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ココロぞんび  作者: キタビ
第七話 殺戮者と狩人の影
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「俺はテムと、ココロはエミリと組め。何か見つけたらすぐに呼ぶ」

「やばいのと遭遇したら?」

「逃げる以外にできることあるか?」


 ココロは頷いた。

 四人は荷物を一箇所に集め、手分けして辺りを調べ始めた。

 可能な限り慎重に、鈴の音を出しながら、互いの位置は常に意識した。

 エルマーとテムが視界から見えなくなると、エミリが腰を屈め、さっき見つけた足跡を注意深く観察し始めた。近くに落ちていた枝を使って周りの草を避け、足跡を探し始める。

 その姿はさながらハンターだ。


「ココロさんは、わたくしの後に着いて来て下さい」

「そんなんでホントにわかるの?」

「あなたたちの足跡を追うより簡単ですわ」

「ちょっと待って。てことはあたしらが、やばいの見つけるかもしれないってこと?」

「足跡を追って、見つけるのはわたくし達の方が先です。つまり、逃げるのも」

「あたし達の方が早い」

「そういうことです」

「提案なんだけど、エルマー達呼び戻さない?」

「それはイヤですわ」

「どうして」

「もしも本当にヤバイのと遭遇してしまった時、不細工なわたくしの顔、彼に見せたくありませんもの」

「そんなのってさー、今更」


 命より大事なことじゃないじゃん、とココロは身振りで訴えかけたが、エミリは大事ですと胸を張った。


「大丈夫ですわ。身構えている時ほど、何も起きないものですもの」

「どっから来るのよその自信。だいたいあれ見てなんで平気なわけ?」

「平気なわけないでしょう。エルマーくんが居なかったら悲鳴を上げて卒倒してますわ」


 たいした見栄だ。それに、こういう時の妙な行動力にココロは参った。足跡を追跡してどんどん先へ進むエミリを目で追いながら、ココロもわかったわよ、と観念して後を追った。

 滲んだ手汗を太ももに擦りつけ、まだ鼻に残っている嫌な臭いに顔を顰めた。

 犠牲になった感染者が倒れた場所から、ほんの十メートルかそこら離れたところで、エミリが不意に足を止め、茂みの向こうを覗き込んだ。嫌な予感しかしない。


「ココロさん、早く」


 手招きしたエミリが、ゆっくりと茂みを乗り越えた。

 ココロはカメラをお守りのように抱え、境界線のように道を塞ぐ茂みを前に足を止めた。


「ああ、やだな」


 茂みを越え、太い木の幹に手を這わせながら顔を覗かせると、巨大な肉塊を突いていた獣が素早く走り去り、木の陰に消えていった。ココロは獣が突いていた肉塊に呆然として、小さく溜息を吐いた。カラスが三匹ほど、それをまだ突いている。


「……クマだ」


 見つけたのは、感染者を食い散らかしたと思われる熊の死体だった。


「どういうことですの?」

「あたしに訊かないでよ」


 ココロは苛立った声で言うと、ビクビクするのがバカバカしく思えてきて、怒りをぶつけるように前に出た。

 腕を折られ、胴が何か固い鈍器で殴られたのか、平らになっていた。

 恐る恐る近づいてみると、威嚇するようにカラスが鳴いた。俺達の獲物だ。そう主張するようなカラスに、ココロは地面を蹴ってつぶてを飛ばし、追い払った。飛び立ったカラスは枝にとまり、こちらを見下ろしてもう一度鳴いた。

 ココロは枝に留まったカラスから目線を外すと鼻を鳴らし、熊の死体に近づいて目を凝らした。

 顔の周りを飛びまわるハエを手で払い、完全に生気を失った熊の瞳を覗き込んだ。

 自分の姿が映っている。鼻先も、感染者の内臓を食った時に突っ込んだのか、血が付着して漆を塗ったような光沢を帯びている。


「どうなってんのよ」

「この辺りの足跡を見るに、やりあったようですわね」

「やりあったって、熊と? 誰が」

「ビッグフットさんが」


 ココロは嘆息し、エルマー達を呼んだ。

 駆けつけた二人の反応も、自分たちと大差なかった。

 エルマーは絶句し、テムはたまらずその場に吐いてしまった。


「どうやら、熊を殺すような猛獣がこの森に潜んでいるようですわ」


 エミリが冷静に言うと、エルマーは頷き、少し疲れた様子で近くの木の根に腰を降ろした。

 両手で顔を覆い、熊の死体に目を向け、言った。


「予定変更だ。守衛には伝えないで、ラン兄ちゃんに直接知らせる」

「守衛の人には話さないってこと?」

「守衛に伝える口実を兄ちゃんに考えてもらう。時間的な猶予が欲しい。もしもこれをやった奴を狩るなんて話になってみろ、山狩りになったらイヴが撃たれるかもしれない。それに、一つだけこの状況を都合よく解釈するなら、熊を殺した奴も感染者なら、イヴが襲われる可能性は低いんじゃないかってことだ」

「感染者同士では殺し合わない、ということですのね?」

「けど、熊を殺すような感染者が普通の感染者と同じなんて、わかんないじゃん」


 ココロが言うと、エルマーは頷き、立ち上がった。


「急いで廃工場に戻ろう。イヴの守りを固める」

「どうやってあの子を守るんですの?」

「材料なら、山ほどある。そしてここにはメカニックと、大工の娘がいる」

「ちょ、ちょっと待ってください、わたくしとココロさんでやるんですの?」

「てやんでい、べらぼうめ、の出番ってことね」ココロは言った。

「頼むよエミリ、お前の力が必要なんだ。戻って、イヴに城を作ってやる為に」

「そんな、わたくしはたしかに大工の娘ですが」

「出来るでしょ、手先は器用じゃん」

「けど」

「簡単でいいんだ。バリケードを作って、イヴが息を潜められる場所さえ出来ればひとまず安心できる」

「あそこから連れ出して、山から逃がすのではダメなんですの?」

「イヴがあそこへ戻って来ない保証がない。それに、俺達が門限までに戻らなかったら、それこそタイザさんあたりが山に入って俺達を探し始める。熊を殺すような化け物がいることも知らずにだ。そうなったら、最悪、襲われるかもしれない」

「たしかに、そうですわね」

「エミリ姉ちゃん、俺からもお願い」テムが言った。


 エミリは少し考える間を置いたが、時間も無く、決断は早かった。


「……仕方ありませんわね、やれるだけのことは、やってみましょう。その代わり皆さん、わたくしの僕になる覚悟はよろしくって?」

「補強は後日だ、今日のところはイヴを守る為の囲いが形になればそれでいい。元々廃工場の跡地だ。イヴを囲う部屋を一室選んで、バリケードで囲む。終わったら、急いでラン兄ちゃんのところへ戻るぞ」

「わかった」

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