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暫く店内のものを物色していると、店先に荷台付きの小さな三輪自動車が駐まった。
ランセットが使ってる回収車だ。ガタガタと不規則なエンジン音に、メカニックのココロは訝しげに眉を顰めた。
「なんか今にも壊れそうな音してるな」
エンジンが止まり、運転席を降りて、荷台から荷を降ろす音が聞こえた。
四人は手に持っていた物を置いて、ドアの方を凝視した。「お、よっと」と声がして、ドアが開いた。腕にテレビを抱えたランセットが、足を使ってドアを押さえ、体を隙間に捻じ込んだ。
癖のある赤毛の青年、優しい目元に、鼻先に微かにそばかすが散っている。学者のような賢そうな四角い眼鏡をかけていて、体つきはほっそりしていても、捲った袖から伸びた腕は仕事で鍛えられ、男らしい筋を浮かべていた。
ランセットはココロ達に気づくと、ワンテンポ遅れて「やあ」と笑顔を見せた。
「いらっしゃい、みんな久しぶりだね。表にモペッドが駐まってるからもしかしてと思ったんだけど、お店に顔出すのなんて一年ぶりくらいじゃない? 元気だった?」
「ラン兄ちゃんも元気そうじゃん」
「悩みが無いからね。そっちの子は、はじめましてかな?」
「エミリ・ワンツと申します」
エミリは姿勢を正し、丁寧にお辞儀した。
ランセットはその所作をじっと見つめながら店のドアを足で閉じると、表情を明るくした。
「ああ、君が! ラウルさんの娘さんでしょ」
「お父様を、ご存知ですの?」
「たまにお店の内装を変える手伝いをしてもらってるからね」
「え、エミパパここのリフォームとかやってたの?」
「わたくしは聞いていませんわ」
「うちに来る度、「いやうちの娘がさ~」って自慢話を聞かされてね。そんなに言うなら連れてきたらどうですかって誘っても、「今度な」って言われ続けてもう何年になるか。まあ、エミリちゃんのことなら守衛のポスターでけっこう有名だけど、ようやく会えて嬉しいよ」
「そんな、美しいだなんて」エミリは頬に手を添えた。
「言ってねえって」ココロはぼそっと言った。
「ラン兄ちゃん、お仕事だったの?」テムが訊いた。
「うん、ちょっと廃品回収にね。テムは身長また伸びたね、ますます男前になった」
「へへ、めっちゃ牛乳飲んでるんだ」
「何にしても、みんなに会えて嬉しいよ」
ランセットは腕が震えてくると、手近な家具にテレビを置いてほっと息を吐いた。
「それで、今日はどんな用かな? 何か欲しいものがあるなら言って、裏の倉庫にもたっくさんお宝あるから」
「今日は、ラン兄ちゃんに見せたいものがあって来たんだ」
「見せたいもの?」
エルマーは単刀直入に、感染者のことで話があると伝えた。
目を丸くしたランセットは、なるほどね、と笑んだ。弾んだ足取りでカウンターへ移動し、椅子に腰掛けた。外した手袋を丁寧に丸め、カウンターに置いた。
「どれ、見せて」
ココロは置いたリュックから研究ノートと、撮溜めた写真の束を渡した。
「遺品……じゃないんだね」
ランセットはそれを両手でしっかり受け取ると、「適当に掛けて」と促し、ページを開いた。
感染者の落し物の鑑定もしているランセットは、意外だな、と眉を上げた。
感染者の研究に知恵を貸したのは昔の話で、五体の感染者にしても進捗は聞いている。しかし新しい発見なんて、ココロ達の出来る範囲の実験では知れている。それでもここへわざわざ足を運んできた理由を想像するとワクワクした。
そしてその予感は的中し、しかも想像を超えていた。
六体目の感染者、軍服のジョン、そして七体目の感染者――廃工場のお姫様、イヴ。
胸の奥で静かに火が灯ったような感覚に、ランセットはすっと息を吸った。
ランセットの心は、その記録と、無数の写真に奪われた。




