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魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


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二人の共鳴

アルズは、ケルベロスに向けていた剣先を、ゆっくりと降ろした。

剣先が真下を向いた瞬間、アルズは地面を蹴り、ケルベロスへと駆け出す。


――速い。

それは、光に近い速度だった。


アルズは一気に間合いを詰め、ケルベロスの尻尾へ斬りかかる。


「毒を貰った……お返しだぁ!」


シュッ!


一閃。

尻尾は切断され、蛇の頭が地面に転がった。


「グォォォッ!」


激痛に暴れるケルベロスが、アルズに噛みつこうとする。


ガシッ!


間一髪。

アルズは身を翻し、牙をかわした。


「……危なかった」


だが、休む間もなく右脚が振り下ろされる。


「(マズい……!)」


バァン!


衝撃。

アルズの身体は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「アルズ!」


フィリアの叫びが響く。


しかしアルズはすぐに起き上がり、剣を構え直した。


「(……痛みが少ない。ウィンの力なのか……?)」


息を整える間もなく、再び攻撃に転じる。


「たぁぁぁっ!」


ケルベロスも咆哮を上げ、迎え撃つ。


互角――いや、わずかにアルズが押している。

だが、アルズの胸には拭えない違和感があった。


「(覚醒の力……負ける気はしない。だが……)」


――コアが見えない。


「(なぜだ……?)」


物質は、コアを破壊しなければ消滅しない。

分解することはできても、それは時間稼ぎに過ぎない。


「(さらに共鳴を高めるか……いや、無理だ。この身体じゃ耐えきれない)」


不安を抱えながらも、アルズは剣を振り続ける。


フィリアは、その戦いを見つめていた。

――いや、正確には、圧倒されて動けずにいた。


「(私に……何かできないの……?)」


魔法での足止め。

だが、入る隙がない。


その時、フィリアは気付いた。


「(……違う)」


アルズは優勢だ。

だが――決定打がない。


長引けば、負ける。


「……考えろ……」


その瞬間、一つの仮説が浮かんだ。


「もしかして……アルズ、コアが見えてない……?」


フィリアは幼い頃、母から「コア」の存在を教わったことを思い出していた。

実際に目で見ることは出来ないが、感じ取ることは出来る――そう言われた。


母の声が、今も胸の奥に残っている。



 

『フィリア、私の可愛いフィリア。あなたは凄い魔法使いなのよ』


「ママ、私は凄いの?」


『ええ。フィリアの魔法は、みんなを助ける魔法なの。誰かを傷つけるための力じゃないわ』


「みんなを……助ける……」


『そうよ。よく聞いてね。

 この世界に存在するものは、すべて“コア”を持っているの。

 コアがあるから生きているし、存在していられる』


「うん……」


『剣を持って戦う時、みんな無意識にコアを狙っているわ』


「でも……」


フィリアは不安そうに母を見上げた。


「私は、攻撃の魔法が使えないよ?」


『そうね。フィリアは支援魔法使いだから、直接コアを壊すことは出来ない』


「じゃあ……どうするの?」


母は、優しく微笑んだ。


『誰かに、コアを攻撃してもらうの』


「え……?」


『遠く離れていても、誰かの武器と“共鳴”することが出来るのよ』


「共鳴……?」


『簡単に言えば、フィリアの力を貸す魔法ね。

 でも気をつけて。力を得るのは相手であって、フィリア自身が強くなるわけじゃない』


「それでも……いいの?」


『ええ。だってそれが、フィリアの魔法だもの』


母はフィリアの頭に手を置いた。


『この魔法は、私からあなたへ伝えるわ。

 本当に大切な場面で、使いなさい』


「……うん! 大事なときに使う!」


『いい子ね。

 その魔法の名は――』



 

「……ヴァムプレス」


フィリアは小さく呟いた。


(ママ、ありがとう。

 今が……その“大事な時”だよ)


フィリアはポーチから、血の入った小瓶を取り出し、飲み干した。


「(初めて使う魔法……魔力が尽きるかもしれない。それでも……)」


――賭けるしかない。


「アルズ!!」


声に反応し、アルズは剣を光らせ、ケルベロスの視界を奪う。

その隙に、フィリアのもとへ跳んだ。


「どうした、フィリア」


「アルズ……コア、見えてないでしょ?」


「……ああ」


「私も、その剣と共鳴する。だから……できる限り、共鳴を高めて!」


「そんなこと……できるのか?」


「分からない。でも、やらなきゃ」


アルズは、強く頷いた。


「……頼む。フィリアの力を、貸してくれ」


「うん。始めるわ」


フィリアは詠唱を開始する。


「――我、汝に与えん……理に逆らい、絶望を斬り裂け……

 ヴァムプレス!」


剣が激しく振動する。


「なんだ……力が、溢れてくる……」


剣の輝きが増す。


その瞬間――

アルズの意識に、明確な情報が流れ込んだ。


「……見えた!」


ケルベロスの口。

魔力を溜め込む、その奥。


「コアは……口の中だ!」


「アルズ……魔力が……もう……一撃で……!」


ケルベロスが魔力砲を放つ。


「ウィン……いくぞ!」


アルズは剣を突き出し、一直線に跳んだ。


魔力砲が迫る。

剣が、それを切り裂く。


「うぉぉぉっ……終わりだぁ!!」


「アルズ――いけぇ!!」


ズシュッ!


剣は、ケルベロスの頭部を貫いた。


魔法の輝きが消え、フィリアの身体が崩れる。


「……よかった……」


アルズもまた、膝をついた。


「……間に合った……」


ケルベロスの巨体が、静かに消滅していく。


「……はぁ……フィリア……生きてるか……?」


「……だ、大丈夫……なんとか……」


「……ありがとう……」


「……こちらこそ……」


静寂の中、二人は仰向けになった。


「……勝ったんだな……」


「……うん。ギリギリ……」


「……とりあえず……休憩だ……」


「……賛成……」


二人は、しばらくの間、勝利の余韻に身を委ねていた。


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