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ココロぞんび  作者: キタビ
第六話 捨てる神あれば拾う僕あり
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 ココロは家に帰ると、ゴミ袋を焼却炉へ運び、火を放った。

 蓋を閉じて、両親の部屋へまっすぐ戻り、荷物と杖を置いて、ビデオカメラを取り出した。

 親に隠れてこっそりとプレゼントを開ける様な感覚に胸が躍る。

 エルマーもテムも、エミリも見ていない。ひと目を気にせず存分にいじくりまわすことが出来る。貴重な機械を一人で触っていると、何かやる気が漲ってくる。一度は試し撮りしたとは言え、やはり映像が残せるというのは魅力的だ。


「ミート、ちょっとそこ立って」


 録画はしないが、ミートを使ってピントを合わせ、フレーム内に納める練習をした。

 そうして遊んでいると、部屋の扉をノックする音がして、ココロはびくっと肩を縮めた。


「ココロちゃん、ちょっといいかな?」


 リチャードの声に、ココロはほっと胸を撫で下ろした。


「どうぞ」


 言うと、静かに扉が開いた。ココロが椅子を持ってくると、リチャードは足を軽く引きずりながら、その椅子に腰を降ろした。そして、ココロが床に置いたビデオカメラに眉を上げた。


「おや、ココロちゃん。いいものを持っているね」

「ビデオカメラです。借り物なんですけど」

「彼女の記録に?」

「そのつもりです」

「本格的だね。今日も会ってきたんだろう? どうだったね?」

「もしかして、その話を聞きに来たんですか?」

「それもあるが、今さっきご主人が戻ってね、そろそろ晩御飯だから、ココロちゃんに伝えてくれと」

「珍しい、お爺ちゃんがご飯の用意してくれるなんて」

「なんか大きな鳥のお肉をもらってきたそうだよ。今焼いているところだ」

「七面ダック!」


 ココロはやった、と目を輝かせた。対照的に、ミートの羽が逆立ち、露骨にショックを受けた。

 あれは一度食べるべきだ、とココロはリチャードに熱く語り続け、ミートはその間ベッドにもぐり、耳を塞ぎ続けた。


「そうだ。リチャードさんに、お土産あるんですよ」

「お土産? 私にかい?」


 ココロは杖を手に取り、リチャードへ差し出した。

 リチャードはそれを受け取ると、手で見るように杖に手を這わせながら、目を凝らした。


「これは、とても丈夫そうだ。随分使い込まれているようだけど、いい感触だね」

「あたしたちに感染者のこと教えてくれたお兄さんの、お爺さんのもので」

「そんな大事なものを?」

「それを必要とする人がいるなら、その人に使ってもらったほうがいいって。それに、ラン兄ちゃんのお爺さんは旅人に憧れていたから。旅人のリチャードさんに使ってもらったら嬉しいだろうって」

「私にはもったいない心遣いだ」

「足の具合は?」

「だいぶよくなってるんだが、歳のせいか、もう少しかかりそうだ。これはありがたく使わせてもらうよ。足が治ったら、返しておいてもらえるかな?」

「ご自分でどうぞ。リチャードさんの旅の話、聞きたいって言ってましたから」

「なら、その時はココロちゃんがお店に連れて行ってくれ」


 コンコン、とリチャードは杖で床を軽く叩いて感触を確かめた。

 よく似合っている。髭や髪に結んだリボンも気に入っているようで、ずっと付けたままだ。


「そういえば、リチャードさんって中央に行ったことあります?」

「……中央というと、中央コロニーのことかな?」

「そう」

「あるよ。こことは違って、先進的だ。興味があるのかい?」

「このビデオカメラを借してくれた人、あたし達の研究を知っていて、イヴのことを話したら、中央の話が出たんですよ」

「イヴ?」

「あの子の名前です」


 ココロは新しく撮ってきた写真とノートを見せた。

 リチャードは興味深そうに写真を眺めると、うっすらと目を細めた。


「いい名前を考えてもらったね。それで、中央にでも引き渡す話にでもなったのかい?」

「あたし達はそんなつもりなくて、実際、中央の実験って怖そうで」


 ココロが言うと、リチャードは顎を引いた。


「賢明だ。本物の科学者、研究員というのは、大義名分さえあればどんな残酷なことだってできてしまう。世にマッドサイエンティストといわれる者達だ」


 まるで見てきたように語るリチャードの言葉に、ココロは息を呑んだ。


「中央に、そんな人いるんですか?」

「驚かせてしまったかな。まあ中央にはいないと思うよ。どちらにしても、彼女の記録をとるのはいいとしても、なるべく人には見せないことだ」

「そのつもりです」

「映像記録は、撮れたら私にも見せてくれるのかな?」

「リチャードさんはただの居候だから、見ても誰にも言いふらさないでしょ」

「もちろん」

「一緒に来ます?」

「魅力的な提案だが遠慮しておくよ、足手まといにしかならないし、それに明日から、少し町に繰り出すつもりだ。この杖にも慣れたいし、リハビリもしたい」

「チケットあります?」

「今朝、マリオさんから何枚か頂いた。本当に、よくしてくれる」

「持て余しますからね。勤労チケットがあれば、たいてい何でも手に入りますから」


 たしかに、たいていのものは手に入る、とリチャードは微笑んだ。

 けれどその笑顔には、手に入らない何かを求めているような寂しさを感じた。

 そうしていると、階下からとても香ばしい肉の匂いがしてきた。

 ココロとリチャードの腹の虫が鳴ると、ベッドに潜っていたミートがびくっと震えた。


「ミート、ご飯にしよう」


 そう言ってブランケットを剥ぐと、ミートは涎を垂らしたココロの顔を見上げ、悟りを開いた人のように、すっと瞼を閉じた。

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