その10
読んでくださっている方々へ
いいね百○拳、誤字脱字報告・感想を爽やかに書いて頂き、誠にありがとうございます!
如何お過ごしでしょうか?
私は正直早くもバテ気味です。
暑い日々に皆様もと言うか、外勤の方は特にお気を付けて。
私自身が外勤系職業なので、痛感しております。
あ、後、更新が遅れてすみません。
遅筆に加えてのこの暑さ、平にご容赦を。
洛陽大将軍府執務室
「はぁ・・・ふぅ・・・う~む。」
「はて?如何なさいましたので閣下。
我が世の春を謳歌なさっている方の表情とは、とても思えぬご様子ですが?」
此処大将軍府の主・何進が物憂げな表情を浮かべて、溜め息と唸り声を上げている様子に、不思議そうな顔で尋ねる副官の荀攸。
7月になり汗ばむ季節の最中、絶大な影響力を持った何進は、人生の絶頂期を迎えていた。
6月に政敵(笑)と目されていた似非外戚・董重が、対何進に於ける同志だった蹇碩の自爆に、自身も盛大に巻き込まれて自滅。
何進が送った捕縛の為の、大勢の兵士達に屋敷を包囲された中、「もはやこれまで」と観念した董重は剣を首に当て、九卿位にまで上った者として、虜囚の辱めは受けぬと自刎して果てたのであった・・・表向きは。
実際の所は子の霊帝に平然と寄生して居座り、イキって威張っていた董太后に、これ又寄生していた様な輩であったので、当然自害する覚悟も気概も有る訳が無く、みっともなく命乞いをしたり、喚き散らして暴れ出したので、呆れ果てた見届け人兼検分役の校尉が、部下達に命じて羽交い締めにした上で、首をはねたのが真相であった。
真相は兎も角、そういった経緯で「謀反人」として処されて、同志であった蹇碩と文字通り、2人仲良く首を並べて晒されたのである。
又、通称董太后だったお人も、霊帝が崩御した為に「分家の分家の元側室」という、本来の立場に大暴落して皇室との縁が切れ、「下賤な己の立場を弁えず皇太后に対し、不埒な言動を繰り返した不届き者」として、「皇室侮辱罪」に問われて死刑になりかけるも、何皇太后のお情けで減刑となり、所払いになって首都・洛陽を追放となった。
そして洛陽を離れた所で、飲めば楽になれる不思議な飲み物を提供して、苦しい現世から解放をしてやり、キチンと亡夫の元に魂魄を送って、「分家の分家の元愛人」として埋葬してあげたのである。
こうして皇室に寄生していた、霊帝在世中は流石に手が出せなかった不穏因子を排除、微レ存で自分に取って代わる可能性がある人物を、後腐れ無く合法的に始末した何進であった。
ついでに敵対関係である名家・宦官閥連中も、名家閥は高位高官がひしめいてこそいるものの、実態は各府で実務をこなしている官僚が、殆どが何進に靡いており形骸化して実権が無く、「陸に上がった河童」の如く実務から干されていた。
又、宦官閥は霊帝崩御後から政務に関わる事が出来ず、「陸に打ち上げられた魚」の如く虫の息であり、最早相手にならない程の実力差が開いていた。
その様な訳で、後は三公より上位の丞相になって人臣位を極めるのは、時間の問題と目される人物が溜め息を吐くなど、荀攸から観れば摩訶不思議な話であった。
「ああ、実は妹と義弟の何苗との間に、ちょっと意見の相違が出来てな・・・。」
「はぁ?今頃になって何でまた・・・。
まさか何苗殿が閣下に成り代わるべく、皇太后様を擁して蠢動しているとかですか?」
眉間に皺を寄せて、厳しい表情を浮かべる。
「うん?違う違う。
そんな大袈裟な事じゃなくて、十常侍の扱いについて妹が情けを見せていてな。
それを何苗の奴が味方しているんだよ。」
溜め息混じりに愚痴を零す。
「何太后様が、あの腐れ者共にですか?」
「ああ、恥も外聞も無く、余りにも必死に哀願する様に、憐憫の情が湧いたらしい。
(劉弁)摂政陛下は※中宮にて政務を執っておられるから、彼奴等を近づけさせない様に出来ているが、後宮に居る妹はどうにもならん。」
「それは又厄介な事に・・・。」
苦虫を噛み潰した表情で、荀攸は呟いた。
※(朝議を行う表の宮廷と、皇帝のプライベート空間で有る、後宮の中間の施設の事。
江戸時代に例えれば、大奥の手前の中奧に相当。
宦官以外の男性が入れる最奧の場所であり、正式に帝位に就いていない劉弁は、皇室典範に則って後宮に入れない為、中宮で生活していた)
「あやつ等は恥も外聞が無いのは確かですが、同時に恩や義理・節操も無い輩共ですぞ?
その様な奴等を赦した所で、喉元過ぎればコロッと恩義を忘れ、却って恥辱を受けたと怨み、必ずや太后ご本人だけでなく、閣下や摂政陛下にまで害を齎し、「宋襄の仁」に成る事は必至です。」
十常侍の存在の有害性を説く。
「ああ、お前の言う通りだ荀攸。
儂とて短くない期間、十常侍共と直に接した事が有るから、彼奴等の性根の汚さは理解している。
それも含めて妹に説いているんだが、お人好しな所が有って、中々どうしてなぁ・・・。」
「お人好しが過ぎますよ、何太后様は・・・。」
何進に釣られて荀攸も、溜め息を吐く。
「本当になぁ・・・後先にはなったが董一族を処断する時も、協殿下の助命嘆願をしてきたし。」
「え?そうなんですか?
・・・確か協殿下の生母・王夫人とは険悪の間柄で仲が悪く、色々と諍いが絶えなかったと聞き及んでいましたが?」
それとなくデリケートな話題を振る。
「は?・・・ああ、それは董のババアが、勝手に騒いで流布した嘘話だぞ?」
「はぁ・・・本当にですか?」
若干疑わしげに問いかける。
「本当もクソも元々妹と王夫人は、2人共が家柄や血筋といった鳴り物入りで、後宮に上った他の女共と違って、身分が低いのに容姿で上ったクチだったせいで、お互いに後宮内の立場が弱くて結構いびられていてな。
そういったいびられ者同士共感したのか、寧ろ仲が良かったんだよ。」
昔を思い出しているのか、天井を見据えつつ話す。
「そう言われれば太后様の実家、即ち閣下の家柄は商家の出で有りますし、王夫人の実家は確か・・・弱小の地方名家出身でありましたか?
何となく信憑性はありますが・・・。」
成る程と言いつつ、首を傾げた。
「いやだから信憑性もクソも実話だっての。
先帝陛下はどーも竇一族の専横に泣かされた所為か、高貴な出自の女を忌避するきらいがあってな。
結局身分の低い2人が、先帝陛下の寵愛を受けて、それぞれ子供を産んでいるんだが、殿下達が産まれるまでが、まーホントにヤバかったわコレが。」
しみじみと語る。
「ヤバかったとは?」
「高貴な出自の、他の女共の嫉妬だよ嫉妬。
毒は盛ろうとするわ、母胎に怪我をさせて流産を目論むわとまぁ、嫌がらせに継ぐ嫌がらせを受けまくっていたよ妹達はな・・・。」
「それは又・・・恐ろしい話ですなぁ。
古今東西、同じ様な事例が絶えないのも。」
「ああ、本当になぁ。
勝てれば華、負ければ泥の世界らしいし。」
コクリと頷く何進。
「幸いにしてウチは資産は有ったから、金に物をいわせてどうにか乗り切り、摂政陛下が生まれた事で、それまで竇一族の後見を得て皇后になっていた宋氏が、竇一族粛清後に廃后(皇后位から降ろされる事)になった後、皇后位に立てられて安泰になったんだが、王夫人はそうはいかなかった。」
「弱小末端名家では、守れる権力も資金力も無い、という事ですか。」
先を読んで答える。
「そう言う事だ。
嫉妬が王夫人1人に集中する羽目になり、見かねた妹の嘆願で結局、王夫人もウチの関係者を配して守る事になったんだが、それが裏目に出ちまった。
産後の肥立ちが悪くて、出産後直ぐに亡くなってしまった後、董のババアが騒ぎ出したんだ。
・・・儂や妹が王夫人を「毒殺」したとな。」
憎々しげに語る。
「しかしながら何故に、董氏はその様な事を?」
「それは儂も後になって気付いて、歯噛みしたんだが、董のババアは「自身の老後の安泰と、あわよくば摂政陛下を排し、協殿下を帝位に就けて実家の繁栄と実権獲得」を画策して、マトモな後ろ盾の無い協殿下を引き取り、手駒にする気だったんだよ。」
ケッと吐き捨てる様な口調で答えた。
「そんな馬鹿な・・・と言えない所が有るのが、董氏のこれまでの非常識さを物語っていますねぇ。
大概の人が董氏の所行を知ったら、「さもありなん」と言うでしょうから。」
肩をすくめて呆れた表情を浮かべる。
「そうだろ?
挙げ句に引き取ったのは良いが、協殿下の立場・利用価値には興味が有っても、殿下個人には全く興味が無かったらしく、お付き女官に育児を任せて放置していた様だしな。」
「最低ですね。」
嫌悪感丸出しで呟く。
実際に後に帝位に就いた劉協は、実母こそ丁重に弔って皇后位を追贈しているが、育ての親である筈の董太后には全く興味関心を示さず、何の弔いも行わずに放置している。
「本当に正真正銘の屑だよな。
妹分だった王夫人の遺児を蔑ろにするわ、謂われのない悪評をばら撒いた上に、自分の子供を排除しようと企むわと、先帝陛下の実母の立場をかさに着て、やりたい放題された妹は堪忍袋の緒が切れて、それはもう怒髪衝天になってな。
以来、ババアとの間こそ犬猿の仲になったんだ。」
「いやそれはどう考えても、ならない方がおかしいでしょうそれ。」
寧ろ董氏と仲良くやれる人物を、観てみたいと思う荀攸であった。
「まぁそんな訳で荀攸、根も葉もない嘘話だと判っただろう?
ぶっちゃけ嘘話が真実だったら、儂の立場からすると協殿下を、生かして置く筈がないからな。」
「確かに・・・。
嘘話が真実だったら、協殿下にとって閣下や何太后様は仇敵、摂政陛下は仇敵の身内になりますね。
いつ寝首を掻かれるか判らない人物を、身近に置いておく愚の骨頂は犯しませんか。
1番納得いく理由ですな。」
ウンウンと頷いた。
「いい加減信用しろよ!?」
「はぁ、まぁそれはさておいて、結果的に何太后様のお人好しな気質が、完全に仇になっていると?」
「・・・ああ、そうなんだよ~。
どうしたモンだか・・・弱った・・・。」
頭を抱えて呻く。
一般的に何太后は、「気が強くて嫉妬深く、平気で人を毒殺するのを躊躇わない、残忍非道な悪女」のイメージが「後漢書クオリティ」に因り有るが、ど~も再々述べているファンタジー要素が強かった。
董太后こそ状況判断・証拠で、現代人もドン引きレベルのキチおばはんだが、何太后や王夫人の人間性を、原作者さんはどうやって知り得たのか、情報源が非常に怪しいので有る。
例えば前漢の呂后や唐代の則天武后(正式には武則天で、則天武后は日本風表現)、清の西太后の様に表舞台に堂々と立ち、大勢の臣下の耳目を集めて様々な行い(悪行)が、広く一般的に詳らかになっている人物なら、珍しくもないだろう。
しかし何太后と王夫人の2人は、後宮の奥深くに住み暮らして表に出ず、ほぼ外に出る事が叶わない女官と、宦官しか接点の無い人物であり、間違っても宦官では無い原作者さんが、どういう経緯で知って記述したのかが全くの謎であった。
なにせ唯一の情報源である宦官も何進横死直後、袁紹達の宦官虐殺により、王夫人処か何太后を知る人物も居なくなっているのである。
実際の史実からほぼ十中八九、いい加減でデタラメの記述で有るのが見て取れる。
まぁ、霊帝が宦官を使って粛清した、何進以前の外戚・竇一族と当主・竇武を、「清廉潔白にして、質素を重んじ華美を好まず」と絶讃して同時に、「権力維持の為に政敵の宦官を抹殺し、同郷の子女の後見人になって、皇后位に就けた」と記し、清廉潔白な人間性と、権力に執着・固執する行動性を持っているという、第三者から観ればど~考えても違和感満載で頭のオカシイ人物評を、後漢書に書いている原作者さんなので、推して知るべしであるが。
日本の歴史で例えれば、平安時代に於ける藤原一族を、清廉潔白と評価するのと同義である。
行動性から観れば奸臣の最たる人物を、中央の名士達は清流派の代表格と評する様な、トチ狂った価値観を持っていたので、清流派を自称する名家閥が、佞臣・邪臣の巣窟になるのは自明の理であった。
それはさておき、
「こうなれば何太后様には、十常侍の存在が董氏と同じく、御子の摂政陛下に災いを齎すと説得し、摂政陛下には一筆認めて貰う等の、口添えをお願いすべきかと。」
「う~ん、確かにそれが無難・・・か。」
腕を組んで唸る。
「如何にお人好し気質の何太后様とて、ご自身の御子や身内に危難が及ぶと有らば、害悪の根源を助けようとは言わぬでしょう。」
「肉親の情に訴えよと言う事か。
それが妹には1番効果的かも知れんな。
よし、その線で攻めてみるか。」
荀攸の助言に頷く。
「しかしながら閣下、またぞろ面倒事に成る前に、趙忠達の始末を一刻も早くするべきです。」
「ああ、確かにそうなんだが・・・出来れば年明けまではと思ってな。」
「年明け?・・・あ、摂政陛下の即位に併せてという事ですな?」
何進の話を聞いて、ポンと手を打つ。
「そう言うことだ。
どうせ始末するなら、摂政陛下の即位に華を添えて、少しでも陛下の為になった方が良いだろ?」
「正しく左様ですな。
新帝陛下の名で処断した方が、世の評判も上がって治世の助けになりまするな!」
コクコクと頷いて納得顔の荀攸。
「その通りだ荀攸。
真っ当に務める宦官は兎も角、十常侍共一党は確実に年明けに始末するぞ。
なのでそういう方向で調整を頼む。」
「承知しました閣下。
閣下の方も太后様の件をお願いしますね。」
「ああ、任せておけ。」
お互いに懸念事が晴れたので、自然と2人共笑顔でやりとりするのであった。
こうして内憂の排除に乗り出して、新帝の御世に明るい兆しが見えた何進だったが、「光あれば陰あり」の通り自分の背後に、死に体となって息も絶え絶えの両派閥の陰が、ジリジリとほんの少しづつ、近づいて来ている事に気付いていなかった。
そんな波乱含みの中央情勢と比べ、ある地方では波乱が有りそうで無さそうな情勢になっていた。
涼州敦煌郡郊外幕舎
「面倒くさい・・・あ~面倒くさい。」
「お気持ちは察しますけど、それ、間違っても使節の前で言わんでくださいよ!?」
だら~と敦煌郡郊外に設置された、幕舎の中に置かれた机に、上半身を寝そべらせる糜芳に釘を刺す、懇親会の進行と糜芳の補佐を務める事になった、敦煌郡太守の費戴。
管理区域が会場となった為、留守居となった蔡良の代わりに副官ポジに就いた、有る意味で今回の懇親会の被害者であった。
「はぁ・・・いや~面倒くさいじゃん?」
「閣下以上に私の方が、もっと面倒くさい事をしているんですがね!?
会場の選定・幕舎の設置!護衛の配置に2部族の日程調整・・・。」
半ギレ状態で愚痴り始める。
「ああ、スマンスマン。
キチンと公務は公務でこなすから。」
愚痴を途中で遮り、姿勢を正して謝る糜芳。
「本当にお願いしますよ!?
・・・なんか少しゆったりと云うか、だぼっとしてませんかその服?」
再度釘を刺しつつ、糜芳の装いに違和感を感じたのか、小首を傾げて疑問符を浮かべた。
「うん?ああこれはちょっとでも、ふくよかに見せる為の苦肉の策って奴だよ。」
自身の衣服の袖を摘まんで、苦笑気味に答える。
元々国門の場所柄、華美な装いをする費戴よりも貧相では不味いので、長安に支店を展開した虎子商会に、超特急で作らせた衣装であった。
(まぁ本当は色んな細工を施すのに、このサイズになっちゃったんだけどね・・・)
脳内でペロッと舌を出す。
「はぁ、しかしながら閣下、我が国ではふくよか即ち富貴の象徴とされますが、異民族の場合は愚鈍と怠惰と見做され、蔑まれる傾向が強いのですが。」
「え、そうなの?」
費戴の言葉に驚く。
「はい、異民族も尚武の気風が強く、貧相・貧弱な体では笑い者となり、肥満体は蔑まれます。
龐徳殿の様にガッシリした偉丈夫の方が、異民族からは好まれる事が多いですね。」
護衛としての実力と見栄えの良さを考慮して、連れて来た龐徳を手で示して述べる。
「所変われば、人も又変わるか。」
「そもそもの文化・風習も違いますから。」
「揉め事も然り・・・か。」
「まぁそれもそれで、当然の帰結ですけども。」
糜芳の言葉に相槌を打って頷く。
そうこう雑談をしている内に、護衛兵が幕舎に駆け入って来て、
「申し上げます。
羌族及び匈奴族の使節団が、到着しました!」
「ご苦労!丁重に対応するように!」
「ははっ!!」
再び駆け去っていく。
少しすると馬の嘶きが近づき、馬に乗った9人が従者を伴って現れ、下馬して手綱を護衛兵に預けると、ホスト役を務める馬騰・韓遂の案内で、ズカズカと幕舎に近づいて来る。
「うん?あれ?それぞれ3人1組ずつの6人て聴いていたけど、1組多くないか?
何か1組だけ装いも違うし・・・。」
「・・・確かに。
あれは羌族よりも、西側の民の装いだったかと。」
目をすがめて、曖昧に答える費戴。
「とりあえず一席余分に追加だな。」
「は、席順はどうします?」
「向こうで決めて貰え。
そんなもんで、要らん揉め事を作る必要性が、我々には無いしな。」
「確かに。承知しました。」
そう言って部下に指示を出し、使節団に伝える為に幕舎の入り口で待機する。
そうして向こうの使節団達が、自分達の席順を決めて暫くの後、来た方角に合わせて羌族組が西、匈奴族組が北、糜芳達はそのまま東で残る1組は南と、それぞれが着席して懇親会という名の、外交が交わされる事となった。
ホスト役の馬騰・韓遂が、それぞれの案内を務めた異民族の紹介を行い、馬騰は中東系のちょっと色黒な羌族を紹介し、20代ぐらいの若手が単于の息子であり、年配者が守り役で残りが通訳といった、メンバー編成である。
韓遂の方はロシア系が入っているのか、彫りの深い色白の匈奴族を紹介し、30代前後が腹心の部下で20代前後が通訳、40代前後の男がこれ又単于の息子で、次期単于との事。
そして最後に残る1組は、30代ぐらいの厳めしい護衛とひょろっとした通訳、20代半ばの優男といった組み合わせで、どうも羌族側の遠方から訪れた「遠友」らしい。
(なぁ費戴、遠友って何?)
(至極簡単に云えば自分達の領土の外、遥か遠方からやって来た旅人の事ですね)
耳打ちして尋ねると、そんな答えが返ってくる。
費戴曰わく中国側から観れば異民族は、仇敵・天敵なイメージを持ち、略奪をしに来る害悪的な存在感が有るが、交易商隊の様な者達に関しては、略奪する処か大歓迎をして丁重にもてなし、各部族が領土の端まで見送る程だとか。
彼等異民族にとっては、交易商隊等旅人は「最高の娯楽提供者」であり、物珍しい物品との物々交換や、旅の土産話・異国の情報を聞かしてくれる、貴重な存在だった。
その為大概の地域では、最上位に近い客人として遇され、よっぽどの非礼・無礼を働かない限り危害を加えられる事はなく、比較的安全だったようだ。
(う~ん、日本でも昔は旅人の事を「まれびと」と呼んで、地元住民に大層なもてなしを受けたって話が有るぐらいだから、そんな感じか?)
前世知識をほじくり返して、脳内で想像する。
(しかも服装の豪華さを観れば、下手すると異国の王族か、それに近い者かも知れません)
糜芳が脳内思考している脇で、費戴が想定外の出席者の予測を耳打ちする。
(まぁ何処の誰でもいいけどな)
(はぁまぁ、異民族には遠友でも、我々には関係ありませんしね)
ひそひそと話して頷いた。
テキトーに馬騰等の異民族達の紹介を聞き流して、ひそひそ話をしている内に自分達の番となり、龐徳から順に自己紹介をしていく。
そうしてトリの自分の番になり、チラッと異民族達の様子を窺うと、異国の王族っぽいのは退屈そうにし、守り役や側近はポーカーフェイスだが、単于の息子達は嘲りの視線と笑みを浮かべて、「なんだあの貧弱な雑魚は?」とばかりに、ニヤニヤしていた。
(さ~て、イッツ・ア・ショータイーム~。
てめーらの顔を驚愕させてやんよ)
内心でどす黒い笑みを浮かべ、
「ようこそ我ら漢帝国にお越しなされた。
私は帝の命より、此処涼州の統括を任された糜芳と申す。
若輩者では有りますが、今後ともよしなに。」
拱手をして無難な挨拶をした・・・瞬間、
ズルッと首が襟からずり落ちた。
「「「「「!?う、うわああぁぁぁぁっ!?」」」」」
龐徳と異国の護衛以外の全員が、椅子から転げ落ちて後退り、糜芳の奇態を指差して、腹の底から悲鳴を上げる。
「?どうしたんだ馬騰・韓遂?」
「「くくくククビくび首クビくビぃぃ!?
首がクビがくびがぁ!おちオチ落ちてるぅ!」」
デュラハンの如く首を手に持って、不思議そうに尋ねる糜芳に、「首」の単語を狂った様に連呼して、喘ぐ様に益々後退る涼州の両雄。
(ククク、首落ちビックリマジック大成功~!
いや~此処まで上手くいくとはね~)
内心でニタァと腰を抜かしている、単于の息子達を観て笑う。
糜芳がしているのは、一般的に知られている首落ち手品である。
衣服の襟首から肩幅を、衣紋掛け(ハンガー)みたいなモノで固定化して腰を屈めると、首だけが動いて見えるというシロモノである。
現代では使い古された手品で、最早古典的といった感じだが、当然全くの未知の古代中国では、「生首を抱えて歩く妖怪」に見えるのであった。
「どうなされた匈奴族の方々?」
※『ヒィィイ!?来るな!来るなぁ!?』
匈奴族の代表者である、単于の息子がへっぴり腰で後退りしながら、護身用の短剣を出鱈目に振り回して、近付こうとする糜芳を牽制し、
「大丈夫ですかな羌族の方々?」
『・・・・・・・・・。』
『だ、誰か!誰か助けてくれ~妖怪がぁ!?』
羌族の方の単于の息子は、パクパクと金魚の如く口を開閉するだけで硬直しており、通訳の者が悲鳴を上げつつ、幕舎を飛び出した。
※本来的には、外国語とかで表記するのが筋なのですが、正直面倒くさいので、通訳済みという体の文章でお読みください。
(うひひひ・・・楽しいなぁ、楽しいなぁ)
何処ぞの三ゲなソングみたいな台詞を、脳内で言いつつドッキリに満足していると、
「如何なさいました・・・ひゃああぁぁぁ!?
州牧閣下の首が落ちてるぅぅ!?
出合え出合えぃ!!一大事だ出合ええぇ!!」
通訳が幕舎から逃げ出した事に、異常を感じた衛兵が幕舎に入り、目の前にいたデュラハン糜芳に驚きながらも、気丈に声を張り上げて応援を呼ぶ。
「いやおい、大丈夫だから。」
「生首が喋ったぁ!?
落ち落ち着いてください閣下!今救援を呼んでおりますので、お気を確かに!!」
「お前が落ち着け!?
大丈夫だっつってんだろうが!お前の方こそ気を確かに保たんかい!」
あーだこーだと押し問答していると、
「どうしたんうわあぁぁ!?」
「なんだなんだ?・・・ヒエェェェ!?」
次々と衛兵が寄ってきた途端、デュラハン糜芳を観て混乱・失神・腰を抜かすの、3パターンを繰り返して大混乱に陥ったのであった。
~~~只今大変混乱しております。回復するまで暫くお待ちください~~~
「え~ウチの州牧閣下が、大変失礼致した。」
「申し訳ない。
つい緊張して首を落としてしまった。
以後気をつけるので、安心して欲しい。」
ぺこりと陳謝する費戴と糜芳。
大混乱が収拾した後、「極度の緊張状態になると、首が落ちしてしまう」という、苦し過ぎる言い訳が通ってしまい、ど~考えても人外の特性を獲得してしまった糜芳。
とりあえず醜態を晒してしまった単于の息子達は、「アレは無かった事」として感情をリセットし、なんとか持ち直したのであった。多分。
『コホン、え~我ら羌族から州牧閣下に、贈り物を贈りたいと思いますが如何ですかな?』
サッサと懇親会を進行すべく、羌族の守り役が話題を切り出し、
『おお、では匈奴族からも州牧閣下に贈り物を。』
『それなら私の方からも州牧閣下へ。』
それに便乗する2組。
羌族からは熊の毛皮の敷物が1枚、匈奴族からは虎の毛皮の敷物が1枚、異国からは絹織物が3反、それぞれ糜芳にと進物された。
(うおぉぉでけぇ・・・前世なら所持携帯してるだけで動物保護団体の過激派に、テロられる危険物なだけあってかなり貴重品やけど、この時代は絹織物の方が超貴重品なんだよなぁ)
前世との価値の正反対な違いに、何とも言えない表情を浮かべる。
現代では不明だが江戸時代には、世界トップクラスの絹織物の生産地だった中国だが、後漢・三国時代には自国生産がされておらず、ペルシャ方面からの輸入オンリーだった為、下手をすると宝石や金よりも貴重品だった。
『どうしました?何か問題でも?』
「いやなに、各々こんな立派な進物をくれるのに、こちらのお返しが余りに貧相なので、受け取らない方が良いのでは?と思ってしまってな・・・。」
眉根を寄せて、悩ましげに答える。
『気にしないでください。
こういった物は、それこそ気持ちの問題であり、心が籠もっていれば良いものですから。』
匈奴族の側近がフォローする。
「そうかな?じゃあ貴君達の為に、兎を2羽狩って来たんだけど、受け取って貰えるか?」
『う、兎ですか・・・失礼。』
唖然とした表情に一瞬なり、ハッとして直ぐに平静を取り戻した。
遊牧民であり狩猟民族でもある、羌・匈奴族にとっては、兎狩りは初歩の初歩の獲物であり、子供が最初の獲物として狩るモノであった。
「プフッ」と単于の息子達が吹き出し、恥を掻かされた負の感情も一緒に吹き飛んで、侮りの視線を糜芳に対して送る。
『一生懸命狩った兎とあらば、喜んで頂こう。』
『同じく・・・いや初心者なら上出来だ。
我らには物足りない獲物だがね。』
2人共が失笑する。
「・・・・・・。」
「待て待て・・・では早速進呈致す。」
糜芳に対する侮りを、無言で怒りを露わにする龐徳を制し、予め置いてあった葛籠から、40㎝四方の上部だけ開いている箱と白い布を取り出して机に置く。
『『『『『???』』』』』
意味不明な行動に首を傾げる、異民族達を余所に箱を傾かせて、皆に中には何も入っていないアピールした後、箱に白い布を被せて、
「油片手ブラ~油片手ブラ~・・・えい!」
そこはかとなく卑猥に聞こえる呪文らしきモノを唱え、気合い一閃少し箱に手を突っ込み気味に布を掴んで退け、空いた手を箱に突っ込んで引っ張ると、ズルリと兎が出て来た。
「「『『『はぁぁぁ!?空箱から兎が出て来たぁ!?
どうなっているんだ一体!?』』』」」
馬騰等涼州組と異民族組の双方から、素っ頓狂な声が上がり、唖然呆然の表情で硬直している。
そんな状況をお構いなしに、ヤーさんゲーの「ドラゴンみたいに」に出てくる粗野な人相と、カリビアンな海賊船長みたいに、ジャラジャラ装飾品を付けた人物の恰好を合わせたの如き、匈奴族の次期単于に兎を渡し、羌族に近づいた。
「はい、じゃあ羌族殿の方もと・・・油片手ブラ~油片手ブラ~・・・ほい!」
持っていた白い布を広げて、バサッと振った瞬間、本物の兎が布の中から現れる。
「「『『『今度は布から兎!?妖術・・・!?』』』」」
驚きから徐々に、畏れに表情が強張っていく。
そのまま羌族の単于の息子に兎を渡し、異国の王族っぽい人には、コイン消失と転移マジックを披露して返礼とし、葛籠から薄い木札を取り出して柄当て(数字当て)等を行い、糜芳が席を外していない時に3組がそれぞれ選んだ札を、次々に何回も的中させていく事をしていった。
そうした結果・・・
異国の王族っぽい人達は、畏敬の目で糜芳を見る一方、羌・匈奴族の異民族組と馬騰・韓遂の涼州組達は、糜芳の存在を畏怖を越えて恐怖を感じて打ち振るえ、初期の余裕もすっかり消し飛んで目線を下にし、糜芳を観ない様になっていた。
何せ糜芳は彼らの前で、物体創世Χ2・物質転移・読心術という常人では不可能な、神技に等しい事をやってのけた(に見えた)のである。
まぁ、種明かしとして兎の件は、2重底の箱と衣服の懐にそれぞれ華陀謹製・麻沸散(麻酔)で、眠らせた兎を忍ばせておいて取り出しただけである。
又、コインの転移は、最初の首落ち手品の混乱のどさくさに、異民族組の懐に忍ばせて仕込んだモノであったし、木札も古典的な心理をついたといった、総じてコテコテの初歩手品を使っただけであった。
(う~ん・・・大分ハッタリが効いたかな?
一応、きっちりトドメ刺しとくか・・・)
念押しを決める糜芳。
葛籠から御札がベタベタ張られた、あからさまに怪しい木箱を取り出して机に置くと、火種を持ってくるよう指示を出し、
「では皆様に、私の最大の秘術をお見せしよう。」
そう言って蓋を開ける。
『・・・・・・人形、か・・・?』
ゴクリと固唾を呑んで、糜芳を見ていた羌族の単于の息子が、出て来た物を観て首を傾げる。
そうこうするうちに、糜芳がパペット人形に手を入れた途端、
[無礼者が!私を誰だと思っている!?]
「「『『『ヒィ!?人形が喋った・・・!』』』」」
突然人形から声が聞こえ、聴いた周囲は引きつったかの様な短い悲鳴を上げ、糜芳に目を向ける。
糜芳が持つ宴会芸の1つ・腹話術であった。
元々は前世の元ヤン親父が、和菓子屋みたいな名前の、芸人さんの腹話術に惚れ込み、良い年扱いて寝食を惜しんで会得したのを、指笛と同じ経緯で習得したモノである。
(因みに前世の母が常時、離婚届(必要項目を記入済み)を豊臣秀吉の如く懐に忍ばせるようになった、きっかけでもあった。)
悲しいかな、前世では保父をしている友人の、幼稚園での人形劇の助っ人(報酬・飯一食)しか、マトモな活用方法が無かったが。
それはさておき、
前世で哀を越えて得た芸をフル活用し、自分で自分に罵詈雑言を浴びせるという、アホくさい苦行をこなしつつ、「えっ、許劭ってあの月旦評の?」と、さりげな~く人形の人物を示唆した後、
「うん、分かったよ許劭君。
君の言う通り、君を解放してあげよう。」
ポイッと焚いている火の中に、人形を焼べた。
[ふん、サッサとせい・・・ウギャアア!?
熱い熱い!アツイー!?燃える燃えているぅ!
ぎゃああぁぁぁ!?・・・・・・ぁ]
断末魔の悲鳴を上げて(いる風に演技中)、消し炭になっていく最中に、「こっそり塩を投下」して、青い炎を化学反応で演出する。
再び唖然呆然と、青い炎に包まれて焼失していく人形を観ている、3組と馬騰・韓遂に体を向け、
「いやあ、ご覧の通り私は、敵対する者には容赦の無い性質でして。
ああやって魂魄を人形に閉じ込めた後、適当に楽しんでから、魂魄ごと消すのが楽しくて楽しくて。」
邪気の無い微笑みを浮かべて、サイコパスな発言をしつつ、木箱に有る6つの人形を見せた。
「「『『『ひギイィイイぃぃい!?!?』』』」」
「勿論皆さんは、私といや我が国との友好関係を、尊重してくれますよね?」
異民族組に、敵対したらこうなる覚悟をしろよ?と暗に示して、笑顔で脅す邪神・糜芳。
何故か涼州組も反応しているが。
『『『『『む、無論我々は貴方様と永劫の友誼を結ぶ事を、この場でお約束致します!!』』』』』
はは一と畏まって平伏する異民族組。
最早彼等にとって糜芳は只のシャーマンではなく、人智を超えた存在、神と言うよりも悪神・災神に近い、アン夕ッチャブルな人物に昇華していた。
「そうですか、それはお互いに良かったです。
有意義で楽しい一時でしたね。
帰りの道中気をつけて・・・。」
『『『『『は!?・・・はは!長居しました!
ではこれにて我々も失礼します!!』』』』』
糜芳に帰って良しの合図を受けた異民族組は、遠友の王族っぽい人達を引っ張って、弾かれた様に幕舎を全速力で飛び出し、素早く馬に乗って各自駆け去っていった。
『漢に災神が現れたー!凶悪の悪神が出たぁ!!』と叫びながら。
「う~ん・・・よっしゃ!任務完了!!
とっとと漢陽郡に帰りますかね~。
・・・仕事溜まってんだろうな~・・・はぁ。」
伸びをして仕事の終わりを実感した後、溜まったツケを想像して、げんなり肩を落とすのであった。
後日・・・
「州牧様、羌・匈奴族の双方から、州牧様個人宛てに、大量の貢ぎ物が届いています。」
「へ?なんで?」
「いやそれは私が聞きたいのですが?」
聞き返す蔡良。
「なんでも、「我々の永劫の友誼」を記念してとの事ですけど・・・あの~何をどうしたらこんな事態になるんです?
多分ですが漢が成立して以来、両部族が個人に貢ぎ物を差し出した事って、初めてですよ?」
「いやあ只単に蓋勲の助言通り、異民族達相手にハッタリをかましただけなんだよなぁ。」
ポリポリと後ろ手で頭を掻く。
「・・・張儀・蘇秦も真っ青な弁舌ですね。
詳細を知りたくても、知っている人は「人形は嫌だ!」しか言わないし・・・。
挙げ句に「知れば不幸になる!」って、悉く真剣な表情で言うし・・・。」
「何だそれ?
私自身が不幸の象徴扱いになってるやんけ。」
失礼なと憤慨する。
「そう言えば巷では、「悪さをすれば、糜芳州牧が生首で飛んでくる」って噂が、まことしやかに流布しているんですけど、それと関係あります?」
「ホンマもんの妖怪扱いに成っとる!?」
驚愕の噂に驚く。
噂に尾鰭処か背鰭も付いて、空飛ぶバージョンのろくろっ首に、勝手に進化した糜芳であった。
続く
え~と、この章は今話で本文は終わって、閑話を挟んで次章の予定です。
とりあえずはボ○ビー回を、一周回って書こうと思っております。
楽しんで読んで頂けたら、嬉しいです。
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