魔女の森
シリスのおかげで、魔女の森までは迷わずに行くことができた。
「さぁ、薬草を集めて帰るわよ。日が暮れてしまうからね」
フィリアは依頼の資料を広げた。
「アルズ、これが薬草よ。えっと……20個集めるみたいね」
資料を見せられ、アルズは辺りを見渡した。
「この辺りには、無いみたいだな」
「う〜ん、あっちの方に行ってみましょう」
二人は場所を変えて探すことにした。
「ここにも無いな……」
「向こうはどうかしら」
簡単な依頼だと思っていた。
だが薬草が見当たらないとなると、難易度は一気に上がる。
二人は採集に夢中になり、気付けば森の奥へと入り込んでいた。
そして――
日が暮れ始めていた。
「まずいっ!?」
「うわっ! どうしたんだよ。びっくりするじゃないか」
「帰り道がわからない……私たち、迷子になっちゃったぁ……」
「どうしよう……」
二人は知恵を出し合った。
しかし、どれもこの状況を打破できる案にはならない。
森はすでに暗くなり始めていた。
木々が光を遮り、視界がどんどん奪われていく。
ガルゥゥゥ……
「今の声……森のモンスターよね……あぁもう、何かいい考えは無いの!」
フィリアは必死に考えた。
――その時だった。
森の奥に、小さな灯りが見えた。
「あれだ! アルズ、あの灯りの所まで走るわよ!」
「お、おいっ!」
二人は灯りを目指して駆け出した。
ポコッ、ポコッ。
森の奥深く。
小さな小屋の中で、大きな鍋をかき混ぜる者がいた。
「なかなか上手くいかないもんじゃな」
鍋の中では、怪しげな液体が泡を立てている。
「ワシの考えでは間違いないのじゃが……」
その時、気配を感じた。
かき混ぜていた手が止まる。
「おや? 迷子かの。こんな森の奥まで来るとは世間知らずよ」
コン、コン。
扉を叩く音がした。
「ごめんください! どなたかいらっしゃいますか!」
「はいはい、今いきますよ」
扉が開いた。
その姿を見た瞬間、アルズは思わず息をのんだ。
そこに立っていたのは――
金色の髪をなびかせた、美しいエルフの女性だった。
見た目は若い。
だが、どこか只者ではない空気をまとっている。
「夜遅くに申し訳ございません。私たち、道に迷ってしまって……」
「こんな夜遅くに森を歩くとは度胸があるのぉ。まぁよい、とりあえず中にお入り」
「ありがとうございます」
二人は中へと案内された。
簡単な自己紹介を済ませると、エルフの女性は言った。
「ワシは魔女――
セフィラ・ヴェリタスじゃ」
「魔女!?」
フィリアが思わず声を上げた。
「なんじゃ、珍しいかのぉ」
「い、いえ……ごめんなさい。私の想像していた魔女は老婆だったので……こんな若くて美人の方だなんて思わなくて」
「ホッホッホ。フィリアと言ったか。口が上手いのぉ」
セフィラは笑いながら言った。
「それに、お主には魔法使いの素質がありそうじゃ」
そして、アルズへと視線を向ける。
「それからアルズだったな」
その視線に、アルズはなぜか緊張した。
「お主は、なかなか奇妙で面白い魂をしておる」
「魂が……面白い?」
意味がわからない。
だがセフィラは、すべてを見抜いているような目をしていた。
「覚悟はできているようじゃな」
「え……?」
「さて、どうして夜遅くに森の奥まで来たのじゃ?」
フィリアはこれまでの経緯を説明した。
「なるほど……薬草じゃな」
セフィラは頷く。
「最近は野生動物も増えてのぉ。みんな食べてしまうのじゃ。新しい薬草が育つまで時間がかかる」
セフィラは戸棚から袋を取り出した。
「ここにある薬草を持って行けばよい。20個は軽くあるじゃろ」
「そんな、申し訳ないですよ」
「いいから持って行くのじゃ。今日はもう遅い。ここで休んで帰るとよい」
「本当にありがとうございます」
フィリアは深く頭を下げた。
するとセフィラが言った。
「お主らに提案がある」
アルズとフィリアは顔を見合わせる。
「ワシのところで修行をしてはどうじゃ?」
「修行……?」
「フィリアは魔法使いとしてまだまだ伸びる。アルズは……」
セフィラはアルズを見た。
「剣の使い方をまったく理解しておらん」
痛いところを突かれ、アルズは言葉を失った。
「そのまま旅をしても、すぐ死ぬぞ」
静かな声だった。
だが、その言葉は重い。
アルズの胸に突き刺さる。
このままでは――
フィリアを守れない。
あの男、ズワルトにも勝てない。
アルズは決断した。
「よろしくお願いします!」
「よし、決まりじゃ」
セフィラは満足そうに頷いた。
「明日、ギルドに依頼達成の報告を済ませて、ここへ戻ってくるのじゃ」
「はい!」
その夜、アルズはなかなか眠れなかった。
セフィラの言葉が頭から離れない。
「面白い魂……覚悟……」
「俺はいったい、何者なんだ……」
答えはまだわからない。
だが――
ここで修行すれば、何かが見える気がした。
アルズは静かに目を閉じた。
翌朝。
「アルズ、フィリア。準備はできたかのぉ」
「はい!」
フィリアは朝から元気だった。
魔法の素質を認められたことが嬉しいのだ。
「木の枝に赤い光が見えるじゃろ。それを辿れば迷わず町に戻れる」
「わかりました!」
二人は森を後にした。
ギルドで報告を済ませる。
受付にはシリスがいた。
「お疲れ様でした。初めての依頼はいかがでしたか?」
「なかなか大変だったわ。森で迷って魔女に助けてもらったの」
「えぇ!? 魔女に会ったんですか!?」
シリスは驚いた。
「誰も会ったことがないのに……」
どうやら町では恐れられている存在らしい。
「とても温かい方よ。これから色々教えてもらうの」
シリスは言葉を失った。
「じゃあまたね、シリス!」
二人は再び森へ向かった。
セフィラのもとへ。
だが森の奥へ進むにつれ、アルズは妙な気配を感じていた。
――誰かに見られている。
気のせいだろうか。
「セフィラさん、戻りました」
「おぉ、よく来たのぉ」
だがその時、セフィラの表情が変わった。
鋭い目になる。
「……おまえを呼んだ憶えはないのじゃがのぉ」
「えっ?」
セフィラの視線は木の上へ向けられていた。
アルズとフィリアも振り返る。
その瞬間――
大きな翼を広げた影が、ゆっくりと降りてきた。
「久しいのぉ、
ベルデよ」
「覚えていてくれたのですね〜。魔女様〜」
ベルデは不吉な笑みを浮かべた。




