その6
読んでくださっている、読者の方々へ
更新が遅れて、大変申し訳ありません。
正月中の投稿直後に風邪を引き、一週間近く寝込んでしまった上に、年度末の仕事の多忙も合わさって、執筆活動が遅れてしまいました。
なんとか書き上げたので、早速投稿します。
涼州右扶風郡郿県郿城建設予定地総監督幕舎
「・・・よしよし、万事恙無しだな。
とりあえず右扶風の改造計画に問題ナシ、と。」
寄せられた報告内容に、ニンマリと微笑む糜芳。
10月、董卓の都合で司隷から、涼州に編入された右扶風郡内を、9月に州牧の権限を利用して配置転換を実行、先ずは郿城との連携が欠かせない郿県の県令を、中国版山内一豊こと趙昂に任命し、元々赴任していた前県令を、中央に栄転させて追い出し、同じ手口で次々と他県の県令も変えていった。
それと同時に右扶風郡自体も、司隷=中央名家閥の「血統・家柄至高主義」地域から、涼州=世紀末的な「力こそ絶対正義」地域へと、特性が変わった事を促す為に、隴県県令を務めて涼州の気風に馴染み、尚且つ司隷の役人達の付き合いにも小馴れた、右扶風郡の隣郡で左馮翊郡出身の張既を、新しい右扶風郡太守にすげ替えて、風通しを良くしていったのである。
糜芳がこうした事を行った背景として、右扶風郡の郡県のトップや幹部連中と、糜芳との相性が頗る悪いからであった。
庶民階級より低いとされた、商家出身の糜芳の言う事を、自尊心だけは泰山より高いとされる、中央名家出身の郡県トップ・幹部達が、マトモに聞く筈も無いからである。
大概の州には、長年ある程度地域が安定していくと、地元の名士の家が名家となり、名家の一族一門が地元に強い影響力を持っていき、やがては豪族と変容していく名家が、わりかし存在していた。
糜芳の故郷・徐州だと、後に曹魏の重臣となった王朗の王家や、孫策キラ一兼親劉備で有名な、陳登の陳家がそれに該当し、揚州の江東4家なども同じ類いである。
そういった連中は、地元の郡県での強い影響力で、郡太守や県令になっていたり、郡県の管理職に就いていたりと、権力と結び付いている事が多く、例え上司でもある程度の背景力が無ければ、自分達の意に添まぬ政策や意見は、平気で却下したり無視する事も、当たり前であった。
(因みに糜芳の場合は、徐州時代には何進をバックボーンにし、涼州の場合は、董卓をバックボーンに利用していた)
そうしたアホらしい不文律が有るので、九卿で州の統括役・州牧でも有る、糜芳に対して郡県連中が反発したりするなどは、特に司隷方面では普通に珍しくなかった。
史実として陶謙や劉備が、徐州の根拠地化に失敗したのも、バックボーンを持たぬ故に、徐州の豪族達に舐められ、反発された結果である。
他にも張既さんなぞは、ペーペーの下っ端時代に、些細なミスで鞭打ちにされるなど、自分をいびって見下していた元上司と、元上司よりも遥か上の位に昇った後に再会した際に、昔と変わらない態度で接して来たという、序列を無視した途轍もない無礼を働いているのに、その元上司の態度が賞賛されるという、アタオカな珍事も記録に残っている。
そういったアタオカ連中がゴロゴロ居る、右扶風郡内の豪族達が、糜芳の要求を素直に応じる筈も無く、寒門出身の張既の太守就任を含め、糜芳を舐めて悉く反発したので、しっかりと豪族対策を実行したのであった。
因みに豪族対策とは何かと云うと、「口頭で解らないアホは、武力で解らせる」という、ストレート且つ単純明快な力技である。
こういった権威だの血筋や家柄に頼る、日本で謂う公家思考な輩共は、伝統的に文弱に陥り易く、武力という暴力と刃物に滅法弱く、権威・権力の通じない、力こそ正義の世紀末軍=涼州軍は、相性最悪の天敵であった。
実際に徐州で統治に失敗した劉備に替わり、乗っ取る形で台頭した呂布さんは、自分の命令に従わない豪族連中を、悉く撫で斬りにした後、部下と兵士を豪族の領地に派遣して滅ぼし、文字通り斬り従えて、力ずくで徐州を統治した実例が有る様に、かなり有効な手段である。
それはさておき、
そういった事情で最近、成公英に異民族対策の仕事(匈奴や羌族の離間策)を奪われて、暇そーにしている馬騰と韓遂をこれ幸いに呼び寄せ、右扶風郡の治安維持に、当たらせたのであった。
無聊を託っていた両者は喜んで応じ、元々破邪顕正の約定を、糜芳と交わしていたので、糜芳から「州牧の命令に、理由も無く逆らった反逆者リスト」を貰った2人は、軍を率いて嬉々として、豪族討伐に乗り出したのである。
この糜芳のキ○ガイ行動(豪族視点)に、顔を真っ青にした豪族達は、慌てて弁解や回避策を講じようと、躍起になるも時既に遅く、歴とした「謀反人」のレッテルを貼られ、悪徳中央名家=諸悪の根源を、絶対殺すマンズの馬騰・韓遂コンビに、次々と一族ごと討たれていった。
何割かは長安に駆け込み、糜芳の極悪非道を訴えたが、糜芳に依ってとっくに董卓に通報済みで有った為、全員が地元で討たれた者達と、同じ末路を辿ったのであった。
元々董卓をも敵視していた連中であり、董卓からも警戒されていたのに、ノコノコ自分達で処刑人の許に、赴いたのも同義であった。
董卓にとって策源地で有る涼州の、重要な連絡通路に当たる右扶風郡の、中央名家達の影響力を排除するのは、願ったり叶ったりの状況であった。
僅かに長安を避けて、北の左馮翊郡に逃げ込んだり、南の漢中郡に逃亡した者達もいたが、左馮翊に逃げた者達は、匿った豪族を巻き込んで討伐され、山越えして漢中郡に逃亡した者達は、山賊に襲われて行方知れずになったのである。
そうして糜芳の政策を、邪魔する輩共を物理的に排除し、風通しを良くした後、排除した影響で空いた役職や部署に、涼州の役人を募集した際の、「ウルトラな問答」であぶれた浮屠関係者を押し込んで、手早く穴埋めと人脈網を広げたのであった。
(うんうん・・・驕れるアホに付ける薬は無し、鉄拳制裁の物理のみ、って奴だな。
韓遂達の迅速な機動性と、何進のオッチャンの時に使った離間策で、地元民の協力が得られたお陰で、アッサリと解決したから楽勝だったわ・・・ウヒヒ)
邪悪な笑みを浮かべる主人公。
「失礼します閣下。」
「うん?何事か。」
「は、韓遂将軍と馬騰将軍の両名が、閣下のお召しにより参上したと参っておりますが?」
黒い笑みを浮かべる主君を、さらっとスルーしつつ報告するイー。
「ああ、迅速な治安維持を果たした両名に、報奨を与えようと思ってな。」
「なる程、確かに信賞必罰は当然の事ですな。
では、早速に両名をお連れ致しまする。」
深く頷いて辞去する。
少しした後、
「「お召しにより、まかり越しました。」」
韓遂と馬騰が厳めしい武装のまま現れ、揃って拱手して糜芳に頭を下げる。
「いやいや良くぞ迅速に動いてくれた。
両名の働きが有って、素早く治安を取り戻す事が出来た・・・誠に感謝致す。
些少ながら貴君等に報奨を授けるので、遠慮せずに受け取って欲しい。」
糜芳も拱手で返礼して、報奨の内訳が書かれた竹簡を渡した。
「「はは、ありがたく頂戴します。」」
再び拱手して目録を受け取った後、
「実は閣下、大変厚かましいとは思うのですが、報奨とは別に、褒美を頂戴出来ませんでしょうか?」
申し訳なさそうな表情で、馬騰が要求し始める。
「うん?出来る事なら構わんが?」
「はあ、実は某の伜が、閣下と手合わせをしたいと申しておりまして・・・。」
「・・・伜って馬超の事か?」
「はい、左様にございます。」
「無茶言うな!?勝負になるかぁ!?」
涼州でも指折りの豪傑との対戦要望に、ブンブンと高速で首を左右に振って拒否る。
「それがど~も何処ぞで閣下が、孫堅に手合わせで勝ったと聞き及んだらしく、是非にと聴かぬモノでして・・・申し訳ありませぬ。
今回の討伐で伜の超が、第一功を挙げた報奨として強請ってきたもなので、無下にも出来ず・・・。」
軍閥の頭領としての気苦労を吐露する。
「そりゃまぁ頭領として、信賞必罰を旨とする気持ちは解るし、例え我が子でも功有れば賞するのは理解出来るが、幾ら何でもその要望は無・・・ん?ちょっと待てよ?」
やんわり拒否しようと、つらつらと建て前を述べていた糜芳は、途中で言葉を止めてハッとした表情を浮かべ、
(あれ?コレって合法的に、自然と州牧を辞めれるチャンスじゃね?)
脳裏に咄嗟にある策謀を思い付いて、ピカリと頭上に電球が点る。
「・・・うぅんっ!ゴホン!
あ~馬騰、貴君の要望に応えて、貴君の息・馬超との手合わせに応じよう。
早速明日にでも行おうじゃないか。」
拒否っていた先程とは打って変わり、満面の笑みで了承する糜芳。
「はぁ、ありがとうございます?
・・・何故か閣下の笑みを観ると、無性に嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?」
益々渋い表情を浮かべる馬騰であった。
そして翌日・・・
郿城建設予定地幕舎外
馬騰軍・韓遂軍が円陣を作り、大きな輪が形成された円の中心部に、2人の若者が対峙していた。
1人は軽い武装で木剣を持ち、馬騰に似た顔立ちの少年・馬超で、もう1人は文官の装いで武器も持たず、馬超をぼへ~と見詰める糜芳であった。
「この度は某の要望に応えてくださり、誠にありがとうございます。
あの豪傑と謂われた孫堅に、偶々勝ったとされる閣下と手合わせ出来るとは、望外の幸せに存じます。
只、某は手加減や遠慮が出来ぬ者でして、平にご容赦願いまする。」
丁寧口調で、慇懃無礼な口上を述べる。
重厚な獅子と言うよりも、身軽で瞬発力に優れた豹、と云う感じの少年である馬超。
目には「同年代の余所者が、自分よりも偉くて気に入らねえ」と云った、嫉妬心や反骨心が見え隠れしており、敵意が滲み出ていた。
(ふ~ん・・・コイツが蜀漢の五虎大将の1人で、「三国一の親不孝者」の馬超か・・・。
パッと見は、パワータイプの力押しじゃなくて、スピードで相手を翻弄するタイプって感じだなぁ)
イキっている感じの馬超の口上を、馬耳東風に聞き流し、じ~と観察する糜芳。
仮にも州のトップ・州牧に対して、不遜な態度を示している事で武勇は兎も角、世故や状況判断に欠けている事を認識し、「知力・常識に劣る出来の悪い孫策タイプ」と位置付け、後世のやらかしを含めて、「関わったらいけない猪武者」と定義し、即座に見切るのであった。
因みに世故と状況判断に長けた、実父の馬騰や伯父貴分の韓遂は、「止めんかアホ!何を言いよるんじゃおどれは!?」と、顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりして、ブンブン手を上下に振ったり、頭上で両手を交差させたりと、必死に馬超の傲慢を止めようとしていた。
それはさておき、
「偶々勝った私と手合わせしても、貴君には大した自慢にも成るまいと思うが、是非にと有らば受けて立とうぞ馬超よ。
それで後ろに控えている者は、もしかして共に手合わせをする者か?」
馬超の後ろに居る人物を指差した。
「ああ、コイツは従弟の馬岱と申しまして、某の後に閣下と手合わせを願っている者です。」
「へっ!?んな訳ないやろ阿呆言うな!
あくまでも超兄の介添え人(看護役)として、控えとるだけですけんね閣下!?
超兄が勝手に言うとるだけですけん!」
馬超よりも体格ががっしりしていて、朴訥そうなドングリ眼の馬岱は、素っ頓狂な声を上げ、ブンブンと首を振って従兄の言を否定する。
(ほほう、この厳つい奴が身内から同僚、果ては上司に迄振り回され、フォローや後始末に東奔西走する、蜀漢一の苦労人武将・馬岱か。
こんな若い時から振り回されて、苦労してるんだなぁ・・・)
自分が実兄の糜竺にしている事を棚に上げ、すったもんだと揉めている馬岱に同情する。
「あ~判った判った。
馬岱とやらは介添え人であり、馬超のみが私と手合わせするのだな?」
「はい、そうです!俺は関係有りません!」
糜芳の言にコクコクと頷いた。
「了解した、では早速始めようか。
あ、そうそう、馬超が私に勝ったら、私に出来る限りの報奨を与えよう。」
「ほう、それは豪気な事で。
ありがたく頂戴しましょうか。」
もう貰ったつもりで了承する馬超。
「その代わり負けた場合は、私の言う事を聞いて貰うぞ馬超よ。」
「承知しました閣下。
某がもし負ければ御随意に。」
ニタリと勝ち誇った表情で頷き、木剣を構えて糜芳に向けた。
馬超の傲慢な笑みに呼応する様に、糜芳もどす黒い笑みを浮かべ、
「因みにだが馬超、もしもお前が勝って私に怪我をさせた場合、責任を持って私の職務を代行して貰うからな?
お前もその覚悟で掛かって来る様に。」
ゲスい策謀を炸裂させる。
「は?え?・・・・・・あ!?ちゅう事はオレから攻撃したり反撃して怪我をさせても、州牧の職務を押し付けられるけん拙いやんけ!?
汚ねーぞ幾ら何でも!職権濫用やろーがい!?」
糜芳の策謀の意図に気付き、顔を真っ赤にして抗議する。
糜芳が目論んだ策謀は、手合わせに託けてワザと怪我をするように誘発し、しれっと傷病に依る辞職をして、合法的に故郷の徐州に帰る算段であった。
それと同時に、馬超が糜芳の意図に気付いても、職務を押し付けられる事を理解している事で、碌に攻撃も反撃も出来ずに、一方的に糜芳にボコボコにされる事が既定路線なので、どっちに転んでも糜芳には、損は無いのであった。
「おいおい、お前が父親に強請り、私に手合わせを願って叶ったのも、「頭領の息子」という立場を濫用した結果だろーが。
私とどっこいどっこいな事をしといて、人の事を言えた義理か?」
「うっ・・・うぐぐ・・・。」
糜芳のド正論に反論出来ずに唸る。
「さぁ、それを踏まえて、尋常に勝負だ!」
「全っ然勝負にもならねーだろ!?
別の意味でも尋常じゃねーし・・・。」
キリッとした表情で身構える糜芳に、怒り半分、呆れ半分で突っ込む。
「あのなぁ、仮にも州牧に勝負を挑む以上は、それ相応の危険性を考えるのが、当たり前だろうに。」
完全に呆れた口調で諭し、
「まぁ一応安心しろ。
お前の親父の馬騰も、間違いなく同罪になるから、淋しくは無いだろうし。」
ピシッと馬騰を指差した。
「ええっ!?私もですかいな!?」
突然の飛び火にたじろぐ。
「そりゃ当然の仕儀だろうが。
子弟の不始末は父兄の不始末、連座で罪を被るのは天下の法だろう?
挙げ句に我が子可愛さに、手加減や遠慮が出来ない不届き者を、直属の上司にけしかけるという、不敬な事をしているのだからな。」
理路整然と今の状況を周囲に説明する。
糜芳の話を聴いた韓遂軍の兵は、「う~ん、筋としては州牧様の方が通っとるか?」とか、「どがいに観ても、文官の州牧様に対して武官の馬超のボンが、手合わせを願うのは、ちぃとみっともなぁな話にはなるわいなぁ」と、馬親子の方に非が有ると判断し、徐々に馬騰軍と距離を取る。
「ちょっ待!?
そつじながら閣下!閣下も手合わせに関しては、同意なされたではありませんか!?」
ジワジワと距離を取っていく、義兄達の行動に焦り、慌てて弁明し始める。
「それはあくまでも、彼我の立場をキチンと理解し、上位者に対しての礼節を持って臨むだろうという、前提の基で同意したのだ。
間違っても、傲岸不遜な態度で礼節に欠け、上位者に害する事を歯牙にも掛けない、粗暴な輩と知っていたら受ける訳無いだろ。」
馬騰の言い分を一刀両断して、
「ついでに私は董卓閣下の肝煎りで、涼州を預かって統治をしている。
そんな私を、怪我やそれ以上の状態にした場合、閣下が貴君達をどうするか考えなかったのか?」
見通しの甘さを指摘する。
「うう・・・。」
糜芳の指摘で漸く思い至り、自身の事後の見通しの甘さと、息子の軽率な行動に関して、最悪を想像して呻く。
涼州のドンである董卓に、不利益を与えて敵対した場合、中堅に成るか成らないかの馬騰軍閥では、州内で生き延びる可能性は、限りなく低かった。
そうなった理由が自分の息子が、評判の好い州牧に無礼と狼藉を働いて、怪我以上の事をさせたのが要因になるので、まともに味方する軍閥や民衆が、居る筈もなかった。
現に糜芳の説明を聴いた韓遂達は、「僕らは無関係です」とばかりに、益々馬騰軍から離れて糜芳の後ろに集結し、2割ぐらいの馬騰軍の兵士も、しれっと離反して韓遂軍に合流している始末である。
そうして馬騰・馬超親子を、口先三寸でどん底に落とし込んだ後、
「自分達の行動如何で、どういう末路を辿るか判った所で・・・さあ掛かってこいや!」
柔道の威圧のポーズの如く、両手を上に伸ばした後身構える。
「「掛かれるかいや!!そがいな話を聞いて!?」」
親子が揃ってハモる。
「そんな事言ったって、馬超も今更引っ込みがつかんだろう?
腕の一本や二本は覚悟しているから、サッサと掛かって来いつーに。」
「・・・そがいな後ろ向きで情けない発言を、ようも堂々と胸張って言えるもんやな?」
憔悴した表情で突っ込む。
糜芳の場合は幸か不幸か、前世の職業的に釘を足で踏み抜いてケンケンしたり、型枠を解体中に脚立から落下して、腕や胸を打って骨に罅が入ったり折れたりと、わりかし怪我慣れしており、結構な耐性が付いていた。
そして現世でも、母・糜香の教育的指導の賜物で、痛みに対する耐性が、底上げされていたのだった。
「さぁどうした?掛かって来い。
掛かって来ぬのなら、こちらからいくぞ?
因みにちょっとでもお前の木剣が、私の体に当たれば骨折する予定だぞ?」
邪悪な笑みとゲスい発言をしつつ、ジリジリと馬超に近づく外道。
「当たり屋のチンピラかよ!?
汚ねーぞ畜生!端っからオレを嵌めるつもりだったなテメェ!?」
悪態を付きながら糜芳に押されるが如く、少しずつ後退していく。
文字通りジリ貧に成りつつある馬超は、
「・・・クソっ!このままじゃ無条件で、ボコられて無様を晒すだけやんけ!?
馬孟起の名が廃れてまうわ!!
こがいになったら、いっそのこと・・・!」
思わぬ展開に混乱をきたし、物騒な発言と狂気じみた表情を浮かべる。
瞬間、
ゴスッ!!
「ふゲっ!?」
小気味良い音が、馬超の背後から聞こえたと思ったら、白目を剥いて前のめりに馬超が崩れ落ちる。
「止めんかいアホ!!
お前の名が廃れる前に、馬家が廃れるわい!?」
怒り心頭といった感じで、気絶した従兄を責め立てる馬岱。
従弟の馬岱が、馬超を背後から木剣で殴りつけ、一連の騒ぎを終結させたのであった。
(お~い!?合法的に田舎に帰れる策謀がぁ!?
・・・うう、残留決定かよ、帰りてーよぅ)
馬岱の英雄的行動に、賞賛と歓声が渦巻く中、「我が策謀敗れたり」とばかりに、何故か敗者の如くorzの格好で、悲嘆に暮れる糜芳を残して。
涼州右扶風郡郿県郿城建設予定地総監督幕舎
「あーあ・・・折角の好機だったのに・・・。」
ぐでーとだらしない姿勢で、机に突っ伏す糜芳。
「馬超の空騒ぎ」から一週間が経った現在、糜芳は結果的には負けた形になった馬超と、管理責任を負う形になった馬騰に対し懲罰として、元々馬騰が樵をしていた経験を鑑みて、住居の建築資材で有る木材確保の為に、近隣の山林に馬騰軍の兵を樵として派遣し、親子共々仲良くへイヘイホーさせていた。
因みに勇気ある行動で、馬騰軍一党の危難を救い出し、馬騰・韓遂両軍に賞賛された馬岱は、馬親子の監視役を糜芳から任じられ、唯一労役から解放される褒美を得ている。
まぁ当人からすれば厄介事と、一族の連帯責任を糜芳に負わされたのと同義なので、嬉しいかどうかは別物であったが。
(う~ん・・・流石は後の蜀漢一の後処理将軍。
若い時分からの積み重ねで、磨かれていたんだな~)
馬岱からすれば、全く嬉しくもない評価を下す。
益体も無い事を脳内で思考していると、
「失礼します閣下。」
誰何も受けずに顔パスで、副官兼別駕従事であり義兄の蔡良が、幕舎に入って来た。
「あれっ?珍しいね。
蔡良がコッチに直接報告書を、わざわざ持って来るなんて?」
久し振りに会う蔡良に対して、首を傾げる。
現状で郿城建設に、掛かり切りの糜芳に代わって、涼州の政務を代行している蔡良は、大凡週1ぐらいの割合で、報告書を糜芳に提出していたが、今までは部下が此処まで持って来ており、本人が直に来たのは初めてであった。
「ええまぁ、偶にはと思いまして。
それに閣下の故郷から訪ねて来た人物を、連れてくるついでが有りましたし。」
「???徐州から訪ねて来た?誰が?」
まさか母上じゃねーよな?と、脂汗が浮かび上がって腰を浮かす。
「先日に閣下が高く評した、魯粛と申す者ですけど・・・。」
「ああ、な~んだ魯粛かよ、ビビらせやがって。」
ラスボスとは違うと知って、ストンと椅子に座り、ホッと胸を撫で下ろすが、
「・・・うん?・・・ハァ!?魯粛ぅ~!?
何でアイツが涼州に来てんの!?」
「いやあの、それは私に言われても・・・。
本人曰わく、閣下のお蔭で世に知られる様になったので、礼を兼ねて仕官をしに来たとの事です。」
血走った目で肩を掴んでくる糜芳に、訳が判らずにしどろもどろに答える。
「はい?・・・え、俺やっちまったのか?」
(なんかデカい改変になってないコレ!?)
どうしよう歴史がぁ~と、鶏の如くバタバタと取り乱し、
「え~らいこっちゃ!?えらいこっちゃ!?
どないしょー!?どないすればええの!?」
混乱して遂には幕舎内で、盆踊り擬きまで踊り出す始末であった。
「あの~・・・追い討ちを掛ける様ですけど、その魯粛とやらは閣下から州牧の座を、いずれは譲り受ける所存の様ですけど。」
糜芳の痴態というか狂態を観て、ドン引きの表情をしつつ、魯粛の主張を告げる。
・・・ピタッ
「・・・何だって?私から州牧の地位を譲り受けたいと、魯粛が言ったのか?」
「ええ、不遜極まり無い、無礼な発言でしたがどうします?会いますか?」
両手を上げ片足も上げた、某お菓子メ一カーの看板の様な状態で、静止した糜芳の問いに、諦念気味に答える。
「今すぐに呼んで来てくれ!」
「いやあの・・・私の話を聞いて、何でそんなに目を輝かしているんです?
自分の地位を奪いに来た人物を、喜んで迎え入れる閣下の心情が、欠片も理解出来ません。」
理解不能と頭を振る蔡良であった。
そうした両者のやりとりの後、
「お初にお目にかかります閣下。
同郷随一の名士である、糜芳閣下にお目通りが叶いました事、恐悦至極に存じ奉りまする。
某、下邳国は東城県在・魯粛と申します。」
魯粛が幕舎に入って来て、拱手をする。
(ふ~ん・・・コイツが孫呉の2代目総司令で、孫呉軍でも有数のイケイケ(タカ派)の魯粛か。
コイツと華歆程、演義と正史で人間像が180°違うのも、結構珍しいよなぁ)
拱手している魯粛を観て、全然温和そうに見えない顔を見つめる。
演義では、優柔不断なお人好しとされ、劉備や諸葛亮に翻弄される、ダメダメな人物とされているが、正史では正反対に、果断なイケイケとされており、荊南4郡の領有権を巡って、劉備と孫権が揉めた際は、諫める処か孫権に従って攻撃に参加して、関羽相手に荊南4郡争奪戦を繰り広げていた。
意外にも反劉備として知られている、周瑜の時には当時の状況や、周瑜自身が曹魏の江陵攻防戦での戦傷の影響で、病床に臥しがちだったのも合わさって、荊南は小康状態を保っていたが、孫呉でも親劉備の魯粛の代には、領有権問題が顕在化していたのである。
その為、劉備と孫権の同盟締結に、諸葛亮と共に賛同した魯粛だったが、容赦なく孫呉の利益の為に、荊南奪還or奪取に積極的に行動し、関羽との会談では堂々と劉備を非難している。
そうしてイケイケの魯粛亡き後に、呂蒙が3代目総司令官になっても、魯粛の「孫呉の荊南領有化」路線は踏襲され、最終的には実現したのであった。
どうやら魯粛は諸葛亮と同じく、「天下三分」の持論を持っていて、主君の孫権にも説いた通り、劉備=蜀漢にその一角である、第三勢力を担わせようと目論んでいた。
しかしながら間違っても、蜀漢を孫呉よりも大きい勢力にとは、露ほども思っておらず、あくまでも、「孫呉にとって都合の良い盾、曹魏と絶対に融和しない便利な駒」として、利用するつもりだったと思われる。
それはさておき、
(まぁ、んなこたぁどうでもいい。
それよりも肝心なのは・・・)
魯粛の経歴は脇に置いて、
「此方こそ、貴君にお目にかかれて光栄だ。
早速だが貴君は州牧に成りたいと、其処の蔡良に聴いたのだが、それは本当なのかね?」
いっちゃん重要な項目を、問い質した。
「はは、貴方様の期待に添えるべく、何れは閣下と同じ地位に就ける様、一生懸命精進する心構えでございます!」
キッと鋭い視線で糜芳を見つめる。
「ふんふん、なる程なる程。」
コクコクと頷き、スッと懐に手を入れると、
「えっと・・・はい、コレ。」
「えっと・・・はい?コレ?」
徐にスタンプみたいな金属を、糜芳はそのまま戸惑う魯粛に渡す。
「あっ、それは州牧の印璽だから。
只今を以て魯粛よ、貴君に涼州牧を譲るから、後は宜しくぅ!!」
すがすがしい笑みで片手を上げ、あっさりと州牧の地位を捨てる糜芳。
「ハ?ヘ?・・・・・・ハアアアァァァァ!?」
絶叫しつつ、渡された印璽と糜芳の顔を、何度も見返す魯粛。
「いやあのその、ですね?
いきなりポンと州牧を譲られても、朝廷とかその辺が納得しないのでは?」
「大丈夫、大丈夫!!
ちゃ~んと相国閣下には、私から推挙をしておくし、拒否するならどうにかするから。」
魯粛の極々当たり前の疑問点に、そこはかとなく意味深な台詞を吐く。
「そういう訳でう~んと・・・コレとコレとコレと、コレもだな・・・はい、どうぞ。」
ドンドンと必要文書が記載されている、竹簡を魯粛の前に積み重ねていく。
「とりあえずコレ等に記載されている内容を、最低限頭に入れて置くように。」
「いやあの・・・待ってください!?」
完全に混乱状態の魯粛が、取り縋る様に糜芳の服の裾を掴む。
「貴君なら楽勝にこなせるから、大丈夫!!
最初は戸惑うだろーけど、慣れればなんて事はないから!
細かい事は蔡良義兄さんを、そのまま別駕従事として置いていくから、判らない事が有れば随時相談をすれば良いと思う。」
ポンポンと優しく肩を叩き、さりげなく裾を掴んでいる魯粛の手を外し、片目を瞑って指で「グッドラック!」のジェスチャーを見せた。
「そんじゃあ、今から長安に行ってくるね!
・・・ヒャッホウ!フリーダぶっ!?」
自由という、輝く未来の入り口(幕舎の出口)に向かって、嬌声を上げながら駆け出した瞬間、裾が引っ張られてビタン!と、バンザイの格好で顔面からうつ伏せに倒れる。
「ぐぉぉぉ・・・鼻が、鼻がぁぁ!?
なんにゃの一体?」
うつ伏せ状態で鼻を押さえつつ、顔だけ振り向いて観ると、怒りの形相を浮かべた蔡良が、ガッチリと裾を掴んでいた。
「何すんの義兄さん!?」
「それはこっちの台詞でしょうが閣下!?」
裾を掴んだまま、ズルズルと糜芳を引き寄せる。
「犬猫を譲る様に、ポンポンと実績や経験すら無い者に、州牧の地位を譲るとは、一体何を考えているんですか!?」
「待って待って蔡良義兄さん!?
ちゃんとコレでも考えているんだって!?」
蔡良の剣幕に、必死に弁明する主人公。
「ほほう、如何なる考えですか?」
「いや俺ってさ、政務なら無難にこなせるけど、軍務はからっきしだろ?」
「あの閣下?閣下の政務能力が無難なら、大概の文官は無能になりますが?
まぁ、軍務に関しては確かに左様ですね。」
突っ込む所は突っ込み、認める所は認める。
「そんでさ、此処涼州は政務だけでなく、軍務も明るい人物の方が、州牧として適任だと思う訳よ。」
「確かに文武両道が、望ましく有りますが。
閣下はこの魯粛なる人物が、適任者で有ると仰られるので?」
横目で魯粛を睥睨しつつ、相槌を打つ。
「その通り!!
下手な人物なら譲るのは躊躇するけど、魯粛みたいな文武両道型なら、涼州にはピッタリだと思ったんだよね。」
自然と正座をしつつ、コクコクと頷く。
孫呉に於ける、魯粛の活躍を知っている糜芳からすれば、是ほどの適任者は中々居ないと、断言できるのであった。
(なんか陸戦が得意だったらしいから、適性もちゃんと有るだろうしな。
歴史改変?に成りそうだけど、もう知ったこっちゃ有るかいな!
サッサと徐州に帰って、酒池肉林をしたい)
歴史の修正力でどうにかなんだろと、テキトーに投げる。
「つかぬ事を訊くが魯粛とやら。」
「はっ、何でしょうや?」
「今までに戦や、賊退治に参加した事は?」
「はっ、正式な軍務経験は無く、地元の有志と、こそ泥を退治したぐらいであります!」
蔡良の怒りのオーラに気圧され、きびきびと軍人の如く返答する。
「全っ然ド素人じゃないですか!?
これならよっぽど私の方が、軍務経験有るぐらいですよ!!」
「え?蔡良義兄さんは、従軍経験有るの?」
素朴な疑問が浮かぶ。
「涼州人ならば、当然の話です。
土地柄を考えれば、自明の理でしょうに。
完全に文官の私でも、大小問わず10戦ぐらいは経験済みですよ。
武官ならば董卓閣下の様に、100戦を越す古強者も、ゴロゴロ居て珍しくありませんし。」
糜芳着任前の世紀末っぷりを、生き証人が赤裸々に語る。
「涼州の武尊気質な土地で、まともに軍務経験の無い者に、自分の命を預ける者はまず居りません。」
「?じゃあ前任者達はどうしたんだ?」
「殆どは郡県や州の武官に、丸投げですね。
偶にと言うかちょくちょく、元武官だった馬騰殿の様に、兵士を預けた途端部下の武官に、寝首を掻かれる事も有りますけど。」
下剋上事情を、極当たり前に話す蔡良。
「そもそもどういった根拠で、其処な魯粛が軍事に長けていると、見なしたのですか?」
「う~んと・・・え~と・・・勘・・・?」
前世知識からです!とは言えず、うんうんと唸りつつ答える。
「そんな曖昧でいい加減な根拠で、州の最高位を譲る様な、暴挙をしないでくださいよ!?」
顔を真っ赤にして怒鳴る。
しばらく懇々と、糜芳に説教をした後、
「例え閣下が軍務に暗くとも、閣下の仙術を観た異民族達は、摩訶不思議な現象に畏怖を覚えたからこそ、現状で異民族に侵攻されずに、小康を保っているのであり、涼州人も久しく無かった平穏を、漸くにして謳歌しているのです。」
現況の涼州民情を切々と語り、
「加えて閣下の剛腕とも言える政治手腕で、荒れ果ててバラバラだった涼州内も、涼州復興・発展を目指して1つに纏まったのです。
これからの時に閣下は、無責任に辞任すると言われるのですか?」
褒めつつ、さりげな~く人情に訴える蔡良。
「イエスアイデュ。」
「い、家酢?愛・・・?」
「・・・何でもない。
いや~・・・涼州復興・発展の舵取りはしたからさ、ぼちぼち涼州民自身が、自分でやるべきだと思うんだよねぇ~。」
後ろ手で頭を掻きつつ、「もうええやんか俺居なくても」と、辞任を遠回しに仄めかす。
「・・・ふぅ、其処まで言われれば、是非も有りませんね・・・分かりました。
早速私からも義父上に、添え状を送りましょうぞ。」
「え!?ホントに?ありがとう義兄さん!」
留任を訴えていた蔡良が、いきなり主張を翻して、進んで辞任を後押しする事に戸惑いながらも、朗らかな笑顔で感謝する。
「ええ、義父上には「涼州牧を辞めて、大鴻臚として董卓閣下や義父上と共に、長安で働きたい」との旨を、きちんと伝えます故。」
「うぇ!?何で!?」
何故かにっこり微笑む蔡良を見つめ、素っ頓狂な声を上げる。
「何でもクソも、閣下の場合州牧の官位は辞めても、九卿である大鴻臚の官職は、しっかりと残っているからです。
今までは州牧の任務が優先され、大鴻臚の職務の方は、半ば免除されていましたが、その州牧を退くと有らば、大鴻臚の職務を務めるのが当然ですから、当然中央に出仕するのが自然な話ですよね?」
「・・・・・・うぅ、確かに・・・。」
蔡良の正確な解説に頷く。
「じ、じゃあ大鴻臚も辞めれば良いんだ!」
「ええ、まぁ人材不足に悩んでいる、董卓閣下や義父上が、閣下程の人材を素直に手放すなら、確かに可能ですね。」
しっかりと逃げ道を塞ぐ。
「そ、そんな・・・。」
愕然とする糜芳。
(確実に辞めさせてはくれねーよなぁ。
多分俺の脱走に備えて、厳重な警戒網も張られるから、浮屠を頼っても難しいだろうし)
脳内で予測した後に、
(涼州と長安、どっちがマシか?
んなもん、天秤に掛ける迄もねぇわ。
地方最高位で、ある程度自由に動ける州牧と、蔡邕爺と董卓魔王にこき使われる中央。
・・・ブラック労働は絶対に嫌じゃい!)
荀攸と机を並べ、目の下にクッキリと隈の付いた状態で、ゾンビの様に働く姿を想像し、イヤイヤと頭を振る。
暫く懊悩した後、
「・・・・・・州牧頑張ります。」
うなだれながら、継投続行を宣言した。
急展開の連続に、唖然呆然としている魯粛の許に、覚束ない足取りでノロノロ近付くと、
「・・・済まないが、印璽を返して貰えるか?」
言い難げに返却を求める。
「あ、はい!どうぞどうぞ!」
「糠喜びをさせて済まないな。
お詫びに貴君には、大鴻臚の官職を譲る。」
頭を下げて謝罪する。
「全然お詫びじゃなくて、只単に面倒事を押し付けているだけですよねそれ!?
「楽聖」と世間に謳われる、糜芳閣下の後釜なんて、成りたがるバカは居ませんよ!?」
しっかりと糜芳の企みを看破して、猛然と拒絶する魯粛。
こうして糜芳は、歴史の修正力?に依って涼州牧を留任する事となり、とりあえず魯粛を書生(住み込みの見習い)として、迎え入れる事となったのであった。
続く
え~と次話は、魯粛の話と董卓とそのグレートマザー辺りを中心に、書いていこうと思っております。
遅筆と更新の遅れを、深くお詫び致します。
楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。
優しい評価といいねをお願いします。




