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ココロぞんび  作者: キタビ
第六話 捨てる神あれば拾う僕あり
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 ビデオカメラは付属のカセットテープに映像を記録するもので、レンズも大型で、形もがっちりとしている。重量は二キロほどで、録画した動画はテレビに配線を接続して見ることも出来る。


「録画用のテープは百二十分のテープが三本だ。六時間まで可能だね」

「それだけあればじゅうぶん」

「録画は赤いボタンを押せば始まるよ、停止ボタンはこっちの四角いマーク。これで録画を停めるんだ。簡単でしょ?」


 ココロとテムは頷いた。

 ピントの合わせ方や、ズームインやズームアウトも簡単だ。レンズの周りを握って軽く捻るだけ。練習をする時は、一度使ったカセットを巻き戻して、もう一度録画をすれば上書きされる。カメラと違って、大きさと重量があるので、顔の前に構えて使うというより、胸に抱えるように持って、顕微鏡を覗き込むように下を向いてファインダーを覗き込む。


「練習してみようか」


 ランセットの指導の下で試し撮りをした。

 ファインダーは延長と上下の可動式だ。

 ココロは胸の前にビデオカメラを抱え、角度をつけたファインダーを覗き込んだ。


「そうそう、そんな感じ、それでこのボタンを押す」


 録画ボタンを押すと赤いランプがついた。「今が録画中ね」言いながら、ランセットは回収してきたテレビをコンセントに繋いだ。ココロがカメラを向けると、テムは嬉しそうに笑って自己紹介をした。エルマーはぎょっとすると、照れくさそうに目線を逸らし、後ろを向いた。「エルマーなんか言ってよ」と促しても、俺はいい、と頑なに拒否した。


「なに照れてんの?」

「うっさいな、なんか苦手なんだよ」エルマーは少し怒った。

「ココロさん、こっちにモデルがおりましてよ。完璧なプロポーションの!」

「じゃあほら、早く脱いで」ココロはカメラを向けた。

「脱ぐんですの?!」エミリはぎょっとした。

「本気にしなくていいって、はい練習終わり」


 エミリの表情と化けの皮が剥げたところで、ココロは録画を停めた。

 試し撮りしたカメラをテレビに繋いで再生すると、ココロが撮った映像が映し出された。

 若干画質は粗いが必要じゅうぶんだ。ピントを合わせたり、あまり鮮明ではないが声も入っている。テムが挨拶し、エルマーがそっぽを向いて文句を言う、エミリの表情が変わってからの迅速な録画終了までの流れで、ココロやエルマーは愉快に笑った。


「もう、もっとちゃんと撮って下さいよ!」

「テストくらいでムキになんないでよ。明日はちゃんと撮るって」

「てやんでい、ですわ」

「出た、エミリのてやんでい」


 そうしていると、ランセットが思い出したように手をぽんと打って、バックヤードからビデオカメラのケースと、付属品を運んできた。ケースは革製で、内側には衝撃を吸収する緩衝材と、ビデオテープや電池を入れるポケット、それと三脚が入っていた。


「これも持って行って」

「凄い、かっこいいね!」


 テムが三脚を取りだした。


「ラン兄ちゃんも一緒に来る? たまにはさ」

「魅力的な提案だけど、僕は店を離れるわけにはいかないから、楽しみに待ってるよ」

「ちょっとくらい休んだって平気でしょ」

「君達の時間を邪魔したくないんだよ」


 ランセットが困り顔で笑うと、ココロは変なの、と唇を尖らせた。


「そうだ。回収した『ゾンビホイホイ』なんだけど、ここで引き取ってもらえる?」

「もちろん、あれはあれで残しておく価値がある。ま、誰も欲しがらないとは思うけどね」

「じゃあ、今度持ってくるよ」

「わかった。カメラ以外にも欲しいものがあれば言ってね」


 ランセットが言うと、ココロは思い出したように顔を上げ、バイクに立てかけておいた杖を手に取った。


「ラン兄ちゃん、この杖、もらってもいい?」

「もちろんいいけど、マリオさん腰でも痛めたの?」

「違うんだけど、ちょっとプレゼントしたい人がいて」

「ああ、あの爺さんか」エルマーが言った。

「爺さん?」

「ココロのとこに転がり込んでる爺さんで、森で罠に嵌って足怪我させちゃったんだよ」


 エルマーが言うと、ランセットはぎょっとした。


「コロニーの人じゃないの? それ大丈夫?」

「まあ、一応大丈夫」

「どんな人なの?」

「……リチャードっていう人で、世界中を旅してて、ちょっと疲れてる感じの人」

「旅に疲れた人か。うちに遊びに来てくれないかな」

「今度紹介する。それで、チケット何枚?」

「いいよ、持って行って。それは僕の祖父のものだから」


 そう言われると、ココロは途端に杖をもらうのに抵抗が生まれた。

 ランセットの祖父のものとなると、それは形見も同然だ。両親が居ないココロからすれば、そういったものの大切さはよくわかる。


「ほ、他に杖ない?」


 ココロが訊くと、ランセットは笑った。


「遠慮しなくていいよ。それはいつか僕の父か、僕が使うかもしれないと思ってとっておいたんだけど、当分先の話になるだろうから、誰かが見つけるかもしれないと思ってお店に置いておいたんだ。それを今必要とする人がいるなら、その方がいいからね」

「でも」

「いいんだ。僕の祖父も、きっとその旅人さんに使ってもらったほうが喜ぶ。お爺ちゃんも旅には憧れていたから。それに、必要なくなるようなら返しに来てくれればいい。その時は、是非そのリチャードさんが届けてくれると嬉しい。僕も旅の話が聞きたいから」

「ありがとう。リチャードさんに伝えておくね」

「よろしく」

「さあ皆、そろそろ日も暮れるから、急いで帰ったほうがいいよ。夕飯もまだだろ?」


 そう言われると、ココロ達のお腹が思い出したようにグゥっと鳴った。

 ほら、と言わんばかりにランセットが愉快そうに笑った。


「じゃ、ビデオカメラ借りてくね」


 そうして店を出た頃には、すっかり日も傾いていた。

 夕陽の西日が空を茜色に染めている。

 カメラはココロが持ち帰ることになり、重たい鞄をモペッドの荷台に括りつけた。


「じゃあ明日、十時にいつもの場所に集合でいいか?」

「わかった」


 ココロはモペッドのエンジンを始動すると、エミリにぴっと指を向けた。


「エミリ、パパに怒られても、あたしは知らないからね」

「ご心配なく、お父様を説き伏せるくらい造作もありませんわ」


 だといいけどね、とココロは笑むと、エルマー達とも別れを告げ、帰路に着いた。

 賑やかだった通りからは人影が減り、町は次第に静かになっていく。

 代わりに、夕日の光りを集めて留めたように、家の明りがぽつぽつとあたたかく灯った。

 通りを行くとき、追いかけっこをしながら家に帰っていく子供達とすれ違った。

 ばいばーい、また明日ね、ただいま、おかえり、と声が聞こえる。

 寂しさと同時にあたたかい風と、音があちこちの家から聞こえてくる。

 絵に描いた様に平和で穏やかな一日の終わりを、夕日に染まる町のなか、ココロは感じた。

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