共鳴
訓練場では、訓練生たちが剣を振るっていた。
剣と盾の衝突音が、絶え間なく響いている。
アルズは儀式を明日に控え、気持ちも高ぶっていた。
「そこまで! 皆、集まるんだ!」
前衛部隊長ブレイブ・スクリットは、低く太い声で叫んだ。
ランサと同じスケルトン系のモンスターで、古くからの友人でもある。共に前衛部隊を仕切っていた。
全員が集まったのを確認し、ブレイブは言った。
「明日はアルズが儀式に向かう。今回は一人だけだが、一年後に控えている者もいる。しっかり見ておけ」
ブレイブはアルズに目線を合わせる。
「アルズ、ついにこの日が来たな。ランサも喜んでいたぞ」
「ありがとうございます!」
緊張気味のアルズは、声が少し高くなった。
「そんなに緊張するな。さて、明日は儀式だが――今から私の試験を受けてもらう」
「試験?」
何が起こるのかわからず、アルズは少し不安になった。
不安になるのも無理はない。他の部隊では、儀式前に試験など行われていないのだ。
ブレイブは、教え子を死なせたくないという一心で、この試験を独自に行っていた。
「そうだ、試験だ。向こうに檻が見えるか? 日が沈むまでに、檻の中にいるモンスターを倒してみろ。倒せなければ、儀式には行かせられない」
ブレイブは右側の檻を指差した。
モンスターは檻の中から、こちらを睨んでいる。
「えっ!? あれを……倒す?」
「訓練の成果を私に見せろ。これが試験だ」
「わかりました……やります!」
アルズは剣を強く握り、決心した。
檻の前に立ち、剣を両手で構える。
目を閉じ、深く呼吸を繰り返した。
「では、モンスターを解放する!」
ブレイブが檻の鍵を開ける。
アルズの前に現れたのは、体長二メートルもあるウルフだった。
攻撃のタイミングを探る。
「うぁぁぁ!」
恐怖を抑えるため、アルズは叫びながらウルフに斬りかかった。
パァン!
剣は弾き返され、アルズはバランスを崩して倒れる。
「くっ……硬い」
歯を食いしばり、再び剣を振るう。
だが、刃はまた弾き返された。
「なんで……」
ウルフが爪を立て、アルズに襲いかかる。
かろうじて避けたが、左腕に傷を負った。
「くっ……」
傷口から血が流れる。
「どうすれば……」
剣の弾かれる音が、何度も訓練場に響き渡る。
アルズのダメージも増えていった。
徐々に、視界が狭くなる。
「今までやってきたことは、何だったんだ。俺は……弱い……」
アルズは、絶望を感じていた。
ブレイブは腕を組み、その様子を見守る。
他の訓練生たちも、固唾を飲んで見つめていた。
何度やっても駄目だ。歯が立たない。
もうすぐ、日が暮れる。
焦りだけが募っていく。
アルズは心を落ち着かせるため、深呼吸をした。
その時――ランサの言葉を思い出した。
※
「(この世界の物質には“コア”というものがある。そこに落ちている石、植物、形あるものすべてだ。もちろん、お前にもコアはある。コアを攻撃すれば、物質は破壊される。しかし、コアは目では見えない。では、どうするか……それは今度話そう)」
(形あるものにはコアがある。コアを攻撃する方法だ。思い出せ……思い出せ!!)
「(いいか、アルズよ。一体となるんだ。武器と一体化するんだ。斬れるものも斬れやしないぞ)」
その瞬間、アルズの視界が広がった。
「父さん、ありがとう……」
表情は自信に満ち、輝きを取り戻す。
「気付いたな」
ブレイブは、アルズの勝利を確信していた。
「(共鳴!! 思い出した……共鳴だ!!)」
剣を握り直し、意識を集中させる。
「(頼む……共に戦ってくれ……)」
剣に語りかけるように、意識を送った。
剣が、わずかに振動する。
「(よしっ)」
自分の周波数を近づけていく。
ここからは、時間はかからなかった。
アルズに応えるかのように、剣の振動が強まる。
体の震えが大きくなり、やがて和らいでいった。
一定のところで震えが止まり、剣が体の一部のように感じられる。
「(いける!)」
ウルフに目を向けると、コアの場所、形、色――
膨大な情報が、意識の中に流れ込んできた。
「(あれだ……あれがコアだ)」
振りかぶった剣に、光の残像が走る。
「なにっ!? 光だと……ヒューマンは魔力がないはずだが……」
ブレイブは信じられなかった。
ヒューマンは魔法が使えない種族として知られ、他種族から下に見られている。魔力が存在しないはずなのだ。
なぜ、アルズに光が現れたのか。
憶測が、頭を駆け巡る。
「フンッ」
一瞬の出来事だった。
訓練生たちは理解が追いつかず、口を開けたまま呆然としている。
日が沈む直前、ウルフはその場に倒れた。
少しの間、静寂が流れる。
「合格だ!」
ブレイブは、安堵の表情で言った。
「倒した……あれが共鳴……」
目の前に倒れているウルフを見て、感情が爆発する。
「やったぁ〜! やったぞ!
ブレイブさん、これで儀式に行ってもいいですよね!」
アルズは、子供のように喜んだ。
「ああ、ここまでよく頑張ったな。お前は武器と共鳴した。その感覚を忘れるなよ」
ブレイブは目頭が熱くなったが、悟られないように我慢した。
「ブレイブさん、共鳴しているとき、ある一定のところで振動が止まったんです。あれが俺の限界ってことですか?」
「それもあるが、武器によって変わる。良いものほど周波数は高くなり、威力も上がる。
周波数とは言わば生命の鼓動。物質の感情や想いも関係してくる。扱う者が見合っていなければ、共鳴はできないだろう。
今後も鍛錬を怠るな。とりあえず、お前の目標は儀式を成し遂げることだ。決して油断するなよ」
「はい!」
ブレイブはアルズの目を見て、力強く頷いた。
訓練生たちはアルズに駆け寄り、口々に賞賛する。
「よし、本日は解散! 帰って疲れを取るように!」
「ありがとうございました!!」
息の合った声が、互いを称えるように訓練場に響き渡った。




