何も……」


「そんなことないさ」


母親はゆっくり頷いた。


「ずっと友達でいてやっておくれ」


「もちろんです」


ベルデは少し躊躇ってから尋ねる。


「今日の様子はどうですか?」


「少し熱が出てるね……」


ベルデは唇を噛んだ。


「そうですか……」


「また明日、肉を持ってきます」


「あぁ、ありがとう。無理しないでね」


ベルデは自宅に帰り、書籍を読み漁った。


アウラの病気は、この世界では未知だった。


治す方法はない。


医者が入れ替わり治療を試みたが効果はなかった。


いつの間にかベルデは眠りについていた。


翌朝。


「おはよう、ベルデ。朝食の準備を手伝って」


「ママ、おはよう」


「浮かない顔だねぇ。どうしたの? 何かあった?」


「ねえ、ママ。アウラちゃんの病気は治らないのかな……」


ベルデの顔が曇る。


「……ベルデ……」


母親が心配そうに呟く。


ベルデの肩を引き寄せ、優しく抱きしめる。


「いっぱい笑うと症状が軽減するって聞いたことがあるわ」


母親はベルデの目を見て続ける。


「ベルデは明日、幹部候補生として魔王城に行くんでしょ」


「頑張ったらきっとアウラちゃんは喜んでくれるわよ」


ベルデは目を伏せた。


喜んでくれる。


その言葉だけが、


なぜか胸の奥に残った。


「うん……」


ベルデは朝食を済ませ狩場に向かいピグを捕らえる。


「アウラちゃん、熱は下がったかな……」


素早くピグを捌く。


「よしっ、これでいい。アウラちゃんに持って行こう」


村に戻った瞬間、誰かが叫びながら近づいてくる。


「ベルデェェ! 大変だ、アウラが……」


ベルデは手に持ったピグの肉を落とした。


「え!?」


すぐにアウラのもとに向かう。


バァン!


勢いよく扉を開く。


「アウラちゃん!」


そこには静かな笑顔で息絶えたアウラがいた。


「あっ……なんで……」


ベルデは膝から崩れ落ちた。


「……最後まで……私の狩りを……見るんじゃなかったの……」


「うあぁぁぁっ」


アウラの母親が寄り添う。


「この子は最後までベルデの話をしていたのよ。アウラが大事にしていたペンダントを貰っておくれ」


その夜、ベルデの頬に止まることのない涙が流れ続けた。



翌朝、アウラの葬儀が執り行われた。


「アウラちゃん……ゆっくり眠ってね。空から見守って欲しい」


「私は勝ち続けるから……」


ベルデは心に大きな穴が開いているようだった。


「ベルデ、そろそろ出発しないと」


「……うん。ママ、行ってきます」


(またね。アウラちゃん)


アウラに別れを告げ魔王城に向かった。



――魔王城。


「よくぞ参った。お主は幹部としての素質をかわれた」


魔王ズワルトはベルデを見据えて言った。


「お主に試練など必要ないだろうが、加護を受けてもらわなければならない」


「して、お主は何が望みだ?」


ベルデは一呼吸置く。


「私は……風を好んでおります」


「そうか、風だな。よろしい、エルフ領にいるという魔女に会い、風の加護を受けて来るのだ」


「ハッ! 仰せのままに……」


ベルデは風に乗りエルフ領へ向かった。



――エルフ領。


魔女の住む場所を見つけるのは、空を飛べるベルデからすれば容易だった。


(あれか……)


地上に降りる。


小屋から女性が出てきた。


「ここは魔女の家じゃ。何用かのぉ」


「私はベルデと申します。魔王様より風の加護を受けるよう命じられ参りました」


「うむ……」


女性はベルデを見つめる。


「ワシはセフィラじゃ。中に入るがいい」


「ありがとうございます」


二人は小屋に入った。


「さて、ベルデよ。風の神殿に向かうには課題をこなさねばならん」


ベルデは頷く。


「ワシの出す課題をクリアしてみよ」


「はいっ!」



ベルデは優秀だった。


「ほう……」


セフィラの課題を次々とこなしていく。


(この子なら風の神殿に向かわせても良いが、心に穴があるようじゃのぉ……)


「ベルデよ。お主は風の神殿で何を得たいと思う?」


「私は……喜びを得たいと思います。誰かに喜んで貰えるような力が欲しいです……」


(うむ。心に穴があるが大丈夫じゃろ)


「分かった。風の神殿に行き、加護を受けてくるのじゃ」


セフィラは少し不安だったが、ベルデを信じる事にした。


「ありがとうございます」



――風の神殿。


ベルデは風の通り道を辿り、祭壇のある部屋に辿り着いた。


祭壇には精霊がいた。


アルズは精霊の姿を見て驚いた。


(あれは祭壇の部屋に入る前に見た女神像じゃないか……)


ベルデは精霊に近付く。


「初めまして、ベルデ・ビエントと申します。加護を受けたく、お伺いしました」


「初めまして、ベルデ。私は風の精霊ウェンティー。ここでは特に試練などないわ。セフィラが事前に見てくれているから」


「ありがとうございます」


ベルデは頭を下げた。


「では、加護を与えましょう。そのまま頭を下げていてね」


精霊はベルデの頭に手を置いた


(何!? 心に空洞がある……悲しいことがあったのね。埋めてあげなきゃ)


「少し苦しくなるかもしれないけど、安心してね」


「はい」


精霊は目を閉じた。


ベルデの心に接続する。


順調だった。


しかし、ベルデの空洞は次第に渦を巻き、精霊を取り込もうとする。


(マズイわ……思ったより深い!?)


(早く切断しないと……!)


しかし、もう遅かった。


ベルデの心の空洞は渦となり、


精霊を飲み込んでいく。


「あぁぁぁぁっ!」


やがて静寂が訪れた。


「ハァ……ハァ……」


ベルデは荒い息を吐く。


「勝たなきゃ……」


その瞳はどこか虚ろだった。


「喜んでもらわなきゃ……」


不穏な笑みが浮かぶ。


「もっと……喜んでもらわなきゃ……」


アルズは言葉を失った。


次第に視界が戻っていく。


目の前ではベルデが苦しんでいた。


「アルズ! 大丈夫?」


フィリアの声が聞こえる。


アルズは気付いていなかった。


瞳から光が溢れている。


そして――


涙も止まらなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。