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ココロぞんび  作者: キタビ
第七話 殺戮者と狩人の影
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 先日の繰り返しになるが、ココロ達は同じ実験をして、それを映像として残すことにした。

 やっていることはまったく同じだが、格好が格好だけに、本当に子供が遊んでいるようにしか見えない。ココロも、これは記念になるとカメラのシャッターを切った。実験も終盤となると、もうそれはただの写真撮影と化していた。

 そうしていると、ビデオカメラを覗き込んでピントを調整していたテムが不意に、「なんだ」と鋭い声を出した。その声は、テムの臆病センサーが何かを察知した時のものだ。

 ココロ達も背後を振り返り、辺りに気配がないか探ったが、特に何も感じなかった。


「何だよ、テム。脅かすなって」


 エルマーが言うと、テムは指を立てた。

 静かにして、目がそう言っている。

 耳を澄ませてみたが、鳥の声と、風に吹かれた草の音以外は聞こえてこない。深い森のざわめきは、それだけでも辺りを満たすのには十分で、他の音を掻き消してしまいそうだった。

 が、枝を踏み割る音がはっきり聞こえた。

 目を向けると、森の入り口に佇む感染者の姿があった。


「感染者?」

「森の奥からだから、それ以外にありえないだろ」

「イヴのお迎え?」

「それなら安心、できるんだけどな」

「このまま、さよならする?」


 あまり長くイヴと過ごせば、それこそ連れ帰りたくなりそうだった。

 けれど、どれだけ彼女に危険がないように思えても、感染者は住む世界が違う。

 人にとって、とても厄介な病気を持っていることに変わりはない。

 情が移り始めた今が引き際だ。

 もしかしたら、その引き際すら、自分たちは見誤ったかもしれない。

 そういう警告をする為に、それを思い出させるために、新たな感染者は現れた。

 そんな風に思えた。


「もう、お別れですの?」


 名残惜しそうにエミリが言った。

 無理もない。エミリはまともな感染者を見たのは、イヴがはじめてだ。

 怖さよりも先に愛着が湧いてしまっている。気持ちはわかるが、だからこそだ。

 自分たちも、これほどまでに感染者に気持ちが移ったことはない。そう自覚しているからこそ、引き際なのだ。でなければ、取り返しのつかないことにもなりかねない。

 エルマーは深く息を吐くと、妹を可愛がるようにイヴを抱き寄せていたエミリに体を向けた。


「エミリ、お陰でずいぶん助かった。俺達のやりたかった研究は、これでお終いにする」

「この子ともっとコミュニケーションが取れるかもしれないのに、もう終わらせてしまうんですの?」

「エミリの気持ちもわかるけど。このまま、本当にイヴとコミュニケーションをとれるようになった後は、どうする?」


 隠れてペットを飼うのとは訳が違うのだ。

 イヴとのコミュニケーションが可能になったら、きっともっと一緒に居たくなるし、彼女を本気で連れ帰れないかと考えるようになるかもしれない。しかしそれは、コロニーを脅かす。感染者との意思疎通が可能になるかもしれない可能性は捨てきれないが、自分達がそれを続けることには、沢山の危険がついて回る。

 エミリはエミリなりにそうなった場合の未来を考えて、肩を落とした。


「じゃあ、もう四人で集まることは、なくなるんですのね」

「それはない。研究を終わらせるだけだ。結局俺達は、ごっこ遊びを越えられないんだよ」

「……そうですわね。仕方ありませんものね」

「出会いあれば別れありだ。それに、ガンツ達が森にけっこうな数の感染者が居るとか言ってただろ」

「そういえば言ってたね」


 ココロも思い出して、しかし全然影も形もなかったなと、眉を顰めた。


「俺達は運よく出くわさなかっただけかもしれないからな、日が沈む前に戻ろう」

「イヴはどうするの?」

「ここに運び込んだ荷物を取りに来た時、様子を見ればいいさ。あくまで研究は終わらせるだけで、これからも何度か、ここへは来よう。イヴがちゃんと離れたかどうかは、確認したい」

「そうだね」


 そういう口実で、どこかイヴに再会できることを期待していた。

 だからイヴとのお別れは、あまり時間をかけなかった。

 それぞれが握手を交わし、元気でね、またね、と声をかけた。


「イヴ、また遊ぼうね」


 そう言って手を握ったテムは、イヴがその手を握り返してくれたことに感激して目を赤くしたが、これきりじゃないと自分に言い聞かせるように歯を食いしばり、その手を離した。


「イヴ、あたし達も様子を見に来るけど、なるべく早くでいいから、この場所を離れて、遠くへ行くんだよ。いい?」


 ココロはイヴの目を真っ直ぐ見て、そう伝えた。

 しかし、イヴの深く遠い瞳は、言葉の意味までは理解してはいないように思えた。

 今までなら、実験を終えて別れるだけで済んだはずなのに、イヴに対してはここへ置き去りにしていくような罪悪感があった。彼女の姿や仕草がそうさせるのかもしれないが、それを差し引いてもココロは特に、イヴとの別れが惜しかった。

 幼い頃自分が着ていたツナギに長靴、思い入れのある両親からの贈り物を胸に抱いた彼女の姿は、幼い頃の自分を見ているようだった。それと「さよなら」することは、幼い頃の自分と「さよなら」をするような、妙な気持ちにさせる。


「イヴ、またね」ココロは言った。


 四人は帰り支度を済ませ、持ち運べるだけの荷物をリュックに詰め、廃工場をあとにした。

 しかし四人は、またすぐに、ここへ舞い戻ることになるのだった。

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