骨を抱く者
休憩を終えたアルズとフィリアは、お互いの目的を改めて確認していた。
「俺は闇魔石を持って帰る」
「私は月読草ね」
ケルベロスが消滅した場所には、紫色に輝く大きな魔石が残されていた。
「あれだ」
アルズは魔石を拾い上げ、マジックボックスへと収納する。
「私の月読草は……あった!」
少し離れた場所に、水色に淡く光る草が生えていた。
フィリアは月読草を丁寧に摘み取り、ポーチへしまう。
「よしっ! これでミッション達成ね」
その瞬間、二人の目の前に淡く光るゲートが出現した。
「入口に繋がるゲートだ。行こう」
「うん。入口でまた会いましょう」
二人は達成感に満ちた表情で、ゲートの中へと足を踏み入れた。
――魔族領・魔王城。
謁見の許可を得たランサは、謁見の間で片膝をついていた。
震える身体を、必死に抑えながら。
「ランサよ。今日は何用か?」
「は、はい。魔王様にお願いがありまして……このような場を設けていただきました」
声は明らかに震えている。
幹部の一人が声を荒げた。
「だから内容だ! 早く申してみよ!」
「申し訳ございません。では……申し上げます」
ランサは一度、深く息を吸った。
「私はアルズの父親として過ごしてまいりました。
アルズが試練から戻ったら、全てを打ち明け、世界を旅してほしいと考えております。
これは、アルズの父親としての……お願いでございます」
「何を馬鹿なことを言っている!
お前は魔王様の指示に従えばいいのだ!」
「……待て」
「しかし、魔王様――」
「聞こえなかったか? 待てと言っている」
「ハッ! 申し訳ございません」
魔王ズワルトは、ランサを見据えた。
「ランサよ。何故、そう願う」
「はい。今は争いのない平和な世界が広がっております。
アルズには真実を知り、世界を旅して、自分の生きる道を見つけてほしい。
そして何より……私は親として、父親らしいことをしたいと願っているからです」
「アルズと過ごして、愛情が芽生えたか?」
「……最初は、ヒューマンと過ごすのは嫌でした。
ですが時が経つにつれ、アルズの幸せそうな顔を見ると……
私まで、幸せな気持ちにさせられます」
静寂が、謁見の間を包んだ。
やがて、ズワルトが口を開く。
「よかろう。但し――お前の想いを見せてもらう」
「想い、ですか……」
「幹部の一人と戦い、勝て。
勝てば願いを聞こう。負ければ……命は無いと思え。どうだ?」
ランサに迷いはなかった。
「……やります!」
「では、ヴェルメリオ。いけるか?」
「はい。仰せのままに」
幹部の一人、サラマンダーの火の使い手
ヴェルメリオ・イグニスが前へ出る。
「覚悟は出来ているな?」
「覚悟なら……父親になった時点で固まっていますよ」
「フンッ」
ヴェルメリオの身体が炎に包まれる。
「さぁ、始めるぞ」
ランサは、剣を強く握り締めた。
ゲートを抜けると、ダンジョンの入口に出た。
「途中で鍛冶屋に寄るけど、フィリアはどうする?」
「私も一緒に行こうかな」 「それじゃ、一緒に行こう」
二人は鍛冶屋へ向かった。
アルズが扉を開ける。
「スミスさん!」
「おぉ、アルズ! 無事に戻ってきたな!
ん? 隣の可愛いねぇちゃんは彼女か?」
「彼女だなんてぇ、困りますよぉ」
フィリアは、まんざらでもない表情を浮かべる。
「フィリアは、一緒に試練に挑んだ仲間です」
アルズは淡々と言った。
「スミスさん、この魔石は買取できますか?」
「魔石かぁ……少し小さいな。銅貨一枚ってところだ」
「よかった。それと、試練前に預かった剣の代金なんですが……」
「あぁ、あれか。その剣はアルズにやるよ。
試練達成祝いだ。持ってな!」
「ありがとうございます! あの剣がなければ、達成できませんでした」
「そりゃ良かった」
スミスは、アクセサリーを眺めるフィリアに目を留めた。
「フィリアだったな? 俺はスミスだ。
祝いにアクセサリーを一つ、持っていきな」
「いえ、悪いですよ」
「いいから、いいから!」
「では……この、ひし形のネックレスを」
「よっしゃ!
それは消費する魔力を少し抑えてくれる。効力は変わらんぞ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
スミスは、二人の笑顔に満足そうに頷いた。
アルズとフィリアは城へ戻る。
「帰ってきた……」
「やったね、アルズ。私は向こうだから、ここでお別れね。
また会いに行くから」
「あぁ。色々ありがとう。またな」
二人は手を振り合い、別れた。
アルズは家へ向かう。
「父さん、ただいま……あれ? ブレイブさん?」
そこにいたのは、ランサではなくブレイブだった。
「アルズ! 無事に儀式を終えたか! よくやった」
「はい……あの、父さんは?」
「ランサは、魔王様に謁見中だ」
「魔王様に……? なぜです?」
嫌な予感が、胸を締めつける。
「ランサは……お前のために、覚悟を決めた」
アルズは、家を飛び出した。
「お、おいっ!」
ブレイブは、止められなかった。
(父さん……)
魔王城へと駆ける。
門番を振り払い、城内へ。
謁見の間へと走る。
扉の前に辿り着いた、その時――
「アルズ!!」
衝撃音と共に、聞き慣れた声が響いた。
「うぉぉっ!」
扉をこじ開けた瞬間、世界が凍りついた。
そこには――
砕け散った骨が、無惨に転がっていた。
アルズは、すぐに理解してしまった。
「……なんで……」
記憶が一気に溢れ出す。
一緒に過ごした日々。
笑顔。声。温もり。
涙が止まらない。
「アルズよ。戻ってきたか。
ランサは……父親として戦った」
ズワルトは、どこか悔やむように言った。
「……何を言ってるのか……分からない……」
思考が追いつかない。
ただ、分かるのは――
これは、取り返しのつかない絶望だということ。
アルズは骨を拾い集め、胸に抱き締めた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その叫びは、謁見の間に長く響き渡った。
アルズの感情が、堰を切ったように溢れ出した。




