覚醒―誰かの為に―
フィリアに魔力砲が迫る。
自身でも見たことのないほど分厚い魔法壁を展開し、必死に対抗する。
アルズと過ごした時間が、脳裏をよぎる。
倒れていた自分を助けてくれたこと。
美味しそうにスープを飲む、あの無防備な横顔。
そして――自分を、認めてくれたこと。
(何があっても、後悔はしない……やり切ってみせる)
魔力砲が魔法壁に直撃する。
ドォン!
衝撃に耐えきれず、フィリアの身体がわずかに後ずさった。
「くっ……!」
全身に力を込める。
腕が、脚が、震えていた。
「なんて……威力なの……」
魔力砲の圧力は凄まじい。
それでも、分厚い魔法壁は、かろうじて持ちこたえている。
(このまま……耐えきれれば……)
しかし、ケルベロスの魔力砲は止まらない。
容赦なく、圧を強めてくる。
「もう……いい加減にして!」
アルズから渡された血の入った小瓶が頭をよぎる。
だが、両手は魔法壁の維持で塞がっていた。
ピキッ――。
その瞬間、魔法壁に小さなヒビが入った。
「うそ……!?」
アルズは、まだ目を覚まさない。
「アルズ! 起きて!」
――――――――――――――
アルズは、真っ暗な空間にいた。
何も感じない。
何も聞こえない。
存在の輪郭すら曖昧な、無の世界。
「ここは……いったい……」
歩いてみても、何もない。
足音すら、返ってこなかった。
「……死んだのか……」
そのとき、遠くに小さな光が灯った。
アルズは、無意識に走り出していた。
近づくにつれ、声が聞こえてくる。
『アルズよ。何のために戦う……?』
どこか懐かしい――胸の奥に触れる声。
「え……? 何のため……?」
考えたことが、なかった。
朝起きて訓練をし、夜は父さんの料理を食べて眠る。
それが、当たり前の日常だった。
答えは、出なかった。
『この戦いで、何を守りたい……?』
「守りたい……もの……」
浮かぶ顔は、いくつもある。
父さん。ブレイブさん。
――そして。
「フィリアは!? フィリアはどこだ! 一緒に戦っていたんだ!」
『そいつは今、死を覚悟してアルズを守っている』
「……なんだって!?」
胸が締めつけられる。
「早く助けなきゃ! フィリアは攻撃魔法を使えないんだ!」
『ここは意識の中。時は止まっている』
『私の問いに答えろ。その想いと覚悟を、示してみせろ』
「あなたは……いったい……」
『私は、いつもアルズの傍にいる』
「俺の……傍に……?」
『私はアルズを選んだ。答えよ。力を解放せよ』
光が、徐々に小さくなっていく。
「待って!」
アルズが手を伸ばした、その先に――。
魔法壁で必死に耐える、フィリアの姿があった。
「フィリア……?」
「アルズ! 目を覚ましたのね……よかった……!」
「これは……いったい……」
「説明は後!」
「お願い、あなたの血を飲ませて! 魔力が尽きるの!」
魔法壁のヒビが、目に見えて広がっていく。
「わかった!」
アルズはマジックボックスから小瓶を取り出し、フィリアに飲ませる。
「ありがとう……これで、もう少し耐えられる……」
「アルズ、その間に逃げて!」
「どうして……そこまでするんだ……?」
フィリアは、迷いなく答えた。
「私はアルズを守るって、決めたの」
「アルズが必要だって……気付いたから」
「そんな自分なら……好きでいられる。笑っていられるの」
アルズの胸が、大きく揺れた。
(俺は……何を見ていたんだ……)
(答えは、こんなにも近くにあったのに)
「フィリア……ありがとう」
「その想い、何倍にもして返す」
「もう少しだけ……耐えられるか?」
「ふふ……楽しみにしてるわ。任せなさい!」
アルズはウィンクルムソードを構え、意識を集中させた。
(ウィン……おまえなんだろ)
(問いかけてきたのは)
剣の振動が、次第に大きくなる。
(俺は、誰かに支えられて生きてきた)
(みんな、笑顔だった)
(その笑顔を守れたら……きっと、自分を好きでいられる)
パキッ。
剣の表面に、ヒビが走る。
(自分が自分であるために)
(笑って終われるように!)
(俺は――フィリアのために戦う!)
剣の外殻が、音を立てて剥がれ落ちていく。
「フィリアと一緒に――生きて帰る!!」
叫びと同時に、剣が眩い光を放った。
「な……なに……?」
フィリアは、思わず目を閉じる。
光は空間を満たし、ケルベロスの視界を奪った。
思わず、攻撃が止まる。
「……攻撃が……止まった……」
光が、ゆっくりと収束する。
フィリアが目を開くと――
アルズの全身が、光を纏っていた。
黄金色に輝く剣。
明らかに変化した、その姿。
「……アルズ……だよね……?」
アルズは、ケルベロスを見据える。
「ケルベロス……世話になったな」
剣先を向け、静かに言い放った。
「そろそろ――フィナーレだ」




