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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
85/111

その10

読んでくださっている方々へ


いいね百○拳、誤字脱字報告・感想を爽やかに書いて頂き、誠にありがとうございます!


如何お過ごしでしょうか?


私は正直早くもバテ気味です。


暑い日々に皆様もと言うか、外勤の方は特にお気を付けて。


私自身が外勤系職業なので、痛感しております。


あ、後、更新が遅れてすみません。


遅筆に加えてのこの暑さ、平にご容赦を。

       洛陽大将軍府執務室


「はぁ・・・ふぅ・・・う~む。」

「はて?如何(いかが)なさいましたので閣下。

我が世の春を謳歌(おうか)なさっている方の表情とは、とても思えぬご様子ですが?」

此処大将軍府の主・何進が物憂(ものう)げな表情を浮かべて、溜め息と唸り声を上げている様子に、不思議そうな顔で尋ねる副官の荀攸。


7月になり汗ばむ季節の最中、絶大な影響力を持った何進は、人生の絶頂期を迎えていた。


6月に政敵(笑)と目されていた似非(えせ)外戚・董重が、対何進に於ける同志だった蹇碩の自爆に、自身も盛大に巻き込まれて自滅。


何進が送った捕縛の為の、大勢の兵士達に屋敷を包囲された中、「もはやこれまで」と観念した董重は剣を首に当て、九卿位にまで上った者として、虜囚の辱めは受けぬと自刎(じふん)して果てたのであった・・・表向きは。


実際の所は子の霊帝に平然と寄生して居座り、イキって威張っていた董太后に、これ又寄生していた様な輩であったので、当然自害する覚悟も気概も有る訳が無く、みっともなく命乞いをしたり、喚き散らして暴れ出したので、呆れ果てた見届け人兼検分役の校尉が、部下達に命じて羽交い締めにした上で、首をはねたのが真相であった。


真相は兎も角、そういった経緯で「謀反人」として処されて、同志であった蹇碩と文字通り、2人仲良く首を並べて晒されたのである。


又、通称董太后だったお人も、霊帝が崩御した為に「分家の分家の元側室(愛人)」という、本来の立場に大暴落して皇室との縁が切れ、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」として、「皇室侮辱罪」に問われて死刑になりかけるも、何皇太后の()()()で減刑となり、所払いになって首都・洛陽を追放となった。


そして洛陽を離れた所で、飲めば楽になれる不思議な飲み物を提供して、苦しい現世から解放をしてやり、キチンと亡夫の元に魂魄を送って、「分家の分家の元愛人」として埋葬してあげたのである。


こうして皇室に寄生していた、霊帝在世中は流石に手が出せなかった不穏因子を排除、微レ存で自分に取って代わる可能性がある人物を、後腐れ無く合法的に始末した何進であった。


ついでに敵対関係である名家・宦官閥連中も、名家閥は高位高官がひしめいてこそいるものの、実態は各府で実務をこなしている官僚が、殆どが何進に靡いており形骸化して実権が無く、「陸に上がった河童」の如く実務から干されていた。


又、宦官閥は霊帝崩御後から政務に関わる事が出来ず、「陸に打ち上げられた魚」の如く虫の息であり、最早相手にならない程の実力差が開いていた。


その様な訳で、後は三公より上位の丞相(じょうしょう)になって人臣位を極めるのは、時間の問題と目される人物が溜め息を吐くなど、荀攸から観れば摩訶不思議な話であった。


「ああ、実は妹と義弟(おとうと)何苗(かびょう)との間に、ちょっと意見の相違が出来てな・・・。」

「はぁ?今頃になって何でまた・・・。

まさか何苗殿が閣下に成り代わるべく、皇太后様を擁して蠢動(しゅんどう)しているとかですか?」

眉間に皺を寄せて、厳しい表情を浮かべる。


「うん?違う違う。

そんな大袈裟な事じゃなくて、十常侍の扱いについて妹が情けを見せていてな。

それを何苗の奴が味方しているんだよ。」

溜め息混じりに愚痴を零す。


「何太后様が、あの腐れ者共にですか?」

「ああ、恥も外聞も無く、余りにも必死に哀願する様に、憐憫(れんびん)の情が湧いたらしい。

(劉弁)摂政陛下は※中宮(ちゅうぐう)にて政務を執っておられるから、彼奴等を近づけさせない様に出来ているが、後宮に居る妹はどうにもならん。」

「それは又厄介な事に・・・。」

苦虫を噛み潰した表情で、荀攸は呟いた。


※(朝議を行う表の宮廷と、皇帝のプライベート空間で有る、後宮の中間の施設の事。

江戸時代に例えれば、大奥の手前の中奧に相当。

宦官以外の男性が入れる最奧の場所であり、正式に帝位に就いていない劉弁は、皇室典範に則って後宮に入れない為、中宮で生活していた)


「あやつ等は恥も外聞が無いのは確かですが、同時に恩や義理・節操も無い輩共ですぞ?

その様な奴等を赦した所で、喉元過ぎればコロッと恩義を忘れ、却って恥辱を受けたと怨み、必ずや太后ご本人だけでなく、閣下や摂政陛下にまで害を齎し、「宋襄(そうじょう)の仁」に成る事は必至です。」

十常侍の存在の有害性を説く。


「ああ、お前の言う通りだ荀攸。

儂とて短くない期間、十常侍共と直に接した事が有るから、彼奴等の性根の汚さは理解している。

それも含めて妹に説いているんだが、お人好しな所が有って、中々どうしてなぁ・・・。」

「お人好しが過ぎますよ、何太后様は・・・。」

何進に釣られて荀攸も、溜め息を吐く。


「本当になぁ・・・後先にはなったが董一族を処断する時も、協殿下の助命嘆願をしてきたし。」

「え?そうなんですか?

・・・確か協殿下の生母・王夫人とは険悪の間柄で仲が悪く、色々と(いさか)いが絶えなかったと聞き及んでいましたが?」

それとなくデリケートな話題を振る。


「は?・・・ああ、それは董のババアが、勝手に騒いで流布(るふ)した嘘話(うそばなし)だぞ?」

「はぁ・・・本当にですか?」

若干疑わしげに問いかける。


「本当もクソも元々妹と王夫人は、2人共が家柄や血筋といった鳴り物入りで、後宮に(のぼ)った他の女共と違って、身分が低いのに容姿で上ったクチだったせいで、お互いに後宮内の立場が弱くて結構いびられていてな。

そういったいびられ者同士共感したのか、寧ろ仲が良かったんだよ。」

昔を思い出しているのか、天井を見据えつつ話す。


「そう言われれば太后様の実家、即ち閣下の家柄は商家の出で有りますし、王夫人の実家は確か・・・弱小の地方名家出身でありましたか?

何となく信憑性はありますが・・・。」

成る程と言いつつ、首を傾げた。


「いやだから信憑性もクソも実話だっての。

先帝陛下はどーも(とう)一族の専横に泣かされた所為か、高貴な出自の女を忌避するきらいがあってな。

結局身分の低い2人が、先帝陛下の寵愛を受けて、それぞれ子供を産んでいるんだが、殿下達が産まれるまでが、まーホントにヤバかったわコレが。」

しみじみと語る。


「ヤバかったとは?」

「高貴な出自の、他の女共の嫉妬だよ嫉妬。

毒は盛ろうとするわ、母胎に怪我をさせて流産を目論むわとまぁ、嫌がらせに継ぐ嫌がらせを受けまくっていたよ妹達はな・・・。」

「それは又・・・恐ろしい話ですなぁ。

古今東西、同じ様な事例が絶えないのも。」

「ああ、本当になぁ。

勝てれば華(寵愛を獲れば勝ち組)負ければ泥(獲れなければゴミ屑)の世界らしいし。」

コクリと頷く何進。


「幸いにしてウチは資産は有ったから、金に物をいわせてどうにか乗り切り、摂政陛下が生まれた事で、それまで竇一族の後見を得て皇后になっていた(そう)氏が、竇一族粛清後に廃后(はいこう)(皇后位から降ろされる事)になった後、皇后位に立てられて安泰になったんだが、王夫人はそうはいかなかった。」

「弱小末端名家では、守れる権力も資金力も無い、という事ですか。」

先を読んで答える。


「そう言う事だ。

嫉妬が王夫人1人に集中する羽目になり、見かねた妹の嘆願で結局、王夫人もウチの関係者を配して守る事になったんだが、それが裏目に出ちまった。

産後の肥立(ひだ)ちが悪くて、出産後直ぐに亡くなってしまった後、董のババアが騒ぎ出したんだ。

・・・儂や妹が王夫人を「毒殺」したとな。」

憎々しげに語る。


「しかしながら何故に、董氏はその様な事を?」

「それは儂も後になって気付いて、歯噛みしたんだが、董のババアは「自身の老後の安泰と、あわよくば摂政陛下を排し、協殿下を帝位に就けて実家の繁栄と実権獲得」を画策して、マトモな後ろ盾の無い協殿下を引き取り、()()にする気だったんだよ。」

ケッと吐き捨てる様な口調で答えた。


「そんな馬鹿な・・・と言えない所が有るのが、董氏のこれまでの非常識さを物語っていますねぇ。 

大概の人が董氏の所行を知ったら、「さもありなん」と言うでしょうから。」

肩をすくめて呆れた表情を浮かべる。


「そうだろ?

挙げ句に引き取ったのは良いが、協殿下の立場・利用価値には興味が有っても、殿下個人には全く興味が無かったらしく、お付き女官に育児を任せて放置していた様だしな。」

「最低ですね。」

嫌悪感丸出しで呟く。


実際に後に帝位に就いた劉協は、実母こそ丁重に弔って皇后位を追贈しているが、育ての親である筈の董太后には全く興味関心を示さず、何の弔いも行わずに放置している。


「本当に正真正銘の屑だよな。

妹分だった王夫人の遺児を蔑ろにするわ、謂われのない悪評をばら撒いた上に、自分の子供を排除しようと企むわと、先帝陛下の実母の立場をかさに着て、やりたい放題された妹は堪忍袋の緒が切れて、それはもう怒髪衝天(どはつしょうてん)になってな。

以来、ババアとの間こそ犬猿の仲になったんだ。」

「いやそれはどう考えても、ならない方がおかしいでしょうそれ。」

寧ろ董氏と仲良くやれる人物を、観てみたいと思う荀攸であった。


「まぁそんな訳で荀攸、根も葉もない嘘話だと判っただろう?

ぶっちゃけ嘘話が真実だったら、儂の立場からすると協殿下を、()()()()()()()()()()()()()。」

「確かに・・・。

嘘話が真実だったら、協殿下にとって閣下や何太后様は仇敵、摂政陛下は仇敵の身内になりますね。

いつ寝首を掻かれるか判らない人物を、身近に置いておく愚の骨頂は犯しませんか。

1番納得いく理由ですな。」

ウンウンと頷いた。


「いい加減信用しろよ!?」

「はぁ、まぁそれはさておいて、結果的に何太后様のお人好しな気質が、完全に仇になっていると?」

「・・・ああ、そうなんだよ~。

どうしたモンだか・・・弱った・・・。」

頭を抱えて呻く。


一般的に何太后は、「気が強くて嫉妬深く、平気で人を毒殺するのを躊躇(ためら)わない、残忍非道な悪女」のイメージが「後漢書クオリティ」に因り有るが、ど~も再々述べているファンタジー要素が強かった。


董太后こそ状況判断・証拠で、現代人もドン引きレベルのキチおばはんだが、何太后や王夫人の人間性を、原作者さんはどうやって知り得たのか、情報源が非常に怪しいので有る。


例えば前漢の呂后(りょこう)や唐代の則天武后(そくてんぶこう)(正式には武則天で、則天武后は日本風表現)、清の西太后の様に表舞台に堂々と立ち、大勢の臣下の耳目を集めて様々な行い(悪行)が、広く一般的に(つまび)らかになっている人物なら、珍しくもないだろう。


しかし何太后と王夫人の2人は、後宮の奥深くに住み暮らして表に出ず、ほぼ外に出る事が叶わない女官と、宦官しか接点の無い人物であり、間違っても宦官では無い原作者さんが、どういう経緯で知って記述したのかが全くの謎であった。


なにせ唯一の情報源である宦官も何進横死直後、袁紹達の宦官虐殺により、王夫人処か何太后を知る人物も居なくなっているのである。


実際の史実からほぼ十中八九、いい加減でデタラメの記述で有るのが見て取れる。


まぁ、霊帝が宦官を使って粛清した、何進以前の外戚・竇一族と当主・竇武(とうぶ)を、「清廉潔白にして、質素を重んじ華美を好まず」と絶讃して同時に、「権力維持の為に政敵の宦官を抹殺し、同郷の子女の後見人になって、皇后位に就けた」と記し、清廉潔白な人間性と、権力に執着・固執する行動性を持っているという、第三者から観ればど~考えても違和感満載で頭のオカシイ人物評を、後漢書に書いている原作者さんなので、推して知るべしであるが。


日本の歴史で例えれば、平安時代に於ける藤原一族を、清廉潔白と評価するのと同義である。


行動性から観れば奸臣の最たる人物を、中央の名士達は清流派の代表格と評する様な、トチ狂った価値観を持っていたので、清流派を自称する名家閥が、(ねい)臣・邪臣の巣窟になるのは自明の理であった。


それはさておき、


「こうなれば何太后様には、十常侍の存在が董氏と同じく、御子(おこ)の摂政陛下に災いを(もたら)すと説得し、摂政陛下には一筆(したた)めて貰う等の、口添えをお願いすべきかと。」

「う~ん、確かにそれが無難・・・か。」

腕を組んで唸る。


「如何にお人好し気質の何太后様とて、ご自身の御子や身内に危難が及ぶと有らば、害悪の根源を助けようとは言わぬでしょう。」

「肉親の情に訴えよと言う事か。

それが妹には1番効果的かも知れんな。

よし、その線で攻めてみるか。」

荀攸の助言に頷く。


「しかしながら閣下、またぞろ面倒事に成る前に、趙忠達の始末を一刻も早くするべきです。」

「ああ、確かにそうなんだが・・・出来れば年明けまではと思ってな。」

「年明け?・・・あ、摂政陛下の即位に併せてという事ですな?」

何進の話を聞いて、ポンと手を打つ。


「そう言うことだ。

どうせ始末するなら、摂政陛下の即位に華を添えて、少しでも陛下の為になった方が良いだろ?」

「正しく左様ですな。

新帝陛下の名で処断した方が、世の評判も上がって治世の助けになりまするな!」

コクコクと頷いて納得顔の荀攸。


「その通りだ荀攸。

真っ当に務める宦官は兎も角、十常侍共一党は確実に年明けに始末するぞ。

なのでそういう方向で調整を頼む。」

「承知しました閣下。

閣下の方も太后様の件をお願いしますね。」

「ああ、任せておけ。」

お互いに懸念事(けねんごと)が晴れたので、自然と2人共笑顔でやりとりするのであった。


こうして内憂の排除に乗り出して、新帝の御世(みよ)に明るい兆しが見えた何進だったが、「光あれば陰あり」の通り自分の背後に、死に体となって息も絶え絶えの両派閥の陰が、ジリジリとほんの少しづつ、近づいて来ている事に気付いていなかった。


そんな波乱含みの中央情勢と比べ、ある地方では波乱が有りそうで無さそうな情勢になっていた。


        涼州敦煌郡郊外幕舎


「面倒くさい・・・あ~面倒くさい。」

「お気持ちは察しますけど、それ、間違っても使節の前で言わんでくださいよ!?」

だら~と敦煌郡郊外に設置された、幕舎(テント)の中に置かれた机に、上半身を寝そべらせる糜芳に釘を刺す、懇親会の進行と糜芳の補佐を務める事になった、敦煌郡太守の費戴(ひたい)


管理区域が会場となった為、留守居となった蔡良の代わりに副官ポジに就いた、有る意味で今回の懇親会の被害者であった。


「はぁ・・・いや~面倒くさいじゃん?」

「閣下以上に私の方が、もっと面倒くさい事をしているんですがね!?

会場の選定・幕舎の設置!護衛の配置に2部族の日程調整・・・。」

半ギレ状態で愚痴り始める。


「ああ、スマンスマン。

キチンと公務は公務でこなすから。」

愚痴を途中で遮り、姿勢を正して謝る糜芳。


「本当にお願いしますよ!?

・・・なんか少しゆったりと云うか、だぼっとしてませんかその服?」

再度釘を刺しつつ、糜芳の装いに違和感を感じたのか、小首を傾げて疑問符を浮かべた。


「うん?ああこれはちょっとでも、ふくよかに見せる為の苦肉の策って奴だよ。」

自身の衣服の袖を摘まんで、苦笑気味に答える。


元々国門の場所柄、華美な装いをする費戴よりも貧相では不味いので、長安に支店を展開した虎子商会に、超特急で作らせた衣装であった。


(まぁ本当は色んな細工を施すのに、このサイズになっちゃったんだけどね・・・)

脳内でペロッと舌を出す。


「はぁ、しかしながら閣下、我が国ではふくよか即ち富貴の象徴とされますが、異民族の場合は愚鈍と怠惰と見做され、(さげす)まれる傾向が強いのですが。」

「え、そうなの?」

費戴の言葉に驚く。


「はい、異民族も尚武の気風が強く、貧相・貧弱な体では笑い者となり、肥満体は蔑まれます。

龐徳殿の様にガッシリした偉丈夫の方が、異民族からは好まれる事が多いですね。」

護衛としての実力と見栄えの良さを考慮して、連れて来た龐徳を手で示して述べる。


「所変われば、人も又変わるか。」

「そもそもの文化・風習も違いますから。」

「揉め事も然り・・・か。」

「まぁそれもそれで、当然の帰結ですけども。」

糜芳の言葉に相槌を打って頷く。


そうこう雑談をしている内に、護衛兵が幕舎に駆け入って来て、


「申し上げます。

羌族及び匈奴族の使節団が、到着しました!」

「ご苦労!丁重に対応するように!」

「ははっ!!」

再び駆け去っていく。


少しすると馬の(いなな)きが近づき、馬に乗った9人が従者を伴って現れ、下馬して手綱を護衛兵に預けると、ホスト役(接待係)を務める馬騰・韓遂の案内で、ズカズカと幕舎に近づいて来る。


「うん?あれ?それぞれ3人1組ずつの6人て聴いていたけど、1組多くないか?

何か1組だけ装いも違うし・・・。」

「・・・確かに。

あれは羌族よりも、西側の民の装いだったかと。」

目をすがめて、曖昧に答える費戴。


「とりあえず一席余分に追加だな。」

「は、席順はどうします?」

「向こうで決めて貰え。

そんなもんで、要らん揉め事を作る必要性が、我々には無いしな。」

「確かに。承知しました。」

そう言って部下に指示を出し、使節団に伝える為に幕舎の入り口で待機する。


そうして向こうの使節団達が、自分達の席順を決めて暫くの後、来た方角に合わせて羌族組が西、匈奴族組が北、糜芳達はそのまま東で残る1組は南と、それぞれが着席して懇親会という名の、外交が交わされる事となった。


ホスト役の馬騰・韓遂が、それぞれの案内を務めた異民族の紹介を行い、馬騰は中東系のちょっと色黒な羌族を紹介し、20代ぐらいの若手が単于の息子であり、年配者が守り役で残りが通訳といった、メンバー編成である。


韓遂の方はロシア系が入っているのか、彫りの深い色白の匈奴族を紹介し、30代前後が腹心の部下で20代前後が通訳、40代前後の男がこれ又単于の息子で、次期単于との事。


そして最後に残る1組は、30代ぐらいの厳めしい護衛とひょろっとした通訳、20代半ばの優男といった組み合わせで、どうも羌族側の遠方から訪れた「遠友(えんゆう)」らしい。


(なぁ費戴、遠友って何?)

(至極簡単に云えば自分達の領土の外、遥か遠方からやって来た旅人の事ですね)

耳打ちして尋ねると、そんな答えが返ってくる。


費戴曰わく中国側から観れば異民族は、仇敵・天敵なイメージを持ち、略奪をしに来る害悪的な存在感が有るが、交易商隊(キャラバン)の様な者達に関しては、略奪する処か大歓迎をして丁重にもてなし、各部族が領土の端まで見送る程だとか。


彼等異民族にとっては、交易商隊等旅人は「最高の娯楽提供者」であり、物珍しい物品との物々交換(ショッピング)や、旅の土産話・異国の情報を聞かしてくれる、貴重な存在だった。


その為大概の地域では、最上位に近い客人として遇され、よっぽどの非礼・無礼を働かない限り危害を加えられる事はなく、比較的安全だったようだ。


(う~ん、日本でも昔は旅人の事を「まれびと」と呼んで、地元住民に大層なもてなしを受けたって話が有るぐらいだから、そんな感じか?)

前世知識をほじくり返して、脳内で想像する。


(しかも服装の豪華さを観れば、下手すると異国の王族か、それに近い者かも知れません)

糜芳が脳内思考している脇で、費戴が想定外の出席者の予測を耳打ちする。


(まぁ何処の誰でもいいけどな)

(はぁまぁ、異民族には遠友でも、我々には関係ありませんしね)

ひそひそと話して頷いた。


テキトーに馬騰等の異民族達の紹介を聞き流して、ひそひそ話をしている内に自分達の番となり、龐徳から順に自己紹介をしていく。


そうしてトリの自分の番になり、チラッと異民族達の様子を窺うと、異国の王族っぽいのは退屈そうにし、守り役や側近はポーカーフェイスだが、単于の息子達は(あざけ)りの視線と笑みを浮かべて、「なんだあの貧弱な雑魚は?」とばかりに、ニヤニヤしていた。


(さ~て、イッツ・ア・ショータイーム~。

てめーらの顔を驚愕させてやんよ)

内心でどす黒い笑みを浮かべ、


「ようこそ我ら漢帝国にお越しなされた。

私は(みかど)の命より、此処涼州の統括を任された糜芳と申す。

若輩者では有りますが、今後ともよしなに。」

拱手をして無難な挨拶をした・・・瞬間、


ズルッと首が(えり)からずり落ちた。


「「「「「!?う、うわああぁぁぁぁっ!?」」」」」

龐徳と異国の護衛以外の全員が、椅子から転げ落ちて後退(あとずさ)り、糜芳の奇態を指差して、腹の底から悲鳴を上げる。


「?どうしたんだ馬騰・韓遂?」

「「くくくククビくび首クビくビぃぃ!?

首がクビがくびがぁ!おちオチ落ちてるぅ!」」

デュラハンの如く首を手に持って、不思議そうに尋ねる糜芳に、「首」の単語を狂った様に連呼して、(あえ)ぐ様に益々後退る涼州の両雄。


(ククク、首落ちビックリマジック大成功~!

いや~此処まで上手くいくとはね~)

内心でニタァと腰を抜かしている、単于の息子達を観て笑う。


糜芳がしているのは、一般的に知られている首落ち手品である。


衣服の襟首(えりくび)から肩幅(かたはば)を、衣紋(えもん)掛け(ハンガー)みたいなモノで固定化して腰を(かが)めると、首だけが動いて見えるというシロモノである。


現代では使い古された手品で、最早古典的といった感じだが、当然全くの未知の古代中国では、「生首を抱えて歩く妖怪」に見えるのであった。


「どうなされた匈奴族の方々?」

※『ヒィィイ!?来るな!来るなぁ!?』

匈奴族の代表者である、単于の息子がへっぴり腰で後退りしながら、護身用の短剣を出鱈目に振り回して、近付こうとする糜芳を牽制し、


「大丈夫ですかな羌族の方々?」

『・・・・・・・・・。』

『だ、誰か!誰か助けてくれ~妖怪がぁ!?』

羌族の方の単于の息子は、パクパクと金魚の如く口を開閉するだけで硬直しており、通訳の者が悲鳴を上げつつ、幕舎を飛び出した。


※本来的には、外国語とかで表記するのが筋なのですが、正直面倒くさいので、通訳済みという体の文章でお読みください。


(うひひひ・・・楽しいなぁ、楽しいなぁ)

何処ぞの三ゲなソングみたいな台詞を、脳内で言いつつドッキリに満足していると、


「如何なさいました・・・ひゃああぁぁぁ!?

州牧閣下の首が落ちてるぅぅ!?

出合え出合えぃ!!一大事だ出合ええぇ!!」

通訳が幕舎から逃げ出した事に、異常を感じた衛兵が幕舎に入り、目の前にいたデュラハン糜芳に驚きながらも、気丈に声を張り上げて応援を呼ぶ。


「いやおい、大丈夫だから。」

「生首が喋ったぁ!?

落ち落ち着いてください閣下!今救援を呼んでおりますので、お気を確かに!!」

「お前が落ち着け!? 

大丈夫だっつってんだろうが!お前の方こそ気を確かに保たんかい!」

あーだこーだと押し問答していると、


「どうしたんうわあぁぁ!?」

「なんだなんだ?・・・ヒエェェェ!?」

次々と衛兵が寄ってきた途端、デュラハン糜芳を観て混乱・失神・腰を抜かすの、3パターンを繰り返して大混乱に陥ったのであった。


~~~只今大変混乱しております。回復するまで暫くお待ちください~~~


「え~ウチの州牧閣下が、大変失礼致した。」

「申し訳ない。

つい緊張して首を落としてしまった。

以後気をつけるので、安心して欲しい。」

ぺこりと陳謝する費戴と糜芳。


大混乱が収拾した後、「極度の緊張状態になると、首が落ちしてしまう」という、苦し過ぎる言い訳が通ってしまい、ど~考えても人外の特性を獲得してしまった糜芳。


とりあえず醜態を晒してしまった単于の息子達は、「アレは無かった事」として感情をリセットし、なんとか持ち直したのであった。多分。


『コホン、え~我ら羌族から州牧閣下に、贈り物を贈りたいと思いますが如何ですかな?』

サッサと懇親会を進行すべく、羌族の守り役が話題を切り出し、


『おお、では匈奴族からも州牧閣下に贈り物を。』

『それなら私の方からも州牧閣下へ。』

それに便乗する2組。


羌族からは熊の毛皮の敷物が1枚、匈奴族からは虎の毛皮の敷物が1枚、異国からは絹織物が3反、それぞれ糜芳にと進物された。


(うおぉぉでけぇ・・・前世なら所持携帯してるだけで動物保護団体の過激派に、テロられる危険物なだけあってかなり貴重品やけど、この時代は絹織物の方が超貴重品なんだよなぁ)

前世との価値の正反対な違いに、何とも言えない表情を浮かべる。


現代では不明だが江戸時代には、世界トップクラスの絹織物の生産地だった中国だが、後漢・三国時代には自国生産がされておらず、ペルシャ方面からの輸入オンリーだった為、下手をすると宝石や金よりも貴重品だった。


『どうしました?何か問題でも?』

「いやなに、各々こんな立派な進物をくれるのに、こちらのお返しが余りに貧相なので、受け取らない方が良いのでは?と思ってしまってな・・・。」

眉根を寄せて、悩ましげに答える。


『気にしないでください。

こういった物は、それこそ気持ちの問題であり、心が籠もっていれば良いものですから。』

匈奴族の側近がフォローする。


「そうかな?じゃあ貴君達の為に、兎を2羽狩って来たんだけど、受け取って貰えるか?」

『う、兎ですか・・・失礼。』

唖然とした表情に一瞬なり、ハッとして直ぐに平静を取り戻した。


遊牧民であり狩猟民族でもある、羌・匈奴族にとっては、兎狩りは初歩の初歩の獲物であり、子供が最初の獲物として狩るモノであった。


「プフッ」と単于の息子達が吹き出し、恥を掻かされた負の感情も一緒に吹き飛んで、侮りの視線を糜芳に対して送る。


『一生懸命狩った兎とあらば、喜んで頂こう。』

『同じく・・・いや初心者なら上出来だ。

我らには物足りない獲物だがね。』

2人共が失笑する。


「・・・・・・。」

「待て待て・・・では早速進呈致す。」

糜芳に対する侮りを、無言で怒りを露わにする龐徳を制し、(あらかじ)め置いてあった葛籠(つづら)から、40㎝四方の上部だけ開いている箱と白い布を取り出して机に置く。


『『『『『???』』』』』

意味不明な行動に首を傾げる、異民族達を余所に箱を傾かせて、皆に中には何も入っていないアピールした後、箱に白い布を被せて、


「油片手ブラ~油片手ブラ~・・・えい!」

そこはかとなく卑猥(ひわい)に聞こえる呪文らしきモノを唱え、気合い一閃少し箱に手を突っ込み気味に布を掴んで退け、空いた手を箱に突っ込んで引っ張ると、ズルリと兎が出て来た。


「「『『『はぁぁぁ!?空箱から兎が出て来たぁ!?

どうなっているんだ一体!?』』』」」

馬騰等涼州組と異民族組の双方から、()頓狂(とんきょう)な声が上がり、唖然呆然の表情で硬直している。


そんな状況をお構いなしに、ヤーさんゲーの「ドラゴンみたいに」に出てくる粗野な人相と、カリビアンな海賊船長みたいに、ジャラジャラ装飾品を付けた人物の恰好を合わせたの如き、匈奴族の次期単于に兎を渡し、羌族に近づいた。


「はい、じゃあ羌族殿の方もと・・・油片手ブラ~油片手ブラ~・・・ほい!」

持っていた白い布を広げて、バサッと振った瞬間、本物の兎が布の中から現れる。


「「『『『今度は布から兎!?妖術・・・!?』』』」」

驚きから徐々に、畏れに表情が強張っていく。


そのまま羌族の単于の息子に兎を渡し、異国の王族っぽい人には、コイン消失と転移マジックを披露して返礼とし、葛籠から薄い木札(トランプ)を取り出して柄当て(数字当て)等を行い、糜芳が席を外していない時に3組がそれぞれ選んだ札を、次々に何回も的中させていく事をしていった。


そうした結果・・・


異国の王族っぽい人達は、畏敬の目で糜芳を見る一方、羌・匈奴族の異民族組と馬騰・韓遂の涼州組達は、糜芳の存在を畏怖を越えて恐怖を感じて打ち振るえ、初期の余裕もすっかり消し飛んで目線を下にし、糜芳を観ない様になっていた。


何せ糜芳は彼らの前で、物体創世Χ2・物質転移・読心術という常人では不可能な、神技に等しい事をやってのけた(に見えた)のである。


まぁ、種明かしとして兎の件は、2重底の箱と衣服の懐にそれぞれ華陀謹製・麻沸散(まふつさん)(麻酔)で、眠らせた兎を忍ばせておいて取り出しただけである。


又、コインの転移は、最初の首落ち手品の混乱のどさくさに、異民族組の懐に忍ばせて仕込んだモノであったし、木札も古典的な心理をついたといった、総じてコテコテの初歩手品を使っただけであった。


(う~ん・・・大分ハッタリが効いたかな?

一応、きっちりトドメ刺しとくか・・・)

念押しを決める糜芳。


葛籠から御札がベタベタ張られた、あからさまに怪しい木箱を取り出して机に置くと、火種を持ってくるよう指示を出し、


「では皆様に、私の最大の秘術をお見せしよう。」

そう言って蓋を開ける。


『・・・・・・人形、か・・・?』

ゴクリと固唾(かたず)を呑んで、糜芳を見ていた羌族の単于の息子が、出て来た物を観て首を傾げる。


そうこうするうちに、糜芳がパペット人形に手を入れた途端、


[無礼者が!私を誰だと思っている!?]

「「『『『ヒィ!?人形が喋った・・・!』』』」」

突然人形から声が聞こえ、聴いた周囲は引きつったかの様な短い悲鳴を上げ、糜芳に目を向ける。


糜芳が持つ宴会芸の1つ・腹話術であった。


元々は前世の元ヤン親父が、和菓子屋みたいな名前の、芸人さんの腹話術に惚れ込み、良い年扱いて寝食を惜しんで会得したのを、指笛と同じ経緯で習得したモノである。

(因みに前世の母が常時、離婚届(必要項目を記入済み)を豊臣秀吉の如く懐に忍ばせるようになった、きっかけでもあった。)


悲しいかな、前世では保父をしている友人の、幼稚園での人形劇の助っ人(報酬・飯一食)しか、マトモな活用方法が無かったが。


それはさておき、


前世で哀を越えて得た芸をフル活用し、自分で自分に罵詈雑言を浴びせるという、アホくさい苦行をこなしつつ、「えっ、許劭(きょしょう)ってあの月旦評の?」と、さりげな~く人形の人物を示唆した後、


「うん、分かったよ許劭君。

君の言う通り、君を解放してあげよう。」

ポイッと焚いている火の中に、人形を()べた。


[ふん、サッサとせい・・・ウギャアア!?

熱い熱い!アツイー!?燃える燃えているぅ!

ぎゃああぁぁぁ!?・・・・・・ぁ]

断末魔の悲鳴を上げて(いる風に演技中)、消し炭になっていく最中に、「こっそり塩を投下」して、青い炎を化学反応で演出する。


再び唖然呆然と、青い炎に包まれて焼失していく人形を観ている、3組と馬騰・韓遂に体を向け、


「いやあ、ご覧の通り私は、()()()()()()()()()()()()()()でして。

ああやって魂魄を人形に閉じ込めた後、適当に楽しんでから、()()()()()()()()()()()()()()()()。」

邪気の無い微笑みを浮かべて、サイコパスな発言をしつつ、木箱に有る()()()()()()()()()


「「『『『ひギイィイイぃぃい!?!?』』』」」

「勿論皆さんは、私といや我が国との友好関係を、尊重してくれますよね?」

異民族組に、敵対したらこうなる覚悟をしろよ?と暗に示して、笑顔で脅す邪神・糜芳。


何故か涼州組も反応しているが。


『『『『『む、無論我々は貴方様と永劫の友誼を結ぶ事を、この場でお約束致します!!』』』』』

はは一と畏まって平伏する異民族組。


最早彼等にとって糜芳は只のシャーマンではなく、人智を超えた存在、神と言うよりも悪神・災神に近い、アン夕ッチャブルな人物に昇華していた。


「そうですか、それはお互いに良かったです。

有意義で楽しい一時でしたね。

帰りの道中気をつけて・・・。」

『『『『『は!?・・・はは!長居しました!

ではこれにて我々も失礼します!!』』』』』

糜芳に帰って良しの合図を受けた異民族組は、遠友の王族っぽい人達を引っ張って、弾かれた様に幕舎を全速力で飛び出し、素早く馬に乗って各自駆け去っていった。


『漢に災神が現れたー!凶悪の悪神が出たぁ!!』と叫びながら。


「う~ん・・・よっしゃ!任務完了!!

とっとと漢陽郡に帰りますかね~。

・・・仕事溜まってんだろうな~・・・はぁ。」

伸びをして仕事の終わりを実感した後、溜まったツケを想像して、げんなり肩を落とすのであった。


後日・・・


「州牧様、羌・匈奴族の双方から、州牧様個人宛てに、大量の貢ぎ物が届いています。」

「へ?なんで?」

「いやそれは私が聞きたいのですが?」

聞き返す蔡良。


「なんでも、「我々の永劫の友誼」を記念してとの事ですけど・・・あの~何をどうしたらこんな事態になるんです?

多分ですが漢が成立して以来、両部族が個人に貢ぎ物を差し出した事って、初めてですよ?」

「いやあ只単に蓋勲の助言通り、異民族達相手にハッタリをかましただけなんだよなぁ。」

ポリポリと後ろ手で頭を掻く。


「・・・張儀(ちょうぎ)蘇秦(そしん)も真っ青な弁舌(ハッタリ)ですね。

詳細を知りたくても、知っている人は「人形は嫌だ!」しか言わないし・・・。

挙げ句に「知れば不幸になる!」って、悉く真剣な表情で言うし・・・。」

「何だそれ?

私自身が不幸の象徴扱いになってるやんけ。」

失礼なと憤慨する。


「そう言えば巷では、「悪さをすれば、糜芳州牧が生首で飛んでくる」って噂が、まことしやかに流布しているんですけど、それと関係あります?」

「ホンマもんの妖怪扱いに成っとる!?」

驚愕の噂に驚く。


噂に尾鰭処か背鰭も付いて、空飛ぶバージョンのろくろっ首に、勝手に進化した糜芳であった。


                    続く

え~と、この章は今話で本文は終わって、閑話を挟んで次章の予定です。


とりあえずはボ○ビー回を、一周回って書こうと思っております。


楽しんで読んで頂けたら、嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] こんなの飛頭蛮だよぉ [一言] 後に演義ベースでファンタジー寄りの創作された場合、董卓を妖術で操る黒幕扱いで出てきそう
[良い点] 糜芳くん、西遊記に登場しそうw
[気になる点] 某歴史シミュレーションで、公式チートキャラですね。これは
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