その5
読んでくださっている皆様方へ。
新年明けましておめでとうございます!
本年も皆様方には本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
これからも楽しんで読んで頂けます様、精進を重ねる所存であります。
早速書き上がったので、投稿します。
糜芳が郿城建設をしていた頃、各地の群雄達は・・・。
司隷京兆尹長安県相国府執務室
牛輔は激怒していた。
いい加減にしろクソオヤジと。
「失礼しますよオヤっさん!
ちょっと何考えとるんすか!?ねえ!?」
ズカズカと足音も荒々しく、義父であり主君である、董卓が鎮座する執務室に入るなり、目に隈を作った顔で、怒声を上げて詰め寄る。
「あん?藪から棒に一体何だよ?」
せっせと書類決裁していて、疲労困憊と云った感じの顔を上げ、怒りの表情を浮かべる娘婿で副官の牛輔に、訝しげな表情で答える。
「何だよじゃ有りませんよ!何だよじゃ!!
コレは一体どーゆう事ですかオヤっさん?」
手に持っていた竹簡を広げて、特定の箇所を指差しつつ、董卓の眼前に持って行く。
「うん?・・・近い!近えんだよ牛輔!
最近目が遠く(老眼)なっとるけん、近すぎたら余計に見えせんのじゃが!竹簡を離せコラ!!」
シッシッと追い払う様に手を前後して、距離を取る様に促す。
「もうちょい下がれや!・・・おう、其処や!
え~となんや・・・?」
見えやすい位置まで下がらせて、改めて確認に入る董卓。
目を眇めつつ観ると竹簡には、軍部の紳士録とでも云うべき、将軍位と任官している人物の姓名が記されており、牛輔が指差している箇所にはこう記されていた、「○○将軍・董白」と。
「・・・・・・何の問題も無いやろがい?」
「誰が観ても大ありでしょうが!?
嫁入り前の孫娘に、こがいなゴッツい肩書き付けて、どがいすんですかオヤっさん!?」
バンバンと両手で机を叩いて、猛抗議する。
「上はオババ様(董卓母)からオフクロさん(董卓妻)、果ては嫁さん(董卓娘で牛輔嫁)まで、「阿白を行かず後家にするつもりか!?」と言うて、カンカンに怒っとるんですよ!?」
後ろ(女性陣)からかなり詰め寄られたのか、半泣き状態で訴える、董家のマスオこと牛輔。
「ちゅうか何でオドレが、言うて来よるんじゃ?
そがいなモンは普通はや、父親の伜や弟が言うてくるモンやろが?」
「若やオジキ等が言うたて、オヤっさんがマトモに聴かせんけんでしょうが!?
いっつもかっつも毎度毎度、間に立たされる俺の身になってつかあさいや!?」
打って変わって、キレ気味に言い募る。
口よりも先に手が出て、時には非情とも言える決断を下す事も有る主君だが、耳の痛い諫言を聞く度量が有り、報奨や褒美は多少過分に出し、部下の遺族の面倒はシッカリと看るといった、体型に沿った太っ腹な頭領でも有る為、結構部下達からは慕われている董卓だったが、その部下達からも僻遠(敬遠)される、困った問題点があった。
言わずもがな、極度の孫娘バカである。
牛輔の子供を含めた孫は、董白を除いて悉く男の子であり、1番末に産まれた初めての孫娘を、董卓は蝶よ花よと溺愛していた。
溺愛する可愛い董白の為ならば、犬馬の労や水火の労も厭わず、周囲の迷惑も省みず、猪突猛進に突っ走るのであった。
そうなった董卓の暴走を止められる人物は、母・妻・娘の女性陣か、男性陣では長年副官を務めて、阿吽の呼吸を掴んだ牛輔ぐらいなのである。
その為董白問題に関して、男性陣から牛輔は、「牛輔若頭に任せれば大丈夫!」という、欠片も嬉しくない信頼を寄せられ、例え180°違う方向から発生した問題でも、見えない壁に跳ね返ったかの如く、必ず牛輔の手許に渡って来る、最早災厄に等しい代物であった。
本来なら牛輔も、問題発生と同時に速攻で嫁にチクり、女性陣に丸投げする事が多かったのだが、今の現状では流石にマズく、どうにかして自身で諫めるしか、手段がなかったのである。
何故なら趙昂の妻・王異や、楊阜母を始めとする涼州の女性陣は、過酷な環境下で育った影響か、わりかし気が強く情もキツい人が多く、董卓の母・妻・娘も例外ではなく、董卓の立場や地位なんぞお構い無しに、容赦ない行動に出る可能性が高かった。
つまり・・・董卓母→相国の息子に、周囲に構わずガチンコ説教=董卓の社会的威厳さが死ぬ→後漢の魔王(鬼)から後漢の媽王(笑)に変化、名家閥連中等に舐められ、政権や治安維持に影響が大。
牛輔達部下連中が、右往左往する事となる。
董卓妻→相国の旦那に、周囲に構わずガチンコファイト=董卓の社会的存在感が死ぬ→後漢の魔王からオカンが魔王に変化、董卓妻が政権を掌握して、第2の呂后と評される可能性が大。
牛輔達部下連中は、別にそっちでも可。
董卓娘→相国の父親に、周囲に構わずガチンコ口撃=董卓の内部精神が死ぬ→後漢の魔王から五感が摩耗され、某明日のボクサーの様に座ったまま灰になり、使い物にならなくなる可能性大。
牛輔達部下連中も、連鎖的に仕事の負担が増し、同じく灰になる・・・のであった。
なんかもうオフクロさんでも良いかなぁ、という思考を頭の隅に追いやりつつ、政権運営に悪影響が出ない様兼、これ以上余計な騒ぎを回避するのに、孤軍奮闘をしている牛輔。
「とりあえずオババ様達の意見は、列候の爵位と領地を与える迄は、阿白にとっても持参金代わりになるし、後々子や孫にも引き継げるけん、まぁ良しらしいですけんどが、幾ら何でも流石に将軍位もは、釣り合いがとれるモンがおらんなるけん、やり過ぎやわとの事です。」
悲しくなるぐらいド正論を述べている、女性陣の意見を董卓に伝える。
「いやいや阿白の面倒は、儂がキチンと看るけん問題ないやろ?」
「何時まで生きるつもりっスかアンタは!?
オヤっさんの方が、先にお迎えが来るでしょ!?
そがいな悠長に物事考えとったら、将来的に困るんは、オヤっさんやのうて阿白なんですよ!?」
再びバンっと机を叩いて詰め寄る。
「いやけどやあ、阿白の婿になるんやったらや、将軍位ぐらいの格は、持っとらせんといかんやろ?」
「で・す・け・ん・ね!オヤっさん?
そがいな縛りを付けてもうたら、阿白と歳の近いモン即ち、適齢者が居らんなるけん、止めろっつうて言うとるんでしょうがオババ様達は!!」
完全に孫娘バカと化している董卓に、母妻子が反対している理由を述べて、
「もしもオヤっさんの言う通り、阿白と同格以上を求めた場合、阿白の将軍位は雑号(明確な職権や職務の無い、有り合わせの称号=准将クラス)とは言え、校尉(佐官以下)よりは上位になります。
ちゅう事はですよ?そがい言うたら、俺と変わらんかオヤっさんと同じぐらいの、中央軍部内ですらええ歳した中年男以上しか、阿白の嫁ぎ先が無いなるんですよ?
そがいな歳で初婚なんぞ、居りゃあせんでしょうけん、阿白は後添いで嫁ぐ羽目になるんですけども、それでええんですかオヤっさん?」
現実をしっかり解説する。
「ええ訳あるかいや!?
そがいな狒狒親父共に、阿白をやってたまるか!
ほたら文官はどがいや牛輔!?」
顔を真っ赤にして怒る、狒狒親父。
「う~ん文官やったら・・・中央やと九卿よりも下ぐらい、地方やったら郡太守から刺史ぐらい、ですかね?恐らく。」
腕を組んで眉間に皺を寄せつつ予測し、
「まぁ武官よりは、可能性が広がりますけんどが、中央の適齢者の大半は、オヤっさんが毛嫌いしとる名家閥の、青瓢箪か腐れ者ですし、地方は涼州を除けば、軒並み朝廷に刃向かっとる、碌でなしばっかりですで?」
絶望的状況を告げる。
「うぬぬ・・・じゃあやっぱ・「かと言うて行かず後家にしてもうたら、最悪阿白に恨まれて嫌わ・「せやな!将軍位はやっぱりやり過ぎやわな!無かった事にしよわい!」
孫娘バカをぶり返した直後に、牛輔からNGワードが出た為慌てて前言を翻し、竹簡に書かれた董白の名前を削除した。
(・・・ふぅ、何とかこれ以上の面倒事は、無事にかわせたか・・・)
脳内で額を拭う牛輔。
「もう・・・しゃっちに(わざわざ)忙しい時に、しょうもない事せんでくださいや、オヤっさん。」
溜め息混じりに愚痴を呟いた。
牛輔も牛輔で、董卓の副官として皇甫嵩や朱儁らと共に、長安移転後の軍の再編成や、上下関係の位置付け、配置転換などの諸々の職務に逐われており、多忙であった。
「うっせぇわい!将軍位に就けりゃあ阿白が、儂ん所に堂々と遊びに来れるやろが?
こがいに書類始末に追われとんのやけん、可愛い孫娘を愛でて、癒やしを求めるぐらいは、構せんやろうがや!?」
唇を尖らせて、自己主張の正当性を訴える。
「癒やしを得ようとして、オババ様達の怒りを得てもうたら、本末転倒ですやんけ。
とりあえず年末年始は、覚悟しとった方がええですよ?オヤっさん。」
「は?何でや?」
首を傾げて牛輔に問い掛ける。
「郿城建設の責任者・糜芳殿の報告では、年末には郿城の内壁と、住居区域が出来る言うとりましたけん、それに伴って董一族の男衆が、長安のバタバタで全員詰めとる間の、郿城の留守居としてオババ様達が、移住して来るんは確実ですけん・・・。」
「うげっ!!・・・そう言やそやったな。」
牛輔の話に、サーッと顔面蒼白になる。
郿城は名目上董卓が、献帝から賜った領地なので、それに伴って董卓の一族一門も、当主に従って移住して来るのは、至極当然の事であった。
「と、とりあえず多忙やけん・・・。」
「なんぼ多忙やっても、郿城と長安は指呼の間ですけん、向こうから来ますわ。
オババ様達に長安で騒がれたら、大儀ぃ(面倒くさい)事になりますんで、オヤっさんに縄を掛けてでも郿城に、挨拶に逝って貰いますけんね?」
何とか逃げを打とうとする主君に、すかさず論理的に追い詰めていく。
「!?牛輔オドレ!儂を売る気かいや!?」
「売るもクソもオヤっさん、我がが(自分が)蒔いた種でしょうが!?
ケツ(責任)持って我がで終い(始末)を、しゃんしゃん(キッチリと)着けてくださいや!?」
董卓の怒声に、牛輔も怒声を返したのであった。
こうして董卓は女性陣達に、シバかれるのが全自動で確定し、糜芳が落成式に招待した時には、箱型の豪奢な馬車に幾重もの縄が掛けられた、まるで護送車の様な状態で、現れたのであった。
その様に董卓が自業自得をしている頃・・・
荊州長沙郡臨相県郡太守執務室
「お疲れ様ですわ若。
ちぃと一服されますか?」
「うぃいいー・・・メッチャしんどいわー。
公瑾助けてくれ~。」
執務室を訪れた祖茂の一言で、竹簡をポイと放り投げ、ゴンッと机に頭を打ち付けつつ、気だるげな姿勢になって、この場に居ない親友の周瑜に助けを求める。
「此処に居らへん周瑜君に助けを求めたかて、しょうがあらへんでしょうに。」
「んなもん解っとるけど、言いたくなるわ。
オトンは何時になったら帰ってくんねん?」
ぐて~とした格好で、片手で器用に白湯を持ってきた、孫堅の親衛隊長役を怪我で退き、今は孫家の執事兼、孫策の守り役となった祖茂に愚痴る。
現状の孫堅は、連合軍解散後の撤退中に、董卓軍に敗れたと判断した、荊州刺史の劉表の襲撃を受けた借りを返す為、劉表討伐に向けてせっせと、長沙郡以外の荊南3郡(武稜・零稜・桂陽)に出兵し、後方の憂いを取り除く事に専念していた。
その為孫堅が出兵中の間は、嫡男であり留守居を務める孫策が、名代として長沙郡の政務を代行しているのである。
「さあ・・・何とも言えまへんな。
韓当達からの便りですと、殿に付くのを良しとせず、劉表に組する奴らがそこそこに多く、叩いても叩いても土竜の如く湧いて出るとか。
一朝一夕とは、中々にいかへんみたいですわ。」
「はん、腐っても鯛っちゅうこっちゃかよ?
あないな二股膏薬をかける卑怯者に、そないな高い人望が有るとは、到底思えへんけどな。」
祖茂の話しに、不機嫌な表情で鼻を鳴らす。
「まぁ背後から矢を射かける卑怯者でも、殿に反発する輩共には、曲がりなりにも腐っても皇族ですさかい、都合のええ御旗になりますよって。」
「所詮そないなモンやろーな。
しっかし・・・それはええねんけど、(孫)静おいちゃんも(呉)景おいちゃんも、荊北で何ぞゴソゴソしよるせいで、政務が溜まってこたわんわぁ~。」
死んだ魚の様な目で、うずたかく積まれた竹簡の山を、じっとりと横目にみる。
「すんまへんなぁ若。
ワイは武官の経験しかないもんですんで、政に関してはからっきしですねん。
お役に立てへんとすんまへん。」
「きにせんでええて祖茂。
お前が居るお陰で、留守居部隊の統括が上手くいっとるんやから。
政にまで協力を求めるんは、贅沢にも程が有るわ。」
手を左右に振って、祖茂に返事をする。
実際に間近で、孫堅の部隊運用のやり方を観ていた祖茂の助言で、留守を預かっている孫策も大いに助かっていた。
「はは、お言葉ありがたく。
それはそれで若、しゃんとしなはれ。
若も殿程ではないにせよ、今や若を慕って集う者も居るんですから。」
拱手した後、苦言を呈す。
祖茂の苦言を聴いた途端、ピクリと反応して姿勢を正す孫策。
「フフフ・・・立場が人を作る言いますけどが、ホンマでんなぁ。
殿が義勇軍を起こしてから、程普達を得てしゃんとしなはった様に、若も周泰達を得てから、一本筋が通った気がしますなぁ。」
微苦笑して見詰める。
基本的に孫堅の盛名を慕って、孫堅軍に志願する者達が殆どな中、珍しく孫策の配下に志願して来たのが、周泰・將欽・董襲・陳武の4人だった。
尾羽打ち枯らした見窄らしい身形の4人と、直接面接した孫策は、自身が武勇に秀でている為か、彼等に武辺者の匂いを感じ取り、その場で採用を決定。
自分の衣服や装備品を渡した上、宴を催して歓迎したのだった。
下にも置かない丁重な扱いを受けた4人は、感動して改めて孫策に忠誠を誓ったのであった。
そうして迎え入れられた周泰達は、孫策の見立て通りに武勇を示し、特に周泰・將欽は孫堅軍内でも、五指に入る孫策に引けを取らない武才を見せて、周囲を驚かせた。
董襲・陳武も人並み以上の武勇と同時に、元々水賊の頭領だった経験から、指揮能力に優れた軍才を示して、4人共が一足飛びに、校尉に取り立てられたのである。
その為程普・黄蓋・韓当達から、孫策世代の時代を担う有力幹部候補として期待され、各自直々に扱かれる日々を送っていた。
北の江陵に展開する劉表軍の牽制と警戒の為、長江の南沿いに駐屯する程普の下には、弓術にも優れた將欽と、水戦に長けた董襲が付いて、補佐役兼指揮官見習いとして軍学を学び、祖茂に代わって孫堅の親衛隊長になった韓当に、寡黙で武勇に長けた周泰が付き、孫堅本軍の親衛隊に配属される形で、実地で旗本としての立ち振る舞い・心得を学んでいる。
残る陳武は本軍が平定した後の地域で、慰撫を務める黄蓋の下に付き、治安維持に従事する傍ら、兵の配置・運用や武具・兵糧の運搬といった兵站と、軍隊内での成敗といった軍法などの、後方支援=軍政を主に学んでおり、他の3者と違った分野の育成を受けていたのであった。
そうしてメキメキと力を着けていく、部下を観て孫策も触発されたのか、少し前までは父と同じ様に、苦手な政務から逃げ出していたのに、現在は逃げずに四苦八苦しつつも、一生懸命に頑張っている事は、生まれた時から知っている祖茂には、大変な進歩に見えるのである。
「まぁな、アイツ等が色々と学んで前へ前へ行きよるのに、主君のオレがのんびり遊んどる訳にいかんやろ?」
気恥ずかしげに、白湯を啜る孫策。
「あ、そう言や連合軍の出征から帰って来てから、オトンが帝王学とか言うて、「市井の娘っ子に言い寄ったらアカン、下手をすると後々面倒事になるさかいにな」って、くどくど言うて来るんやけど、コレって帝王学になるんかいな祖茂?」
湯呑みを置いた後、今思い出したとばかりに、祖茂に尋ねる。
「あ~・・・それは帝王学と言うよりは、殿の実体験談から来とる忠告ですわ。」
「うん?実体験談?詳しく知っとんのか祖茂?」
言い辛そうに呟く祖茂に、首を傾げて問い質す。
「ええ、まぁ・・・程普達は義勇軍旗揚げ時に、殿の家臣となった奴等ですが、ワイは旗揚げ以前から、殿の部下と言うか子分でしたさかいに、古馴染みみたいなモンでして。」
残った片手で、後ろ髪を掻く。
「へぇ、せやったんかぁ・・・ほんなら祖茂が、ホンマもんの最古参なんやなぁ。」
「へへ、まぁそんなもんですわ。」
顔を赤らめて照れる祖茂。
「んで?実体験談って何や?」
「あ~・・・殿って若もご存知の通り、結構な女好きですやん?」
「まぁせやな。」
間違いないと、コクリと頷く。
「今でさえ好き者やのに、殿が若ぐらいの歳には当然の如く、盛りの付いた猿同然でした。」
「・・・あっさりと予想が付いて、否定できひんのが悲しい・・・。」
さもありなんと思わず納得してしまう。
「若も知っての通り、元々孫家は富豪の家でしたさかい、殿は酒と女を買うのには、何の不自由もしませんでした。
そんで商売女に飽きた殿は、「せや!素人の初な娘っ子を引っ掛けたろ!」と言うて、市井の娘っ子に興味関心を抱きました。」
「オーイ・・・オトンに対する尊敬の念が、オレの中で絶賛大暴落しとるんやけどぉ?」
ガックリと頭を垂れて、嘆く息子。
「それで娘っ子を引っ掛けるべく、先ずはワイを暴漢に仕立てて、いちゃもんを付けさせた処を、颯爽と助けて縁を持とうと画策しました。」
「いやそれって、オトンと祖茂の関係がバレたら、あっという間に破綻する縁やんか。」
呆れ口調で突っ込む。
「ええ、若のご指摘通り、只単にワイが殴られ損になるだけですさかい、当然反対して拒否しました。
すると今度は、未だ当時幼かった静殿を連れてきて、静殿が目標にぶつかった処を爽やかに謝罪して、引っ掛ける切っ掛け(きっかけ)にしようと画策したんですわ。」
「何処が爽やかやねん。
思っくそどす黒いやんけ。」
額に手を当て、父のアホっ振りに突っ込む。
「その作戦でいけると確信した殿は、目標を定めて静殿をけしかけて仕向けた処、ものの見事に娘っ子を引っ掛ける事に成功しました。
そうして引っ掛けたのが・・・奥様でした。」
「初っぱなに、大物を釣り上げたなオトンも。」
「ええ、空前絶後の大物ですわな。」
孫策の感想に、大いに同意する。
「まぁ切っ掛けは碌でもないモンでしたけど、奥様もど~も殿に一目惚れしたらしゅうて、ちょくちょく逢瀬を重ねて、親密になっていかれました。」
「う~ん・・・ようもまぁ猿同然のオトンが、オカンだけ引っ掛けたんで満足したな?」
腕を組んで感心半分、呆れ半分といった表情を浮かべた。
「んな訳ないですやん。
逢瀬の合間を縫うて、せっせと他の女を引っ掛け様として、即座に奥様にバレて追いかけ回された上、ど突かれまくってましたわ。
そうした奥様の涙ぐましい調教の結果、とりあえずは学習したらしい殿が、市井の娘さんを引っ掛ける事は無くなりましたね。」
昔を思い出したのか、遠い目で微笑む。
「調教て・・・泣いたんはどっちか言うたら、オトンの方ちゃうか?」
「それは自業自得ですさかいに。」
「それもそうやな。」
祖茂の一刀両断な意見に、コクリと頷いた。
「まぁそんなこんなで、親密になっていっとる時に奥様が、数人の男に絡まれとんのを殿が見かけ、憤怒して男達をぶちのめし、奥様を助けて孫家で匿う、という事件が発生しました。」
「ええ!?オカンに手ぇ出す強者が、まさか居ったなんて・・・其奴等勇士やな。」
「ちょっ!?声が大きいですて若!
奥様にもしもそないな感想聴かれたら、容赦なくシバかれますで!?」
口に指を当て、不安げに周囲を見渡す祖茂。
「(済まん済まん)・・・ほいで続きは?」
「ほいで殿がぶちのめした男達つうのが、奥様の実家・呉家のモンでしてなぁ。
家を抜け出して殿と逢瀬しとる、奥様を連れ戻しに来とった連中やったんですわ。」
「はい?オカンって実家に黙って、オトンと逢い引きしとったんかいな?」
名家の子女と思えない、大胆な行動に驚く。
「ええ、どうやらせやったみたいで、殿もワイも奥様の身形を観て、それなりの家の子女やとは思うとったんですが、まさか江東4家に次ぐと云われた、名家・呉家の子女やとは、流石に思いもよりませんでしたわ。」
そう言うと嘆息して、
「そんな名家の子女である奥様を、殿が誘拐したと呉家の方では大騒ぎになり、殿の素性が即日バレた途端に、激怒した奥様の父君=呉家の先代当主様が、自家の兵士を大勢引き連れて、孫家に乗り込んで来られました。」
とんでもない話を語り出した。
「あの温厚だった呉の爺ちゃんがなぁ・・・とても信じられへんわ。」
「幾ら温厚な方でも、自分の娘が誘拐されて怒らん、親はいてへんですよ若。」
諭す様に孫策に話す。
「そいでオトンや爺ちゃんはどないしたんや?」
「殿も殿の親父さんとお袋さん・・・失礼、え~先代様も大奥様も、事情を聴いてビックリ仰天、殿共々その場で土下座して、平謝りしてました。
先代様が殿の頭を叩き付ける度に、蹴鞠の鞠の様に、頭が上下に跳ねてましたな。」
「・・・爺ちゃん容赦ないなホンマ。」
自身の記憶に有る、陽気な祖父と結び付かずに困惑顔の孫策。
「しかしよう其処まで拗れて、オトンとオカンは結婚でけたな?」
「ええまぁ・・・奥様が殿を庇われましてな。
「私の為ならば、巷を騒がしている海賊をも倒してみせてくれます!」と。」
「・・・なぁ、それって庇っとんのか?
寧ろ、追い討ちかけとるんちゃうか?」
半眼で呟く。
「恋は盲目と言いますよって。
コレは後で、呉景殿から聴いた話ですが、この時点で呉家の先代は奥様を、殿の許に嫁がせる算段やったそうですわ。」
「へ?そうなんか?」
意外な話しに首を傾げる。
「第1に、殿と付き会うとんのが、大々的に知られてもうてましたさかい、今更余所に嫁がせるのが、非常に難しかった事でんな。」
「確かに貞操を疑われるわな。
女好きて評判のオトンとやったら、尚更。」
「そう言うこっちゃですな。」
孫策の言に頷く。
「第2に、富豪やった孫家に嫁がせるんは、決して嫁ぎ先としては、悪うなかった事でんな。
江東4家に嫁がせるなら兎も角、下手な家柄のみの家に嫁がせるよりも、莫大な財産持っとる孫家の方が、よっぽど呉家の利益になると、先代様は踏んだようですわ。」
「う~ん・・・タダでは転ばんてか。」
呉家の先代の強かさに、舌を巻く。
「んでそういった背景が有って呉家の先代様は、「ほなら海賊を見事退治したら、娘を嫁に呉れてやる」と、条件付きで結婚をお許しになった訳ですね。」
「うん?あれ?オトンの意思は?」
「有る訳ないですやん若。
事此処に至ってもうたら、どないに転んでも結婚は、決定事項ですわな。」
手と頭を左右に振って、「無いですわ」と表示する。
「う~ん・・・まぁ、どう考えてもオトンに非が有るさかい、責任とるんは解るんやけど、呉の爺ちゃんもややこしい事せんと、素直に認めたってもええんとちゃうん?」
孫策は素朴な疑問を呈す。
「それが名家のやんちゃい(面倒な)処でして。
そのままやったら「お金で娘を売った」だの、「娘を拐かされて泣き寝入りした」だのと、家の面子に関わる悪評を他の江東の名家から、被りかねへんかったらしいですわ。」
又聞きした事をのべ、
「そういう事で、明らかに格不足の孫家に嫁がせるには、「何らかの世間が認める事をしたから、呉家の先代様が殿を認めて、娘を嫁がせて婿にした」ちゅう、世間的な名分が必要やった訳ですね。」
呉家側の思惑を話す。
「ふ~んなる程なぁ。
わりかし条件が厳しい気もするけど。」
「まぁ、呉家の先代様からしたら、ちゃんと成算が有っての条件提示やったそうですけど。」
「そうなんか?」
首を傾げる。
「孫家の持っとる豊富な資金力で、県令なり郡太守なりに渡りを着け、軍を出動させて海賊を退治させるっつう、考えやったそうです。」
「確かに堅実な方法やな。
孫家自体が名を上げる事で、跡取りのオトンにオカンを嫁がせて、孫家との縁を持とうとした、ちゅう筋書きかいな。」
祖父の目論見を、しっかりと読む。
「そういう事でんな。
有る意味孫家から呉家に贈る、結納品みたいなモンでしょう。
まぁ後は奥様の幸せと、孫家に有責を負わす方が、何かと呉家にも都合がええ面も有って、孫家の先代様に呉家の先代様から、解決策を教授したらしいですが・・・。」
「・・・が?何や?」
続きを促す。
「先代様達があーだこーだしとる間に、殿が単身海賊の許に赴いて、頭領の首をハネて討ち取り、その討ち取った首を、呉家に持参して行きました。」
「蛮族も真っ青な結納品やなソレ・・・。」
ぶっ飛んだエピソードに絶句する。
「まぁ確かに・・・。
しかしながら結果的に、殿の蛮行とも言える行動は英雄視され、無事奥様と結婚する事が出来ましたし、後の呉家と孫家の力関係の確立にも、結局はなりましたさかいに。」
孫策の感想に頷きつつ、孫堅を擁護する。
「ふ~む・・・確かにせやな。
俺が物心ついた時から、両家が今の関係やったさかい、別に不思議に思わなんだけど、漸う考えたら商家出の孫家に、江東有数の名家・呉家が従っとるって、結構おかしな話やわな。」
今更ながらに疑問が浮かび、父・孫堅の行動で、今の自分が有る事を知ったのであった。
後漢時代の身分格差は結構厳密であり、糜芳が有名武将獲得を諦めたのも、この身分格差が有った為だし、曹操ですら身分格差に泣かされて、初期には深刻な人材不足であった。
逆に碌に実績の無い袁紹や、実績処か実力も無い袁術が、いち早く人材を得て独立勢力を築けたのは、後漢時代の身分格差の恩恵である。
そんな中で、幾ら義弟と云えど名家当主の呉景や、江東4家の1つ・朱家に連なる朱治を、自分の配下に加えている事は、非常に稀有な事例であった。
「・・・まぁ、呉景殿に関しては、実姉である奥様の口添えもとい、力添えが有ったのも、無きにしもあらずですが。」
「・・・いやソレ十中八九、力添えやのうてオカンの力尽くやろ?
とても景おいちゃんが、オカンに逆らえるとは思えへんし。」
母・呉国太の忠実なる下僕である、叔父を思い浮かべて断言した。
「・・・さぁ、ワイからは何とも。
まぁと言う訳で、ちょっとした事でそうした騒動を、殿も実体験なさったので、気ぃ付けろ言うこっちゃですわ。」
「いや・・・逆にオトンみたいにせぇと言う方が、無茶で無理難題やろ・・・。
やれ言われて出来るモンとちゃうで。」
孫堅で実体験談の内容を聴いて、余りにも破天荒な話しに呆れる孫策。
そうして衝撃的な休憩時間を過ごし、父・孫堅に対して「ああは成るまい」と、実体験談を聴いて実感し、母・呉国太に対して「あの人には逆らうまい」と、保身を固く心に誓った孫策であった。
しかしながら、蛙の子は蛙と謂うべきか、歴史は繰り返すと言うべきか、孫堅と似たようなエピソードで、自分も妻を得る事になろうとは、知る由もない孫策であった。
続く
とりあえず董卓と、孫家の現状(?)を書いてみましたが、次話は他の群雄を書くべきか、糜芳の方に戻すか思考中であります。
・・・う~ん、悩ましい・・・。
それはさておき、
今年も楽しんで、読んで頂けたら嬉しいです。
今年も優しい評価を、何卒お願いしますか




