スープの温度
一ヶ月前――魔族領。
中央には巨大な魔王城が聳え立ち、その左右に各部隊の施設が並んでいた。
アルズの属する前衛部隊は、大門に最も近い場所にある。
綺麗な施設ではないが、生活に不便はない。
ここで認められることが、魔族領で生きる者の誇りだった。
前衛部隊・居住区
「父さん、ただいまぁ」
剣の訓練を終えたアルズは、疲れを見せないように言った。
「おぅ、おかえり。今日の訓練はどうだった?」
ランサ・スクレットはスケルトン系のモンスターだ。
幹部の指示により、アルズの父親として日々を過ごしていた。
アルズは、自分がヒューマンであることを知らない。
ランサのことを本当の父親だと思っており、見た目の違いも「歳を重ねれば自分もスケルトンになる」と信じていた。
ランサは夕食をテーブルに並べながら、アルズの話を聞いた。
「今日は一つ上のランクと模擬戦をしたんだ。やっぱ、つえぇなぁ」
「なぁんだぁ、また負けたのか? 情けない奴だな」
「負けてねぇよ! 引き分けだ!
なんて言うのかな……奴は妙に落ち着いてた。こっちの動きが分かってるような感じだった。隙が無いんだよ。
おっ、いただきます!」
湯気の立つスープから、骨身に染みるような香りが漂っていた。
アルズはテーブルに置かれたスープを、疲れた身体に流し込んだ。
「なるほどな。剣と精神が一体化していたのかもしれん」
「やっぱこのスープは美味いなぁ。なに、その一体化とかって?」
「いいか、アルズよ。
どれだけ力が強くて素早くても、武器と一体化しなくては意味はない。斬れるものも斬れやしないさ」
「ふ〜ん。それってどんな感覚なんだろぅ……父さんは出来るの?」
「当たり前だろ! 前衛部隊ナンバー2だぞ!
武器と一体になるってのは、同じ周波数で共鳴してるってことさ。
どれだけ共鳴できるかで、強さが決まると言っても過言じゃない」
ランサはナイフをかざして言った。
「共鳴ねぇ……」
アルズは手に持ったスプーンを握りしめたが、何も感じなかった。
「まっ、ちゃんと訓練すれば分かるさ。
部隊長ブレイブの教えを、ちゃんと聞くんだ。あいつなら間違いはない。
そういえば、アルズ」
「んっ?」
「お前、儀式の準備は出来ているのか? 確か、三日後だったな」
「あぁぁ、ヤバいっ」
「全く、お前は……。
十八歳になったらダンジョンに行くよう言われてたろ。
今日はそれを食べたら、もう寝るんだ。明日も訓練なんだろ?
疲れてたんじゃ、何も出来やしないからな」
「わかった! 俺、やり遂げるよ!
そして幹部になって、父さんを楽にさせてやるから!」
アルズは握り拳を、ランサに見せた。
「父さん、なんか嬉しそうだね」
「何言ってんだ。俺はスケルトンだぞ!
バカ言ってないで、早く食べてしまえ」
「了解!」
スケルトンは表情が分からない。
――だが、アルズには見えていた。
息子の晴れ舞台を喜び、そして心配する。
父親の、その表情が。




