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ココロは家に着くと真っ直ぐ焼却炉へ向い、リュックを降ろして疲れた溜息を吐いた。
どっと疲れが押し寄せて来て、全身から力が抜けそうだった。
西の空も茜色に染まり、山は黒い影に覆われている。
荷を降ろしても、まだ肩が重い。
きっと、あんなものを見たせいだ。
血の臭いとあの光景が、まだ目に焼きついている。
焼却炉の蓋を開けると、昨日食べた七面ダッグの食べ残しと、骨が放り込まれていた。
感染者の腕を思い出しそうになり、慌ててリュックを開いた。手袋やマスク、タオル等、イヴに使った道具を纏めたゴミ袋を焼却炉へ押し込んで、火の点いたマッチを放り込んだ。
火が大きく育っていく様子を、じっと見つめた。
山の様な黒いビニールが溶け出し、次第に赤い炎に包まれて燃え上がった。
炎の中にうっすらとイヴの姿が浮かびかけ、ココロは目を逸らすように蓋を閉じた。
煙突から昇っていく煙を見上げると、大きな雲が空を覆い始めていた。
西の空は晴れていても、東の空には暗雲が立ち込め、その大きな雲の塊は、大地を覆うように少しずつ町に影を落とし始めていた。ほんのりと湿った風が、ココロの髪を静かに揺らした。
「イヤな空」
リュックを背負い、ビデオカメラのケースを担いで玄関に回った。
ノブに手をかけて静かに扉を開くと、目線だけを二階に向け、気配を探った。
二階からレコードの音楽が聞こえてくる。
マリオは寝ているようだ。ココロはそっと玄関の扉を閉め、ノブを戻した。
家の香りで胸を満たすように深呼吸すると、まるで別世界から帰ってきたかのような安心感を覚え、ココロは小さく呟いた。
「ただいま」
目の端に映ったのは、決してその声に応えることのない、両親の写真だった。




