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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
101/111

その4

読んでくださっている方々へ


とりあえず書き上げたので、投稿させて頂きます!


今年最後の投稿となります。


色々とお騒がせしたりと、迷惑もおかけしましたが、当作に誤字脱字報告・いいね・感想を書いて頂き、誠にありがとうございました!


来年も宜しくお願い申し上げます。

     涼州右扶風郡郿県郿城建設地


「今日も1日御安全に~。」

「「「「「へ~い!御安全に~!」」」」」

糜芳にとって前世で聞き慣れた、朝礼の定例句の挨拶に、万を越す野郎達が野太い声で挨拶を返し、さながら戦場の鬨(とき)の声の如く、大地を揺るがした。


(うう・・・なんでオレがこんな現場の監督なんざ、やらなきゃいけねーんだよ?クソったれ!

本業の司空府連中がノラ扱いて、累代遊び呆けた結果、マトモに監督業務をこなせる奴が、殆ど居ねーのが根本的な原因だけどさ。

そんなアホ共のツケをオレが支払うってさ、おかしくない!?)

腕や背中に落書き(刺青)だらけの作業員を観て、こうなった経緯を思い出しつつ、司空府連中に呪詛を吐く。


8月、正式に施工許可を董卓から貰った糜芳は、冬季に入る前に住居スペースを完成させるべく、即座に郿城建設予定地に赴き、縄(ロープ)で※縄張りを張って内壁と外壁の形状を表し、予定地の中心点を基準点として、その辺に落ちている、長めの木の棒を※バカ棒に利用して、建設予定地の地形の高低差を測る、測量を行ったのであった。


残念ながら現代のレベル測量器と違って、レンズが無いので目視での測量となり、本来測量したい測点までを何回も、基準点→観れる範囲内の測点=中継点を計測→計測した中継点を基準点に→次の中継点を計測へを繰り返す事になり、ヒイコラ泣く羽目になったが。


※縄張りを張る・・・家の形状を縄で表し、それを基準に基礎を作って、家屋を建てていく目印の事。

転じてヤーさん等の、個人又は組織の活動区域を指す様になった。


※バカ棒・・・簡易的に基準点と、測点との高低が測れる棒の事。

基準点を測量器具で観て、バカ棒に目印の横線を引いて測点に置き、横線よりも下だと測点は基準点よりも土地が低く、逆に上だと測点の方が基準点よりも土地が高いのが判る。


そうして測量した結果、北側から南側に若干の傾斜がついていた為、都市全体を現状よりも高く土で盛り、城門付近以外は北側を高く南側を低くする、※片勾配(かたこうばい)にする事を決定する。


※片勾配・・・雨水等が溜まらない様に、排水の為にわざと片方に傾斜を付けて、排水を促す事。

因みに道路上に於いて、道路際に片方しか排水溝が無い場合は片勾配、両際に有る場合は道路の中央線を頂点に、蒲鉾(かまぼこ)型の形状になっており、両勾配になっている事が判る。


測量を終えたと同時に、皇甫嵩や朱儁を通じて軍部が保有している、急拵(きゅうごしら)えの砦や濠等を作るのに使用する、畚(もっこ)や鍬(くわ)等の工事用具を、「ど一せ使いませんよね?死蔵するならください」と融通と言うよりは、半ば強引にかっぱらう勢いで調達したのであった。


調達した工具で飲み水確保の為に、井戸掘り等をしている間に、洛陽組と一部の長安組で混成された、凡そ20万の移住者達が、護衛兼監視役の兵士に引率されて、ぞろぞろと現れたのだが、


(・・・百鬼夜行処か、亡者の行進やんか)

とりあえず壮行会みたいなモノを催し、演説擬きをしようと設置した、高台から移住者達を観て絶句する糜芳。


先頭を歩く遊侠や博徒達は、厳めしい面に目を尖らせ、季節柄なのか上半身をはだけて、自分達の刺青をこれ見よがしに見せつつ、のっしのっしと肩を怒らせて歩いており、まるで獄卒の鬼の様。


博徒達の後ろに続くのは、柳の様に痩せた女性達と一般男性達で、僅かな私物や子供を背中に背負(しょい)いつつ、頼り無げな足取りで俯いて歩く様は、さながら幽鬼の様。


そして後尾に続くのが、孤児で有ろう年端も行かない子供達で、フラフラと覚束(おぼつか)ない足取りながらも、大人達に置いて行かれ無い様に、必死な形相で食らい付いて来ており、中には幼い弟妹(ていまい)を兄姉(けいし)が背負っている者もいた。


肋(あばら)骨が浮き出ていて、お腹だけがポッコリ膨らんでおり、正しく餓鬼の様な有様である。


そうした亡者の行進が続き、自分の許に辿り着いて、痩せてはいるがやたら目つきの鋭い爺さんと、恰幅の良い恵比寿顔のオッサンが進み出て来て、


「「この度は・「ああ、良い良い挨拶は後回しだ。

誰ぞある!急ぎ食料庫を開けろ!

先ずは飯だ飯!!」

定例句の挨拶をしようとするのを遮り、食料提供を優先する糜芳。


「腹が減っては戦にならんの言葉通り、腹が減ってはマトモに話にもならん。

男衆は急いで枯れ木等の燃料調達、女衆は鍋釜に水を入れて煮炊きの準備をする様に!

子供衆はそれまで待機、休憩をしなさい。

遠路の行程ご苦労であった。」

特に子供達に向けて拱手する。


「飯が食える」と判った移住者達は機敏な動きを見せ、男達は柴刈りに散って女達は井戸に水汲みに回り、あっという間に煮炊きの準備を整えた。


(う~ん・・・飢えてる人に固形物ってまずかったんだっけ?

まぁ、この時代の華北の飯は、結構ドロドロな麦粥だから、多分大丈夫だと思うけど)

予め長安から貰っていた食料を放出し、がっつく様に食べる移住者達を、気持ち心配げに眺める。


そうこうしている間に、腹一杯になって満足したのか、寝転ぶ者が出始めて一息ついた頃に、再び代表者っぽい2人が進み出て来て、


「改めて感謝を大鴻臚・糜芳様。

あっし等博徒みたいな、世間に背を向けたはみ出しモンに、お天道様の当たる場所(表稼業)を提供して頂き、誠にありがとうございやす。」

「ウチら遊侠のモンも同じく。

あのまま抗争を続けても、ジリ貧になる所だったので、糜芳様の提言は本当に助かりました。

郿城の治安に微力ながらも、貢献する事を此処に誓います。」

痩せ老人が博徒を、恵比寿顔が遊侠を代表して、糜芳に感謝の意を伝える。


「・・・うん?あれ?私、名乗ったっけ?」

首を傾げて疑問符を浮かべる。


「いえいえ、私共日陰者には日陰者なりに、生き馬の目を射抜く渡世を生き抜く為に、色々と耳目を持っておりますので・・・ねぇ冷慈(れいじ)翁?」

「単寿(たんじゅ)どんの言う通りでさぁ。

あっしらにとって、お上の誰が政(まつりごと)の責任者になるんかは、死活問題になりかねやせん。

上手く付き合っていくには、先ずは相手を知るのが肝要ですんで。」

意味深な笑みで2人は答えた。


(はは~ん、裏社会の情報網ってヤツか。

「オレの事は重々知ってますよ」ってか。

・・・ほんじゃまぁ遠慮要らねーかな)

内心で呟き、


「なる程、私の事を知っているのなら話は早い。

冷慈と単寿と申した2人が、それぞれ侠の者の纏め役と見做して申し渡す。

1つ、怠惰を貪って手を抜いたり、他者へ盗みを働く者は、最前線送りに致す。

2つ、他者を傷付けたり奪ったりした者は、状況次第で最前線送りか、その場で死罪に処す。

3つ、如何なる理由が有れども殺人を犯した者は、容赦なく死罪として首を晒す。

そして当然の事だが、連座として一(・)家(・)の(・)者(・)全員も同罪とする。

その旨(むね)、しっかと配下の者達に通達し、齟齬が無いようにな?まぁ、聴いていなかろうと犯せば問答無用だがな。

無論、お主達も例外では無いからな?」

ニッコリと笑顔で、劉邦の法三章よりもエグい三章を告げる。


「ち、ちょっとお待ちを糜芳様。

それはちと、厳しすぎやしやせんかね?」

「何処が?」

「え~と全体的に、ですかね。

特に連座を適用するのは、幾ら何でも・・・。」

冷や汗を流して、やんわり糜芳に抗議する。


「単純に怠惰者や犯罪者は、この新都市には要らんと言っているだけだぞ?

飯はキチンと出すし賃金も払う。

良く働く者には、金一封や酒を出すつもりだ。

それだけの事をしても、怠惰や犯罪を犯す痴れ者に、情け容赦をする必要性があるか?」

労働者待遇を述べる糜芳。


「うぐ、それでも連座制は流石に・・・。」

「それこそお主は何を言っているのだ?

お主達侠の者は盃(さかづき)を交わして、親子・兄弟の関係を作っているのだろうが。

なれば実の親子・兄弟と同様の処置を取るのは当然の話だし、罪を犯した子(分)を見捨てる様な、無責任で薄情な人道にも仁義にも悖(もと)る親(分)は、最早侠の者とは言えまい?

当然逆や兄弟(分)でも同様だろうがな。」

しっかりと侠の者(ヤーさん)の関係性を指摘した上で、キッチリと型をはめにかかる。


この時代には普通に有った連座制を利用し、「子分が不始末をすれば、親・兄弟分にも累が及ぶから、しっかりと管理・監視しろ」と、冷慈・単寿の両名に告げたので有った。


「確かに一理ありやすが・・・あっしらが説いても、言う事を聴かずに誤(・)解(・)し(・)て(・)暴(・)走(・)す(・)る(・)、跳ねっ返りが出かねやせんぜ。

此処は持ちつ持たれつで行けませんかね?」

さり気なく、「そんな事すれば、アンタに危害が及ぶぞ?」と暗に示しつつ、困り顔で懇願する。


単寿が冷慈の言に頷き、配下の子分達も剣呑な雰囲気を醸し出した。


「あのなぁ・・・持ちつ持たれつの関係性に此方(こちら)側が、わざわざ付(・)き(・)合(・)う(・)義(・)理(・)が有ると思っているのか、お前らは?」

冷慈のぼけた発言に、呆れ顔で述べる。


「「「「「ああ?なんじゃあやあ!?」」」」」

「静かにせんかい!!座っとれ!!

・・・どういう事でしょうか糜芳様?」

いきり立つ子分達を怒鳴りつけて鎮め、鋭い目つきでねめつける。


「どういう事ってなぁ、別段郿城に賭場(カジノ)を開く連中は此方からすれば、お前達である必要性が全(・)く(・)無(・)い(・)ん(・)だ(・)よ(・)。

博打のやり方に手慣れた、お前達が偶々(たまたま)あぶれてたから、利用しようとしただけだしな。」

実状を淡々と述べた。


実際に董卓と糜芳の間には、董卓側は悪化要因の切除に因る治安良化、糜芳側には賭場のノウハウを知る連中が、手っ取り早くゲット出来るという、WIN・WINの関係が成立していたが、一方で糜芳と冷慈達の間には、WIN・WINの関係性は普通に発生し得なかった。


ぶっちゃけ糜芳側からすれば、現代の電子機器を駆使したハイテクな賭博ではなく、ローテクな原始的な賭博なので、ルールさえ理解していれば、素人でも糜芳が競馬を画策した様に経営が可能であり、例えノウハウが無くても時間を掛けさえすれば、どうとでもなる類いなのである。


つまりは声を掛ければ、合法的に賭博が開帳出来る特典が有る為、近隣の博徒達や博打好きが喜んで集まるので、幾らでも代替の効く話であり、どうしても冷慈や単寿でなければならない理由が、全く無かったのであった。


「それにそもそもお前達は、主上陛下のお膝元・長安の治安を乱した当事者達だろうが。

そんな騒乱を引き起こした奴等に、賃金付きの労(・)役(・)で済ませた上で、住居と生計をも提供するという、破格の待遇をしてやっているのに、未だ不満が有ると言うのかお前ら?うん?」

某司令官スタイルで、問い詰めていく。


「・・・で、ではもしもあっしらが、糜芳様の提案を蹴ったら?」

「其処までの厚(・)遇(・)を示して尚、わがままを通す輩に掛ける情けは無い。

国家騒乱罪で、問答無用に全員斬首だ。

・・・と言う訳で、オ~イ。」

容赦の無い死刑宣告と共に、休憩時間や終業時間を報せる役割の、銅鑼(どら)係にパンパンと手を鳴らして合図を送ると、


ボァァァアン、ボァァァアン、ボァァァアン・・・・・・ドドドッ、ドドドッ、ドドドッドドッ・・・ヒヒーン!


「「「「「ヒャッハァー!?」」」」」

けたたましい銅鑼の音に付随して、土煙と地響きを轟かせつつ数万騎の涼州兵達が、世紀末的っぽい雄叫び(?)を上げながら、糜芳の許に馳せ参じる。


「州牧閣下ぁ、此奴等ですかいな?

董卓のオジキに散々迷惑を掛けたっちゅう、野風憎(のふぞう)(ヤンチャ坊主)なボケ共ちゅうんは?」

怖いぐらいの偶然で、古代ローマの兜の様なモヒカン状の鬣(たてがみ)兜を着けた男が、冷慈達侠の者を横目に見据え、糜芳に尋ねた。


糜芳がコクリと頷くと、侠の者達のイキッた怒鳴り声とは別次元の、地鳴りの様に響く怒号と、戦場仕込みの罵詈雑言が涼州兵達から放たれ、ジワジワと冷慈達の周囲をぐるりと展開し、円を描く様にぐるぐると周り始め、ヤンキー版囲(かご)め囲(かご)め=通称集団私刑(リンチ)の形を形成していく。


数多の戦場を渡り歩き、生死の境を生き抜いて来た強者が放つ、ホンマもんの殺意が乗せられた怒声に、いきり立っていた者達はへたり込んで、完全に呑まれて震えていた。


(まぁ、さもありなんだわな。

何処ぞの国の空挺(くうてい)団(大概の国では最精鋭)、別名狂っている団を、素人が相手にしている様なモンだし)

現段階で最強の軍人達VSイキリ素人集団との差を、まざまざと実感する。


「わ、我々を一方的に虐殺すれば、董卓相国の評判が地に落ちますぞ!?」

単寿が雰囲気に呑まれつつも、何とか窮地を切り抜けようと試みるも、


「あのな?耳敏(みみざと)いお前らなら、相国閣下の世評を知っているだろうが?

例えお前達を皆殺しにしても、今(・)以(・)上(・)に(・)落(・)ち(・)る(・)処(・)か(・)納(・)得(・)さ(・)れ(・)る(・)だけだからな。」

一刀両断で、糜芳にバッサリと切り捨てられる。


実際に現状の董卓と後年の呂布は、怪しいキノコでデカくなり、目の付いた星で無敵になる、某配管工のヒゲダンディの如く、ある種の無敵状態の領域に突入していた。


理由としては、名家閥連中の悪行や罪行を、糾弾して粛清しまくっている董卓と、それを積極的に加担している形になっている呂布は、粛清から逃(のが)れて地方に逃(に)げた名家閥の連枝や、在京の名家閥連中に因って、徹底的に悪評を拡散されていたからである。


名家閥連中は自分達の悪行を棚に上げて、自身達の無実と正当性を印象づける為、正邪の印象のすり替えを行っており、その流言飛語の影響で、両者は「悪逆非道」・「残虐無尽」のレッテルを貼られ、実状を知っている司隷や涼州・并州以外の民衆の間では、「忌むべき存在」と化していったのである。


ついでに反董卓連合に参加した袁紹達も、自分達の挙兵と独立の正当性を喧伝する為に、流言飛語に積極的に便乗・加担したので、両者の世評は地の底まで下落してしまう。


そうした一連の出来事の影響で、両者の評判はマイナス方面に振り切れる事となり、結果的に両者がどんな残虐非道を為しても、「彼等ならやって当然、不思議でも何でも無い」という、トンデモ認識が世間的に醸成されてしまったのであった。


その為名家閥連中や袁紹達は、大概の出来事は「董卓だから、呂布だから」と、「負の容認」とでも言うべき認識で納得されてしまう、やりたい放題の無敵状態となり、「何をしても今以上に評判の落ちようが無く、何か仕出かしても容認されてしまう」という、希代の怪物に両者を仕立て上げたのである。


それはさておき、


「うう・・・。」

「お前が把握している通り、司隷・涼州以外の民衆は、例えお前達を皆殺しにしても誰も不思議に思わんし、閣下の所業ならと納得するだけだろうな。

ついでに司隷・涼州の民衆は、お前達が長安騒乱の元凶なのは知っているから、閣下の英(・)断(・)に拍手喝采して喜ぶ事だろう。」

しれっと自分がしようとしている所業を、董卓に擦り付け様とするゲスな男・糜芳。


「と言う事でお前らが採れる選択肢は、3つだ。

1つ、素直に条件に従って、労役に精励する。

恐らくは1番標準的な選択だな。

2つ、自ら進んでか強制的に最前線に赴いて、様(・)々(・)な(・)雑(・)務(・)に従事する。

間違いなく1番男を上げれる選択だぞ?

3つ、無駄な抵抗をして、全員処断される。

確実に1番苦しむ選択だろうな。」

3本の指を突き出した後、


「あ、そうそう。

3つ共嫌なら番外になるが、異民族に奴隷として売り飛ばす、というのもあったな。

家畜同然の生き地獄生活が送れる、1番貴重な体験を得れる選択になるけど。」

思い出したかの様にポンと手を打ち、満面の笑みで選択肢を選ばせる外道。


糜芳に併せて涼州兵達=世紀末的狂っている団に依る、おどれすどれと罵(ののし)り混じりで決断を迫る声に、上から押さえ付けられたかの如く冷慈達は、


「「「「「喜んで条件に従います!!」」」」」

一斉に土下座して、労役に従事する選択を選んだので有った。


こうしてきっちりと型に嵌めて、冷慈達ヤーさんに上下関係と自分達の境遇を理解させ、工事をスタートさせたのだが・・・。


(いやいや、工事進行速度が滅茶苦茶早いわマジで)

予想外の展開に驚く糜芳。


9月、世紀末的リアル獄卒(涼州兵)監視の下(もと)、何(・)故(・)か(・)労働の喜びに目覚めたかの如く、死に物狂いで必死に働くヤーさん達のお蔭で、工事を開始して約1ヶ月程で、外壁部の堀の掘削が完了。


並行して外堀の掘削で出た残土で、内壁の造成が版築工法で行われてコレも完成し、今は雨雪に耐えられる様、日干しレンガで内外装を、綺麗に調えている状態だった。


(いや~史書だといつの間にか、郿城が建設されてたって感じだったけど、コレだけの人数で人海戦術を駆使すれば、あっという間に出来たのもそりゃ当然だわな)

総監督で有る糜芳用の幕舎から、軍隊蟻の如くぞろぞろ群がる、労働者を観て納得する。


長安から送り込まれた凡そ20万人の移住組の内、約8万人が成人男性で、この8万人が主な労働者で有り(冷慈達ヤーさんは2万人程)、同じぐらいの数の約8万人が成人女性で、残りの約4万近い子供の世話や、煮炊きと柴刈り(燃料調達)を行っていて、忙しそうにバタバタと右往左往していた。


因みにだが比較対象として、漢代の万里の長城と比較すると、万里の長さは西の涼州・敦煌郡にある玉門(ぎょくもん)関から、東の幽州・楽浪郡迄の約8千Kmであり、幅は平均約5mなので縦横で約400K㎡も有り、労働者は100万人を越していたとされる。


それに対して郿城は2Km四方なので、縦横凡そ4K㎡であり、労働者は四捨五入すれば約10万人である。


面積は約100分の1以下なのに、労働者人口は約10分の1以下と、単純な比率で観れば労働者数が滅茶苦茶多く、コレだけのマンパワーが集中すれば、あっという間に郿城が完成したのも、至極当然なので有った。


(それに浮屠の職人達(職長)とも、揉める事も無くスムーズに、話が進んだのも大きいわ。

前世の記憶だと大概は、何じゃかんじゃと揉めたり監督と職長が対立したりと、マトモに進行しない事が、珍しくなかったからなぁ)

前世に思いを馳せる糜芳。


現代の建築現場の職人・職長さんで、現場監督さんを個人的な好悪は別として、仕事上で監督さんを好いている人は、ほぼまず居ないと思われる・・・逆も然りだろうが。


何故なら大概の場合は、職人さんと監督さんの利害関係が対立しており、そして大概は元請け側の監督さんが強権を発動して、意見を押し通す事が多い為、下請けである職人さんの不平不満が、かなり溜まりやすいからだ。


その為昭和期は、職人さんが監督さんに対して、闇討ちや襲撃宣言をしょっちゅうしていたらしいし、監督さんも闇討ちや襲撃に備えて、車の中や現場事務所のデスクの横に、木刀や金属バットを常備していたようだ。

(剥製爺ちゃんと古株の監督さん談。

フツーに日常茶飯事だった模様)


そして平成期になると、流石に昭和期の様な、野蛮な行動は鳴りを潜め、彼方此方(あちこち)の現場事務所に謎(・)の(・)不審火が、何(・)故(・)か(・)ちょくちょく発生する程度であったが。

(風の噂であり真偽不明)


そうした対立と妥協の果てに、大体の建築物は成り立っており、監督さん・職人さん共に、自分が関わった建築物には、絶(・)対(・)に(・)住(・)み(・)た(・)く(・)な(・)い(・)と揃って同意する、闇深い物件が生成されるのである。


まぁ、建築物の根幹部分で有る躯体(くたい)工事に従事していた、前世の型枠大工の観点からすれば、コンクリが上手く入らずに、隣の部屋が壁の大穴から丸見えの物件(当然左官屋さんが、後日大穴をモルタルで潰したが、設計強度は絶対出ない)や、設計ミスで壁のコンクリ厚が足らず、内装で誤魔化している物件に、間違っても住みたいとは確かに思わないが。


他にも施主でありマンションのオーナーでもある人が、自分達が住む住居部屋だ(・)け(・)、他の人が住む予定の部屋よりも鉄筋・鉄骨とコンクリとを厚くして、構造強度を高めて少しでも災害から助かろうとする、ゲスいオーナーの物件が有ったりと、どうしても裏事情に関わる事が多く、そういった理由で両者共に、住みたくないと思ってしまうのである。


(因みに件のゲスいオーナーの物件だが、通常は階層がある程度上がる毎に、鉄筋・鉄骨を細くして強度を保つ様になっている(鉄筋・鉄骨の厚さを変えずにいくと、鉄筋・鉄骨自体の荷重で金属疲労や、壁や天井にダメージが蓄積されやすくなり、却って強度が脆くなって落ちるから)。

それなのにオーナーの部屋自体は、よりによって最上階に設計されており、その為躯体を分厚くした分、地震等で建物が倒壊した場合、重力の法則に従って真っ先に、オーナーの部屋が地面に激突するという、本末転倒なおバカ設計になっていた。

その為職人一同で、「要らん金掛けて、オーナー自身が真っ先に犠牲者に成ろうとは、オーナーの鑑(かがみ)やな」と大爆笑した)


それはさておき、


(まぁ、前世の建築物みたいに、複雑な工法だの機材や素材を使わない分、単純明快で分かり易いから、揉める事案が無いのが大きいかも知んないけど)

前世の工事と今の工事を比較して、かなり簡素で原始的な工事だなと感じる糜芳。


実際に糜芳が現場でやった事は、初期段階で測量をした事と、郿城内の水回りの勾配を決めた事、後は壁の高さと幅の確認と、丸太で突いて強度検査をしたぐらいである。


現代の様に職長会議だのと、監督と各業者の職長が集まって、30分から1時間も角突き合わせて喧々囂々(けんけんがくがく)する事も無く、作業中に要らん電話を掛けて来て、違う現場の話をして来て混乱させる、ハゲ親方も居ないので、糜芳的には超気楽であった。


因みにだが、糜芳が気楽な気分で有るのと同じく、浮屠の職人達=職長達=施工業者達も、気楽な気分で仕事をしていた。


何故なら糜芳がきちんと、真っ当に監(・)督(・)業(・)務(・)をしてくれるからである。


大概の現場の場合は、頭がなんちゃって監督なので、職人が工事設計・現地測量・資材調達・施工管理・現場指揮の全てを、一身又は分散して背負ってやらなければならず、文字通り東奔西走する羽目になるのが、標準的な事であった。


それに比べて今回は糜芳が、設計・測量・調達を担ってくれてるので、自分達の担当部署だけに専念が出来、職務上の負担と負荷が非常に軽く済んでおり、職人一同からすれば生涯稀にみる、「大当たり」の現場であった。


又、糜芳は「仕事の話」が出来るのも、職人一同からすれば大変喜ばしく、工賃や工費をケチって、銭を懐に入れようとしない所も好印象であり、司空府連中(素人集団)や頭がファンタジー(妄想お花畑)な名士達(クソ設計士)に有りがちな、独自性(オリジナリティ)を出そうとして、突拍子もない奇天烈な設計や、無茶な要望のゴリ押しをしない事も併せて、好感度爆上がりである。


現場の職人達からすれば前述の両者は、現代風に例えれば、鉞(まさかり)担いでそうな名前の某サラリーマン(営業)や、釣りを本業にして仕事を副業にしている某ズボラ社員(営業)と、同ベクトルの「工事現場には要らない子or邪魔者」であり、存在自体を「ファンタジー(夢幻・幻想)」にしたいぐらいであった。


ドコを切っても同じ顔が出て来る、飴の様な名前の某サラリーマン風に云えば、「工事現場をなめんじゃねえ!!」と、叫び声を挙げたい職人達であった。


それはさておき、


(ただまぁ、ちょっと薬が効き過ぎたかな?)

冷慈や単寿が必死に、子分達に安全確認を呼び掛けているのを観て、微苦笑する。


両名を「衛生安全責任者」に任じ、両者共に「なんじゃそりゃ?」とした顔で、役割を尋ねて来たので、前世での役割を説明すると、顔面蒼白になったのであった。


この衛生安全責任者は、元請けの中堅クラスの監督さんが、良く任命される役職であり、簡単に言えば現場内で、労災事故や刑事事件が発生した場合、責(・)任(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)警(・)察(・)に(・)出(・)頭(・)す(・)る(・)という、元請け側の身代わり役(ムショお勤め役)である。


今時のヤーさんでさえほぼ居ない、絶滅種に近い役割を会社に担わされ、問題が無ければ現場所長(総監督)に出世出来るが、問題が発生すれば身の破滅という、デッドオアアライブな状態に成る為、プレッシャーやストレスがハンパないらしく、心身共に病んでしまって、大体は痩せたり太ったり、ハゲたり胃に穴が空く事が多い様だ。


冷慈や単寿も例外では無いらしく、死傷者が出れば自分達に罪が及ぶと怖れ、病的なまでに安全確認を徹底しだし、冷慈は益々やせ細って胃を抑え、単寿は少しずつ頭部が寂しくなっていた。


「う~ん、やっぱ監督が言ってたのって、ホンマやったんやな~」と、他人事に冷慈達を観察していると、


「申し上げます。」

護衛兼側近扱いのイーが入って来た。


「うん?何事だ?」

「はっ、趙昂県令様と県令様の奥様が、此方に参られております。

如何致しましょうや?」

用件を告げて対応を伺う。


「あれ、コッチに来たのか?郿県城内でノンビリ待っててくれて良かったのに。」

「はっ、閣下をお待ちするのも心苦しく又、待つ時間が惜しいとの事です。」

「なる程ね、じゃあ通してくれ。」

趙昂の言い分を受け入れて、幕舎に案内するように指示を出す。


すぐさまイーの案内によって、男女一組が糜芳の前に現れて、


「州牧閣下に於かれましては、ご機嫌麗しゅう。

お召しにより羌道(きょうどう)県令・趙昂とその妻・王異、まかり越した次第にございまする。」

丁寧な挨拶と共に、拱手しつつ頭を下げた。


「いや、遠路呼びつけて済まぬな。

早速用件を話すが、貴君等は「競馬」の事について、聞き及んでいるか?」

「はい、勿論聞き及んでおります。

私が県令を務めている羌道県でも、牧場主や馬喰(ばくろう)(主に馬の売り買いをする行商人)の間で、大層評判となっておりますので。」

コクリと肯定する、趙昂夫妻。


「ふむ、それなら話しが早い。

今回初めて公営の賭博となる、競馬に関する運営部署を、近々設立する予定なのだが、その運営の統括責任者に趙昂、貴君になって貰いたいのだよ。」

「ええ!?私にですか?」

糜芳の要望に素っ頓狂な声を上げ、驚愕した表情で自分を指差す。


「横から差し出口を失礼致します閣下。

それは巷(ちまた)で噂に聴いた、女騎(じょっき)なる女性が専門の騎手を務める事と、関連性があるのでしょうか?」

「うん、大いにあるな。」

某路上格闘家の女刑事さんを彷彿とさせる、気丈怜悧風な美貌を持った、王異の問いに頷く。


「なる程・・・解りました。」

「ええ?え~と、どがいなこっちゃの嫁さん?」

「はい、旦那様。

糜芳閣下は、競馬とやらの統括責任者に、旦那様を任じると共に、妻で有るウチに女騎の管理責任者を、任せる算段なのです。」

「え?ほうなんか?」

イマイチ飲み込めていない夫に、理路整然と推理を述べる妻。


「ええ、そうでなければウチまで、わざわざ召喚する理由が有りませんので。」

「おお・・・流石賢妻と名高い王夫人。

少ない情報量の中で、私の考えを其処まで推し量れるとは恐れ入る・・・素晴らしい。」

地頭の良さに、感心して舌を巻く。


(うおぉぉ・・・マジで賢い!

もうコレ旦那の趙昂を、名目上のトップに据えて、嫁さんの王異を実質的なトップにした方が、俺的にも良いんでは?)

脳内で趙昂夫妻に対する重要度の天秤が、ドンドン王異の方に傾いていく。


「過分なお褒めの言葉、恐れ入りますわ。」

照れてはにかんだ笑顔を浮かべる。


「え~と・・・どういう事?」

「はい、旦那様。

先ず1つ目は、女騎を管理する者が男性では、女騎の方々が要らぬ風評被害を被(こうむ)る事が、どうしても避けられません。

自然と未亡人や未婚者がなり手になるので、尚の事宜しくはないでしょう。」

「うんうん、けだしその通りだ。」

王異の説明に、コクコク頷く糜芳。


「う~ん、なる程、それは宜しくないわ。」

「はい、そうですね。

2つ目は、ウチが管理責任者になる事で、女騎に手を出そうとしたり、ちょっかいを掛けようとする不逞な輩を、抑止や排除する事が可能になります。

ウチが直に統括責任者である、旦那様に直訴すれば済みますので。

・・・因みに旦那様も、不逞な輩の分類に相当しておりますので、やらないでくださいね?」

そこはかとなく謎のオーラが、王異から発せられるのを、幻視出来てしまった男達。


「嫁さんの息が掛かっとる者達に、ちょっかい掛ける勇気なんざないわい!!」

微妙に情けない理由で、ブンブンと首を振って否定する趙昂。


「え~と王夫人、趙昂の間に子供居るの?」

「はい、息子が1人おりますが。」

「よし、じゃあもし趙昂がやらかしたら、息子さんに家督が移る様、覚え書きを書いておくね。」

完全に天秤が王異に傾き、趙昂を見捨てる気満々な男・糜芳。


「まぁ、ありがとうございます。」

「ちょいちょいちょい閣下!?

嫁さんの話しを肯定しないで、否定して擁護してくださいよ!?男として!?」

「いや~、「能力と下半身は別物」って、どっかの賢人が言ってたし。

流石に下半身の貞操観念までは、責任持てないし。」

あさっての方向を向いて、視線を逸らした。


「とりあえず、王夫人は承知してくれるかな?」

「はい、不幸にも戦災に見舞われ、不遇を余儀なくされている方々や、良き縁談のきっかけになる一助(いちじょ)となるなら、喜んで合力させて頂きます。」

拝礼して笑顔で快諾する王異。


「うん?女騎になると、縁談が舞い込むのか?」

「はい、馬術に長けているのは、涼州では女性でも立派な美点ですから。

牧場関係者には、特に受けが良いでしょうね。

聴いた限りでは牧場関係者を始め、良き縁談に巡り会える様、女騎に自分から立候補する女性も、ちらほらいるとの事ですよ。」

「へ~・・・そうなんだ~。」

牧畜地域ならではの、独自の要素を知って驚く。


「牧場関係者は生活上で、外部との接点が少ない為、出会いもなかなか無いので、父兄は嫁入り先に、かなり苦慮しているそうですし。」

頬に手を当て、難しい表情で語る。


「ほへ~、なる程なぁ。

牧場主達にとっちゃあ競馬は、馬の勝ち負けだけじゃなくて、自分の娘や妹の大事な、婚姻活動の場にも成るわけか。

・・・そりゃ競馬の開催を、あれだけ強く要望する筈だわ。」

そっち方面の事は、からっきし念頭になかったので、王異の意見を聴いて、改めて先日の鬼気迫る開催要望に納得する。


「あ、そうそう糜芳閣下。

もう一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「何かな?」

「はい、競馬に関してなのですが、出走馬の種類は、どう分別されるおつもりですか?」

「へ?種類?幾つも有るの?」

王異の質問に首を傾げる。


「あの~閣下、偏(ひとえ)に馬と申しましても、速さと持久力を重点に置いた、一般的には軍用馬と呼ばれとる種と、馬力と耐久力を重点に置いた、一般的に荷駄馬と呼ばれとる種に、大まかに言うたら大きく分かれとるんですが?」

空気状態だった趙昂が、糜芳に説明をする。


「え?荷駄馬って、軍用馬に成れない駄馬がなるんじゃないの?」

「そがいな訳ないでしょう?

根本的な用途が違いますけん、駄馬が荷物(荷駄)を背負うのは、ちょいと無理です。」

頓珍漢な糜芳の答えに、首を横に振る。


「割合で云えば、軍用馬を育成しとる牧場の方が多いですけんどが、荷駄馬を育成しとる牧場も、少なくありません。

なんで、その辺を分けて競走させんと、そもそもが競技として成立しやせんのでは?」


現代日本でも一般的な競走馬(サラブレッド)と、ばんえい馬とは全く用途の違う品種であり、両種が違い過ぎてレース自体が成立しないのであった。


(うぉぉ・・・あっぶねぇ・・・王異さんの指摘がなかったら、後々面倒くさい事態に成りかねねーとこだったわ)

冷や汗を拭う思いの糜芳。


「いやあ王夫人!

貴君の指摘のお陰で、後難を避ける事が出来たよ、ありがとうね!

改めて競馬関連の協力お願いするね!」

拝む勢いで王異に感謝しつつ、


「え~と趙昂よ、貴君はどうする?

もう王夫人に全て委任するから、名前だけ貸してくれたら充分だけど?

一応羌道県から、郿県の県令に転任して貰うつもりではあるんだが?」

趙昂には適当な態度を表した。


「嫁さんとの態度の差が酷すぎる・・・。

ぞんざいな扱いにも程がありません?

うう・・・謹んで転任の件お受けしますよ。

私も嫁さんをほったらかしには、幾ら何でも出来せんので。」

うっすら涙を浮かべ、泣く泣く承諾する中国版山内一豊さん。


こうして競馬関連の運営の目途が立ち、新都市建設もドンドンと進み、本格的に冷え込む前の12月には、内壁と住宅地の造成が完了し、落成式に董卓を招く事となったのであった。


                 続く

え~と、とりあえず次話は、各群雄の近況を書いていきたいと思っております。


来年も楽しんで読んで頂けます様、精進に努める所存です。


皆様方が良い年末・年始を迎えられます様、心から願っております。


良いお年を!


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― 新着の感想 ―
土木建築方面の知識が結構あるように見受けられますので 土木系の三国志に行くのも良いのではないでしょうか? とかく専門知識が必要なお話は思いついてもなかなか書けませんから。 そうそう、鉱物資源に乏しい魏…
趙昂さん哀れ……まぁ、馬超への反乱をして息子の趙月もろとも斬られたとしか無いから仕方なしですか
昭和の闇は深い……w
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