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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
102/111

その5

読んでくださっている皆様方へ。


新年明けましておめでとうございます!


本年も皆様方には本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!


これからも楽しんで読んで頂けます様、精進を重ねる所存であります。


早速書き上がったので、投稿します。

糜芳が郿城建設をしていた頃、各地の群雄達は・・・。


    司隷京兆尹長安県相国府執務室


牛輔は激怒していた。


いい加減にしろクソオヤジと。


「失礼しますよオヤっさん!

ちょっと何考えとるんすか!?ねえ!?」

ズカズカと足音も荒々しく、義父であり主君である、董卓が鎮座する執務室に入るなり、目に隈を作った顔で、怒声を上げて詰め寄る。


「あん?藪から棒に一体何だよ?」

せっせと書類決裁していて、疲労困憊と云った感じの顔を上げ、怒りの表情を浮かべる娘婿で副官の牛輔に、訝しげな表情で答える。


「何だよじゃ有りませんよ!何だよじゃ!!

コレは一体どーゆう事ですかオヤっさん?」

手に持っていた竹簡を広げて、特定の箇所を指差しつつ、董卓の眼前に持って行く。


「うん?・・・近い!近(ちけ)えんだよ牛輔!

最近目が遠く(老眼)なっとるけん、近すぎたら余計に見えせんのじゃが!竹簡を離せコラ!!」

シッシッと追い払う様に手を前後して、距離を取る様に促す。


「もうちょい下がれや!・・・おう、其処や!

え~となんや・・・?」

見えやすい位置まで下がらせて、改めて確認に入る董卓。


目を眇(すが)めつつ観ると竹簡には、軍部の紳士録とでも云うべき、将軍位と任官している人物の姓名が記されており、牛輔が指差している箇所にはこう記されていた、「○○将軍・董白」と。


「・・・・・・何の問題も無いやろがい?」

「誰が観ても大ありでしょうが!?

嫁入り前の孫(・)娘(・)に、こがいなゴッツい肩書き付けて、どがいすんですかオヤっさん!?」

バンバンと両手で机を叩いて、猛抗議する。


「上はオババ様(董卓母)からオフクロさん(董卓妻)、果ては嫁さん(董卓娘で牛輔嫁)まで、「阿白を行かず後家にするつもりか!?」と言うて、カンカンに怒っとるんですよ!?」

後ろ(女性陣)からかなり詰め寄られたのか、半泣き状態で訴える、董家のマスオこと牛輔。


「ちゅうか何でオドレが、言うて来よるんじゃ?

そがいなモンは普通はや、父親の伜や弟が言うてくるモンやろが?」

「若やオジキ等が言うたて、オヤっさんがマトモに聴かせんけんでしょうが!?

いっつもかっつも毎度毎度、間に立たされる俺の身になってつかあさいや!?」

打って変わって、キレ気味に言い募る。


口よりも先に手が出て、時には非情とも言える決断を下す事も有る主君だが、耳の痛い諫言を聞く度量が有り、報奨や褒美は多少過分に出し、部下の遺族の面倒はシッカリと看るといった、体型に沿った太っ腹な頭領でも有る為、結構部下達からは慕われている董卓だったが、その部下達からも僻遠(へきえん)(敬遠)される、困った問題点があった。


言わずもがな、極度の孫娘バカである。


牛輔の子供を含めた孫は、董白を除いて悉く男の子であり、1番末に産まれた初めての孫娘を、董卓は蝶よ花よと溺愛していた。


溺愛する可愛い董白の為ならば、犬馬の労や水火の労も厭(いと)わず、周囲の迷惑も省みず、猪突猛進に突っ走るのであった。


そうなった董卓の暴走を止められる人物は、母・妻・娘の女性陣か、男性陣では長年副官を務めて、阿吽の呼吸を掴んだ牛輔ぐらいなのである。


その為董白問題に関して、男性陣から牛輔は、「牛輔若頭(カシラ)に任せれば大丈夫!」という、欠片(かけら)も嬉しくない信頼を寄せられ、例え180°違う方向から発生した問題でも、見えない壁に跳ね返ったかの如く、必ず牛輔の手許に渡って来る、最早災厄に等しい代物であった。


本来なら牛輔も、問題発生と同時に速攻で嫁にチクり、女性陣に丸投げする事が多かったのだが、今の現状では流石にマズく、どうにかして自身で諫めるしか、手段がなかったのである。


何故なら趙昂の妻・王異や、楊阜母を始めとする涼州の女性陣は、過酷な環境下で育った影響か、わりかし気が強く情もキツい人が多く、董卓の母・妻・娘も例外ではなく、董卓の立場や地位なんぞお構い無しに、容赦ない行動に出る可能性が高かった。


つまり・・・董卓母→相国の息子に、周囲に構わずガチンコ説教=董卓の社会的威厳さが死ぬ→後漢の魔王(鬼)から後漢の媽(ま)王(笑)に変化、名家閥連中等に舐められ、政権や治安維持に影響が大。

牛輔達部下連中が、右往左往する事となる。


董卓妻→相国の旦那に、周囲に構わずガチンコファイト=董卓の社会的存在感が死ぬ→後漢の魔王からオカンが魔王に変化、董卓妻が政権を掌握して、第2の呂后と評される可能性が大。

牛輔達部下連中は、別にそっちでも可。


董卓娘→相国の父親に、周囲に構わずガチンコ口撃=董卓の内部精神が死ぬ→後漢の魔王から五感が摩耗され、某明日のボクサーの様に座ったまま灰になり、使い物にならなくなる可能性大。

牛輔達部下連中も、連鎖的に仕事の負担が増し、同じく灰になる・・・のであった。


なんかもうオフクロさんでも良いかなぁ、という思考を頭の隅に追いやりつつ、政権運営に悪影響が出ない様兼、これ以上余計な騒ぎを回避するのに、孤軍奮闘をしている牛輔。


「とりあえずオババ様達の意見は、列候の爵位と領地を与える迄は、阿白にとっても持参金代わりになるし、後々子や孫にも引き継げるけん、まぁ良しらしいですけんどが、幾ら何でも流石に将軍位もは、釣り合いがとれるモンがおらんなるけん、やり過ぎやわとの事です。」

悲しくなるぐらいド正論を述べている、女性陣の意見を董卓に伝える。


「いやいや阿白の面倒は、儂がキチンと看るけん問題ないやろ?」

「何時(いつ)まで生きるつもりっスかアンタは!?

オヤっさんの方が、先にお迎えが来るでしょ!?

そがいな悠長に物事考えとったら、将来的に困るんは、オヤっさんやのうて阿白なんですよ!?」

再びバンっと机を叩いて詰め寄る。


「いやけどやあ、阿白の婿になるんやったらや、将軍位ぐらいの格は、持っとらせんといかんやろ?」

「で・す・け・ん・ね!オヤっさん?

そがいな縛りを付けてもうたら、阿白と歳(・)の(・)近(・)い(・)モン即ち、適齢者が居らんなるけん、止めろっつうて言(ゆ)うとるんでしょうがオババ様達は!!」

完全に孫娘バカと化している董卓に、母妻子が反対している理由を述べて、


「もしもオヤっさんの言う通り、阿白と同格以上を求めた場合、阿白の将軍位は雑号(ざつごう)(明確な職権や職務の無い、有り合わせの称号=准将クラス)とは言え、校尉(佐官以下)よりは上位になります。

ちゅう事はですよ?そがい言うたら、俺と変わらんかオヤっさんと同じぐらいの、中央軍部内ですらええ歳した中年男以上しか、阿白の嫁ぎ先が無いなるんですよ?

そがいな歳で初婚なんぞ、居りゃあせんでしょうけん、阿白は後添いで嫁ぐ羽目になるんですけども、それでええんですかオヤっさん?」

現実をしっかり解説する。


「ええ訳あるかいや!?

そがいな狒狒(ひひ)親父共に、阿白をやってたまるか!

ほたら文官はどがいや牛輔!?」

顔を真っ赤にして怒る、狒狒親父。


「う~ん文官やったら・・・中央やと九卿よりも下ぐらい、地方やったら郡太守から刺史ぐらい、ですかね?恐らく。」

腕を組んで眉間に皺を寄せつつ予測し、


「まぁ武官よりは、可能性が広がりますけんどが、中央の適齢者の大半は、オヤっさんが毛嫌いしとる名家閥の、青瓢箪か腐れ者ですし、地方は涼州を除けば、軒並み朝廷に刃向かっとる、碌でなしばっかりですで?」

絶望的状況を告げる。


「うぬぬ・・・じゃあやっぱ・「かと言うて行かず後家にしてもうたら、最悪阿白に恨まれて嫌わ・「せやな!将軍位はやっぱりやり過ぎやわな!無かった事にしよわい!」

孫娘バカをぶり返した直後に、牛輔からNGワードが出た為慌てて前言を翻し、竹簡に書かれた董白の名前を削除した。


(・・・ふぅ、何とかこれ以上の面倒事は、無事にかわせたか・・・)

脳内で額を拭う牛輔。


「もう・・・しゃっちに(わざわざ)忙(せわ)しい時に、しょうもない事せんでくださいや、オヤっさん。」

溜め息混じりに愚痴を呟いた。


牛輔も牛輔で、董卓の副官として皇甫嵩や朱儁らと共に、長安移転後の軍の再編成や、上下関係の位置付け、配置転換などの諸々の職務に逐われており、多忙であった。


「うっせぇわい!将軍位に就けりゃあ阿白が、儂ん所に堂々と遊びに来れるやろが?

こがいに書類始末に追われとんのやけん、可愛い孫娘を愛でて、癒やしを求めるぐらいは、構せんやろうがや!?」

唇を尖らせて、自己主張の正当性を訴える。


「癒やしを得ようとして、オババ様達の怒りを得てもうたら、本末転倒ですやんけ。

とりあえず年末年始は、覚悟しとった方がええですよ?オヤっさん。」

「は?何でや?」

首を傾げて牛輔に問い掛ける。


「郿城建設の責任者・糜芳殿の報告では、年末には郿城の内壁と、住居区域が出来る言うとりましたけん、それに伴って董一族の男衆が、長安のバタバタで全員詰めとる間の、郿城の留守居としてオババ様達が、移住して来るんは確実ですけん・・・。」

「うげっ!!・・・そう言やそやったな。」

牛輔の話に、サーッと顔面蒼白になる。


郿城は名目上董卓が、献帝から賜った領地なので、それに伴って董卓の一族一門も、当主に従って移住して来るのは、至極当然の事であった。


「と、とりあえず多忙やけん・・・。」

「なんぼ多忙やっても、郿城と長安は指呼の間ですけん、向こうから来ますわ。

オババ様達に長安で騒がれたら、大儀(たいぎ)ぃ(面倒くさい)事になりますんで、オヤっさんに縄を掛けてでも郿城に、挨拶に逝(・)っ(・)て(・)貰いますけんね?」

何とか逃げを打とうとする主君に、すかさず論理的に追い詰めていく。


「!?牛輔オドレ!儂を売る気かいや!?」

「売るもクソもオヤっさん、我(わ)がが(自分が)蒔いた種でしょうが!?

ケツ(責任)持って我がで終(しま)い(始末)を、しゃんしゃん(キッチリと)着けてくださいや!?」

董卓の怒声に、牛輔も怒声を返したのであった。


こうして董卓は女性陣達に、シバかれるのが全自動で確定し、糜芳が落成式に招待した時には、箱型の豪奢な馬車に幾重もの縄が掛けられた、まるで護(・)送(・)車(・)の様な状態で、現れたのであった。


その様に董卓が自業自得をしている頃・・・


    荊州長沙郡臨相県郡太守執務室


「お疲れ様ですわ若。

ちぃと一服されますか?」

「うぃいいー・・・メッチャしんどいわー。

公瑾助けてくれ~。」

執務室を訪れた祖茂の一言で、竹簡をポイと放り投げ、ゴンッと机に頭を打ち付けつつ、気だるげな姿勢になって、この場に居ない親友の周瑜に助けを求める。


「此処に居らへん周瑜君に助けを求めたかて、しょうがあらへんでしょうに。」

「んなもん解っとるけど、言いたくなるわ。

オトンは何時になったら帰ってくんねん?」

ぐて~とした格好で、片手で器用に白湯を持ってきた、孫堅の親衛隊長役を怪我で退き、今は孫家の執事兼、孫策の守り役となった祖茂に愚痴る。


現状の孫堅は、連合軍解散後の撤退中に、董卓軍に敗れたと判断した、荊州刺史の劉表の襲撃を受けた借りを返す為、劉表討伐に向けてせっせと、長沙郡以外の荊南3郡(武稜・零稜・桂陽)に出兵し、後方の憂いを取り除く事に専念していた。


その為孫堅が出兵中の間は、嫡男であり留守居を務める孫策が、名代として長沙郡の政務を代行しているのである。


「さあ・・・何とも言えまへんな。

韓当達からの便りですと、殿に付くのを良しとせず、劉表に組する奴らがそこそこに多く、叩いても叩いても土竜(モグラ)の如く湧いて出るとか。

一朝一夕とは、中々にいかへんみたいですわ。」

「はん、腐っても鯛っちゅうこっちゃかよ?

あないな二股膏薬(ふたまたごうやく)をかける卑怯者に、そないな高い人望が有るとは、到底思えへんけどな。」

祖茂の話しに、不機嫌な表情で鼻を鳴らす。


「まぁ背後から矢を射かける卑怯者でも、殿に反発する輩共には、曲がりなりにも腐っても皇族ですさかい、都合のええ御旗になりますよって。」

「所詮そないなモンやろーな。

しっかし・・・それはええねんけど、(孫)静おいちゃんも(呉)景おいちゃんも、荊北で何ぞゴソゴソしよるせいで、政務が溜まってこたわんわぁ~。」

死んだ魚の様な目で、うずたかく積まれた竹簡の山を、じっとりと横目にみる。


「すんまへんなぁ若。

ワイは武官の経験しかないもんですんで、政に関してはからっきしですねん。

お役に立てへんとすんまへん。」

「きにせんでええて祖茂。

お前が居るお陰で、留守居部隊の統括が上手くいっとるんやから。

政にまで協力を求めるんは、贅沢にも程が有るわ。」

手を左右に振って、祖茂に返事をする。


実際に間近で、孫堅の部隊運用のやり方を観ていた祖茂の助言で、留守を預かっている孫策も大いに助かっていた。


「はは、お言葉ありがたく。

それはそれで若、しゃんとしなはれ。

若も殿程ではないにせよ、今や若を慕って集う者も居るんですから。」

拱手した後、苦言を呈す。


祖茂の苦言を聴いた途端、ピクリと反応して姿勢を正す孫策。


「フフフ・・・立場が人を作る言いますけどが、ホンマでんなぁ。

殿が義勇軍を起こしてから、程普達を得てしゃんとしなはった様に、若も周泰(しゅうたい)達を得てから、一本筋が通った気がしますなぁ。」

微苦笑して見詰める。


基本的に孫堅の盛名を慕って、孫堅軍に志願する者達が殆どな中、珍しく孫策の配下に志願して来たのが、周泰・將欽(しょうきん)・董襲(とうしゅう)・陳武(ちんぶ)の4人だった。


尾羽打ち枯らした見窄(みすぼ)らしい身形(みなり)の4人と、直接面接した孫策は、自身が武勇に秀でている為か、彼等に武辺者の匂いを感じ取り、その場で採用を決定。


自分の衣服や装備品を渡した上、宴を催して歓迎したのだった。


下にも置かない丁重な扱いを受けた4人は、感動して改めて孫策に忠誠を誓ったのであった。


そうして迎え入れられた周泰達は、孫策の見立て通りに武勇を示し、特に周泰・將欽は孫堅軍内でも、五指に入る孫策に引けを取らない武才を見せて、周囲を驚かせた。


董襲・陳武も人並み以上の武勇と同時に、元々水賊の頭領だった経験から、指揮能力に優れた軍才を示して、4人共が一足飛びに、校尉に取り立てられたのである。


その為程普・黄蓋・韓当達から、孫策世代の時代を担う有力幹部候補として期待され、各自直々に扱かれる日々を送っていた。


北の江陵に展開する劉表軍の牽制と警戒の為、長江の南沿いに駐屯する程普の下には、弓術にも優れた將欽と、水戦に長けた董襲が付いて、補佐役兼指揮官見習いとして軍学を学び、祖茂に代わって孫堅の親衛隊長になった韓当に、寡黙で武勇に長けた周泰が付き、孫堅本軍の親衛隊に配属される形で、実地で旗本としての立ち振る舞い・心得を学んでいる。


残る陳武は本軍が平定した後の地域で、慰撫を務める黄蓋の下に付き、治安維持に従事する傍ら、兵の配置・運用や武具・兵糧の運搬といった兵站と、軍隊内での成敗といった軍法などの、後方支援=軍政を主に学んでおり、他の3者と違った分野の育成を受けていたのであった。


そうしてメキメキと力を着けていく、部下を観て孫策も触発されたのか、少し前までは父と同じ様に、苦手な政務から逃げ出していたのに、現在は逃げずに四苦八苦しつつも、一生懸命に頑張っている事は、生まれた時から知っている祖茂には、大変な進歩に見えるのである。


「まぁな、アイツ等が色々と学んで前へ前へ行きよるのに、主君のオレがのんびり遊んどる訳にいかんやろ?」

気恥ずかしげに、白湯を啜る孫策。


「あ、そう言や連合軍の出征から帰って来てから、オトンが帝王学とか言うて、「市井の娘っ子に言い寄ったらアカン、下手をすると後々面倒事になるさかいにな」って、くどくど言うて来るんやけど、コレって帝王学になるんかいな祖茂?」

湯呑みを置いた後、今思い出したとばかりに、祖茂に尋ねる。


「あ~・・・それは帝王学と言うよりは、殿の実体験談から来とる忠告ですわ。」

「うん?実体験談?詳しく知っとんのか祖茂?」

言い辛そうに呟く祖茂に、首を傾げて問い質す。


「ええ、まぁ・・・程普達は義勇軍旗揚げ時に、殿の家臣となった奴等ですが、ワイは旗揚げ以前から、殿の部下と言うか子分でしたさかいに、古馴染みみたいなモンでして。」

残った片手で、後ろ髪を掻く。


「へぇ、せやったんかぁ・・・ほんなら祖茂が、ホンマもんの最古参なんやなぁ。」

「へへ、まぁそんなもんですわ。」

顔を赤らめて照れる祖茂。


「んで?実体験談って何や?」

「あ~・・・殿って若もご存知の通り、結構な女好きですやん?」

「まぁせやな。」

間違いないと、コクリと頷く。


「今でさえ好き者やのに、殿が若ぐらいの歳には当然の如く、盛りの付いた猿同然でした。」

「・・・あっさりと予想が付いて、否定できひんのが悲しい・・・。」

さもありなんと思わず納得してしまう。


「若も知っての通り、元々孫家は富豪の家でしたさかい、殿は酒と女を買うのには、何の不自由もしませんでした。

そんで商売女に飽きた殿は、「せや!素人の初(うぶ)な娘っ子を引っ掛けたろ(ナンパしたろ)!」と言うて、市井の娘っ子に興味関心を抱きました。」

「オーイ・・・オトンに対する尊敬の念が、オレの中で絶賛大暴落しとるんやけどぉ?」

ガックリと頭を垂れて、嘆く息子。


「それで娘っ子を引っ掛けるべく、先ずはワイを暴漢に仕立てて、いちゃもんを付けさせた処を、颯爽と助けて縁を持とうと画策しました。」

「いやそれって、オトンと祖茂の関係がバレたら、あっという間に破綻する縁やんか。」

呆れ口調で突っ込む。


「ええ、若のご指摘通り、只単にワイが殴られ損になるだけですさかい、当然反対して拒否しました。

すると今度は、未だ当時幼かった静殿を連れてきて、静殿が目標にぶつかった処を爽やかに謝罪して、引っ掛ける切っ掛け(きっかけ)にしようと画策したんですわ。」

「何処が爽やかやねん。

思っくそどす黒いやんけ。」

額に手を当て、父のアホっ振りに突っ込む。


「その作戦でいけると確信した殿は、目標を定めて静殿をけしかけて仕向けた処、ものの見事に娘っ子を引っ掛ける事に成功しました。

そうして引っ掛けたのが・・・奥様でした。」

「初っぱなに、大物を釣り上げたなオトンも。」

「ええ、空前絶後の大物ですわな。」

孫策の感想に、大いに同意する。


「まぁ切っ掛けは碌でもないモンでしたけど、奥様もど~も殿に一目惚れしたらしゅうて、ちょくちょく逢瀬(デート)を重ねて、親密になっていかれました。」

「う~ん・・・ようもまぁ猿同然のオトンが、オカンだけ引っ掛けたんで満足したな?」

腕を組んで感心半分、呆れ半分といった表情を浮かべた。


「んな訳ないですやん。

逢瀬の合間を縫うて、せっせと他の女を引っ掛け様として、即座に奥様にバレて追いかけ回された上、ど突かれまくってましたわ。

そうした奥様の涙ぐましい調教の結果、とりあえずは学習したらしい殿が、市井の娘さんを引っ掛ける事は無くなりましたね。」

昔を思い出したのか、遠い目で微笑む。


「調教て・・・泣いたんはどっちか言うたら、オトンの方ちゃうか?」

「それは自業自得ですさかいに。」

「それもそうやな。」

祖茂の一刀両断な意見に、コクリと頷いた。


「まぁそんなこんなで、親密になっていっとる時に奥様が、数人の男に絡まれとんのを殿が見かけ、憤怒して男達をぶちのめし、奥様を助けて孫家で匿う、という事件が発生しました。」

「ええ!?オカンに手ぇ出す強者が、まさか居ったなんて・・・其奴(そいつ)等勇士やな。」

「ちょっ!?声が大きいですて若!

奥様にもしもそないな感想聴かれたら、容赦なくシバかれますで!?」

口に指を当て、不安げに周囲を見渡す祖茂。


「(済まん済まん)・・・ほいで続きは?」

「ほいで殿がぶちのめした男達つうのが、奥様の実家・呉家のモンでしてなぁ。

家を抜け出して殿と逢瀬しとる、奥様を連れ戻しに来とった連中やったんですわ。」

「はい?オカンって実家に黙って、オトンと逢い引きしとったんかいな?」

名家の子女と思えない、大胆な行動に驚く。


「ええ、どうやらせやったみたいで、殿もワイも奥様の身形を観て、それなりの家の子女やとは思うとったんですが、まさか江東4家に次ぐと云われた、名家・呉家の子女やとは、流石に思いもよりませんでしたわ。」

そう言うと嘆息して、


「そんな名家の子女である奥様を、殿(・)が(・)誘(・)拐(・)し(・)た(・)と呉家の方では大騒ぎになり、殿の素性が即日バレた途端に、激怒した奥様の父君=呉家の先代当主様が、自家の兵士を大勢引き連れて、孫家に乗り込んで来られました。」

とんでもない話を語り出した。


「あの温厚だった呉の爺ちゃんがなぁ・・・とても信じられへんわ。」

「幾ら温厚な方でも、自分の娘が誘拐されて怒らん、親はいてへんですよ若。」

諭す様に孫策に話す。


「そいでオトンや爺ちゃんはどないしたんや?」

「殿も殿の親父さんとお袋さん・・・失礼、え~先代様も大奥様も、事情を聴いてビックリ仰天、殿共々その場で土下座して、平謝りしてました。

先代様が殿の頭を叩き付ける度(たんび)に、蹴鞠(けまり)の鞠の様に、頭が上下に跳ねてましたな。」

「・・・爺ちゃん容赦ないなホンマ。」

自身の記憶に有る、陽気な祖父と結び付かずに困惑顔の孫策。


「しかしよう其処まで拗(こじ)れて、オトンとオカンは結婚でけたな?」

「ええまぁ・・・奥様が殿を庇われましてな。

「私の為ならば、巷を騒がしている海賊をも倒してみせてくれます!」と。」

「・・・なぁ、それって庇っとんのか?

寧ろ、追い討ちかけとるんちゃうか?」

半眼で呟く。


「恋は盲目と言いますよって。

コレは後で、呉景殿から聴いた話ですが、この時点で呉家の先代は奥様を、殿の許に嫁がせる算段やったそうですわ。」

「へ?そうなんか?」

意外な話しに首を傾げる。


「第1に、殿と付き会うとんのが、大々的に知られてもうてましたさかい、今更余所に嫁がせるのが、非常に難しかった事でんな。」

「確かに貞操を疑われるわな。

女好きて評判のオトンとやったら、尚更。」

「そう言うこっちゃですな。」

孫策の言に頷く。


「第2に、富豪やった孫家に嫁がせるんは、決して嫁ぎ先としては、悪うなかった事でんな。

江東4家に嫁がせるなら兎も角、下手な家柄のみの家に嫁がせるよりも、莫大な財産持っとる孫家の方が、よっぽど呉家の利益になると、先代様は踏んだようですわ。」

「う~ん・・・タダでは転ばんてか。」

呉家の先代の強かさに、舌を巻く。


「んでそういった背景が有って呉家の先代様は、「ほなら海賊を見事退治したら、娘を嫁に呉れてやる」と、条件付きで結婚をお許しになった訳ですね。」

「うん?あれ?オトンの意思は?」

「有る訳ないですやん若。

事此処に至ってもうたら、どないに転んでも結婚は、決定事項ですわな。」

手と頭を左右に振って、「無いですわ」と表示する。


「う~ん・・・まぁ、どう考えてもオトンに非が有るさかい、責任とるんは解るんやけど、呉の爺ちゃんもややこしい事せんと、素直に認めたってもええんとちゃうん?」

孫策は素朴な疑問を呈す。


「それが名家のやんちゃい(面倒な)処でして。

そのままやったら「お金で娘を売った」だの、「娘を拐かされて泣き寝入りした」だのと、家の面子(メンツ)に関わる悪評を他の江東の名家から、被(こうむ)りかねへんかったらしいですわ。」

又聞きした事をのべ、


「そういう事で、明らかに格不足の孫家に嫁がせるには、「何らかの世間が認める事をしたから、呉家の先代様が殿を認めて、娘を嫁がせて婿にした」ちゅう、世間的な名分が必要やった訳ですね。」

呉家側の思惑を話す。


「ふ~んなる程なぁ。

わりかし条件が厳しい気もするけど。」

「まぁ、呉家の先代様からしたら、ちゃんと成算が有っての条件提示やったそうですけど。」

「そうなんか?」

首を傾げる。


「孫家の持っとる豊富な資金力で、県令なり郡太守なりに渡りを着け、軍を出動させて海賊を退治させるっつう、考えやったそうです。」

「確かに堅実な方法やな。

孫家自体が名を上げる事で、跡取りのオトンにオカンを嫁がせて、孫家との縁を持とうとした、ちゅう筋書きかいな。」

祖父の目論見を、しっかりと読む。


「そういう事でんな。

有る意味孫家から呉家に贈る、結納品みたいなモンでしょう。

まぁ後は奥様の幸せと、孫家に有責を負わす方が、何かと呉家にも都合がええ面も有って、孫家の先代様に呉家の先代様から、解決策を教授したらしいですが・・・。」

「・・・が?何や?」

続きを促す。


「先代様達があーだこーだしとる間に、殿が単身海賊の許に赴いて、頭領の首をハネて討ち取り、その討ち取った首を、呉家に持参して行きました。」

「蛮族も真っ青な結納品やなソレ・・・。」

ぶっ飛んだエピソードに絶句する。


「まぁ確かに・・・。

しかしながら結果的に、殿の蛮行とも言える行動は英雄視され、無事奥様と結婚する事が出来ましたし、後の呉家と孫家の力関係の確立にも、結局はなりましたさかいに。」

孫策の感想に頷きつつ、孫堅を擁護する。


「ふ~む・・・確かにせやな。

俺が物心ついた時から、両家が今の関係やったさかい、別に不思議に思わなんだけど、漸(ようよ)う考えたら商家出の孫家に、江東有数の名家・呉家が従っとるって、結構おかしな話やわな。」

今更ながらに疑問が浮かび、父・孫堅の行動で、今の自分が有る事を知ったのであった。


後漢時代の身分格差は結構厳密であり、糜芳が有名武将獲得を諦めたのも、この身分格差が有った為だし、曹操ですら身分格差に泣かされて、初期には深刻な人材不足であった。


逆に碌に実績の無い袁紹や、実績処か実力も無い袁術が、いち早く人材を得て独立勢力を築けたのは、後漢時代の身分格差の恩恵である。


そんな中で、幾ら義弟と云えど名家当主の呉景や、江東4家の1つ・朱家に連なる朱治(しゅち)を、自分の配下に加えている事は、非常に稀有な事例であった。


「・・・まぁ、呉景殿に関しては、実姉である奥様の口添えもとい、力添えが有ったのも、無きにしもあらずですが。」

「・・・いやソレ十中八九、力添えやのうてオカンの力尽くやろ?

とても景おいちゃんが、オカンに逆らえるとは思えへんし。」

母・呉国太の忠実なる下僕(しもべ)である、叔父を思い浮かべて断言した。


「・・・さぁ、ワイからは何とも。

まぁと言う訳で、ちょっとした事でそうした騒動を、殿も実体験なさったので、気ぃ付けろ言うこっちゃですわ。」

「いや・・・逆にオトンみたいにせぇと言う方が、無茶で無理難題やろ・・・。

やれ言われて出来るモンとちゃうで。」

孫堅で実体験談の内容を聴いて、余りにも破天荒な話しに呆れる孫策。


そうして衝撃的な休憩時間を過ごし、父・孫堅に対して「ああは成るまい」と、実体験談を聴いて実感し、母・呉国太に対して「あの人には逆らうまい」と、保身を固く心に誓った孫策であった。


しかしながら、蛙の子は蛙と謂うべきか、歴史は繰り返すと言うべきか、孫堅と似たようなエピソードで、自分も妻を得る事になろうとは、知る由もない孫策であった。


                  続く

とりあえず董卓と、孫家の現状(?)を書いてみましたが、次話は他の群雄を書くべきか、糜芳の方に戻すか思考中であります。


・・・う~ん、悩ましい・・・。


それはさておき、


今年も楽しんで、読んで頂けたら嬉しいです。


今年も優しい評価を、何卒お願いしますか

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。いつもたのしく読まさせていただいてます。 できれば、糜芳の方に戻してほしいです^^
董白の旦那候補で地位や年齢合うの既婚者の糜芳しか居なくね? 押し込む場合、伝え方によっては軍部の兵糧庫といえる徐州有力者の糜家と糜芳の妻の実家で朝廷有力者の蔡家に喧嘩売る形になりかねんか?
董白が将軍になったら、婿候補は糜芳しか居らんぞ? まあ、既婚だから側室?第2夫人?になるけど
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