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ココロぞんび  作者: キタビ
第十話 見えない景色の向こう側
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 二三時間で済ませるはずが、作業を終えて痛んだパーツをリストアップしていたら予想以上に時間が経っていた。バインダーを作業台に放って一息つくと、事務所を離れたグレイスが箒と塵取りを手に顔を出した。煙草を歯に挟みながら、整備工場内のゴミをさっさと掃いた。


「マリオ、あたしは掃除したら帰るから、あんたもいい加減にして帰りなよ」

「ああ、もう少ししたら帰るよ」

「っは、返事だけ返事だけ」グレイスは呆れ気味に言った。

「そうだグレイス、ココロは最近、出張修理で工場に居ないんだよな?」

「そういうことにしてあるよ。それがどうかしたかい」

「ちょっと待て、じゃあ、仕事には行ってないのか?」


 責めるように訊くと、グレイスは手を止め、何か文句でもあるのか、と腰に手を当てた。


「まとまった休みが欲しいって言うんでね。なんか問題あったかい?」

「な、なんで黙ってたんだよ」

「あんたに言うと、あんたも仕事を休むからだよ。あの子も年頃なんだ、爺に付きまとわれた鬱陶しくて堪らないだろ? あんまりしつこいとあたしが箒で掃いちまうよ?」


 箒の先を向けられて、マリオはびくっと首を縮めた。


「にょ、女房と同じこと言うんじゃねえよ」


 仕事をプロとして完璧にこなすが、ココロが特別休暇を取ると、仕事をやる気が失せる。

というか、なるべく一緒に過ごしたいのだ。


「そんなに傍に居たいなら仕事さっさと切り上げて帰んなよ。そっちの方があたしも助かるし」

「そうもいかねえよ、これは普通の仕事とは違うんだ」

「特別な仕事なんてありゃしないよ。仕事は仕事だろ」

「ああもう、うるさいババアだな、帰るならさっさと帰れよ」

「言い返せなくなるとすぐどっか行け、帰っちまえ。歳食っても変わんないね、そういうところ。戸締り、忘れないどくれよ」


 グレイスは言うと、煙草をペール缶に投げ込んで、煙を細く吐き出しながら工場を出た。

 マリオは嘆息すると、余計に疲れたと肩を落とし、サニーのバイクに目をやった。

 煙草を取り出し、マッチで火を点けた。

 適当なところで切り上げるにしても、その適当なタイミングが掴めない。一度はじめたら納得がいくまで止まらないのは予想できる。そうなった場合、徹夜コースだ。そうとわかっていても、これを触らずに帰ったところで寝付けないのもまた事実だ。


「……一服したら始めるか」


 そうしてのんびり煙草を味わっていると、事務所の方から誰かがやってくる気配がした。グレイスが忘れ物でもしたのかと目をやると、扉を開けたのはココロだった。きょろきょろと辺りを見回して、目が合うとにこっと笑った。


「やっほ」ココロが手を上げた。

「おうココロ、どうした」

「さっきまでエルマー達と一緒に居たんだよ。そしたらグレイスさんとばったり会って、まだお爺ちゃんが残ってるって言うから、差し入れ持ってきた。ご飯まだでしょ?」

「ああ、悪いな」


 ココロがレニーベーカリーの紙袋を手にやって来ると、マリオは煙草をペール缶に投げ入れた。じゅっと音がして火が消える。紙袋を受け取ってサンドウィッチを出すと、空腹を思い出したように腹が鳴った。マリオは「頂きます」とココロに言うと、サンドウィッチに齧りついた。

 ココロはそんなマリオを脇目に、作業レーンに並んだバイクの周りを回った。


「お爺ちゃん、これって」

「ああ、ココロも会っただろ。アンティコパのお姉ちゃんが乗ってたバイクだ。調子が悪いって持ってきたんだよ」

「……こっちのトラックは?」ココロが親指で指した。

「それもアンティコパのアンちゃんが持ってきた。そっちの整備はもう終わってる」


 ココロはトラックの後輪に足をかけると、荷台を覗き込んだ。


「二人来たの?」

「ああ、二人だったよ。やっぱり気になるか?」

「少しはね。でも、あんまりお近づきにはなりたくないかな」

「どうして」

「あの人、優しそうだったけど、ちょっと怖いし」

「怖い?」

「なんかアンティコパって、感染者燃やしたり心臓抉り出したりするってラン兄ちゃんが言ってて、イメージと違ったから、かえって不気味って言うか。それにあの人、ガスマスクしてたし」


 ココロがそう言うと、マリオはちょっぴりほっとした。どういう噂でそうなったかはわからないが、ココロから近づくようなことはなさそうだ。しかしサニーの話を聞いた後だと、大して話しても居ないのに距離を置かれるというのも、違う気がして複雑だ。ちょっぴり擁護したい気もしたが、それで興味をもたれても困るので、話すのはやめた。


「ココロ、ちょっと作業手伝ってくれるか?」


 マリオが言うと、ココロはぴょんと飛び降りて、サニーのバイクに跨り、ハンドルを握った。


「もちろんいいよ。にしてもでかいねこれ、見てホラ、これじゃあたし乗っかってるみたい。寝れるしこれ、スタンドなしでお腹べったり地面に着いてるし、ハンドルも縦についてる……どうやって乗るのこれ」


 ココロはハンドルをぎゅっと握って頭を伏せた。


「あのお姉ちゃんは普通に取り回してたよ」

「あたしも普通に運転してるのみたけど、これ無理だよ」


 マリオは笑うと、サンドウィッチを丸呑みにして手を叩いた。


「よし、始めよう」

「おっけー」

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