風の町プラーナ
「あぁ〜楽しかったぁ! スッキリしたわ。ありがとう」
フィリアは満足げに言った。
「こちらこそ、ありがとう。エルフは嬉しいことがあるたびに、お祝いするの」
「楽しい種族だね。今回は何があったの?」
「あのね、リサが結婚することになったのよ! こんな素晴らしいことはないわ!」
メアリーが自慢げに話に割り込んできた。
「まぁ、なんて素敵なことなの! ねっ、アルズ!」
フィリアはアルズに目を向けた。
「アルズ……?」
そこには、どこか戸惑った様子のアルズが立っていた。
「アルズ、どうしたの?」
その時、メアリーがふと口を開いた。
「ねぇ、聞いていいのかわからないけど……アルズはヒューマンよね? フィリアは魔族でしょ?」
「えっ、あっ、うん。私は魔族で、アルズはヒューマンだよ」
フィリアはそう答えたが、アルズの様子が気がかりだった。
「珍しい組み合わせよね。滅多に見ないわ……」
リサは少し考え込むように言った。
ヒューマンは他種族から下に見られる傾向がある。
そのため、他種族と一緒に行動する者は少なかった。
「そうなの? そんなに珍しいのかなぁ……。そういえば、リサは領主の子供なのに外を出歩いていいの?」
「エルフ族は自然と調和することに喜びを感じるの。だから問題ないわ」
「そっか。自然を大事にして、それぞれを尊重しているのね。そろそろ行くね。しばらくエルフ領でお世話になるわ」
「うん。向こうに大きな樹が見えるでしょ? あそこがエルフ族の町『プラーナ』だよ。生命の樹がシンボルなの。ゆっくりしていってね」
「生命の樹かぁ。ありがとう!」
フィリアはアルズのもとへ駆け寄った。
「アルズ、大丈夫? ごめんなさい。踊りに夢中になってしまって……」
「あっ、いや、いいんだ。楽しかったんだろ? 良かったじゃないか。もういいのか?」
「うん、行きましょう」
フィリアは歩きながら、アルズの横顔を見つめた。
城を出てから、一度も笑っていない。
こんな大自然を目の前にしても、笑顔が出てこない。
笑えない自分に、アルズ自身も気付いたのだろう。
(必ず、笑顔を取り戻してみせるから……)
フィリアは心の中で静かに誓った。
二人は生命の樹に向かって歩いていた。
しばらく進むと、町の入口が見えてきた。
――エルフ領 プラーナ
町の入口には門番はおらず、誰でも自由に通れるようだった。
「自由って、凄いな」
「ホントね……」
アルズとフィリアには考えられないことだったが、エルフ領の領主がどれだけ器の大きい人物なのかは理解できた。
「とりあえず、宿を探そう」
「そうね」
エルフ領の建物は、ほとんどがツリーハウスになっている。
宿屋も例外ではなかった。
「素敵ねぇ……」
宿の手続きを済ませ、二人はカフェへ向かった。
席に座ると、アルズが口を開いた。
「フィリア、このままじゃお金がもたない」
「私もそこは気になっていたわ。仕事するしかないわね……。あっ、すみませ〜ん!」
フィリアは店員に声をかけた。
「私たち仕事を探しているんですが、この町に紹介所はありますか?」
「あぁ、それなら南側にギルドがあるよ。色々な仕事が掲示されている」
「なるほど、ギルドね。ありがとうございます。アルズ、ギルドに行くわよ」
フィリアはアルズの手を取り、店を出た。
「そ、そんなに慌てなくても……」
「善は急げよ!」
しばらく歩き、二人は目的の建物にたどり着いた。
「はぁ、はぁ……つ、着いた……。意外と距離があるのね……」
そこには木で造られた立派な建物があった。
――エルフ領ギルド「ユニシオン」
二人は中へ入った。
前方にはカウンターが並び、スタッフが忙しそうに対応している。
左側の壁には依頼書が所狭しと貼られていた。
重厚な装備を身につけた者。
顔や腕に傷のある者。
どう見ても戦闘に向かなそうな者。
この空間にいる者たちが、新参者のアルズとフィリアに視線を向ける。
「アルズ、受付をするわよ」
「あぁ……」
受付の前に立つと、女性スタッフが一礼した。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
その声は安心感のある、温かな声だった。
「あの、仕事をしたくて……初めてなのですが……」
フィリアは少し申し訳なさそうに言った。
「ありがとうございます。まずはギルドへの登録をお願いいたします」
スタッフは登録用紙とペンを差し出した。
アルズとフィリアは、名前・年齢・出身地・属性などを書き込んでいく。
「フィリア、俺の属性って何?」
「う〜ん、よくわからないから無しでいいんじゃない?」
「無しか……」
アルズは少し寂しそうに呟いた。
二人は用紙を書き終え、スタッフに差し出した。
「ありがとうございます。アルズさんとフィリアさんですね。これからよろしくお願いします。ギルドについて説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします!」
「かしこまりました。私はエルフ族のシリス・アーネストと申します。この瞬間から、お二人の担当となります。シリスと呼んでください」
シリスは一呼吸おいて続けた。
「この後、お二人にギルドカードをお渡しします。記入していただいた情報が登録されています」
「ギルドカードは各領のギルドで利用できます。どこかの領で登録すれば、どこでも使えますよ」
「ランクは下からF級、E級、D級、C級、B級、A級、そして最上位がS級となります。最初はF級からのスタートです」
「なるほどね……」
フィリアは真剣に聞いていた。
「依頼の受け方ですが、あちらに張り出されている依頼書を受付に持ってくるか、直接私に相談していただければ、お二人の能力に合った依頼をご提案いたします。依頼を達成しましたら受付までご報告ください」
「以上ですが、ご不明な点はありますか?」
「はいっ! 質問!」
フィリアが元気よく手を挙げた。
「ランクを上げるにはどうすればいいの? それとメリットは?」
「現在のランクで一定の実績を積んでいただく必要があります。実績が確認されましたら、こちらから昇級のご提案をいたします。専用依頼を達成できれば昇級となります」
「ランクが上がると、受けられる仕事が増え、報酬も高くなります」
「わかったわ! ありがとう」
フィリアは満足そうに頷いた。
アルズは隣で静かに聞いていた。
「早速だけど、私たちにできる依頼はあるかしら?」
「そうですね……こちらの薬草採集の依頼はいかがでしょうか。流れを掴むには適していますよ」
「そうね。一度流れを把握しておくべきよね。アルズはどう思う?」
「問題ないよ。やってみよう」
「決まり! シリス、お願いできるかしら?」
「はい、承りました。薬草は近くの森『魔女の森』で採集してください」
「魔女の森と言っても、魔女に会ったことがある方はいないので安心してください」
「わかったわ。それじゃあ、行こう」
フィリアは張り切っていた。
「また、はしゃいでるよ……」
アルズは少し苦笑しながら、フィリアの後についていった。




