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集合場所に到着すると、エミリが無言で睨みつけてきた。
さっきのことは言うなと、そう目が語っていた。
「なんかあったのか?」エルマーが訊いた。
「別に、ぜんぜん、特に何もない、ホントに」
ココロはさっきのエミリの恥ずかしい写真をしまったポケットを触った。
「何かあっただろ。鼻の下、伸びてるぞ」
嘘はすぐにバレた。
ココロはそれでも白を切った。エルマーとテムは、それ以上追究しなかった。
「エルマーくん、わたくしのことはいいですから、急ぎましょう。イヴが待っていますわ」
鼻と瞼を赤くしたエミリが言って、ココロ達は再び森を目指して出発した。
門を通る度に荷物が増えるので、タイザが「なにしてんだ?」と興味を持った。
「極秘の映画撮影」と冗談っぽく伝えてみると、「そりゃいい、完成したら見せてくれよ」と言われた。
守れる約束じゃないが、完成したらね、と口約束だけして、門を通過した。
ビデオテープへの録画も楽しみだが、それよりもイヴとのコミュニケーションがどれだけできるのか、それが楽しみで仕方がなかった。服や靴を与えて、一緒に時間を過ごしたら、笑顔の一つでも見られるようになるだろうかと期待が膨らむ。
イヴは廃工場跡の敷地からは離れず、与えられていた玩具やら本やら、使い方を教わったもので時間を潰していたようだった。一晩中、おそらく眠らずにだ。
「イヴ、どうだ調子は」
エルマーが声をかけると、イヴは持っていたフライパンを離し、こちらを向いた。
相変わらずの無表情だが、自分が呼ばれたことを理解しているようだった。
ココロ達が近づこうとするより先に、鈴を鳴らしながら寄って来た。
これは嬉しい反応だ。昨日より、感情表現が豊かになったように感じる。
ココロとエミリは荷物を降ろすと、持ってきた荷物を取り出した。
「今日はあたしたちからプレゼントがあるんだー、っつっても、わかんないだろうけど」
ココロは言いながら、マスクやゴーグル、手袋、水の入ったボトルや、シャンプーにリンス、ボディーソープや炭石鹸、新しい着替え等を取り出した。
「じゃ、あたし達一回イヴのことキレイにしちゃうから、男達はそっちで待機、テムはビデオカメラセットしておいて。三脚も立てちゃってね」
「わかった」
「まだ撮っちゃだめだからね」
ビデオカメラの三脚を立て、撮影の準備をしていたエルマーが顔を顰めた。
「撮らねえよ」
「覗くなよお?」ココロは目を眇めた。
「テム、覗くなってよ」
「覗かないよ!」
テムが顔を真っ赤にして怒ると、エルマーはゲラゲラ笑った。
ココロとエミリは支度を済ませ、イヴを天井の無い一室へ連れて行った。
広さは五メートル四方程で、日差しがやわらかく差し込んでいる。コンクリートの地面の角は割れていて、そこから草や花が顔を覗かせ、壁にはツタが這っていた。ドラム缶や作業机などが当時のまま残されているが、ここなら水捌けもよく、周りからも見えない。
ココロは着替えを作業机の家に置くと、ゴーグルとマスクを装着し、ゴム手袋を嵌めた手をワキワキと動かした。
「怖くないからね、これから気持ちよくしてあげるからね?」
「せめて綺麗にしてあげるからね、じゃダメなんですの?」
エミリが眉を顰めながら、パイロットゴーグルとマスクを装着し、手袋に手を差し込んだ。
「なんでよ、シャンプー気持ちいいじゃん」
「なんかやらしいですわ」
「そういう発想がすでにやらしい。とにかくほれ、キレイキレイするよ。ちょうどよく椅子もあるしね」
ココロはイヴのワンピースの裾を掴み、剥くように衣服を脱がせた。
白い肌が露になる。下着も着けていない。
作業机の傍にあったペイル缶を椅子代わりに、イヴを座らせた。
「シャンプーとトリートメントの魔法で、お姫様にして差し上げますわ! オーッホッホッホ!」
高らかに笑ったエミリを見上げたイヴの目元が、引くようにぴくりと動いた。




