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ココロぞんび  作者: キタビ
第六話 捨てる神あれば拾う僕あり
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 四人はイヴと別れると急いで山を下り、ゲートでの手続きも素早く済ませ、ランセットの勤める廃品屋へと向った。

 店は居住区の北側、工場や一時廃棄所、資材や燃料、食糧などが備蓄された倉庫などの並ぶ区画に小さくあり、両隣をスクラップヤードに挟まれているせいで、店の存在を知る人は以外と少ない。


 敷地を区切るレンガの壁には穴が空き、開放されたままの門を通れば、左右にはガラクタが山積みにされた鉛色の敷地が広がる。店への一本道にはガラクタを運ぶ為のハサミが付いた重機が道を遮るように駐めてあるので、店があるようにはとても見えない。これも客が来ない原因の一つだ。

 重機の脇を抜けて真っ直ぐ進むと、突き当たりに古い倉庫が三つ並び、その中央の小さな倉庫に『RE、バトン』と書かれた看板がかかった店舗がある。倉庫の正面に店舗風の入り口を供えた雑な造りだが、妙な趣もある。窓からは黄色の光りが漏れ、店内の影をぼんやりと浮かび上がらせていた。玄関先には古い立て看板があり、『ようこそ、捨てる神様』と擦れた文字で書いてあった。


 注意して見なければ、これもガラクタにしか見えない。

 緑色のペンキ塗装が剥げ、ささくれ立った木の扉に、色のくすんだドアノブが斜めに付いていた。


「……ここですの?」エミリが訊いた。

「ここだよ。面白い場所でしょ」

「面白いって……これではまるで廃屋です。お父様にリフォームを相談した方がよろしいレベルですわ」

「わかってないなあ、こういうのがいいんじゃん。とにかく入ればわかるよ」

「入った途端に変な虫がざわざわって動いたりしません?」

「しないって」


 ココロが扉を開くと、ギィッと軋み、錆びたベルがガラン、と鳴った。

 エミリは目を丸くして、店内を見回した。

 ココロ達も定期的に足を運ぶが、店の性質上、店内の内装から物品の配置が頻繁に変わるので、こうして足を運ぶだけでも毎回景色が変わっていて面白かった。


 店内の古い蓄音機が歪んだレコードを回転させて、ピアノとサックスのゆったりとした演奏に溶け込むように、男性の深い声音の歌を流している。その歌声が店内の流れる時間すらも穏やかにして、雰囲気をぐっと落ち着かせていた。


 天井を見上げれば、飛行機の玩具や小さなシャンデリア、ゆっくりと回転する大きなプロペラが吊るされている。壁には使われなくなったいくつもの壁掛け時計があり、秒針が刻む音だけを揃え、それぞれが違う時間を指していた。絵画、獣の首の剥製に古いライフル、壁掛け電話、帽子、ジャケット。ランプや燭台しょくだいの柔らかい光が、一度は持ち主の手を放れた者達を照らし、輝かせていた。


 棚やラックには本、チェスボードや駒、食器、文具や小物、木彫りや彫像の置物、使い方のわからないガラクタ、カメラ、写真立て等が所狭しと並べられている。丸められた絨毯が差してある樽や、古い自転車やモペッド、エンジンが落ちた二輪車バイク、機械部品が詰め込まれたダンボール、椅子やテーブル、ベビーカー、ソファ、ランタン、探せば見つからない物なんてないと思えるほど、沢山のもので溢れていた。


「どうよ」


 ココロは自分ごとのように、自慢げに訊いた。

 エミリは店の独特の雰囲気に飲み込まれ、素直に感嘆した。


「こんなところがあったなんて、知りませんでしたわ」

「いいでしょ。昔、三人でよく遊びに来てたんだ」


 お、とココロはいい感じの杖を見つけ、床をコンコンと叩き、軽く振った。

 先端から手元へ向ってねじれ、手持ちの部分には黒い石が嵌め込まれている。

 まるで魔法使いの杖だ。


「これ、リチャードさんにいいかも。エミリは何か見つけた?」


 そう訊いてから、ココロは言葉を呑んだ。

 エミリは口元こそ笑みを湛えてはいるが、表情にいつもの元気が無かった。椅子の背もたれにかけられた厚地の黒いドレスを手に取り、肌触りの良さそうな生地に指を滑らせ、長く大きな溜息を吐いた。


「……わたしはどこかで間違えちゃったのかな」

「おいおい、急にどうしたの。お嬢様言葉忘れてるし」

「ただの独り言ですわ」


 エミリが珍しく落ち込んでいるように見えて、ココロは悪いことしたかな、とずれたチューブトップを引き上げた。

 エミリとは『サンセット事件』辺りをきっかけに少しずつ疎遠になりながらも、なんだかんだ付き合いはあった。しかし、こういった場所に一緒に来たり、誘ったりする仲ではなかった。

 当時やたら張り合ってきたエミリの態度を考えれば当然といえば当然だし、遊ぶといえばエミリのグループと対立するのは当たり前で、気づけば売り言葉に買い言葉で、顔を合わせれば睨み合った牛のように喧嘩ばかりするようになった。


 しかし、ココロはエミリのことを嫌いではなかったし、エミリもきっとそうだった。

 エミリにとって、あの頃一緒に居たかったのは自分たちだったのかもしれない、と今更ながら気づく。朝早くに押しかけてきたのだって、モペッドの事すら口実で、欲しかったのは一緒に居る時間だったのではとさえ思えてくる。


「あなたとこうして二人で遊ぶのは久しぶりですわね」


 ガレージでエミリから聞いたその言葉が、エミリの本心、本当に過ごしたかった時間だったのかもしれない。しかし、この部屋にある沢山の時計がそうであるように、進んでしまった時間は戻せない。

 それでもココロは、落ち込んだエミリを励ましたいと思った。


「……これからは一緒に来れるよ。今までの分も、取り返せるくらいさ」

「そうだぞエミリ、そう気を落とすなって。俺達若いんだし、時間ならあるって」

「エミリ姉ちゃん、元気出してね」


 エルマーやテムもエミリの気持ちを察したのか、ココロの声に調子を合わせた。

 そうですわね、とエミリは少しだけ笑顔を取り戻し、手にしたドレスを丁寧に折り畳んで椅子の背もたれにそっと被せた。


「それで、そのランセットさんはどこにいらっしゃるんです?」

「さっきから探してるんだけど、いないっぽい」

「居ない?」

「ラン兄ちゃーん」テムが呼んでみたが、返事はない。

「ま、店は開けっ放しだし、そのうち戻ってくるさ」


 ランセットはこの店を管理するようになってから、店主というより『ヌシ』と言ったほうがしっくりくるほど、生活の大半をここで過ごしている。長いときは家に帰らず、バックヤードのソファで寝泊りし、食事もここで摂る。居ないことの方が珍しいのだ。

 ココロ達はランセットが帰ってくるまで、素直にこの場を楽しむことにした。

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