その3
読んでくださっている方々へ
漸く書けましたので、早速投稿致します。
司隷京兆尹長安県相国府執務室
「では糜芳殿、始めてください。」
「え~・・・それではこれより私が考案・設計した郿城建設の概要を、皆様に説明させて頂きます。」
荀攸に促され、董卓陣営の主要人物達相手に、ぺこりとお辞儀して始める。
7月末、郿城建設を押し付け・・・もとい任された糜芳は、突然の天啓に依り都市造りの方策を思い至り、董卓に郿城建設の資金捻出を要求した所、「ある程度の概要を知っておきたい」と要望されたので、平面図を始めとする設計図を持って、長安に赴いたのであった。
(まぁ、ついでに董卓のオッサンにとって、悲報なのか朗報なのか判らん報告も有るしね)
脳内で呟きつつ、
「では、先ずはコレをご覧ください。」
「「「「「オオッッッ!?」」」」」
現代風の完成予想図を見せられ、驚きの声を上げる董卓陣営の面々。
未だこの時代には、立体的に建物を描くという概念が無いらしく、縦線と横線のベタッとした2次元で建物を描くのが普通で、糜芳の描いたリアリティの有る完成予想図に、驚嘆したのであった。
因みにこの完成予想図だが、建物が円形でもないかぎり、要領さえ解れば素人でも滅茶苦茶簡単に描けるモノで有る。
平面図を斜め45度ぐらいにズラし、建物のそれぞれの角から同じ長さの縦線を引き、その底辺を横で結めば、立体的な絵の基礎が出来るので、後は縮尺定規(百分の1~5百分の1迄対応している、菱形の定規)で高さを合わせて上辺を結めば、あっという間に立体的な絵の出来上がりである。
前世の糜芳が卒業制作時に、設計図の他に模型も作れと言われていたのを、提出期限日ギリギリまでキレイさっぱりと忘れていて、留年しかけた所、お情けで完成予想図を描いたらOKにしてくれて、同級生の友人に30分で描いて貰って出来るぐらいには、簡単である。
まぁ5百円払って描いて貰った事から、「ワンコインで卒業証書を手に入れた奴」と、同級生からは揶揄される事になったが。
それはさておき、
「この絵は外壁の完成予想図で、こちらの絵が内壁の完成予想図になります。」
「うん?内壁?・・・ちゅう事はや糜芳殿。
内外で2重の壁を造るつもりかいや?」
首を傾げて尋ねる董卓。
「はい、その通りです閣下。
先ずは内壁を造って移住組が住める様に段取りし、何時でも拡張出来る様、予め拡張分を外壁として造っておこうと思いまして。」
(まぁ別の目的も有るんだけどね)
脳内で付け足しつつ説明する。
「ふむ、なる程、防衛的に観ても悪くないな。
拡張工事中は高頻度で賊徒共に狙われ易い故、先に備えておくのは良い事だ。
・・・しかし、外壁は四角四面なのに、内壁は六角六面とは珍しいな?
何ぞ意図でも有るのでござろうか糜芳殿?」
軍事的観点で賛同した後、あまり観ない形状に首を傾げる朱儁。
実は最初はベガ(星座)から発想を得て、カッコ良く外壁を五稜郭みたいに、星形要塞の形状にしようと目論んだ糜芳だったが、郿城に於いては全く需要が無いので、選択肢から消去したのであった。
理由は単純明快、例えば異民族に襲撃されても長安からは指呼の間なので、即座の援軍が望めるし、郿城や郿県周辺の人々も、長安に避難する方が安パイだからだ。
つまりは2~3日有れば、確実に長安からの援軍が来る地理条件なのに、わざわざ必然性が薄い複雑な外壁を造って、工事期間を長引かせる方が、移住組に負担を余分に掛けて迷惑も掛けるので、余程害悪なのである。
ついでに王允に因る董卓暗殺後に、郿城も破却されるので凝って造っても無駄という、何とも言えない側面も有ったりする。
それはさておき、
「いやあ実はこの六角形の形状が、今回の郿城に於ける肝と言うか目玉でして。
郿城の都市属性というか成り立ちに、深~い意義がある事でして。」
「深い意義のう・・・。
果たしてどの様な、都市造りを考えておるのですかな糜芳殿?」
首を傾げつつ、疑問を呈す廬植。
「率直に言えば、様々な娯楽と風俗が此処に集まる、漢帝国随一の歓楽街ですね。」
「「「「「歓楽街~~!?」」」」」
董卓達が素っ頓狂な声を上げる。
「こ、こりゃ婿殿!何を考えておるのじゃ、お主は一体!?」
「勿論、主上陛下が居わす長安の治安の安定を、第一に考えておりますけど?」
焦った様に詰め寄って来る蔡邕に対し、あっけらかんとした口調で答えた。
無論、内心ではかけらも考えていないが。
「う~む・・・申し訳有りません。
正直な所庶民の世情に疎いので、郿城を歓楽街にする事と長安の治安安定の関連性が、今いちピンと来ないのですけど・・・?」
荀攸が理解不能と疑問符を浮かべる。
「まぁ単純に言えば、郿城を歓楽都市にする事で、元々長安に居る遊侠の徒や色街(風俗業)関係者と、洛陽から長安に流入する形になる同じ稼業の、洛陽組連中とが衝突して治安を乱さない様、洛陽組と長安組との住み分けを行う目論見ですね。
ぶっちゃけ現在の長安の治安って、滅茶苦茶悪くなってますよね荀攸殿?」
「・・・はい、頭の痛い悩ましい話しですが。」
糜芳の確信的な問い掛けに、コクリと頷く。
現状の長安は、袁紹達の反董卓連合騒ぎに因る、各地から洛陽への大量の難民流入=国家崩壊を回避する為、洛陽を放棄して洛陽民達の強制移住を断行した影響で、現代に於ける「移民問題」に近い状況に陥っており、急激に治安が悪化していた。
今回の移住問題は現代の移民問題と同じく、元々その国家・地域に住む現住民達と、様々な理由で他国・余所の地域から、移って来た移住民達に因る、パイの奪い合い=生活手段・生活基盤の争奪に、端を発している。
移住民側からすれば、大半の移住民はマトモな縁故も財産も無く、生きていく為には手段を選べず、行き着く所まで行けば現住民から奪う様になり、非常手段を取る事になっていく。
そしてやがてはコミュニティー化して、組織的行動を取って浸食していき、国家・地域や現住民を脅かす、不穏分子になる事が多い。
そうなれば当然現住民側からすれば、移住民達は自分達の食い扶持を奪い、生活を脅かす侵略者=悪しき存在と捉える事が多く、特に地方=田舎に行けば行く程、そもそものパイが少ないがために、排他的になる傾向が強いのであった。
その為移住民計画は、綿密かつ厳格なスケジュールと臨機応変な判断を伴う、かなり高度な政治力を必要とするモノだが、現代でも世界レベルで悉く失敗し、内乱・内戦・紛争の火種元になっているのは、周知の事実である。
まぁ、移住民計画を遂行している現代の官僚や政治家の面々は、「管理者側の自分は大丈夫」とでも考えているのか、現住民が危機感を募らせて訴えても、移住民の人権が云々と抜かし、現住民の人権が浸食されている事にはスルー。
結果的に生活基盤のパイを移住民達が奪えば、次は確実に自分達の生活基盤を安定させる為に、国家権力のパイを奪わんと欲し、今度は官僚・政治家が移住民達から、余所者として排除対象とされ、物理的にクビになるのにも気付かず、対岸の火事を決め込むアホが多いのも、悲しい現実で有ったが。
「・・・と言う事で、現在の長安は既得権益を巡って、生きる為に奪おうとする洛陽組と、奪われまいとする長安組との間のいざこざで、長安内での衝突が常に絶えず、治安は悪化の一途を辿る一方なのが予測されます。」
理路整然と自論を展開する糜芳。
「・・・なる程、幾ら手を尽くしても改善の兆しが見えないのは、そういう事情が有るからですか。
その理屈で云えば治安を司る執金吾府も、マトモに機能していませんね。
衛兵も庶民出身ですから、長安組と洛陽組に分かれて、良くても睨み合いで牽制、互いに傍観って所でしょうかね・・・ハァ。」
治安悪化の理由に得心し、ため息を吐く荀攸。
「恐らくはその通りかと。
そしてその中でも、最も武力衝突しそうな連中と云えば・・・。」
「遊侠の徒と色街関係者っつう事かや。
両方共確かに縄張りが必要で、逆に無いとマトモに立ちゆかんと、飯の種にならんモン同士で血の気も多く、お互いに関係が深いけん早よにどがいにかせんと、いつ暴発してもおかしない・・・か。」
糜芳の説明を引き継ぎ、董卓が答える。
「御意にございます閣下。
行き着く所に行って暴動の元に成る前に、この両者は一刻も早く長安から切り離し、余所に隔離するべきです。」
「ふむう・・・その収容先が郿城という事か。
しかしのう婿殿、遊廓の連中はまぁ需要も有ろうし、税収も上がる故に良しとしてもじゃ。
博徒なんぞは害にしかなるまいに。」
髭を撫でて懸念を示す蔡邕。
「左様、左様、いっそのことコレを機に、博徒共を一掃すべきでは?」
堅物である廬植が蔡邕に同調し、討滅案を提示するが、
「討滅してしまうと、裏組織の空白地を巡って、余所からゴロゴロと遊侠の徒連中が寄り集まって、幾つもの勢力に分かれて抗争待った無しから、暴動も待った無しになるだけですね。」
却って害悪に成ると、糜芳から指摘される。
「かと言うてのう婿殿。
博徒共を郿城で抱え込んだとて、移住組を脅して銭をせしめた上に、裏で賭博をするのも周知の事実。
その様な迷惑行為をする輩の対処は、一体如何するつもりなのじゃ?」
難しい表情で糜芳に問い質す。
「はい、其処で博徒達にとって飯の種である博打を合法化して、彼等に営業権を与えるつもりです。」
「はぁ!?いやいや待たれよ糜芳殿!
博打や賭博はご法度ですぞ!?」
慌てて反論する荀攸。
「ど~せご法度と言って禁止しても、全国の彼方此方に潜在している様に、地下に潜って闇営業をされるのが関の山ですから。
それなら逆転の発想で、堂々と営業許可の鑑札を与えて、がっぽりと税金を徴収した方が、郿城の運営からすれば、よっぽど建設的でしょう?」
手をひらひら上下させて、「あくまでも郿城限定の話しですから」と、事もなげに宣う。
「確かに糜芳殿の意見には一理有りますが!?」
「一理処か一利も有りますよ?」
「ふむ、糜芳殿、如何なる利が有りましょうや?」
皇甫嵩が首を傾げて問い質した。
「先ず「倉廩満ちて礼節を知る」と在るように、「歓楽街」建設を示す事で、洛陽組の色街関係者は、己達の食い扶持が有る事に安堵して矛を納めます。
同じく博徒も「賭博合法化」を提示する事で、無闇矢鱈な軽挙妄動は慎む事になるでしょう。」
「確かにな。
得れる食い扶持をフイにしてまで、わざわざ揉めるバカはそうは居らんな。」
ふむふむと頷く。
「それに伴って、既得権益を奪われる心配が無くなる長安組も、揉める意義を失うので、徐々に冷静になって落ち着きを取り戻し、騒動の鎮静化に向かう事でしょう。
つまり、早急な治安回復の効果があります。」
そう説明し、
「ついでに洛陽組だけでなく、長安組からも貧民層を中心に、郿城への移住を進めれば、より早く治安回復に繋がる事でしょう。
こういった暴動等の騒動の元は、基本的に須く生活の苦しい者から、端を発するモノですので。」
前世知識で、貧困層を移住させる事を提案する。
「ふむぅ・・・糜芳殿の説明を聞けば、確かに理にも利にも叶っているな。
喫緊に治安回復を必要とする、現状に於いては妙手と言えよう。
のう、荀攸殿?」
神妙な表情で納得する皇甫嵩。
「正しく、聞く限り極めて有効な手段かと。
郿城建設に依る事業で、新規雇用の創出即ち、生活基盤の創生に繋がります故に、両組も矛を納める判断材料となりまする。
それらを広く長安内で喧伝すれば、素早い治安回復が望めますな。」
最も反対していた荀攸も、強権的に抑えるよりもマシと判断、納得して董卓に視線を向ける。
「うむ、確かに糜芳殿の言う通りや。
賭博営業許可の鑑札一丁で、陛下のお膝元の治安回復が望めるんやったら、安いモンやけんのう。
郿城限定で賭博営業の、許可鑑札発行を発布する件を荀攸、素早く長安内に話を広めろ!
郿城ではちゃんとした、生計が立てれる事も言い添えてな!!」
「ははっ!直ちに!」
拱手して駈け去っていく。
(まぁ、本来はベガスみてーな歓楽街って、地域の治安が悪くなる、一大要因に成りやすいんだけど、今の長安の治安具合よりはマシって云う感じだしなぁ)
イーの調査報告と、入京時の洛内の雰囲気を観察して、結果オーライだよなぁと思う糜芳。
天啓の如く、ベガス型歓楽街モデルを閃いた糜芳だったが、治安悪化要因にもなるリスクも前世知識で理解していたのと、メイン事業のプロである博徒や風俗店の人達が、郿城に集まってくれるか不安だったので、イーに頼んで長安の現状を事前調査した所、某コウモリ男も「バット!」と叫び出すぐらいは、フツーに治安が死んでいた。
貧民達に因る暴行・強盗・殺人等々の凶悪犯罪が横行して、取り締まる筈の衛兵も洛陽組と長安組で、同組にそれぞれ肩入れして機能不全。
遊侠の徒や遊廓も、縄張りの奪い合いや客の取り合いで、頻繁に出入りを繰り広げるといった、地獄絵図な有り様だったのである。
その為糜芳の郿城建設に伴う、歓楽街モデルの構築は、長安内の治安悪化要因の切除に繋がり、郿城の方も歓楽街モデルの形成の基を、長安から自動的に招致出来るという事となり、長安と郿城が互いにWIN-WINの構図に素でなっていた。
あまりにタイムリーな天啓に糜芳は、「世の中神懸かりって有るんだなぁ」と、感心したのであった。
それはさておき、
「いやぁ相国閣下、私の都市計画に賛同して頂き、誠にありがとうございます。
コレで遊侠の徒は兎も角、博徒達は長安からは居なくなるでしょうから、以前よりも治安が良くなりますよきっと。」
とりあえず1番の懸念事が通ったので、気持ち良く予算を出して貰える様、ヨイショに余念がない男・糜芳。
「・・・うん?待て婿殿。
遊侠の徒と博徒は一緒で有ろうが?」
「え?いえいえ、ちゃいますよ義父殿。」
「むう・・・?どう違うのだ?」
首を傾げて尋ねる。
「その辺は閣下からどうぞ!」
「へ?儂?何で?」
いきなり糜芳からの謎のパスを受け、自分を指差して困惑顔の董卓。
「・・・閣下は異民族を始め、色々な者達との関わりを持っていると、聞き及んでいますので、詳しいかと予測しまして。」
面構えで話題を振ったとは言わず、それらしいテキトーな言い訳を述べる。
「いやいや儂も知らんてや。
余所では知らんけんどが、大体の涼州人の彼奴等の認識は、「男の癖に戦にも出やせんと、城内で遊んどる鬢垂れ(怠け者)」やけんなぁ。
そんな痴れ者、わざわざ気にした事無いけん。」
知らん知らんと、手を左右に振る。
「・・・あ、そうなんスか。」
「そのヤーさん面で嘘付け!?」という言葉が、喉元まで出掛かったが何とか飲み込み、
(よくよく考えたら荀攸だけでなく、この人達も地方とはいえ、名家出身者だったわ)
結構なお坊ちゃん育ちだった事に気付く。
「え~・・・博徒という輩は、主に賭博で得た収入で活動している集団で、遊侠の徒の方は、主に遊廓や※露天商・棒手振りといった商人などから、用心棒代やみかじめ料をせしめた収入で、活動している集団の事を指しますね、大体ですが。」
下情に疎い面々に、説明し始める。
※露天商=明確な店舗を持たずに、道の通りに茣蓙を敷いたり、屋台で様々な物を売る商人の事。
棒手振り=天秤棒の両端に品物を吊り下げて、あちこちを渡り歩く行商人の事。
例えるならば、日本で一般的に知られているヤーさんの殆どが、元々は賭博で成り立っていた博徒系であり、縁日やお祭りで見かける屋台で商売している集団が、香具師=テキ屋と呼ばれるヤーさんと言った、グループに大きく分かれている様に、後漢時代に於いても、田舎では一緒くたになっている事が多いが、都市部では明確に博徒系と遊侠系で、渡世の仁義=約束事やルールが違っており、住み分けが為されていた。
(因みに劉備達は博徒系)
分かり易く時代劇風にいえば、チャララ~♪と勇壮なラッパ音を伴って出陣する、某暗殺者の元締めが遊侠系、盲目の座頭(マッサージ師)の様に杖を突きつつ、転々と各地の賭場を巡って放浪生活を送る、居合い剣士が博徒系である。
そうした中で、今回の賭博営業の許可鑑札が発行されれば、最悪死刑になるリスクを負ってまで、わざわざ長安で非合法な、賭博営業をする博徒はまず居なくなり、それに伴って賭博の負けが原因で、犯罪行為に走る愚か者も減り、多少の治安の向上が見込まれるのである。
「・・・とまぁそういう訳でして。」
「「「「「ふ~む、なる程。
そういった違いが有るのか・・・。」」」」」
糜芳の解説を聞いて、五者五様に頷く。
「とは言え、仲間内とかの賭け事迄は、取り締まりや撲滅は出来ませんが。」
「そりゃ其処までは無理じゃろ。
しかしそれじゃと、遊侠系の輩は丸々残る事に成るのか・・・業腹であるのう。」
腕を組みつつ、不機嫌な表情で髭を扱く蔡邕。
「一応ですけど遊侠系の方は、それなりに治安維持に貢献したりもするんですけどね。」
「ふ~む・・・とてもそう思えんが?」
現状の長安を鑑みて訝しる。
「今回の件はハッキリ言って、かなり例外的な事象ですから。
遊侠系からすれば、有る程度は治安が安定しないと、遊廓や商人の利益が細ってしまい、自分達の利益にも影響するんで、基本的にはチンピラやこそ泥等を、私的に取り締まったりして、そこそこ貢献するモンなんですよ。」
困った表情でポリポリと頬を掻く糜芳。
実際に故郷の徐州でも、市場や遊廓には常駐的に遊侠系の者が居り、引ったくりや恐喝するチンピラを見つけると捕まえ、何処とも知れない場所に引っ張っていたモノであった。
因みに糜芳の実家・糜家クラスになると、みかじめ料を払うと言うよりも、いざという時の駒として、「手懐ける」といった感じで金銭を払っており、様々な事で色々と便利使いをしていたが。
「只まぁ現在は、自分の縄張りと贔屓筋(顧客)を守る為、全力で洛陽組と絶賛抗争中で、治安悪化の最先鋒になってますけど。」
「普通に害悪ではないか、たわけ!」
怒りを露わにする。
「まぁまぁ義父殿。
郿城が完成すれば、郿城側の色街は交易商隊を主に客とする事になるので、洛陽組と住み分けが出来るし、博徒系は合法的に賭場を持てて安泰。
遊侠系も郿城と洛陽と分かれて、縄張りの住み分けが出来る事となります。
コレらの事象により、両組共争う理由が無くなって、落ち着きますから。」
どうどうと、落ち着かせる。
「うむぅ、ならば郿城と郿県の関係性は、一体如何するのじゃ?
互いに指呼の間になる故、それこそ互いに利害の衝突を招きかねまい?」
郿城と周辺との折り合いを懸念する。
「ああ、それなら郿城には宿泊施設を設けない事で、「寝泊まり」は郿県城、「遊ぶ」なら郿城と区分けします。
そうすれば互いの特性を殺さず、寧ろ相互作用が期待出来ますので。
ハッキリ言って、長安と郿城の関係性よりも、余程良好な関係が保てるかと。」
無問題と事も無げにあっさりと、義父に解決策を告げる糜芳。
「成る程、共栄共存が可能で有るか・・・。
それなら諍いも起こり難いの。」
得心して矛を納めた。
「ふむ・・・痛し痒しの所は有るようじゃが、曲がりなりにも犯罪に対して、一定の効力が有るのも事実とすれば、治安が落ち着く迄は、とりあえず様子見が賢明でござろう。」
「そうだな、廬植殿の意見に賛成だ。
糜芳殿、貴殿の計画通りに進めてくれて構わん。
予算に糸目はつけんけん、一刻も早う郿城を完成させてくれや。」
正式に承認する董卓。
「はは、承知しました。」
「あのう糜芳殿?内壁の六角六面の意図って、結局何だったのでござろうか?」
おずおずと手を挙げて、申し訳なさげに割って入る朱儁。
「あ、そうそうすみません朱儁殿。
え~とですね、民間に賭博営業許可を出すのだったら、公的にも賭博営業をしようかな、と思い立ちまして。
外壁と内壁の間を活用しようかと。」
ペコリと謝罪して、内訳を始める。
「ふむ?どの様な賭け事を、催すつもりですかな?」
「ぶっちゃけて言えば「競馬」です。」
「「「ほほう、競馬とな!?」」」
「競馬」の単語にキラーンと目を輝かす、董卓・皇甫嵩・廬植の3人。
「・・・興味あります?」
「無論、涼州人で馬に関心の無い奴は居らん。」
「然り然り、董卓閣下の申す通りよ。」
「なんの、幽州人とて同じじゃわい。」
ウンウンと頷く、異民族との紛争が絶えない、騎馬軍閥地域出身者達。
中原の蔡邕と江東の朱儁は、「ふ~ん」ぐらいの軽い関心度で、かなりの温度差があった。
因みに、中国では後漢時代よりも遥か前、紀元前には競馬が存在していた。
王侯貴族が嗜む競技として格式も高く、当然賭け事の対象にもなった。
もっとも現代の様な西洋式競馬とは違い、2者が三番勝負でそれぞれ3頭ずつ用意し、馬2頭に御者台を付けて直線を走らせ、速さの優劣で勝ち負けを決めるといった、結構単純な駈け比べであったが。
その為に紀元前の孫臏に依って、上・中・下の速さの馬の内、自分の下馬を相手の上馬に当ててワザと負け、上馬を中馬に中馬を下馬に当て、2勝1敗で勝つという必勝法が編み出されており、駈け比べよりも相手との順番の読み合いが、メインの競技になっていたのである。
無論、糜芳が公的な賭博で考えているのは、西洋式競馬であった。
当然だが糜芳の前世自身、お馬さんとは縁もゆかりもなく、種馬と肌馬の配合を繰り返す優駿ゲームで得た、テキトーな俄か知識で画策しており、ガワだけ作って後はお馬さんに詳しい人に、全力投球で丸投げするつもりであった。
「まぁ、現状の競馬ですと、どっちの馬主が読み勝つかの2択しかなく又、競技内容も直線を突っ走るだけの単調な勝負であり、正直面白味に欠けます。」
「「「ふむふむ、確かにな。」」」
コクコクと頷く。
「其処で涼州の各牧場から、選び抜かれた馬達を10~15頭立てで、様々な距離や左回り右回りと、色々な変化をつけつつ競走させ、勝ち負けを決めると同時に、勝ち馬はどれかを的中させる、といった賭博を行おうかと。」
「ふむ、そうなると相馬眼(馬の能力・気質等を見抜く観察力)だけやのうて、競走展開も読まないけんちゅう事になるけん、戦略眼も問われる訳か・・・オモロそうやなそれ!!」
目を輝かす魔王。
「そして出走した馬の馬主には、賭博で得た利益等から一定の奨励金を出し、1着~5着の優秀な成績を残した馬には、それ以上奨励金を出して差別化を計り、馬主即ち牧場主達の競争力を高めて、馬産奨励を促します。」
「成る程、馬産奨励即ち良馬生産をも促し、副次的に涼州軍閥の、軍備強化にも繋がりますな!」
感心して、頻りに頷く皇甫嵩。
「ええ、その通りです。
それと同時に幾多の競走を勝ち抜いた、名馬同士を掛け合わせていけば・・・。」
「「「名馬が産まれ易くなるか!」」」
うっとりとした表情でハモる3人。
この時代に限らず、日本で云う江戸時代以前迄は、世界レベルでお馬さんは車と同じく、一種のステータスだった。
つまり名馬=高級車やスーパーカーであり、現代でも物持ち達が、幾つもの高級車を所持して誇示している様に、名馬を何頭も飼っているのは、文武官問わずに自慢の種だったのである。
「ええのう、ええのう。
そいで牧場主達の反応はどがいやの?
渋る様やったら、儂の方から一声掛けるぞな?」
「いえ、大丈夫です。
閣下に話す前に牧場主達に諮ったら、それはそれは好反響を得ましたので・・・恐いぐらいに。」
引きつった笑みで答える糜芳。
事前調査の一環で、馬騰と韓遂を介して主だった牧場主達を集め、競馬の概要を話すとかなりの好感触であり、朴訥そうな笑顔で協力を約束してくれたのであった。
そして「何処の牧場が1番なの?」と問うと、「「「「「ウチが1番に決まっとりますわ!!」」」」」と異口同音に一斉に告げ、少しの沈黙の後全員が某魔神の如く表情が変わり、頭上に「!?」マークを浮かべ、ピキピキと青筋を立てて掴み合いになり、「白黒つけたらぁ!?」と大揉めに揉めたのである。
結局騒動を宥め回った馬騰・韓遂からは、「1番言うたらアカン台詞ですけん閣下!誰もが我がん所が1番じゃ思うて、羊馬を育てよるんですけん!?」と怒られ、蔡良からは「何で政務から離れているのに、離れた端から要らん騒動を引き起こすんです?」と嘆かれた。
そういった経緯で是が非でも、競馬を開催せねばならなくなった糜芳であった。
それはさておき、
「それで馬に乗る騎手ですが、涼州の女性を起用しようと思います。」
「うん?おなごにやらせるんか?」
「はい、戦災遺族達の生活手段の選択肢が、1つでも増えればと考えまして。」
自身のやらかしをおくびにも出さず、しれっと進行を進める。
「とりあえず競馬の騎手を女騎と名付け、専業化にしようかと思っています。」
「ほうか・・・其処まで戦災遺族の事を、気にかけてくれとったんか・・・。」
感動の面持ちで、やおら立ち上がると、
「糜芳殿、我らが涼州の同郷人の不幸に、微に入り細に入り救済を心がけて頂き、涼州人を代表して、誠に感謝致す。」
拱手しつつ深々と頭を下げる。
(い、言えね~・・・自分のやらかしで競馬が強制決定しちまった事を・・・。
お為ごかしで思い付いた罪悪感が、ハンパないわ~)
深々と頭を下げる魔王の態度に、グサグサと良心に呵責の刃が突き刺さる。
「へ、へへ・・・自分、涼州牧ですから。
当然の事っすよ閣下。」
魚群の如く目を泳がせて、スッと便乗する外道。
「と、とりあえず、このまま私の計画通り、工事を進めさせて頂きます。」
そう言って打ち切り、
「あ、そうそう閣下。
最後に閣下に別途ご報告が有りまして。」
無理やりに方向転換する。
「うん?他に何か有るんか?」
「ええ、義父殿からチラッと伺ったのですが、司空府連中の扱いに、かなり苦慮なされているとか。」
「・・・ああ、それかや。
あやつ等、なまじ建築・土木の特殊技能を持っとるけん、処分が中々出来んのでなぁ。」
苦々しい表情でボヤく。
「その閣下を悩ましている、司空府連中の事ですがハッキリ言って、全員クビ(物理的にも可)にしても、全く支障が無い事実が判明しました。」
突然の爆弾を炸裂させる糜芳。
「「「「「はい!?え!?どういう事!?」」」」」
その場にいる糜芳を除く全員が、素っ頓狂な声を上げた。
「え~悲しい話ですが、司空府連中は現場監督ではなく、作業監督者に過ぎない事が判りまして・・・。」
「???何がどう違うかが判らん!
しゃんしゃん説明してくれや、糜芳殿!?」
疑問符を幾つも浮かべて、混乱気味に問い質す。
「え~とですね、設計図を基に工事計画を練ったり、各業者と打ち合わせを繰り返して、状況に応じて計画・段取りの調整や、設計変更等々を行う、工事事業の統括役って云うのが、俗に言う現場監督で有りまして。
閣下も此方を思い浮かべますよね?」
「そりゃ誰でも監督言うたら、そっちを思い浮かべるやろがい。」
コクコクと頷く。
「それで作業監督者と言うのは、作業現場で作業員達が不安全行動・・・まぁ、無理に重たい荷物を持って転けかけたりとか、作業員が高所で遊んでいたりとか、危険な行動を監視して、注意喚起するのが作業監督者でして。
ぶっちゃけ誰でもつーか案山子でも出来る、技能もクソも現場にも要らない、名ばかりの役職ですね。
司空府連中はこっちです。」
辛辣な答えを述べる糜芳。
「いやいや待て待て待て!?
じゃあ司空府連中は、現場監督無しに今までどがいして、工事を完遂させて来よったんや!?」
「いえ、ちゃんと現場監督は居ますけど?」
手を左右に振って答える。
「は?何処に居るんや?」
「工事を請け負った業者=現場監督です。」
「どういう事やの糜芳殿!?」
益々混乱状態になる董卓。
現代でもちょくちょく有る事象なのだが、元々は技能・技術を持った、大手の元請け甲が、同じく技能・技術を持っているが、中小の下請け乙に、仕事を丸投げをするのが常態化していくと、甲は徐々に「自分の利益を中抜きして、乙に投げた方が儲かるし気楽だ」という思考に傾いていき、技能・技術を養成しなく成っていく。
そうして年数が経つと、甲が持っていた技能・技術は喪失し、いつの間にか乙が仕事を請け負ってくれないと、マトモに仕事も出来ない状態に、陥ってしまうのである。
実際にそうなると、乙の機嫌次第で甲は利益が左右されてしまい、あべこべな状況に成る為、慌てて元請け甲が新入社員を、下請け乙の許に研修に出して、1から再習得させるという、本末転倒な状態になったりする。
「・・・とまぁ、甲が民間ならそうなってしまうのですが、甲が公的機関の場合は、乙に事業を奪われる事は有りえませんので、甲=司空府連中は、乙=請負業者に全てを丸投げして、偶に現場に顔を覗かす程度で、悠々高みの見物をしている訳です。」
司空府の現状を解説する。
「・・・おい婿殿。
婿殿の話だと司空府連中は、とっくの昔に専門技能・技術を喪失しとるクセに、己達は専門家でございと嘯き、堂々と役料や工費をせしめとる、詐欺師集団になるのじゃが?」
剣呑な雰囲気を出し、くぐもった声音で尋ねる。
「概ね間違ってはいないかと。
軍部で例えれば、余地図(地形図)を書けない参軍とか、軍法を理解していない軍監ですかね。」
「只の無能な役立たずではないか!!」
バンッと机を叩き、憤慨する魔王。
「おのれ~!腐れ者共が!!
さも専門家ぶって騙しおって~!!」
「真面目に勤めている者は兎も角、汚職をしている者達は、容赦する必要は無いかと。」
とりあえず郿城建設中に、碌でなしが寄って来ない様、予防線を張る糜芳。
「当然だ!皇甫嵩将軍!
この竹簡に書かれた人物達を、片っ端から捕らえて来てくれ!!
抵抗するなら遠慮無く、一足飛びに葬って貰っても構わん!」
「はは!一切承知!」
拱手して駈け去って行く。
「しかし糜芳殿、よく司空府の実体を知って居ったものじゃな?」
「ええまぁ、郿城建設で使う(浮屠の)請負業者に、私の書いた設計図を見せた折りに、「役人の私が設計図を起こした事」を、大層驚いておりまして、問い質すと役人が、設計図を起こす事が無いと申すので、涼州の担当者数人に設計図の製作を命じた所、全く書けない事が判明したものでして・・・。」
げんなりとした表情で答える糜芳。
幸いにも涼州の土木・建築担当役人達は、真面目そのものだったので、涼州内の請負業者に出向させて再研修を命じ、再習得を命じたのであった。
2年で再習得出来なければ、一族ごと異民族の最前線送りか、流賊の出没多発地帯行きを、きちんと通達しているので、目の色を変えて死に物狂いで、覚えている事と思われる。
「・・・えげつないのお主。」
「いや幾ら真面目でも、職務をきちんと能わないのは、流石に駄目でしょう?」
キョトンとした顔で、首を傾げる。
「屑は処分するとして、こっちの真面目な連中も、そっちで鍛え直して欲しいのだが?」
「中央名家の連中が、涼州に生きて辿り着ければ、考えますが?」
「・・・。」
名家連中に深い怨みを持つ、不特定多数の謎の賊に、確実に襲われるのを理解して沈黙する董卓。
「ハッキリ言って司空府連中をクビにして、請負業者をそのまま役人に引き上げた方が、よっぽど建設的ですよ閣下。」
「ううむ、それもそうだが・・・大義名分が無いと中々・・・。」
腕を組んで悩む。
「それこそ閣下、郿城の設計図を司空府連中に、書かせて見せれば良いでしょうに。
門外漢の素人の私が書けるモノを、代々家業として司空府に勤めている専門家が、書けない事自体が大問題な訳ですから。」
「・・・確かに。
ちゃんと書ける者は残すべきだが、マトモに書けない様な、実務能力の無い連中を召し抱えておくのは、他府に示しがつかん、か。」
額に手を当て、重々しく頷く。
「はぁ~・・・ホンマに名ばかりで、実の無い輩が多過ぎる。
儂等が異民族相手に、必死に戦って来たのは、こんなしょうもないボンクラ共を、のさばらす為じゃ無いんやがのう。」
「・・・心中お察しします。」
後漢クオリティーの低さには、本当に心底共感出来るので、董卓に深~く同情する。
「察してくれるんなら、糜芳君。
三公とかに興味ない?例えば司空辺りはどうや?」
「イ・ヤ・で・す。」
共感・同情はするが、巻き添えは真っ平御免な糜芳であった。
こうして紆余曲折を得つつも、郿城建設に向けて始動するのであった。
続く
え~とですね、皆様の応援や苦言のお蔭で、何とか100話に到達出来ました!
誠にありがとうございます!
まぁ、100話だからといって、まだまだ話は続く予定ですので、道半ばも行っていないのですが。
とりあえず年末迄に、もう1話は投稿する予定であります。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
優しい評価をお願いします。




