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魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


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骨を継ぐ者

ピチャッ、ピチャッ。


アルズは頬に当たる水の冷たさで目を覚ました。

(ここは……)

見たことのない空間だった。


床はまだらな石で敷き詰められ、凹凸が目立つ。

通路との境には頑丈な鉄格子。

両手には冷たい手錠が嵌められていた。


――牢屋、か。


(寒い……)


アルズは震える手で、懐から骨を取り出し、じっと見つめた。

マジックボックスが回収されていないのは、せめてもの救いだった。


(なんで……)


決して忘れられない温もり。

胸の奥が締めつけられ、涙が静かにこぼれ落ちる。


コンッ、コンッ。


足音が近づいてくる。

アルズは慌てて骨をしまい、右腕で涙を拭った。


足音が、目の前で止まる。


「ブレイブさん……」


そこに立っていたブレイブは、悲しみを必死に押し殺した表情をしていた。


「アルズ……無事か?」


「ブレイブさん……どうして……教えてください……」


「ランサは、最後までお前の父親だった……それが、あいつの望みだった……」


アルズは言葉を失い、歯を食いしばる。


「だから……どうして父さんなんだよ!」


抑えていた感情が、堰を切ったように溢れ出した。


ブレイブは黙って懐から一通の手紙を取り出す。


「ランサから託された。アルズに渡してくれと」


アルズはブレイブを睨みつけた。


「あんたは……こうなることを知ってたのか!

 なぜ、止めなかった!!」


「……すまない」


アルズは手紙を乱暴に奪い取り、ゆっくりと開いた。

見慣れた文字が、そこに並んでいた。




**「アルズ。

お前がこの手紙を読んでいるということは、儀式を達成し、無事に戻ったのだろう。よくやったな。

そして、俺は父親として、最期を迎えている。


どうか、怒らずに聞いてほしい。

お前の種族は……魔族ではない。ヒューマンだ。


魔王様の命令で、幼いお前を連れ去り、魔族として育てた。

理由は分からない。ただ、そうするしかなかった。


騙すような形になり、すまない。

俺は本当の父親ではない。

お前の本当の親は、世界のどこかにいる。


魔王様に、お前を旅に出させてほしいと願った。

だが、おそらく聞き入れられないだろう。


だから――魔族領を抜け出し、世界を旅しろ。

真実を、自分の目で確かめるんだ。


心配はいらない。ブレイブが、きっと力になってくれる。

俺のわがままに付き合わせてしまったが、責めないでやってくれ。


簡単だが、地図を用意した。

まずは魔族領に最も近い、エルフ領へ向かうといい。


アルズ。死ぬな。

最後まで、お前の父親でいられたことを、誇りに思う。


ありがとう。」**




(父さん……)


「アルズ。どう受け取るかは、お前の自由だ」


「……正直、整理がつきません。

 違うと言われても、俺にとっては父さんなんです」


アルズは拳を握りしめた。


「父さんが命を賭けた想いを、無駄にはしたくない。

 ただ……真実を知るのが、少し怖いです」


「無理もない。

 だが恐怖は、ときに己を見つめ直す力になる」


ブレイブは静かに続ける。


「今は、前に進む覚悟を持て」


「覚悟……俺は父さんの仇を討ちたい。

 強くなって、ズワルトを倒す!」


「決まりだな。両手を前に出せ」


シャキン!


手錠が斬り落とされた。


「ブレイブさん……」


「俺はランサの想いを託された。

 後ろの壁を破壊し、真っ直ぐ行けば大門だ。

 旅立て、アルズ!」


「ありがとうございます。

 父さんとブレイブさんの想い、必ず応えます」


アルズは剣を構え、壁の前に立った。


「……お元気で」


「ああ。気をつけろ」


ドォン!


壁を破壊し、アルズは走り出した。


「ランサ……あいつを、頼む……」




――後衛魔法部隊施設。


フィリアは儀式達成の報告を終えていた。


「ご苦労様でした」


部隊長マリー・スカーレットの声は、どこか冷たい。


「……はい」


違和感を覚えつつ、フィリアは施設を後にした。


背後から、囁く声が聞こえる。


「一年以上もかかって……使えないわね」

「自分がお払い箱って、分かってないのかしら」

「知らないって、幸せよね」


フィリアは何も聞こえないふりをして歩いた。


「ママ、ただいま!」


「フィリア! 帰ってくると信じてたわ」


フィリアは、これまでの出来事をすべて話した。


「……大切な人が出来たのね」


「そ、そんな……」


「アルズくんの話ばかりよ」


「……本当の自分でいられるの。

 それに、ここにはもう、私の居場所がない気がして」


「なら、行きなさい。

 後悔しないように」


「……ありがとう。アルズのところに行ってくる」


「ええ。支えてあげなさい」


フィリアを優しく抱き締め、想いを受け止めた。


フィリアは家を飛び出した。


「フィリア……大切な人を、守るのよ……」


この時、フィリアはもう――

戻らない覚悟を、胸に抱いていた。


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