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ココロぞんび  作者: キタビ
第十一話 冷たい雨
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 マリオと鉢合わせるのを避ける為に少し早めに出発し、時間を潰してから北門へ向う。

 とはいえ、あまり人目に触れるのもまずい。ココロはレニーベーカリーに寄って、チケットとサンドウィッチを交換した。町は静かだった。人の往来はあるが、外出の制限がかかった為か、いつもより少ない。家の庭先の花壇に水遣りをしていたり、店へ食事をしに行く家族の姿は多かった。居住区の裏路地を進めば、家からは笑い声や、時には悪戯をして怒られた子供の泣く声、叱る母親の声、赤ん坊がぐずって鳴きだす声が微かに聞こえた。この辺りで時間を潰す手もあるが、裏路地は子供が追いかけっこやかくれんぼに使ったり、隠れて煙草を喫う大人がたむろっていたりするので、時間を潰す場所としては適していない。


「ちょっとリガーさんとこ寄ってくかな」


 ココロは舵を切り、リガーのカメラ屋へ向った。

 客も少なく閑散とした通りにあるので、あまり人目も気にならない。

 ココロは店の前にモペッドを駐めると、辺りを見回してから店の扉を開けた。

 カラン、と乾いたベルが鳴って来客を知らせたが、リガーの姿はなかった。

 バックヤードか二階かな、と視線を移した。ただ、今日は用があって来たわけではないので、そのままリガーを呼ばずにギャラリーへ向った。静かな空間で、ココロは飾られた写真をゆっくりと眺め、両親の写った写真の前で立ち尽くした。

 結婚式の時の二人の写真を見つめていると、その顔に、無性に手を伸ばしたくなる。

 ココロは掌を見つめると、その手を静かに写真へと伸ばした。指先が触れるか触れないか、という時に、カメラのシャッターを切る音と、モーターの音が聞こえた。


「ちょっと、リガーさん。撮るなら言ってよ」


 ココロは振り向き、カメラを下ろしたリガーに非難するような目を向けた。


「シャッターチャンスってのはその瞬間が大事でな、撮っていいかなんて断ってたらいい画は残せない。だろ?」


 リガーは悪びれなく言うと、使い古したカメラを掲げて笑った。


「エミリみたくモデル料取るよ?」

「現像した写真で返すよ。それより、ずいぶん荷物が多いな、仕事か?」

「うん。これも見かけほど重くないよ」

「カメラも持ってないじゃないか、珍しい」

「壊すとイヤだから置いてきた。ちょっと早かったから、仕事の前にちょっと寄ってこうと思って、思いつきで」

「思いつきってのは本能だぞ、ココロ」

「本能ね」

「こっちで働く気になったか?」

「まだ。でも、仕事終わったら一区切りつきそうだから、そしたら考えようと思ってる」


 ココロが両親の写真に目をやって言うと、リガーは静かに顎を引いた。


「なら、早く仕事を片づけて来いよ」

「うん。そしたらリガーさんにお願いあるんだけど」

「お願い?」

「実はこっそり撮ってた写真が沢山あってさ、それを写真集にしてくれないかなって思って」

「納得のいく写真が撮れたのか?」

「納得も何も、思い出だからさ」


 ココロの何かを悟ったような空気にリガーはふっと笑んだ。


「それなら、改まって頼むようなことじゃない」

「改まってお願いするようなことなんだな、これが」


 訳有りの写真。

 そんなもの普通はないが、リガーはココロの言葉から、その訳を感じた。


「ココロの世界丸見え写真集、その一か」

「伝説の一冊になるかもしれんのよ、これが」


 ココロがふざけて大げさに言うと、リガーも楽しみだと、小さく笑った。


「何か飲んでくか?」

「また今度ね。ちゃっちゃと仕事、片づけてくるわ」


 ココロはそう言って、軽くリガーの肩を叩き、写真屋を後にした。

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