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翌朝、ココロはイヴの実験へ必要なものを選び、リュックに詰めていった。
イヴが着ることの出来る衣服を選びながら、ブリキの人形を手にした彼女の姿を思い出し、アリソンも持っていこうかと考えた。少し名残惜しいが、「それを今必要とする人がいる」というランセットの言葉を思い出すと、今これが必要なのは自分よりも、イヴなのではないかと、そんな風に思えた。
ココロは枕元に置いたアリソンを手に取ると、リュックとビデオカメラのケースを担ぎ、外へ出た。今日の荷物はなかなかに重たい。イヴの汚れた体を綺麗にする為のボディーソープやシャンプー、石鹸、水を入れたボトル等も詰めてある。
荷物をモペッドの荷台に固定して、整備工場へ出発した。
工場へは朝八時ちょうどに到着した。
受付で煙草を咥えながら本を読んでいたグレイスに、暫く仕事を休めるか訊いた。
そもそも仕事は、月曜日から金曜日まで、職種によって勤務時間には若干の差はあるものの、申請をして休めない仕事はない。労働という概念はもとより、日常にメリハリをつけるための習慣だ。それに、ココロが働く工場は仕事の量がまばらで、本来であれば毎日働く必要もない。
「そんなの伝えるためにわざわざ来たのかい? あたしに言わなくても、お爺ちゃんに直で言えば済むじゃないか」
グレイスは煙草を灰皿にグシグシと押し付けるようにして消すと、鼻から煙を吐いた。
「そうだけどさ、お爺ちゃんに言うと理由聞かれたりして面倒じゃん」
「男でも出来たのかい?」
「だから、そういう勘ぐりされると面倒でしょって話」
「たしかに面倒だ。男ってのは自分が蚊帳の外にされんの嫌がるからね」
「だからさ、グレイスさん上手く言っといてくれない?」
言うと、グレイスは尖らせた唇に挟んだ煙草に火を点け、マッチを捨てた。
「ま、休むのはいいさ。今は大きな仕事もないし、出張の人手も足りてる。それより、あんたが居ない上にこの仕事量じゃ、マリオが退屈しちまって大変だよ」
「お爺ちゃんが?」
「車輌の修理がないから持て余してるのさ。まるで玩具を取り上げられた子供だね」
「なら、ラン兄ちゃんのところの車が咳きこんでたから、お爺ちゃん派遣してあげたら?」
「ああ、ガラクタ屋の坊やかい」
「なんか異音してたよ」
「わかった。マリオにはあんたは出張修理で直行直帰させるって伝えとくよ。あんたが休みって言うと、あれも一緒に休みかねないから」
「ありがとう」
「それより、ぬいぐるみなんて抱えてどうしたんだい、急に恋しくなったのかい?」
ココロは腕に抱えたアリソンを一瞥して、違うよ、と笑った。
「アリソンを気に入りそうな子がいてさ」
「おや、あげるのかい?」
「それはまだわかんない。あげたくなくなるかもしれないし」
「まだガキだねえ」
ガキじゃねえし、とココロは笑いながら返し、休みの件よろしくと伝えて工場を出た。
その後、衣料品を扱う店に寄り、イヴの下着と、足のサイズに合う靴をチケットと交換し、待ち合わせ場所に向った。




