その4
読んでくださっている方々へ
とりあえず書き上げたので、投稿させて頂きます!
今年最後の投稿となります。
色々とお騒がせしたりと、迷惑もおかけしましたが、当作に誤字脱字報告・いいね・感想を書いて頂き、誠にありがとうございました!
来年も宜しくお願い申し上げます。
涼州右扶風郡郿県郿城建設地
「今日も1日御安全に~。」
「「「「「へ~い!御安全に~!」」」」」
糜芳にとって前世で聞き慣れた、朝礼の定例句の挨拶に、万を越す野郎達が野太い声で挨拶を返し、さながら戦場の鬨の声の如く、大地を揺るがした。
(うう・・・なんでオレがこんな現場の監督なんざ、やらなきゃいけねーんだよ?クソったれ!
本業の司空府連中がノラ扱いて、累代遊び呆けた結果、マトモに監督業務をこなせる奴が、殆ど居ねーのが根本的な原因だけどさ。
そんなアホ共のツケをオレが支払うってさ、おかしくない!?)
腕や背中に落書きだらけの作業員を観て、こうなった経緯を思い出しつつ、司空府連中に呪詛を吐く。
8月、正式に施工許可を董卓から貰った糜芳は、冬季に入る前に住居スペースを完成させるべく、即座に郿城建設予定地に赴き、縄で※縄張りを張って内壁と外壁の形状を表し、予定地の中心点を基準点として、その辺に落ちている、長めの木の棒を※バカ棒に利用して、建設予定地の地形の高低差を測る、測量を行ったのであった。
残念ながら現代のレベル測量器と違って、レンズが無いので目視での測量となり、本来測量したい測点までを何回も、基準点→観れる範囲内の測点=中継点を計測→計測した中継点を基準点に→次の中継点を計測へを繰り返す事になり、ヒイコラ泣く羽目になったが。
※縄張りを張る・・・家の形状を縄で表し、それを基準に基礎を作って、家屋を建てていく目印の事。
転じてヤーさん等の、個人又は組織の活動区域を指す様になった。
※バカ棒・・・簡易的に基準点と、測点との高低が測れる棒の事。
基準点を測量器具で観て、バカ棒に目印の横線を引いて測点に置き、横線よりも下だと測点は基準点よりも土地が低く、逆に上だと測点の方が基準点よりも土地が高いのが判る。
そうして測量した結果、北側から南側に若干の傾斜がついていた為、都市全体を現状よりも高く土で盛り、城門付近以外は北側を高く南側を低くする、※片勾配にする事を決定する。
※片勾配・・・雨水等が溜まらない様に、排水の為にわざと片方に傾斜を付けて、排水を促す事。
因みに道路上に於いて、道路際に片方しか排水溝が無い場合は片勾配、両際に有る場合は道路の中央線を頂点に、蒲鉾型の形状になっており、両勾配になっている事が判る。
測量を終えたと同時に、皇甫嵩や朱儁を通じて軍部が保有している、急拵えの砦や濠等を作るのに使用する、畚や鍬等の工事用具を、「ど一せ使いませんよね?死蔵するならください」と融通と言うよりは、半ば強引にかっぱらう勢いで調達したのであった。
調達した工具で飲み水確保の為に、井戸掘り等をしている間に、洛陽組と一部の長安組で混成された、凡そ20万の移住者達が、護衛兼監視役の兵士に引率されて、ぞろぞろと現れたのだが、
(・・・百鬼夜行処か、亡者の行進やんか)
とりあえず壮行会みたいなモノを催し、演説擬きをしようと設置した、高台から移住者達を観て絶句する糜芳。
先頭を歩く遊侠や博徒達は、厳めしい面に目を尖らせ、季節柄なのか上半身をはだけて、自分達の刺青をこれ見よがしに見せつつ、のっしのっしと肩を怒らせて歩いており、まるで獄卒の鬼の様。
博徒達の後ろに続くのは、柳の様に痩せた女性達と一般男性達で、僅かな私物や子供を背中に背負いつつ、頼り無げな足取りで俯いて歩く様は、さながら幽鬼の様。
そして後尾に続くのが、孤児で有ろう年端も行かない子供達で、フラフラと覚束ない足取りながらも、大人達に置いて行かれ無い様に、必死な形相で食らい付いて来ており、中には幼い弟妹を兄姉が背負っている者もいた。
肋骨が浮き出ていて、お腹だけがポッコリ膨らんでおり、正しく餓鬼の様な有様である。
そうした亡者の行進が続き、自分の許に辿り着いて、痩せてはいるがやたら目つきの鋭い爺さんと、恰幅の良い恵比寿顔のオッサンが進み出て来て、
「「この度は・「ああ、良い良い挨拶は後回しだ。
誰ぞある!急ぎ食料庫を開けろ!
先ずは飯だ飯!!」
定例句の挨拶をしようとするのを遮り、食料提供を優先する糜芳。
「腹が減っては戦にならんの言葉通り、腹が減ってはマトモに話にもならん。
男衆は急いで枯れ木等の燃料調達、女衆は鍋釜に水を入れて煮炊きの準備をする様に!
子供衆はそれまで待機、休憩をしなさい。
遠路の行程ご苦労であった。」
特に子供達に向けて拱手する。
「飯が食える」と判った移住者達は機敏な動きを見せ、男達は柴刈りに散って女達は井戸に水汲みに回り、あっという間に煮炊きの準備を整えた。
(う~ん・・・飢えてる人に固形物ってまずかったんだっけ?
まぁ、この時代の華北の飯は、結構ドロドロな麦粥だから、多分大丈夫だと思うけど)
予め長安から貰っていた食料を放出し、がっつく様に食べる移住者達を、気持ち心配げに眺める。
そうこうしている間に、腹一杯になって満足したのか、寝転ぶ者が出始めて一息ついた頃に、再び代表者っぽい2人が進み出て来て、
「改めて感謝を大鴻臚・糜芳様。
あっし等博徒みたいな、世間に背を向けたはみ出しモンに、お天道様の当たる場所を提供して頂き、誠にありがとうございやす。」
「ウチら遊侠のモンも同じく。
あのまま抗争を続けても、ジリ貧になる所だったので、糜芳様の提言は本当に助かりました。
郿城の治安に微力ながらも、貢献する事を此処に誓います。」
痩せ老人が博徒を、恵比寿顔が遊侠を代表して、糜芳に感謝の意を伝える。
「・・・うん?あれ?私、名乗ったっけ?」
首を傾げて疑問符を浮かべる。
「いえいえ、私共日陰者には日陰者なりに、生き馬の目を射抜く渡世を生き抜く為に、色々と耳目を持っておりますので・・・ねぇ冷慈翁?」
「単寿どんの言う通りでさぁ。
あっしらにとって、お上の誰が政の責任者になるんかは、死活問題になりかねやせん。
上手く付き合っていくには、先ずは相手を知るのが肝要ですんで。」
意味深な笑みで2人は答えた。
(はは~ん、裏社会の情報網ってヤツか。
「オレの事は重々知ってますよ」ってか。
・・・ほんじゃまぁ遠慮要らねーかな)
内心で呟き、
「なる程、私の事を知っているのなら話は早い。
冷慈と単寿と申した2人が、それぞれ侠の者の纏め役と見做して申し渡す。
1つ、怠惰を貪って手を抜いたり、他者へ盗みを働く者は、最前線送りに致す。
2つ、他者を傷付けたり奪ったりした者は、状況次第で最前線送りか、その場で死罪に処す。
3つ、如何なる理由が有れども殺人を犯した者は、容赦なく死罪として首を晒す。
そして当然の事だが、連座として一家の者全員も同罪とする。
その旨、しっかと配下の者達に通達し、齟齬が無いようにな?まぁ、聴いていなかろうと犯せば問答無用だがな。
無論、お主達も例外では無いからな?」
ニッコリと笑顔で、劉邦の法三章よりもエグい三章を告げる。
「ち、ちょっとお待ちを糜芳様。
それはちと、厳しすぎやしやせんかね?」
「何処が?」
「え~と全体的に、ですかね。
特に連座を適用するのは、幾ら何でも・・・。」
冷や汗を流して、やんわり糜芳に抗議する。
「単純に怠惰者や犯罪者は、この新都市には要らんと言っているだけだぞ?
飯はキチンと出すし賃金も払う。
良く働く者には、金一封や酒を出すつもりだ。
それだけの事をしても、怠惰や犯罪を犯す痴れ者に、情け容赦をする必要性があるか?」
労働者待遇を述べる糜芳。
「うぐ、それでも連座制は流石に・・・。」
「それこそお主は何を言っているのだ?
お主達侠の者は盃を交わして、親子・兄弟の関係を作っているのだろうが。
なれば実の親子・兄弟と同様の処置を取るのは当然の話だし、罪を犯した子(分)を見捨てる様な、無責任で薄情な人道にも仁義にも悖る親(分)は、最早侠の者とは言えまい?
当然逆や兄弟(分)でも同様だろうがな。」
しっかりと侠の者の関係性を指摘した上で、キッチリと型をはめにかかる。
この時代には普通に有った連座制を利用し、「子分が不始末をすれば、親・兄弟分にも累が及ぶから、しっかりと管理・監視しろ」と、冷慈・単寿の両名に告げたので有った。
「確かに一理ありやすが・・・あっしらが説いても、言う事を聴かずに誤解して暴走する、跳ねっ返りが出かねやせんぜ。
此処は持ちつ持たれつで行けませんかね?」
さり気なく、「そんな事すれば、アンタに危害が及ぶぞ?」と暗に示しつつ、困り顔で懇願する。
単寿が冷慈の言に頷き、配下の子分達も剣呑な雰囲気を醸し出した。
「あのなぁ・・・持ちつ持たれつの関係性に此方側が、わざわざ付き合う義理が有ると思っているのか、お前らは?」
冷慈のぼけた発言に、呆れ顔で述べる。
「「「「「ああ?なんじゃあやあ!?」」」」」
「静かにせんかい!!座っとれ!!
・・・どういう事でしょうか糜芳様?」
いきり立つ子分達を怒鳴りつけて鎮め、鋭い目つきでねめつける。
「どういう事ってなぁ、別段郿城に賭場を開く連中は此方からすれば、お前達である必要性が全く無いんだよ。
博打のやり方に手慣れた、お前達が偶々あぶれてたから、利用しようとしただけだしな。」
実状を淡々と述べた。
実際に董卓と糜芳の間には、董卓側は悪化要因の切除に因る治安良化、糜芳側には賭場のノウハウを知る連中が、手っ取り早くゲット出来るという、WIN・WINの関係が成立していたが、一方で糜芳と冷慈達の間には、WIN・WINの関係性は普通に発生し得なかった。
ぶっちゃけ糜芳側からすれば、現代の電子機器を駆使したハイテクな賭博ではなく、ローテクな原始的な賭博なので、ルールさえ理解していれば、素人でも糜芳が競馬を画策した様に経営が可能であり、例えノウハウが無くても時間を掛けさえすれば、どうとでもなる類いなのである。
つまりは声を掛ければ、合法的に賭博が開帳出来る特典が有る為、近隣の博徒達や博打好きが喜んで集まるので、幾らでも代替の効く話であり、どうしても冷慈や単寿でなければならない理由が、全く無かったのであった。
「それにそもそもお前達は、主上陛下のお膝元・長安の治安を乱した当事者達だろうが。
そんな騒乱を引き起こした奴等に、賃金付きの労役で済ませた上で、住居と生計をも提供するという、破格の待遇をしてやっているのに、未だ不満が有ると言うのかお前ら?うん?」
某司令官スタイルで、問い詰めていく。
「・・・で、ではもしもあっしらが、糜芳様の提案を蹴ったら?」
「其処までの厚遇を示して尚、わがままを通す輩に掛ける情けは無い。
国家騒乱罪で、問答無用に全員斬首だ。
・・・と言う訳で、オ~イ。」
容赦の無い死刑宣告と共に、休憩時間や終業時間を報せる役割の、銅鑼係にパンパンと手を鳴らして合図を送ると、
ボァァァアン、ボァァァアン、ボァァァアン・・・・・・ドドドッ、ドドドッ、ドドドッドドッ・・・ヒヒーン!
「「「「「ヒャッハァー!?」」」」」
けたたましい銅鑼の音に付随して、土煙と地響きを轟かせつつ数万騎の涼州兵達が、世紀末的っぽい雄叫び(?)を上げながら、糜芳の許に馳せ参じる。
「州牧閣下ぁ、此奴等ですかいな?
董卓のオジキに散々迷惑を掛けたっちゅう、野風憎(ヤンチャ坊主)なボケ共ちゅうんは?」
怖いぐらいの偶然で、古代ローマの兜の様なモヒカン状の鬣兜を着けた男が、冷慈達侠の者を横目に見据え、糜芳に尋ねた。
糜芳がコクリと頷くと、侠の者達のイキッた怒鳴り声とは別次元の、地鳴りの様に響く怒号と、戦場仕込みの罵詈雑言が涼州兵達から放たれ、ジワジワと冷慈達の周囲をぐるりと展開し、円を描く様にぐるぐると周り始め、ヤンキー版囲め囲め=通称集団私刑の形を形成していく。
数多の戦場を渡り歩き、生死の境を生き抜いて来た強者が放つ、ホンマもんの殺意が乗せられた怒声に、いきり立っていた者達はへたり込んで、完全に呑まれて震えていた。
(まぁ、さもありなんだわな。
何処ぞの国の空挺団(大概の国では最精鋭)、別名狂っている団を、素人が相手にしている様なモンだし)
現段階で最強の軍人達VSイキリ素人集団との差を、まざまざと実感する。
「わ、我々を一方的に虐殺すれば、董卓相国の評判が地に落ちますぞ!?」
単寿が雰囲気に呑まれつつも、何とか窮地を切り抜けようと試みるも、
「あのな?耳敏いお前らなら、相国閣下の世評を知っているだろうが?
例えお前達を皆殺しにしても、今以上に落ちる処か納得されるだけだからな。」
一刀両断で、糜芳にバッサリと切り捨てられる。
実際に現状の董卓と後年の呂布は、怪しいキノコでデカくなり、目の付いた星で無敵になる、某配管工のヒゲダンディの如く、ある種の無敵状態の領域に突入していた。
理由としては、名家閥連中の悪行や罪行を、糾弾して粛清しまくっている董卓と、それを積極的に加担している形になっている呂布は、粛清から逃れて地方に逃げた名家閥の連枝や、在京の名家閥連中に因って、徹底的に悪評を拡散されていたからである。
名家閥連中は自分達の悪行を棚に上げて、自身達の無実と正当性を印象づける為、正邪の印象のすり替えを行っており、その流言飛語の影響で、両者は「悪逆非道」・「残虐無尽」のレッテルを貼られ、実状を知っている司隷や涼州・并州以外の民衆の間では、「忌むべき存在」と化していったのである。
ついでに反董卓連合に参加した袁紹達も、自分達の挙兵と独立の正当性を喧伝する為に、流言飛語に積極的に便乗・加担したので、両者の世評は地の底まで下落してしまう。
そうした一連の出来事の影響で、両者の評判はマイナス方面に振り切れる事となり、結果的に両者がどんな残虐非道を為しても、「彼等ならやって当然、不思議でも何でも無い」という、トンデモ認識が世間的に醸成されてしまったのであった。
その為名家閥連中や袁紹達は、大概の出来事は「董卓だから、呂布だから」と、「負の容認」とでも言うべき認識で納得されてしまう、やりたい放題の無敵状態となり、「何をしても今以上に評判の落ちようが無く、何か仕出かしても容認されてしまう」という、希代の怪物に両者を仕立て上げたのである。
それはさておき、
「うう・・・。」
「お前が把握している通り、司隷・涼州以外の民衆は、例えお前達を皆殺しにしても誰も不思議に思わんし、閣下の所業ならと納得するだけだろうな。
ついでに司隷・涼州の民衆は、お前達が長安騒乱の元凶なのは知っているから、閣下の英断に拍手喝采して喜ぶ事だろう。」
しれっと自分がしようとしている所業を、董卓に擦り付け様とするゲスな男・糜芳。
「と言う事でお前らが採れる選択肢は、3つだ。
1つ、素直に条件に従って、労役に精励する。
恐らくは1番標準的な選択だな。
2つ、自ら進んでか強制的に最前線に赴いて、様々な雑務に従事する。
間違いなく1番男を上げれる選択だぞ?
3つ、無駄な抵抗をして、全員処断される。
確実に1番苦しむ選択だろうな。」
3本の指を突き出した後、
「あ、そうそう。
3つ共嫌なら番外になるが、異民族に奴隷として売り飛ばす、というのもあったな。
家畜同然の生き地獄生活が送れる、1番貴重な体験を得れる選択になるけど。」
思い出したかの様にポンと手を打ち、満面の笑みで選択肢を選ばせる外道。
糜芳に併せて涼州兵達=世紀末的狂っている団に依る、おどれすどれと罵り混じりで決断を迫る声に、上から押さえ付けられたかの如く冷慈達は、
「「「「「喜んで条件に従います!!」」」」」
一斉に土下座して、労役に従事する選択を選んだので有った。
こうしてきっちりと型に嵌めて、冷慈達ヤーさんに上下関係と自分達の境遇を理解させ、工事をスタートさせたのだが・・・。
(いやいや、工事進行速度が滅茶苦茶早いわマジで)
予想外の展開に驚く糜芳。
9月、世紀末的リアル獄卒(涼州兵)監視の下、何故か労働の喜びに目覚めたかの如く、死に物狂いで必死に働くヤーさん達のお蔭で、工事を開始して約1ヶ月程で、外壁部の堀の掘削が完了。
並行して外堀の掘削で出た残土で、内壁の造成が版築工法で行われてコレも完成し、今は雨雪に耐えられる様、日干しレンガで内外装を、綺麗に調えている状態だった。
(いや~史書だといつの間にか、郿城が建設されてたって感じだったけど、コレだけの人数で人海戦術を駆使すれば、あっという間に出来たのもそりゃ当然だわな)
総監督で有る糜芳用の幕舎から、軍隊蟻の如くぞろぞろ群がる、労働者を観て納得する。
長安から送り込まれた凡そ20万人の移住組の内、約8万人が成人男性で、この8万人が主な労働者で有り(冷慈達ヤーさんは2万人程)、同じぐらいの数の約8万人が成人女性で、残りの約4万近い子供の世話や、煮炊きと柴刈り(燃料調達)を行っていて、忙しそうにバタバタと右往左往していた。
因みにだが比較対象として、漢代の万里の長城と比較すると、万里の長さは西の涼州・敦煌郡にある玉門関から、東の幽州・楽浪郡迄の約8千Kmであり、幅は平均約5mなので縦横で約400K㎡も有り、労働者は100万人を越していたとされる。
それに対して郿城は2Km四方なので、縦横凡そ4K㎡であり、労働者は四捨五入すれば約10万人である。
面積は約100分の1以下なのに、労働者人口は約10分の1以下と、単純な比率で観れば労働者数が滅茶苦茶多く、コレだけのマンパワーが集中すれば、あっという間に郿城が完成したのも、至極当然なので有った。
(それに浮屠の職人達(職長)とも、揉める事も無くスムーズに、話が進んだのも大きいわ。
前世の記憶だと大概は、何じゃかんじゃと揉めたり監督と職長が対立したりと、マトモに進行しない事が、珍しくなかったからなぁ)
前世に思いを馳せる糜芳。
現代の建築現場の職人・職長さんで、現場監督さんを個人的な好悪は別として、仕事上で監督さんを好いている人は、ほぼまず居ないと思われる・・・逆も然りだろうが。
何故なら大概の場合は、職人さんと監督さんの利害関係が対立しており、そして大概は元請け側の監督さんが強権を発動して、意見を押し通す事が多い為、下請けである職人さんの不平不満が、かなり溜まりやすいからだ。
その為昭和期は、職人さんが監督さんに対して、闇討ちや襲撃宣言をしょっちゅうしていたらしいし、監督さんも闇討ちや襲撃に備えて、車の中や現場事務所のデスクの横に、木刀や金属バットを常備していたようだ。
(剥製爺ちゃんと古株の監督さん談。
フツーに日常茶飯事だった模様)
そして平成期になると、流石に昭和期の様な、野蛮な行動は鳴りを潜め、彼方此方の現場事務所に謎の不審火が、何故かちょくちょく発生する程度であったが。
(風の噂であり真偽不明)
そうした対立と妥協の果てに、大体の建築物は成り立っており、監督さん・職人さん共に、自分が関わった建築物には、絶対に住みたくないと揃って同意する、闇深い物件が生成されるのである。
まぁ、建築物の根幹部分で有る躯体工事に従事していた、前世の型枠大工の観点からすれば、コンクリが上手く入らずに、隣の部屋が壁の大穴から丸見えの物件(当然左官屋さんが、後日大穴をモルタルで潰したが、設計強度は絶対出ない)や、設計ミスで壁のコンクリ厚が足らず、内装で誤魔化している物件に、間違っても住みたいとは確かに思わないが。
他にも施主でありマンションのオーナーでもある人が、自分達が住む住居部屋だけ、他の人が住む予定の部屋よりも鉄筋・鉄骨とコンクリとを厚くして、構造強度を高めて少しでも災害から助かろうとする、ゲスいオーナーの物件が有ったりと、どうしても裏事情に関わる事が多く、そういった理由で両者共に、住みたくないと思ってしまうのである。
(因みに件のゲスいオーナーの物件だが、通常は階層がある程度上がる毎に、鉄筋・鉄骨を細くして強度を保つ様になっている(鉄筋・鉄骨の厚さを変えずにいくと、鉄筋・鉄骨自体の荷重で金属疲労や、壁や天井にダメージが蓄積されやすくなり、却って強度が脆くなって落ちるから)。
それなのにオーナーの部屋自体は、よりによって最上階に設計されており、その為躯体を分厚くした分、地震等で建物が倒壊した場合、重力の法則に従って真っ先に、オーナーの部屋が地面に激突するという、本末転倒なおバカ設計になっていた。
その為職人一同で、「要らん金掛けて、オーナー自身が真っ先に犠牲者に成ろうとは、オーナーの鑑やな」と大爆笑した)
それはさておき、
(まぁ、前世の建築物みたいに、複雑な工法だの機材や素材を使わない分、単純明快で分かり易いから、揉める事案が無いのが大きいかも知んないけど)
前世の工事と今の工事を比較して、かなり簡素で原始的な工事だなと感じる糜芳。
実際に糜芳が現場でやった事は、初期段階で測量をした事と、郿城内の水回りの勾配を決めた事、後は壁の高さと幅の確認と、丸太で突いて強度検査をしたぐらいである。
現代の様に職長会議だのと、監督と各業者の職長が集まって、30分から1時間も角突き合わせて喧々囂々する事も無く、作業中に要らん電話を掛けて来て、違う現場の話をして来て混乱させる、ハゲ親方も居ないので、糜芳的には超気楽であった。
因みにだが、糜芳が気楽な気分で有るのと同じく、浮屠の職人達=職長達=施工業者達も、気楽な気分で仕事をしていた。
何故なら糜芳がきちんと、真っ当に監督業務をしてくれるからである。
大概の現場の場合は、頭がなんちゃって監督なので、職人が工事設計・現地測量・資材調達・施工管理・現場指揮の全てを、一身又は分散して背負ってやらなければならず、文字通り東奔西走する羽目になるのが、標準的な事であった。
それに比べて今回は糜芳が、設計・測量・調達を担ってくれてるので、自分達の担当部署だけに専念が出来、職務上の負担と負荷が非常に軽く済んでおり、職人一同からすれば生涯稀にみる、「大当たり」の現場であった。
又、糜芳は「仕事の話」が出来るのも、職人一同からすれば大変喜ばしく、工賃や工費をケチって、銭を懐に入れようとしない所も好印象であり、司空府連中や頭がファンタジーな名士達に有りがちな、独自性を出そうとして、突拍子もない奇天烈な設計や、無茶な要望のゴリ押しをしない事も併せて、好感度爆上がりである。
現場の職人達からすれば前述の両者は、現代風に例えれば、鉞担いでそうな名前の某サラリーマン(営業)や、釣りを本業にして仕事を副業にしている某ズボラ社員(営業)と、同ベクトルの「工事現場には要らない子or邪魔者」であり、存在自体を「ファンタジー」にしたいぐらいであった。
ドコを切っても同じ顔が出て来る、飴の様な名前の某サラリーマン風に云えば、「工事現場をなめんじゃねえ!!」と、叫び声を挙げたい職人達であった。
それはさておき、
(ただまぁ、ちょっと薬が効き過ぎたかな?)
冷慈や単寿が必死に、子分達に安全確認を呼び掛けているのを観て、微苦笑する。
両名を「衛生安全責任者」に任じ、両者共に「なんじゃそりゃ?」とした顔で、役割を尋ねて来たので、前世での役割を説明すると、顔面蒼白になったのであった。
この衛生安全責任者は、元請けの中堅クラスの監督さんが、良く任命される役職であり、簡単に言えば現場内で、労災事故や刑事事件が発生した場合、責任を持って警察に出頭するという、元請け側の身代わり役である。
今時のヤーさんでさえほぼ居ない、絶滅種に近い役割を会社に担わされ、問題が無ければ現場所長(総監督)に出世出来るが、問題が発生すれば身の破滅という、デッドオアアライブな状態に成る為、プレッシャーやストレスがハンパないらしく、心身共に病んでしまって、大体は痩せたり太ったり、ハゲたり胃に穴が空く事が多い様だ。
冷慈や単寿も例外では無いらしく、死傷者が出れば自分達に罪が及ぶと怖れ、病的なまでに安全確認を徹底しだし、冷慈は益々やせ細って胃を抑え、単寿は少しずつ頭部が寂しくなっていた。
「う~ん、やっぱ監督が言ってたのって、ホンマやったんやな~」と、他人事に冷慈達を観察していると、
「申し上げます。」
護衛兼側近扱いのイーが入って来た。
「うん?何事だ?」
「はっ、趙昂県令様と県令様の奥様が、此方に参られております。
如何致しましょうや?」
用件を告げて対応を伺う。
「あれ、コッチに来たのか?郿県城内でノンビリ待っててくれて良かったのに。」
「はっ、閣下をお待ちするのも心苦しく又、待つ時間が惜しいとの事です。」
「なる程ね、じゃあ通してくれ。」
趙昂の言い分を受け入れて、幕舎に案内するように指示を出す。
すぐさまイーの案内によって、男女一組が糜芳の前に現れて、
「州牧閣下に於かれましては、ご機嫌麗しゅう。
お召しにより羌道県令・趙昂とその妻・王異、まかり越した次第にございまする。」
丁寧な挨拶と共に、拱手しつつ頭を下げた。
「いや、遠路呼びつけて済まぬな。
早速用件を話すが、貴君等は「競馬」の事について、聞き及んでいるか?」
「はい、勿論聞き及んでおります。
私が県令を務めている羌道県でも、牧場主や馬喰(主に馬の売り買いをする行商人)の間で、大層評判となっておりますので。」
コクリと肯定する、趙昂夫妻。
「ふむ、それなら話しが早い。
今回初めて公営の賭博となる、競馬に関する運営部署を、近々設立する予定なのだが、その運営の統括責任者に趙昂、貴君になって貰いたいのだよ。」
「ええ!?私にですか?」
糜芳の要望に素っ頓狂な声を上げ、驚愕した表情で自分を指差す。
「横から差し出口を失礼致します閣下。
それは巷で噂に聴いた、女騎なる女性が専門の騎手を務める事と、関連性があるのでしょうか?」
「うん、大いにあるな。」
某路上格闘家の女刑事さんを彷彿とさせる、気丈怜悧風な美貌を持った、王異の問いに頷く。
「なる程・・・解りました。」
「ええ?え~と、どがいなこっちゃの嫁さん?」
「はい、旦那様。
糜芳閣下は、競馬とやらの統括責任者に、旦那様を任じると共に、妻で有るウチに女騎の管理責任者を、任せる算段なのです。」
「え?ほうなんか?」
イマイチ飲み込めていない夫に、理路整然と推理を述べる妻。
「ええ、そうでなければウチまで、わざわざ召喚する理由が有りませんので。」
「おお・・・流石賢妻と名高い王夫人。
少ない情報量の中で、私の考えを其処まで推し量れるとは恐れ入る・・・素晴らしい。」
地頭の良さに、感心して舌を巻く。
(うおぉぉ・・・マジで賢い!
もうコレ旦那の趙昂を、名目上のトップに据えて、嫁さんの王異を実質的なトップにした方が、俺的にも良いんでは?)
脳内で趙昂夫妻に対する重要度の天秤が、ドンドン王異の方に傾いていく。
「過分なお褒めの言葉、恐れ入りますわ。」
照れてはにかんだ笑顔を浮かべる。
「え~と・・・どういう事?」
「はい、旦那様。
先ず1つ目は、女騎を管理する者が男性では、女騎の方々が要らぬ風評被害を被る事が、どうしても避けられません。
自然と未亡人や未婚者がなり手になるので、尚の事宜しくはないでしょう。」
「うんうん、けだしその通りだ。」
王異の説明に、コクコク頷く糜芳。
「う~ん、なる程、それは宜しくないわ。」
「はい、そうですね。
2つ目は、ウチが管理責任者になる事で、女騎に手を出そうとしたり、ちょっかいを掛けようとする不逞な輩を、抑止や排除する事が可能になります。
ウチが直に統括責任者である、旦那様に直訴すれば済みますので。
・・・因みに旦那様も、不逞な輩の分類に相当しておりますので、やらないでくださいね?」
そこはかとなく謎のオーラが、王異から発せられるのを、幻視出来てしまった男達。
「嫁さんの息が掛かっとる者達に、ちょっかい掛ける勇気なんざないわい!!」
微妙に情けない理由で、ブンブンと首を振って否定する趙昂。
「え~と王夫人、趙昂の間に子供居るの?」
「はい、息子が1人おりますが。」
「よし、じゃあもし趙昂がやらかしたら、息子さんに家督が移る様、覚え書きを書いておくね。」
完全に天秤が王異に傾き、趙昂を見捨てる気満々な男・糜芳。
「まぁ、ありがとうございます。」
「ちょいちょいちょい閣下!?
嫁さんの話しを肯定しないで、否定して擁護してくださいよ!?男として!?」
「いや~、「能力と下半身は別物」って、どっかの賢人が言ってたし。
流石に下半身の貞操観念までは、責任持てないし。」
あさっての方向を向いて、視線を逸らした。
「とりあえず、王夫人は承知してくれるかな?」
「はい、不幸にも戦災に見舞われ、不遇を余儀なくされている方々や、良き縁談のきっかけになる一助となるなら、喜んで合力させて頂きます。」
拝礼して笑顔で快諾する王異。
「うん?女騎になると、縁談が舞い込むのか?」
「はい、馬術に長けているのは、涼州では女性でも立派な美点ですから。
牧場関係者には、特に受けが良いでしょうね。
聴いた限りでは牧場関係者を始め、良き縁談に巡り会える様、女騎に自分から立候補する女性も、ちらほらいるとの事ですよ。」
「へ~・・・そうなんだ~。」
牧畜地域ならではの、独自の要素を知って驚く。
「牧場関係者は生活上で、外部との接点が少ない為、出会いもなかなか無いので、父兄は嫁入り先に、かなり苦慮しているそうですし。」
頬に手を当て、難しい表情で語る。
「ほへ~、なる程なぁ。
牧場主達にとっちゃあ競馬は、馬の勝ち負けだけじゃなくて、自分の娘や妹の大事な、婚姻活動の場にも成るわけか。
・・・そりゃ競馬の開催を、あれだけ強く要望する筈だわ。」
そっち方面の事は、からっきし念頭になかったので、王異の意見を聴いて、改めて先日の鬼気迫る開催要望に納得する。
「あ、そうそう糜芳閣下。
もう一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「何かな?」
「はい、競馬に関してなのですが、出走馬の種類は、どう分別されるおつもりですか?」
「へ?種類?幾つも有るの?」
王異の質問に首を傾げる。
「あの~閣下、偏に馬と申しましても、速さと持久力を重点に置いた、一般的には軍用馬と呼ばれとる種と、馬力と耐久力を重点に置いた、一般的に荷駄馬と呼ばれとる種に、大まかに言うたら大きく分かれとるんですが?」
空気状態だった趙昂が、糜芳に説明をする。
「え?荷駄馬って、軍用馬に成れない駄馬がなるんじゃないの?」
「そがいな訳ないでしょう?
根本的な用途が違いますけん、駄馬が荷物(荷駄)を背負うのは、ちょいと無理です。」
頓珍漢な糜芳の答えに、首を横に振る。
「割合で云えば、軍用馬を育成しとる牧場の方が多いですけんどが、荷駄馬を育成しとる牧場も、少なくありません。
なんで、その辺を分けて競走させんと、そもそもが競技として成立しやせんのでは?」
現代日本でも一般的な競走馬と、ばんえい馬とは全く用途の違う品種であり、両種が違い過ぎてレース自体が成立しないのであった。
(うぉぉ・・・あっぶねぇ・・・王異さんの指摘がなかったら、後々面倒くさい事態に成りかねねーとこだったわ)
冷や汗を拭う思いの糜芳。
「いやあ王夫人!
貴君の指摘のお陰で、後難を避ける事が出来たよ、ありがとうね!
改めて競馬関連の協力お願いするね!」
拝む勢いで王異に感謝しつつ、
「え~と趙昂よ、貴君はどうする?
もう王夫人に全て委任するから、名前だけ貸してくれたら充分だけど?
一応羌道県から、郿県の県令に転任して貰うつもりではあるんだが?」
趙昂には適当な態度を表した。
「嫁さんとの態度の差が酷すぎる・・・。
ぞんざいな扱いにも程がありません?
うう・・・謹んで転任の件お受けしますよ。
私も嫁さんをほったらかしには、幾ら何でも出来せんので。」
うっすら涙を浮かべ、泣く泣く承諾する中国版山内一豊さん。
こうして競馬関連の運営の目途が立ち、新都市建設もドンドンと進み、本格的に冷え込む前の12月には、内壁と住宅地の造成が完了し、落成式に董卓を招く事となったのであった。
続く
え~と、とりあえず次話は、各群雄の近況を書いていきたいと思っております。
来年も楽しんで読んで頂けます様、精進に努める所存です。
皆様方が良い年末・年始を迎えられます様、心から願っております。
良いお年を!




