↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/37

呼び声の先に

ガシャンッ!


静まり返ったギルドの空気を切り裂くように、扉が激しく開いた。

一人の兵士が息を切らしながら飛び込んでくる。


「はぁ……はぁ……! 報告……! その、護衛依頼は……テラ様が直々に受注されると……!」


「テラが? なんでよ!」


リサは思わず身を乗り出した。隣でシリスも驚きを隠せない。


「リサ様の安全を最優先されたのでしょう。相手は正体不明の魔女。部隊長として黙ってはいられなかったのだと……」


兵士はそれだけ告げると、再び外へ駆け出していった。


間もなく――

重厚な鎧の音が響き、一団がギルドへと姿を現す。


その先頭に立つ男が、まっすぐリサを見据えた。


「リサ……無事だったか」


「テラったら。まだ出発もしてないわよ、心配しすぎ」


軽く笑ってみせるリサ。しかし、テラの表情は一切緩まない。

彼は静かに歩み寄り、リサの肩に手を置いた。


「妻になる相手の身を案じるのは当然だ。……護衛部隊長としてもな」


「……ありがとう、テラ」


その言葉に、リサはわずかに頬を染める。


「それで、この依頼の真意を聞かせてくれ」


「町の外で出会ったの。魔族の女の子と、ヒューマンの男の子……。その話をお母様にしたら、どうしても会いたいって。それで、魔女のもとに向かったって聞いて……」


「魔女の森か……危険すぎる。なぜ先に俺へ相談しなかった」


思わず強くなる口調。

その空気を遮るように、シリスが前へ出た。


「申し訳ありません! 提案したのは私です。リサさんはただ、その二人を助けたくて……」


テラは一度目を閉じ、深く息を吐いた。


「……すまない。感情的になった。シリス、感謝する。リサ――俺が行く。君も、その旅人も、必ず守る」


その言葉に、リサは静かに頷いた。


やがて部隊は編成され、生命の樹の加護を背に、深い森へと足を踏み入れていく。


◇


森は、静かすぎた。


つい先ほどまでの町の喧騒が嘘のように消え、重たい沈黙が一行を包み込む。


湿った土を踏みしめる音。

かすかな呼吸音。

それだけが、この空間に許された音だった。


まるで――

森そのものが侵入者を拒んでいるかのように。


「……本当に、魔女なんているのか」


テラは剣の柄を握りしめる。


「アルズとフィリアは助けられたって話よ。しかも教わるって言ってた」


「教わる、か……」


テラは眉をひそめた。


「魔女は世界の理を知る存在――そういう話は聞いたことがある。だが……」


言葉を切る。


「味方であることを願うしかないな。警戒を緩めるな」


一行はさらに奥へと進んでいった。


◇


「――はぁっ!」


アルズの剣が空を裂く。

しかし、目の前の魔法人形には傷一つ付かない。


「力に頼るでない」


セフィラの声が静かに響く。


「それではただ振っておるだけじゃ。まずは境界を消すのじゃ。自分と剣のな」


アルズは息を整える。


(振動を感じろ……)


心臓の鼓動。

手に伝わる剣の微かな震え。


二つが、少しずつ重なっていく。


その瞬間――


アルズの周囲に風が巻き起こり、剣が淡く黄金に脈打った。


「……今じゃ」


セフィラの声が落ちる。


「その振動を――世界に刻み込め」


「おおおおおっ!!」


振り下ろされた刃は、人形に触れる寸前で止まる。


だが――


シュンッ!


空気が裂け、見えない斬撃が人形を深く抉った。


「今のは……」


「それが共鳴じゃ。空間すら媒介とする力。忘れるでないぞ」


「はい……!」


アルズの瞳に、確かな手応えが宿る。




その横で、フィリアもまた自分と向き合っていた。


「うまく……いかない……」


「焦るでない。詠唱は波を創る行為じゃ」


セフィラは静かに続ける。


「頭の中で描け。その構造ごと震わせるのじゃ」


フィリアは目を閉じる。


意識の中に魔法陣が浮かび上がる。

回転し、重なり、振動していく。


(いける……!)


「シュフーラ!」


詠唱を口に出すのと同時に、魔法人形が青く染まる。


「できた……っ!」


「その感覚を脳に刻むのじゃ。いずれそれが無詠唱になる」


セフィラは小さく頷き、二人に休憩を告げた。


◇


小屋に戻り、三人は一息つく。


「お前たちは、飲み込みが早いのぉ。じゃが、焦りは禁物じゃ」


その時――


セフィラの目が細くなる。


「……来おったか」


「えっ?」


アルズが反応する。


「騒がしい。町の者たちじゃな。……お主らに用があるようじゃ」


◇


「隊長! 建物を確認!」


「リサ、俺の後ろに」


森を抜け、小屋の前へ。


ゆっくりと扉が開く。


現れたのは、一人の女性。


(これが……魔女……?)


その存在感に、テラは息を呑む。


リサが一歩前へ出た。


「突然の訪問、失礼いたします。私はリサ。こちらは護衛部隊長テラです。魔女様とお見受けいたしますが……」


「いかにも、ワシはセフィラじゃ。して、何用かのぉ?」


「アルズとフィリアという旅人を探しています」


「その二人なら、ここにおる」


奥から姿を現す二人。


「フィリア!」


「リサ!」


再会の空気が一瞬流れる。


リサはすぐに表情を引き締め、アルズを見る。


「お願い。お母様に会ってほしいの」


真っ直ぐな視線。


アルズは一瞬迷い、フィリアと視線を交わす。


「……行こう」


セフィラが静かに頷く。


「うむ、行ってくるがよい。導きになるやもしれん」


テラが前に出る。


「我々が護衛する。出発だ」


森を歩き出す一行。



その背に、セフィラの声が落ちる。


「アルズよ」


足が止まる。


「己の感覚を信じるのじゃ。……そのざわつきを無視するでない」


再び歩き出す。


アルズは、そっと胸に手を当てた。


鼓動が速い。


理由は分からない。


だが確かに――


何かが、自分を呼んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。