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店を出ても、真っ直ぐ家に帰る気にはなれなかった。
感染者や熊に関しての問題は、アンティコパが来ることによって解決されるだろうが、イヴの問題は別だ。感染者狩りのハンターがやってくることでコロニーの安全が守られるということは、最悪、イヴが消される可能性が高くなったとも言える。
「兄ちゃん、俺達、どうするの? どうすればいいの?」
不安そうにテムが訊くと、エルマーは腕を組んだ。
「……どうする、か」
「わたくしはエルマーくんの判断に従いますわ。ランセットさんの言う事もわかりますもの」
「なに言ってんのよ、エルマーがどう判断するにしても、イヴはほっとけないでしょ」
ココロは言った。
「そうは言うけど、相手がアンティコパとかいう連中だとすると」
「なによ、ビビってんの? 金玉ついてんでしょ?」
「お下品ですわ」
「別にビビってねえよ、っていうか金とか言うな」
「だったら答えは一つじゃない!」
ココロとエルマーが大きな声を出して睨み合うと、エミリが困り顔で提案した。
「その、アンティコパの方に会って説得するというのは、どうです?」
「冷酷で残忍なゾンビハンターに、俺達みたいなガキの声が届くとは思えないぞ」
「心臓抉り出したり燃やしたりする連中だよ? 提案するならもうちょっとマシなこと言ってよ」
「わたくしに当たらないで下さります!?」
「でも、アンティコパって、本当にどんな人たちなの?」
テムが訊くと、ココロ達はそれぞれ『アンティコパ』の姿を思い浮かべた。
火炎放射器で辺りを緑ごと焼き尽くし、狂ったように笑う姿。
感染者を押し倒し、心臓を抉り出して邪悪な笑みを湛える姿。
とてもマトモな姿は想像できなかった。
そんなのがイヴを含めた感染者を処理しにやって来るとして、自分たちでどうやって止めるのかを考えたが、名案は浮かばなかった。説得にしても同じことだ。向こうは仕事で来ていて、かつコロニーの安全な運用の為という大義名分がある。自分達のお遊びに耳を貸すはずがない。
そもそも、彼等にとって感染者は守る対象ではない。
畑を荒らす害獣を見て、幼い子が優しさだけで殺さないであげてと訴えかけるようなものだ。
理解は得られても、害獣を見過ごしてくれるわけではない。
それに、感染者による被害は、コロニー全体を危険に晒す。
「……ダメだ、今日は一度解散しよう。こんな調子じゃいい案なんて出るわけない。ひどいもの見て、頭のなかごちゃってる」
「そう、ですわね」
「とりあえず、明日集まって作戦会議だ」
「時間と、場所は?」
「昼、エミリの城でやろう。ココロ達も一応、考えておいてくれ。イヴを助けるか、黙って見過ごすか。助けるなら、その方法もだ」
「わかった。けどあたしは、絶対イヴを諦めたりしないから」
ココロはそう言い残して、モペッドのエンジンをかけ、先に帰路へ着いた。




