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ココロぞんび  作者: キタビ
第十二話 あたたかい血
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 サニーはエルマー達の手当てを終えると、羽織っていたコートを脱いだ。

 何を始めるのかと思ったが、特殊な素材で作られたコートは防水性や耐熱性に優れ、前身まえみをしっかり閉じ、裾や袖のベルトを絞ると寝袋状の形になり、ネックホールを除けば密閉性が高かった。サニーはそれでココロを包み、背負った。そんなサニーの行動はエルマー達にとって英雄的に映ったが、出血が酷いココロの様な状態の感染者を負ぶって運ぶのは、それだけで感染のリスクがあった。


「おい、まさかお前、その状態で運ぶつもりか?」

「私が感染したら遠慮なく撃ってどうぞ」サニーは言った。

「当たり前だ」


 ジャックは答えると、トラックまでエルマー達を先導した。

 到着すると、荷台にサニーとココロを乗せ、広めの助手席に三人を乗せた。

 この頃には雲にも隙間が出来て、微かにだが星も見えるようになっていた。

 木々が開けると、北東門の前に救護車が二台と、ガンツやリッキー、クリア、白衣の町医者が待っていた。エルマー達は帰って来られた安心感と、随分長い間離れていたように感じるコロニーの壁を見つめた。

 ただ、助手席で窮屈そうに座っていたエルマー達も、待っていた見知った人たちの視線に耐え切れずに顔を伏せた。


「お前達も降りろ」


 ジャックはダッシュボードの新しい煙草を手に掴んでトラックを降り、駆け寄ってきたクリアやガンツ、リッキーに目を向けた。

 背後でエミリやテム、エルマーがトラックの助手席から順に降り、医者達が彼等を引き受けた。

 クリアが目にした三人はずぶ濡れで、最年少のテムには目立った怪我はなかったが、エミリは衣服が血に汚れ、エルマーはライフルを杖にして足を引きずっていた。医者達はこういった場合の心得があるようで、下手に質問攻めにせず、まずは傷の手当をしようと優しく手を貸した。


「……あいつらは手当てを受けさせたら、その場で待機させてくれ。面会謝絶だ」

「面会謝絶って、家族もですか?」クリアが訊いた。

「安心させてやりたい気持ちはわかるが、あいつらの為にもやめておけ。家族の質問攻めに答えられるような状態じゃない。とにかく、どっちも落ち着かせてからだ。お前も同行しろ、俺も行く――っつ」


 ジャックは咥えた煙草に火を点け、一喫いで胸に走った痛みに顔を顰めた。


「ジャックさんも怪我を」

「気にするな、たいしたことない。それより、あいつらからこうなった事情を詳しく聞く必要もある。面会はその後だ。あんたらも、聞きたいことは山ほどあるだろうが今は堪えてもらうぞ」


 エルマー達をしきりに気にしていたガンツ達に、ジャックは釘をさした。


「それで、ココロちゃんは」

「今は気を失っているが、時期に目を覚ます。隔離先は決まったか?」

「それなら、彼女の家を」

「そういや、町から離れてるんだったな」


 荷台に乗っていたサニーが、運転席へ移動した。


「彼女の顔を見たいんですが」

「隔離が先だ。そもそも、あれはもう人としては扱えない。お前も、それをわかってるんじゃないのか?」

「クリアさん、それってどういう」


 リッキーが訊いたが、クリアは答えなかった。


「安心しろ、俺達が居る以上はそいつを使う必要は無い」

「……はい」


 クリアはスーツの内側、その脇に拳銃を提げていた。

 管理人として、いざという時の備えの為に。

 クリアはエルマーとテム、エミリを救護車へ乗せるように指示を出した。三人は一度トラックに残されたココロの方へ目を向けると、医者の指示に従い、まるで捕えられた奴隷のような重たい足取りで救護車へ乗り込んだ。

 ピックアップトラックのエンジンが空転し、グォンと唸った。見れば、サニーが運転するトラックが何度もエンストし、ギクシャクした動きでようやく進み出し、傍まで来て停車した。

 疲れた顔のサニーが、窓から頭を出した。


「いやー、トラックって難しいですね」

「お前、壊すんじゃねえぞ」ジャックは顔を顰めた。

「大丈夫ですよ、ばっちり整備してもらったばかりじゃないですか」


 サニーは言うと、心配そうに見つめてくるクリアたちに目を向けた。


「じゃあ、こっちは私に任せてください」

「すみません、ココロちゃんと、マリオさんをよろしくお願いします。私も彼等達から事情を聞いたら、すぐに顔を出しますので」


 クリアは荷台に目をやったが、ココロの姿は確認できなかった。

 ジャックが目で行けと合図すると、サニーはアクセルを吹かし、トラックを発進させた。

 目指すのはココロの自宅だ。あそこは居住区から離れていて、人も滅多に近寄らない。

 隔離する場所としては最適だった。

 トラックが門を潜って走り去っていくと、「俺達も行くぞ」とジャックは歩き出した。


「ちょっと待ってくれ」


 ずっと黙っていたガンツが息を荒くして立ちふさがり、ジャックの胸倉を掴んだ。

 咥えていた煙草が水溜りに落ちて、黒く染まった。ガンツの手には、力がこもっているようにも感じるが、掴っていないと立っていられないような弱弱しさを、ジャックは感じた。


「あんたら、さっきあの子を人として扱えないと言ったな」

「ああ」

「間に合わなかったのか」

「ああ、すまないな」


 ジャックが冷静な声音で言うと、ガンツは目を真っ赤にした。


「だから俺達も手伝うって言ったんだ! そうすりゃもっと早くあの子達を見つけられたかもしれない!」

「それで、山へ入った連中も感染したらどうするつもりだ」

「子供ら助けるのに自分の命を惜しむようなら、守衛なんてやっちゃいないんだ! 俺はあんたらがプロだって言うから信じたんだぞ!」

「悪いが、俺達の仕事はコロニーの安全な運用管理を手助けすることだ。あんたらのコロニーの不出来なガキの事故に関しちゃ知ったことじゃない。代償は高くついたが、こういう事故が起こるお陰で、あんたらの平和ボケした目も醒める」


 その言い草にガンツは目に涙を浮かべ、ジャックを力いっぱい殴り飛ばした。

 クリアが止めに入る前に、リッキーが二人の間に割って入った。


「ちょっとおっさん落ち着けって! この人は別に――」

「うるさい! お前は黙ってろ!」


 ガンツはリッキーを突き飛ばし、息を荒くしながら言った。


「いいか、俺はあの子達がこんな小さい頃から見て来た! これからもそうだ! あの子達はここで大きくなった。これからだって、それが続く。あんたらそれをわかってんのか!? 代償だと!? 目が醒めるだと!? あの子たちのことをよく知りもしないくせに、好き勝手言うな!」


 リッキーが立ち上がり、ガンツの腕を引いてジャックから引き剥がした。


「すんません、もう行って下さい。おっさんは俺がおさえてますから!」

「――あんたら何しに来たっ、何しに来たんだっ! おい、なんとか言え!」


 子供が約束を破られて、親に不満をぶつける時のような、言葉が見つからずに、ただ自分の気持ちをぶつけているような、怒りだけが込められた声が響いた。

 リッキーがどうどうと馬を宥めるように押して、抱きしめて、肩を叩いた。

 ジャックは落ちた帽子を拾って目深に被ると、折れた奥歯を地面に吐き出した。


「行くぞ、涙は拭いとけよ」


 涙ぐんだクリアを呼ぶと、救護車へ乗り、「出してくれ」と言った。

 救護車はゆっくりと発進し、町の病院へ向った。

 取り残されたガンツはその場で泣き崩れ、地面を何度も殴りつけ、慰めようとしたリッキーを殴った。リッキーもムキになって、ガンツを殴り返した。二人の男は、振り上げた拳の下ろしどころを互いに押し付けあった。


「すみません、あなたたちは、私達を助けるために動いてくれているのに」

「構うな。殴られる方が、ずっと楽なんだよ」


 ジャックはぶっきらぼうに言うと自嘲気味に笑み、口の端を親指で擦った。

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