魔王誕生・発端・・・その1
読んでくださっている方々へ
何時もいいねの連打、ちょくちょく仕出かす、誤字脱字報告などなどありがとうございます!
そして前話に書いて頂いた、御指摘・感想についての返答を、後書きにて述べさせて頂いておりますので、本文の読んで頂いた後にて一読して貰えれば、幸いであります。
洛陽後宮内某所
「・・・最早我々には後が無い。
生き残る手段は唯一つ・・・。」
「「「「「然り、唯一つ。」」」」」
痩せぎすの宦官・張讓が重々しい口調で告げると、周囲の宦官達も同調して頷く。
後宮の一室に、宦官閥のトップ集団である十常侍一党が集まり、張讓を幹事に話し合っていた。
「ちょっと張讓、性急過ぎない?
其処まで悲壮にならなくても、嵐が過ぎ去るのを待てば良いじゃない。
劉弁が即位して後宮に入って来れば、幾らでも丸め込めるでしょうに。
それに何皇后に口添えしてもらえば、何進だって無体は働けないでしょ?」
何処ぞのデラ○クスさんみたいなでっぷりとした体格の、女口調なしゃべり方をする趙忠が、眉を寄せて苦言を呈した。
「ふん・・・貴様こそ何を悠長な事を。
余裕というモノが有れば、こんな一か八かな賭け事なんぞ、端っからしとらんわ!
その肝心の何皇后に見限られて、危機が迫っているから、こうやって集まっているのだろうが。」
他人事の様に話す趙忠を一喝し、自分達が危機的状況に有る事を示唆する。
「えっ、でも最近までは何進との仲立ちを、引き受けてくれてたんじゃないの?」
「単純な事だ。
何進から止めろと諭されて、あっさり心変わりしただけよ。」
苛だたしげに吐き捨てる。
「そんな・・・。」
「まぁ、兄妹の何進と他人の我ら、どちらの肩を持つのかと言えば、至極自明の理ではあるがな。」
フッと力を抜き、肩を竦めて仕方ないと呟く。
「先帝陛下なら金銭に敏い故に未だ、多額の金銭を渡して赦しを乞えば、すんなりと赦して頂けたであろう。
汚れ役として使える我々の利用価値も、理解されていただろう。」
物思いに耽りつつifを述べ、
「だが生まれながらに、後宮で傅かれて来た劉弁には、銭など只の丸い玩具に過ぎん。
汚れ役には伯父の何進が居るから、我々に利用価値を見出す事も無い。
つまりは何進が居る限り、劉弁にとって我々は、何の価値もない塵芥(ゴミ)なのだ!」
ギリリと歯を食いしばった。
「このまま座して劉弁の即位を待っておれば、ドンドン何進の息の掛かった者が劉弁に侍り、後宮に入る頃に侍っているのは、我々の誰かではない別の誰かであり、我々はお払い箱でお終いだ。
それでもお前は性急と言うのか?」
「うう・・・確かにそうね。」
張讓の言に納得する趙忠。
「向こうに交渉する意思が無い以上、もうなりふり構っておれん!
・・・何進には消えて貰う。」
低重音な声音で、ハッキリと口にする。
「・・・けどよしんば成功しても、何進を暗殺した後の処理はどうすんのよ?
劉弁はもとより、何皇后を丸め込むのは不可能でしょうし、何よりも名家閥連中が、これ幸いに潰しに掛かって来るでしょうが?」
当然の懸念材料を述べた。
「その点は大丈夫だ。
この一件に関しては、名家閥連中も1枚噛んでいるから、安心しろ趙忠。」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「はぁ?名家閥連中が私たち宦官に協力!?
どういう事よそれ!?」
「フンッ・・・なに、簡単な話よ。
名家閥の能無し共も、己の尻に火が点いている事に、漸く気付いたらしい。」
鼻を鳴らして語る。
「へ?お尻に火?」
「ああ、あやつ等の権威の源泉は家柄・血筋で、権力の源泉は各府の官僚を従えている事だ。」
「まぁそうね。」
コクリと頷く。
「しかし権力の源泉の官僚を、ジワジワと何進に抱き込まれ、影響力を喪失しつつあるらしい。」
「つまりそれって、実権を何進に握られて名家閥連中は、名目上のお飾りになってるって事?」
「そう言う事だ。」
口を歪めて同意する。
「あら奇遇、私たちと一緒ね。」
「だからこそ我々に協力する訳だ。」
「・・・具体的にはどうするのよ?」
恐る恐る計画を尋ねる。
「先ず何皇后の名を餌に、中宮へ呼び出す。
そして我々が何進を始末した後、名家閥連中の息の掛かった虎憤・羽林達が、適当に犯人をでっち上げて後処理をする、と言う段取りだ。」
大まかな計画を話した。
「う~ん・・・それって私たちの負担が、どう考えても大き過ぎない?」
「仕方がなかろう。
普段のあやつはかなり用心深く、分厚い防衛網を張っていて、近付く事すらままならん。」
苦々しく言いつつ、
「だからこそ、規則で事前に許可された男性しか入れず、後宮の者と面会が唯一叶う中宮でしか、計画が実行出来んのだ。」
やむを得ない条件を話し、溜め息を吐く。
「成る程ね、私たちは立場上自由に出入り出来るけど、何進は1人きりでしか入れない。
始末出来る絶好の機会って訳か・・・。」
一定の理解を示す趙忠だったが、
「けどこれって、能無し共に都合が良すぎよね?
状況を考えたら、私たちも一緒に始末するつもりに見えるのだけど・・・。」
危機感も示す。
「当然あやつ等は、そうするつもりだろうな。」
「ちょっと!?判っているのだったら、乗ったら駄目でしょうが!」
悲鳴じみた声を上げて、張讓を詰る。
「無論易々と、能無し共の思い通りにはさせん。
寧ろ逆手に取って、あやつ等を嵌める。」
趙忠の大声に片耳を塞ぎつつ、返答をする。
「どうするのよ?」
「ああそれはな・・・・・・。」
ボソボソと密議を重ねる十常侍一党。
張讓達が後宮の奥深くで、謀略を練る中・・・
洛陽内楊家邸
「・・・と言う訳だ袁紹殿。
どうやら宦官閥の玉無し共が、何進を暗殺する計画を建てているそうだ。」
「はぁ・・・本当なのですか楊彪殿?」
淡々とした口調で微笑を湛えながら、袁紹に極秘情報を提供する楊彪。
「四世太尉」と謳われた大家に相応しく、洛陽の都の一等地に広大な敷地を持ち、敷地内に水を張って人工的な池を建造していた。
その人工池の中央に東屋が建てられていて、舟で移動しないと辿り着け無い様にし、厳重な間者対策が施された場所で話をしている。
「無論本当だとも。
今や落ち目の宦官など、ちょっと鼻薬を利かせればぺらぺらとさえずるさ。」
「成る程・・・卑しい奴ら故に飛び付きますか。」
さもありなんと納得する。
実際は裏で共謀し、連絡を取り合っているのだが、駒に不必要な情報など要らないと判じ、自分の駒を見つめる。
「其処で君の出番だ袁紹殿。
予定は未だ未定だが、当日には中宮の警備担当が、君になる様調整するから、何進暗殺成功の合図と同時に、配下を率いて中宮に入り、一挙に張讓達を始末するのだ。
さすれば君は全国の清流派の悲願、濁流共の粛正に成功した英雄と、永劫に讃えられるだろう!」
栄誉欲を刺激する内容を告げ、餌をぶら下げた。
「わ、私がですか!?」
「左様、君がだ。
四世三公の袁家次期当主として又、名家閥を代表する名家として、これ程の華はないだろう?」
「た、確かに私の栄光の門出に相応しいな!」
フンスと鼻息荒く、興奮気味に答える袁紹。
(フ・・・本当に英雄視されると思っているのかこやつは?お目出たい頭をしておるわ)
自身の輝かしい未来を夢想している、袁家のドラ坊を観て、内心冷笑を浮かべる楊彪。
袁家の名代として、三公を務めていた袁隗が失脚してから凡そ3年の月日が経つ今、袁家の名家閥に於ける影響力は、徹底的に当の楊彪に因って排除されて欠片も無く、完全に失墜していて、名家閥に袁家の居場所は無くなっている。
なので今更復帰した所で、孤立無援の独峰(富士山の様に単独の山の事)になるだけであり、過ぎ去りし栄華な日々など戻る由もなかった。
(そして当日の袁紹の配下の虎憤達は、儂の息の掛かった者で固める。
次期当主の宮中侵犯の証拠を、物証付きで手に入れる事にもなる、か。
・・・フフフ、邪魔な何進や宦官共を自動的に始末出来る上、袁家を何時でも始末出来るオマケまで付くとは・・・笑いが止まらんわ)
思わず微笑みが深くなるのが、止められない楊彪。
楊彪から観れば、宦官が何進を始末してくれて、その宦官を袁紹が宮中侵犯という、罪を被ってまで始末してくれるのである。
自分の手を汚さずに、何もかも仕舞いが付くのだから、笑いが止まらないのは、無理はなかった。
「あ~楊彪殿?」
「何かな?」
「此度の宦官始末の仕儀に、隗叔父を加えても良いだろうか?
叔父上の政界復帰の、手助けをしてやりたい。」
恐る恐るといった口調で、楊彪に伺う。
「ハッハッハッハ!・・・ああ、構わんよ袁紹殿。
袁隗殿と共同でやりたまえ。」
破顔して大笑する。
(なんとなんと!己の罪科に、叔父の袁隗まで引きずり込もうとは!
いやはや恐れ入った、恐れ入ったわ)
利害得失を省みずに、身内まで巻き込もうとする袁紹に、呆れを通り越して感心してしまう。
「では日時がハッキリ判明次第、君に一報を入れるので、それまでは鋭気を養っていて欲しい。」
「委細承知した。
一刻も早い連絡をお待ちし申す。」
立ち上がって拱手し、辞去しようとする袁紹に、
「ああ、そうそう袁紹殿。」
「まだ何か?」
「まだ幾日かの猶予は有るだろうから、もしも気が変わったら言ってくれ。
その時には義弟(袁術)殿に、話をする故に。」
挑発めいた発言を浴びせる。
「・・・その様な気遣いは無用。」
「左様か、それならば良いのだ。
若しくは何進に此度の仕儀を、そのまま御注進しても構わぬぞ?
君の忠誠心を、何進は高く買ってくれよう程に。」
皮肉を交えて、微笑みを絶やさず続ける。
「!!あの様な成り上がりに、尻尾を振るようなみっともない事を、私がすると思っているのか!?」
顔を怒らせてドスドスと足音を荒げ、舟に乗り込み去っていく。
「・・・フム、こんなものか。
育ちのせいか生来か、中途半端に優柔不断な所があるからなあやつは。
これだけ念押しと自尊心を煽っておけば、よもや下手な躊躇はすまいよ)
去っていった方角を見つめ、ポツリと呟く。
(一応、袁紹と共にあの義弟も一緒にさせるか。
お互いに手柄を奪い合って、より過激な行動を起こすかもしれんしな・・・)
腕を組んで、より重罪化させるべく沈思する。
名家閥の首領・楊彪も又、自分の利になる様に動き、策を練っていくのであった。
そして運命の日・・・
洛陽宮廷内中宮
(ふ~む・・・一体何事だろう?)
すたすたと目的の部屋を目指して廊下を歩きつつ、妹が呼んだ理由を考える。
いつも通りの使者に、いつも通りの指定部屋なのだが、今回に限って用件が不明瞭だった。
基本的に持って回った言い方を、あまり好まない性格なので珍しいと同時に、余程の問題が出来した可能性があり、不安が首をもたげる。
なんだかんだと考えている内に、目的の部屋に到着した何進は、入り口の両脇に居る宦官が、扉を開け放ったと同時に、「ご苦労」と一声掛けて入る。
シーン・・・
「あれ?早く来すぎたか?
・・・仕方ない、ちょっとおうグッ!?」
ぼやいた瞬間、閉じられた扉の方=背中に、ドンッと衝撃が走ったと思うと、腰に焼きつく様な痛みと脱力感が全身を襲う。
「は!?え?は、は?」
2、3歩たたらを踏んで、踏みとどまろうとするも、脱力感に抗しきれず、四つん這いになる。
そして後ろを振り向くと、足元に血溜まりと激しく肩を上下する、張讓が目に映った。
「き、貴様、張讓!」
「ハァー、ハァ一・・・何進よ、貴様が生きている限り、我々は明日の太陽を拝めん!死ねぇ!!」
バッと手を上げると、柱の陰から短剣を持った他の十常侍が姿を現れた。
「い、妹は、妹はどうしたぁ張讓ぉ!?」
ジリジリと張讓達と距離を取りつつ、何太后の安否とまさか!?の、裏切りの懸念が交錯する。
「フゥ、フゥ、安心して良いぞ何進。
何太后は此処には来ん。
貴様を呼び寄せる為に利用はしたがな。」
幾分か落ち着いたのかニヤリと笑い、
「ちゃんと面倒を看てやるさ、我々に従うならな。
劉弁の事も任せておけ、素直に我々の言う事を聴いている内は、生かしておいてやる。
劉協という代わりが居るから、どちらでも、寧ろ誰でもよいが・・・さぁ、どうした、殺れ!!」
醜悪極まりない外道な言葉を投げ掛け、周りにいる趙忠達をけしかける。
「腐れ外道がぁ!!ゴフッゴホッ・・・誰かぁ!!誰ぞあるぅ!!ゴホッ!」
「クックック・・・ハッハッハッ!泣こうが喚こうが、誰も来んぞ何進?
我々の手の者しか近くには居らん!」
嘲笑して絶望的な状況を伝える。
「グクッ・・・只では、只では死なん!
貴様等を1人でも道連れにしてやる!!」
柱に寄りかかり、ジリジリと自分に寄ってくる張讓達に、覚悟を決めて裂帛の気迫を見せた。
それからの何進は必死に、必死に抵抗をした。
腰に刺さった短剣を自ら引き抜くと、襲い掛かって来る宦官の手や足を斬りつけ、怪我を負わせて躊躇させたり、短剣を薙いで牽制したりと、力有る限り戦い続けた。
しかし多勢に無勢、負傷の影響や体力の消耗と疲労、それらが徐々に何進を蝕み、そして・・・
「ハァ一・・・フゥー・・・ハァ一・・・。
商人上がりの肥満体の癖に、ハァフゥ、我々を手こずらせよって・・・ハァハァ・・・クソ!」
幾つもの手傷を負った張讓が、少量の血と大量の汗を流して、肩で呼吸をしつつ悪態を付く。
幾本もの短剣が胸や腹に突き刺さり、柱を背に座り込んだ状態で、事切れたのであった。
8月末日、この世の春を謳歌する間もなく、後漢を代表する軍政家・政治家、何進が暗殺さる。
この事変に因り、中央から地方に影響が波及し、最早収拾のつかない有り様となるのであった。
それはさておき、
「フゥー・・・良し・・・ではかねてからの打ち合わせ通り、段取りと準備を至そうぞ。」
「「「「「おう!」」」」」
コクリと頷く十常侍達。
それぞれが役割分担をこなすため、ゾロゾロと部屋から出て、動き出したのであった。
その同時刻・・・
洛陽宮廷内中宮門外
(チッ、遅いぞ宦官の玉無し共め!
何をのろのろしておるのだ全く!鈍臭い奴らめ!)
中宮の門扉付近で、ウロウロとしている袁紹。
端から観れば、釣り餌がぶら下がっているゲージ罠の前で、行こうか行かまいかしている、狸や狢の様な動きをしていた。
「いい加減落ち着けよ、司隷校尉殿。
そんなに緊張していても始まるまいに・・・。」
呆れ半分嫌味半分といった感じで、売官で司隷校尉を買った従兄の袁紹に、苦言を呈す袁術。
派手好みと評判の彼らしく、実用性有るのソレ?と聴きたくなるぐらいの、細かい意匠が施された鎧と兜を身に付けていた。
「フン、お前こそ緊張感が足りんぞ後将軍。
何事も緊張感を持ってせねばならん。
お前の様に軽薄な行動では、見落としや手抜かりをしかねんからな。」
鼻を鳴らして尊大な態度で、これ又売官で後将軍の位を買った、従弟の袁術に嫌味で返す袁紹。
彼も袁術と同じく、派手な意匠を凝らした鎧を着込み、戦場だったら間違いなく、2人共真っ先に狙われるのは確実であった。
そんな似た者同士の両者は、同族嫌悪なのかどうかは不明だが非常に仲が悪く、顔を会わせれば嫌味の応酬をする間柄であった。
因みに袁紹が就任した司隷校尉は、司隷地域(首都圏)の官吏の監査役兼州牧に近い役職で、袁術の後将軍は他の前・左・右の将軍位に並んで、軍部に於ける由緒ある高位の将軍位であった。
まぁ、司隷地域は何進のお膝元で管理下にあり、軍部も何進がガッチリ掌握しているので、2人共に何の実権の無い、お飾りの称号に過ぎないが。
それはさておき、
袁家のダブルドラ坊が、徐々にヒートアップして口喧嘩に発展し、喧嘩している双方の部下達が呆れ顔で、遠巻きに眺めていた所、
「「た、大変です!何進閣下が、何進閣下が何者かに殺害されました!!」」
若い2人の宦官が門から飛び出し、袁紹達に走り寄って来た。
「ナニィ!?それは誠か?」
内心「キター!」と叫びつつも、念押しする。
「は、はいコレがその証拠です。」
所々血の付いた冠と、大将軍の官印を見せる。
「ふむー・・・確かに最前閣下がしていた冠と、大将軍の官印だな。」
袁紹はしげしげと、見せられた証拠を眺めた後、
「確かに何進は十常侍共に殺害されたのだな?判った・・・ご苦労!!」
言い抜け様に剣を抜いて、宦官を斬り捨てる。
「な!?何をギャアァ・・・!!」
「ご覧の通りだ下郎。
貴様等がやった事の、報いをしているんだよ。」
問い詰め様とした残りの1人を、袁術が剣で胸を突き刺して、念入りに抉る。
「聴いたな皆の衆!?
十常侍共が何進閣下を暗殺した!
これより我々は十常侍及び、それに組する宦官共に正義の制裁を下す!」
「「「「「おお!邪悪な宦官共に鉄槌を!」」」」」
袁紹の演説に、激しく応じる部下達。
こっそり楊彪の息が掛かっている部下達は、意図的に様々な要因で、宦官に激しい敵意・憎悪を抱いている者達を選抜しており、にっくき宦官の抹殺に、ひとかけらの躊躇も無かった。
「大義と正義は我らに有り!!
者共ぉ!漢帝国の汚物・宦官を斬り捨てよ!!
それぃ突撃ぃ!!」
「「「「おお!!」」」」」
袁紹が開かれた門に剣を向けると、部下達が一斉に抜剣して突入していく。
(ククク・・・コレで私は漢帝国の長年の宿痾である、宦官を討伐した功労者として歴史に名を刻み、四世三公から五世三公の当主として、輝かしい人生を歩むのだ!!)
輝かしい未来を夢想して、想像で悦に浸る。
嫉妬に駆られた袁術が、袁紹より目立つ事を目論んで、建物を放火する騒ぎを起こすまで、自分の世界に入っていた袁紹であった。
それからしばらくの後・・・
洛陽宮廷内虎憤・羽林詰め所
「・・・うむ、出来た!我ながら上出来だ。」
ニンマリと満足げに、自作の漢詩を自画自賛する、曹魏の名短体コ○ンこと曹操。
様々な不運が重なって、エリート街道から転落してしまった曹操は、宦官閥の影響力が宮中に於いて、極端に低下した煽りも受けていた。
次々と虎憤・羽林から宦官閥に属していた者が逐われた現在、最早片手にも満たない宦官閥の幹部として睨まれ、西園軍時代の部下と共に完全に干され、全く仕事も与えられず無聊を託ち、勤務時間中に詩作をする程に暇だった。
そして幾つか有る詰め所の内、中宮から離れた場所に居た為、宮中で大変な事態が発生している事を、知らなかったのだが・・・
「大変です隊長!?
中宮に於いて、何進大将軍閣下が十常侍に依り、暗殺された模様です!」
「・・・・・・はぃ?・・・え、嘘だろ!?」
不意打ちで知り、絶句して立ち上がるコ○ン。
「こんな大事、嘘でも冗句でも間違っても公の場で、言える訳ないでしょう!?」
「あ~確かに・・・。
じゃなくて、現在の状況はどうなっている!?」
部下の言い分に納得し、慌てて状況把握に努める。
「は、現在の所、近くに居合わせた袁紹・袁術の両隊長が、事情を知り怒り心頭に発し、十常侍討滅に走って中宮を越え、後宮にまで配下の兵を展開中!
問答無用で宦官を殺戮している様子です!!」
拱手して見聞きした情報を、曹操に報告する。
「オイオイオイオイ!?無茶苦茶してるなオイ!?
皇帝陛下の御在所(プライベートな住居空間)、云わば聖域に等しい場所に、刃物を持って入った上で血で汚すなんぞ、王莽でもしなかった蛮行だぞ!?」
余りに荒唐無稽な報告の内容に、開いた口が塞がらず、信じられないと呟く。
袁紹達がしている事は、刃物を持って皇居に押し入り、皇居の使用人達を無差別に殺害しているという、宮中侵犯以上の重罪を犯していた。
過去に外戚として絶大な権力を有していた、竇武でさえ宦官誅滅を行った際は、一応罪状認否を明らかにした上で、曲がりなりにも法に照らして、誅滅を行っている。
そんな時の権力者さえ、出来るけどしなかった程の暴挙を、袁紹達は平然と行っていた。
「・・・うん?待てよ?
中宮には劉弁摂政陛下がおられるだろう!?
陛下はご無事なのか!?劉協殿下の安否は!?」
報告しに来た部下の肩を揺さぶり、確認する。
「は、いえ・・・残念ながら不明です。」
「なんて事だ・・・急ぎ確認しにいくぞ!
後、軍部に何進閣下の件は、伝わっているのか?」
「いえ、恐らくはまだかと。」
気まずげに首を左右に振る。
「チッ、軍部とは確執が有るのは解るが、最低限の義理は果たせよ、名家の奴等も。」
舌打ちして、名家出身の幹部連中を罵る。
黄巾の乱の折りに軍部から、コネで入隊していた名家閥連中が、虎憤・羽林に追い出された経緯が有るため、両者の間に一定の蟠りがあり、決して良好ではなかった。
「スマンが急いで大将軍府に行って、大将軍閣下の訃報を伝えてくれ。」
「宜しいのですか?隊長のお立場が・・・。」
上目遣いで曹操の立場を慮る。
「構わんさ、元々これ以上悪く成りようが無い。
何進閣下亡き後の軍部は、摂政陛下の直属軍に成る可能性が高い。
そんな連中に礼を欠いたり、不義理する方が余程に立場が悪くなる・・・では頼んだぞ!」
苦笑して部下の肩を叩いて命じた後、大急ぎで中宮に向かって走る曹操であった。
洛陽宮廷内中宮門外
「ええい、何をグズグズしているのだ!?
最早張讓らは袋の鼠ぞ!早く見つけ出せ!!」
ウロウロしながら、部下を怒鳴り散らす袁紹。
(何故だ?何故張讓達が見つからん?
何処に消え失せたのだあやつらは!?)
ギリリと歯噛みする。
彼は非常に苛立っていた。
中宮に突入後、片っ端から宦官達を斬り捨て、そのまま余勢を駆って後宮に乱入、後宮に居た宦官達をも軒並み斬り殺し、掃討に入った時に気づいた。
そう、メインターゲットの張讓達が居ない事と、
「どういう事だ!?張讓達と同じく、摂政陛下も劉協殿下も居られんという事は、お二方を連れて逃げている筈だ!
目立つし、間違っても俊敏とは言い難い方々を、連れているのに、何故捕捉できんのだ!?」
自分の宦官誅滅の御墨付きを与える、劉弁や劉協も居ない事に。
最初は騒動を知って、後宮に下がったのかと安気に構えていたのだが、いざ後宮に突入しても、何太后は居るのは確認出来たが、劉弁と劉協の2人共が、張讓達と姿を消していた。
(不味い!このまま劉弁から容認を得れねば、我が袁家は大量虐殺の主導者という、烙印を押されて罪人になってしまう!
術のバカが放火までしてるから、余計に不味い!)
頭を抱えてしゃがみ込み、懊悩する袁紹。
元々楊彪からも、義挙としての大義名分を得る為、劉弁を戴いて誅滅の詔を得る事が、肝要と言われていたのだが、その時は自身の栄誉と栄華を夢想しており、おざなりに聴いていた。
只単に張讓達を斬り捨てれば良いだけと、高を括って劉弁確保を後回しにして、付近の宦官誅滅に夢中になった結果、まんまと劉弁達と共に逃げられるという、痛恨のミスを犯している。
まぁ、「宦官を炙り出す」といって、放火をかましたアホ従兄弟のせいで、消化活動に奔走する羽目になり、余計に時間を浪費したのも有ったが。
「・・・オイ!聞こえるかオイ!!袁紹!?
何をうずくまっているんだお前は!状況はどうなっているんだ一体!?」
「うん?・・・ああ曹操か、お前こそどうして此処に居るんだ?」
「どうしてもこうしてもあるか!
皆が大騒ぎしているのに、来ない筈なかろうが!」
すっとぼけた返事に、苛立ちながら答える。
「単刀直入に聞くぞ袁紹!
陛下と殿下は無事なのか!?どうなのだ!?」
「そ、それは・・・・・・。」
「・・・未だに不明か。
もう一つ、お前が中宮に突入して、いか程の時間が経っているんだ?」
躊躇いを見せた袁紹の態度で、事情を読み取り、経過時間を尋ねた。
「え、え~と・・・一刻半(3時間)ぐらいだが?」
「チッ・・・ええいクソ!!」
経過時間を聞いて舌打ちして声を張り上げ、慌てて踵を返して走り出した。
「お、おい何処へ行く曹操!?」
「決まっているだろ、張讓達と摂政陛下達を探しに行くんだよ!」
「いや後宮はこっち・「アホか!?張讓達はとっくの昔に、後宮の秘密の抜け道を使って、洛外に脱出しておるわ!!」
言い捨てて、軍部に向かって走る。
戸惑う袁紹を背に少し走った所で、部下に背負われて盧植がやってくるのが見えた。
「盧植殿!!」
「おお、曹操か!
貴殿の部下から、十常侍が何進閣下を暗殺したと聞いて、飛んで来たのじゃが誠か!?」
「はい、誠に残念ながら本当でございます。
しかしながら何進閣下の訃報よりも、一大事が出来しました。」
「な、何?閣下の訃報より!?」
曹操の発言にたじろぐ盧植。
「は、どうやら摂政陛下と劉協殿下が、張讓達一党に拐かされ、連れ去られた様なのです。」
「な、なにぃぃぃ!?そりゃ本当か!?」
「はい、同僚の袁紹と袁術が、怒りに任せて中宮から後宮に乗り込み、半時掛けて探したものの、影も形も見えぬとの事です。」
しれっと「自分は無関係」アピールをして、抜け目無く責任回避に走る姦雄。
「恐らくは亡き義祖父・曹騰が言っていた、後宮にある隠し通路を使って、逃亡したものかと。」
「主上が緊急時の脱出用に使用される、秘密の通路が有るとは噂で聞いておったが、誠であったのか。
それを腐れ者共が悪用しおって・・・許せん!」
曹操の話を聞いて憤慨する。
「ええ、全くもってその通りです。
其処で大急ぎで盧植殿を通じて、軍部を動かして頂いて騎兵の追跡部隊を編成、洛外の東北西に派遣して貰いたいのです。」
盧植に同調しつつ、軍部の派兵を頼み込む。
因みに南側を除外しているのは、洛外の南側は河川が有る為、船がないと渡河が不可能だからである。
「うむ!委細承知した!」
「私は一応念の為、洛内を廻ってみます。
もし万一見つけた場合は、将軍府にお送り致しますので、お願い致します。」
「うん?そのまま中宮へお送りすれば良かろう?」
「いえ~その~・・・袁紹達一党が、怒りに任せて宦官達を殺傷しておりまして・・・。」
十中八九計画的犯行と言うか、蛮行だよなぁと推察するコ○ンだったが、とばっちりを避ける為に、一応のフォローをしておく。
「な、なんたる暴挙を・・・軽率な。
うぬぬ、とりあえずその件の詮議は後じゃ!!
では其方も洛中の探索を頼むぞ!急げ者共!」
険しい顔付きにはなるが、優先順位を違えず軍部に向かい、曹操も緊急召集を掛けるべく、詰め所に向かって走り去った。
「いや、あの・・・私はどうしよう?」
混乱している袁紹を放って。
こうして事態は急展開を迎え、何進というたった1人の死で、直後に早くも別の騒乱を招き、追う将軍府及び1部の虎憤・羽林と、追われる張讓達十常侍一党に別れて、争う事となったのであった。
続く
え~と、前話の御指摘・感想についてでありますが・・・。
先ず第1に当然私情で書いております。
小説ですので。
第2に関羽の描写が度を越えて酷いという、御指摘についてですが、正直に言いますと、かなり私情で辛辣に書いてます。
ついでに関帝様グループに属する人達も、ちょっと・・・少し・・・かなり。
題名の通り主人公は糜芳であり、現在のストーリー上、敵役は神格化された関帝様とそのグループです。
神様一党相手に一般的なフツーの描写をすると、糜芳は霞の如く掠れ、なまじっかな描写では、指先1つ処か鼻息1つで、木っ端な糜芳の存在が吹っ飛びます。
塵芥と化してしまいます。
言わばゴブ○ンやスラ○ムが、ラスボス達を敵としている訳ですので、人間性に焦点を当てて、自分の体験的に当てはまる、人間性を投影しております。
今作の関羽の人間性としては、「個人の能力は有能だけど、集団行動をした場合には、問題を起こす面倒くさい職人気質」タイプです。
前の建築関係の職場にそれなり・・・そこそこえ~ちょっといたタイプなんですけど、お一人様(単独作業)をさせれば、勝手に成果を出す人なんですが、集団になると自分のスタイル・拘りを同僚に強要したり、自分と同レベルを要求したりと、何かといざこざを起こすタイプです。
そういったタイプの人は、集団作業になる棟上げや柱立ち上げとかには自然と外され、ほぼ単独で出来るけど技術のいる、階段周りの立ち上げとかに回されていました。
まぁそう言うタイプの人間性を、今作の関羽には設定しております。
第3に関羽に対してバイアスが掛かっているのでは?という御指摘ですが・・・はい、正直言って掛かっています。
関羽の能力等を疑うバイアスが掛かっている要因は、古今東西問わず世界共通事項で、如何なる場合に於いても、一介の軍人に過ぎない軍団長が、本国(国家元首)に無断かつ独断で、国家戦略に沿わず勝手に他国に攻め込んだら、常識的に考えても軍隊としても、軍法・法律上で考えても、やっては絶対にいかんでしょ?です。
日本の歴史上で云えば、織田信長の子・信雄が、主君且つ父親の信長に無断で、伊賀国討伐の兵を起こして敗北、当時は無論の事、後世でも非難・酷評されている事と、同じ事を関羽はしています。
現代の日本で例えたら、自○隊の1師団とその師団長が、政府の与り知らぬ間に余所の国に、攻撃を仕掛けて敗北した様なモノですけど・・・。
(あくまでも例えですよ例え!)
この北畠(織田)信雄や師団長の行動を、「素晴らしい!なんて優秀な指揮官だ!」って、称賛する人いらっしゃるでしょうか?
ちょくちょく世間を騒がせている、とある北方の国々の軍隊でもした事が無い行動ですが。
事実として関羽が、勝手に起こした曹魏侵攻の結果は、策源地であり国家の領土でもある荊南を喪失させた上に、国家の財宝でもある大勢の軍民を犠牲にし、国家の浮沈に関わる、取り返しのつかない大損失を齎し、劉備(諸葛亮)の国家戦略をも、破綻させる事態に陥らせています。
如何にそれ以前に高く評されようと、立派な肩書きを持っていようと、名の有る敵将を破る等の経過に光るモノが有ろうと、彼が晩節に起こした、この一事の結果を以て私は、名将では無いと断じます。
1軍の将としても1軍人としても、やってはいけない最大の禁忌を犯しているのですから。
同時代の曹魏の軍団長・司馬懿も、此方は国土防衛の為に国家(曹叡)に無断で兵を起こし、敵国の蜀漢に帰参しようとした、孟達を討伐して成功していますが結果、司馬懿が無断で兵を起こした事に、曹魏国内からは「著しい越権行為」・「非常識に過ぎる」と大バッシングの嵐。
英雄視される処か罪人扱いされて、免職処か謀反人の容疑を掛けられ、あわや罪人に成る所を曹叡が、司馬懿の行動を緊急の措置として認めた為、功罪無しの留任になっています。
同時代に無断で兵を起こして成功しても、これ程の処分・扱いを受けています。
つまり、司馬懿に対する曹魏の対応が、倫理的に正常な対応な訳です。
それを踏まえて、独断専行して国家の為に防衛した司馬懿でさえ、非難囂々の雨霰なのに、独断専行して攻め込んで、失敗した関羽を軍人として称賛が出来ましょうや?
劉備の依怙贔屓でうやむやになってますけど、一般的に関羽の責任を問えば、当時は当事者が死亡していようと、残った一族が族滅処分になるのが普通でしょうし、現代だとフツーに国家級戦犯モノです。
劉備が依怙贔屓で、関羽の罪科を何とかする為に、荊州にいたけど直接関与していない、劉封や孟達に責任を押し付けてますけどね。
私個人として関羽は勇将だとは思いますし、主君・劉備に対する「尽忠・尽誠」の精神は、常人では成し得ないモノとして称賛出来ますし、その「尽忠・尽誠」の精神を以て後世の人々が関羽を、神格化して関帝と尊び、敬われるのは全く否定しません。
但し、50も過ぎて禁忌かつ分別の無い軍事行動を起こす人の、統率力に疑義を挟まざるをえませんし、部下達の「劉備に連絡を取って、後詰め(兵力と物資の補充及び、将軍を派遣して貰う事で、後方の安全確保)を得てから、行動するべき」という、至極真っ当な意見も退けていることから、この時点で戦略性は無論皆無ですが、戦術的な分析力にも深刻な疑義を、提起せざるを得ません。
真っ当な軍政的知見・政治的判断を持っていたなら、そもそも絶対にしない行いですし。
以上の事からそう言うバイアスで私個人は、間違っても名将とは思いませんが。
長い話ですみません、つまり一言で言うと、
「1軍人として最大の禁忌を犯している人を、将軍としては評価できません」です。
個人的には、「自己中で戦争を起こした奴・奴らの為に、何で俺が他国に逝ってまで、戦争に参加しなきゃいけねーんだよ!?
勝っても国家級戦犯行為に加担で処罰、負けたら犬死にor非国民、どっちに転んでもあの世かこの世の地獄やんけ!
絶っっ対に嫌じゃい!!そんなクソ戦争に逝きたい奴だけ、勝手に逝ってこいや!?」派ですので。
それと共に、逆張りで書いているのか?に関しては、明確に否定させて頂きます。
そう言う意図は一切無く、あくまでも私個人の視点・観点から観た関羽の評価です。
第4に悪意が窺えるに関しては、間違っても否定出来ません。
第3に述べた様に、関羽の行動は現代の一般社会で例えた場合、導き出される結果は、「大量のリストラと失業者を出す行為」です。
そういったリストラや失業に遭った人が、ちょくちょく建築業界に再就職する事があり、その悲哀を間近で、私自身が見て来ているからです。
自分よりも年下、下手すると子供よりも年下の職場の先輩に、叱られ罵られ怒鳴られ馬鹿にされても、「すいません」と謝って、家族の為に一生懸命に働いている人の姿を。
そういった人達の何割かは、「上司の自己満や自己中」が原因で、職場や職を失っている事を。
まあ実際は大量の物言わぬ・言えぬ骸の戦死者と、嘆き悲しむ遺族と虜囚を、勝手な行動の結果出しているんですが。
そう考えてしまうと、間違っても否定出来ませんね本当に。
え~スゴく私情塗れですみません。
最後に前話で感想を、書いてくださった方々のみでなく、今まで書いてくださった方々も、私が返事を返さない不作法をしているにも関わらず、色んな事を書いて頂いて、誠にありがとうございます。
今回は少なからずこの作品に、見切りを付けられたり、見限られる方もいらっしゃる覚悟で、返答させて頂きました。
もしそういった方に一言だけ、どうか言わせてください。
貴方にとって、気持ち良く楽しんで読める作品に出会えます様、心よりお祈り申し上げます。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂ける様に、鋭意努力をする所存であります。
言葉の表現の難しさを痛感するこの頃です。
これぐらいの表現で良いんじゃないの?的な、マイルドな評価をお願いします。




