世界への扉
「どうした! 何があった!」
地下牢の門番たちが、衝撃音を聞いて集まって来た。
「俺も今来たところだ」
ブレイブは誤魔化した。
「壁に穴が!? アルズが逃亡したぞ! 追うんだ!」
門番たちは牢屋の鍵を開け、アルズを追った。
ブレイブはその様子を静かに見送る。
(アルズ……達者でな……)
――魔王城 謁見の間
「魔王様! 報告します!」
息を切らした兵士が叫んだ。
「無礼ですよ! ここは神聖なる場所です!」
ヴィオーラは失礼な兵士に苛立った。
「まぁよい。どうした?」
「ハッ! アルズが地下牢から逃亡しました! ただいま確保に向かっております!」
「なんだと!?」
兵士の報告に幹部たちがどよめく。
魔王が口を開いた。
「放っておけ。あいつがどう動くのか、見てみようじゃないか」
「しかし魔王様。アルズは我々を恨んでいるはず……何をしでかすかわかりません」
氷の使い手、フェンリル――ディゴ・リオートが冷静に言った。
「ならば監視をつけよう。ベルデ、頼めるか? おそらく近くのエルフ領へ向かうだろう。お前が加護を受けた場所だ」
風の使い手、ハーピー――ベルデ・ビエントは片膝をつく。
「お任せください。なんなら命を奪ってみせますよ」
「命を奪う必要はない。監視して報告してくれ。遊ぶ程度はいい。判断は任せる」
「わかりました。では、行ってまいります」
ベルデは一礼し、城を後にした。
「アルズ……い〜っぱい遊んであげるからねぇ」
フィリアはアルズのもとへ向かっていた。
ドォン!
「えっ!?」
城の壁が破壊され、そこから誰かが飛び出してくる。
あまりにも急な出来事に、フィリアの体が固まった。
「誰……?」
見覚えのある走り方だった。
「もしかして……アルズ!」
アルズはフィリアに気づかず、前だけを見て走っている。
「ちょ、ちょっと! アルズ! どこに行くのよ!」
その声でアルズは振り返った。
「フィリア、ごめん!」
「ごめんって何よ!」
フィリアは追いかけながら叫ぶ。
「一体どうしたの?」
「話は後だ! 今はここを出ないと追っ手が来る!」
「意味わかんない! なんで追われてるのよ!」
フィリアは半ば怒鳴った。
「とりあえずスミスさんに匿ってもらう!」
「もう! あとでちゃんと説明してよ!」
二人は鍛冶屋へと駆け出した。
ガシャン!
「はぁ、はぁ……スミスさん! 何も言わず匿ってもらえませんか!」
アルズは勢いよく扉を開ける。
「兄ちゃん! それにフィリアの嬢ちゃんも……」
スミスは二人の表情を見て、事情を察した。
「こっちだ! 奥の部屋に入りな!」
「ありがとうございます!」
しばらくして兵士たちが現れた。
「おい! ここに少年が来なかったか!」
「来てねぇよ」
スミスは、ぶっきらぼうに答えた。
「嘘をつくとどうなるかわかるな?」
「嘘は言ってねぇ。なんでこんな小さな鍛冶屋に少年が来るんだ」
「入ったように見えたが……」
兵士は奥の扉を見る。
「奥を調べるぞ」
「やめろ! そこは貴重な品を保管してる!」
兵士がドアノブに手を掛けた瞬間――
「伝令!」
後ろから兵士が叫んだ。
「魔王様より伝令! 各自持ち場に戻れとのこと!」
「……ちっ。引き上げだ!」
兵士たちは渋々去っていった。
「もう大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「それで、何があった?」
「私も聞くわ」
アルズはこれまでの出来事を話した。
「なるほどな……」
スミスは腕を組む。
「育ての親を失っても、真実を知る選択をしたんだな」
「はい。この目で確かめます。そして父さんの仇を討ちたい」
「アルズ、私も行く」
フィリアが前に出た。
「一緒に旅するわ」
「戻れなくなるぞ」
「いいの。ママにも言われた。それに……私がそうしたいの」
「ありがとう」
フィリアは静かに微笑んだ。
「それで、これからどうするんだ?」
「エルフ領に向かおうと思います」
「エルフ領か。ここから近いし、自然が豊かな場所だ。気持ちの整理もできるだろう。とな
ると……海を渡らないといけないな。船賃はあるか?」
「魔石を売った分があります」
「足りないかもしれんな。これを持っていけ」
スミスは金貨を差し出す。
「受け取れません」
「これは投資だ。世界中にこの鍛冶屋を宣伝しろ」
「……必ずします!」
「フィリアの嬢ちゃんにはこれだ」
帽子を差し出す。
「マジックハットだ」
「素敵……ありがとう!」
「さぁ、行け」
「フィリア、これからもよろしく」
「任せなさい」
二人は夕暮れの街へ歩き出した。
「達者でな……」
スミスは二人の背中が消えるまで見送った。




