その2
読んでくださっている方々へ
いいね・感想・誤字脱字報告と、諸々な事に読者様の時間を割いてくださり、誠にありがとうございます!
漸く書けたので早速投稿します!
涼州漢陽郡隴県州治所州牧執務室
7月、糜芳は執務室で唸っていた。
「ぬおおおぉぉぉ・・・ふざけんなよ畜生ぅ。
こんな無理難題を押し付けやがってぇぇ!?」
頭を抱えて、ガリガリと掻き毟る。
(何で俺がこんな目に遭わにゃあいかんのよ!?理不尽過ぎるやろ!?)
こうなった経緯を回想する。
6月、中原の混迷もなんのその、全くと言って良い程影響が無い涼州にて、就任直後の書類決裁地獄から解放され、のほほんと過ごしている所に、いきなり勅使として義父の蔡邕が、訪れたので有った。
「此度は勅命を伝えに参った次第に御座る。」
「はは、お務めご苦労様に御座います。
謹んで拝聴させて戴く所存に御座います。」
ヘヘーと同じ義息の蔡良と共に、拝礼する。
「では・・・こほん、涼州牧糜芳よ!畏れ多くも主上よりの勅命を伝える!
この度、長安と隴県の中間地点・右扶風郡は郿県の郿塢に、新たに新都市を築く事と相成った!」
「ははぁ!」
再び平伏する。
(あ~・・・董卓が造ったと云われてた、郿城建設が始まんのかぁ。
ウン十年分もの食糧や、唸る程の金銀財宝が、蓄えられてたって云うヤツだっけ?)
平伏しつつ、脳内で前世の記憶を掘り起こした。
「え~とつまり、新都市建設に必要な人夫を、涼州から提供せよとの勅で御座いましょうや?」
先読みして蔡邕に確認するも、
「いや、さにあらず。
労働力は洛陽からの移住組で、十二分に賄える故に、涼州からの提供は必要無い。」
首を左右に振られて、違うと告げられる。
「あれ?違いましたか。
では建築資材の供出ですか?」
「いやいやそれも違う。
ええい勅を最後まで聴かぬか、せっかち者めが。」
やんわりと窘められる。
「はっ、失礼しました。」
「こほん・・・改めて申すぞ?
涼州牧・糜芳よ、此度の郿塢に於ける新都市建設の統括責任者に任ずる。
心して取り掛かる様、務めよとの勅である!!」
バッと勅命が書かれた、紙製の勅状を翻し、糜芳に見せ付ける。
「・・・はい?いやいやおかしいくない?
右扶風郡て、思いっきり司隷の管轄地域でしょ?
幾ら何でも涼州牧の俺が、管轄外の仕事をやっちゃ不味いでしょうに。」
目を点にして、素のままの口調で尋ねた。
「あ~・・・つい先日右扶風郡は、涼州の行政区分に組み込まれたので、何の問題は無い。
依ってお主が統括責任者に成るのは、極々自然の理であろうが。」
「はぁ!?んな降って湧いた様な・・・あ!?」
そんなご都合的な話しが、と言いかけた時にハッとし、
「き、汚ね一!!面倒事を全部俺に押し付ける算段だろ!?オイこらジジイ!」
裏事情を察して、蔡邕に食ってかかる。
「な、何を申すか小童!?
閣下・・・ではなく、主上の御期待を疑うとは非礼で有るぞ!?」
元来嘘を吐くのが苦手な直言居士は、しどろもどろに答える。
「思っくそ董卓閣下が、裏で絵図面を書いているのを暴露してるやん!?
それによくよく考えたら、都市を新造するという大事業だったら、三公の司空(土木・建築・水利の最高責任者)の仕事だろーが!?」
益々ヒートアップして、詰め寄る糜芳。
「勅使相手に、何て事を言うのです州牧閣下!?落ち着いてください!!」
「そうだたわけ者が!馬鹿を申すな!
司空府の連中なんぞに任せてみよ!
中抜き・横領・賄賂の三位一体の悪行を成し、砂上の楼閣を造りかねぬわ!!」
「ちょっ!?義父上も何言っているのですか!?」
義父と義弟の間をオロオロと彷徨く蔡良。
「へ?そんなに杜撰なの司空府って?」
「ああ、長年名家閥の牙城だった弊害でな。」
苦々しい表情で、糜芳の問い掛けに頷いた。
蔡邕曰わく、元々公共事業関連の利権が絡み易く、多額の公的資金が集まりやすい部署な為、名家閥が自派閥の活動資金源や、自身の出世の資金源に利用していたらしく、その影響で司空府内の上層部から下っ端まで、大半がどっぷりと不正行為に腰まで浸かっている様だった。
その為当然の如く、公共事業に出入りを許された、業者(親方)連中の多くも「同じ穴の狢」と化して、不正行為に加担して追従している有り様である。
何進の遺鉢を継いだ董卓が、一時的に司空になった際に、司空府の上層部の多くを粛清して下から引き上げたのだが、下っ端の汚染具合も半端なく、選出に苦労したらしい。
かと言って司空府の業務内容は、土木・建築・水利事業の管理・監督な為、専門知識がある程度ないと務まらず、余所の部署から引っ張って来ても役に立たないので、董卓も流石に悉く誅滅も出来ずに、やむを得ず大の虫を殺して、小の虫を生かす方法しか採れなかった様だ。
その結果、今回の洛陽からの強制移住に伴なう、長安の区画整理及び改修工事で、真っ当な司空府役人と業者と、比較的マシな役人と業者を使い切ってしまい、郿城建設に使える人材が、ロクデナシ集団しか残らなかった模様。
「・・・という訳でじゃ、そんな汚吏や悪徳業者なんぞに任せたら、碌でもない結果を招くのは火を見るより明らか。」
「それで涼州は、真っ当な役人と業者しか居ないのを、董卓閣下は地元出身故に熟知しているので、使おうと画策したと?」
蔡邕の説明を聴いて、ある程度事情を察した糜芳が話しを引き継ぐ。
「その通りじゃ婿殿。」
コクリと頷く蔡邕。
因みに何故涼州では、土木・建築・水利業務には、真っ当な役人と業者しか居ないのかと言うと、いい加減な工事をすれば異民族の侵略の際に、文字通り命で贖う羽目に成るからで有る。
そんなアホな所業をする者は、とっくの昔に淘汰済みで有ったし、中央のバカ達が悪行三昧した事で荒廃して、不正行為の汚染が進んでいた状況下でも、土木・建築・水利関連部署だけは、しっかりと真っ当に機能していた。
それはさておき、
「まぁ事情は理解しました・・・納得は全っ然していないけども。
それに、現状では涼州でも異民族侵攻に備えて、改修工事の真っ只中なので其方に手一杯でして、郿城建設に使える人材なんぞ居ませんよ?」
蔡邕の説明を聞いて平静に立ち返り、人夫なら出せるけど監督する役人・施工業者は出せないと、両手でバッテン印を作る。
「それは当然理解しておる。
しかしながらお主の伝手で、施工業者を呼び寄せる事は、可能で有ろうが?」
「伝手・・・ナニソレ?」
「たわけ、故郷の徐州や此処涼州で、寺院とか申す道場を建設しておる者達が、居るではないか。」
首を傾げて尋ねる糜芳に、渋い表情で誤魔化すなと、釘を刺す義父。
「あ、浮屠の者達ですか。
う~ん・・・確認してみないと何とも。」
思い出したとばかりにポンと手を打ち、
「それによしんば請け負ってくれても、管理・監督する役人は、涼州からは派遣できませんよ?」
懸念材料を告げる。
「儂の目と鼻の先に居るではないか。」
「へ?・・・あ、蔡良義兄さんですか。」
ジーッと睨む様に自分を見詰める、視線を辿って振り向くと、背後でオロオロオドオドしている、蔡良に辿り着いた。
ゴスッッッ!!
「ぐおおォォォ・・・!?」
「何を他人事の様に言っておるのじゃ貴様は!?
貴様に決まっておろうが、き・さ・まに!!」
怒った表情で拳骨を糜芳にかまし、痛みでしゃがみ込んだ所を、グリグリと人差し指で頬を捻る。
「ひたい痛い!止めて糞ジジイ様!?
ド素人の俺に、そんな大事業の監督業務なんぞ出来る訳ねーだろ、無茶言うな!?」
再び食ってかかるも、
「嘘を付け、嘘を!
お主が寺院とやらの設計に関与している事は、娘の手紙でちゃんと知って居るぞ!
ド素人に、そんな専門的な事が出来る訳なかろうが、たわけ者が!!」
しっかりと論破される。
「うぇ!?・・・あ、それはそのぅ・・・。」
部下の笮融に強請られ、前世で高校の建築科卒だった事もあり、テキトーに日本のお寺の平面図を、書いた事を指摘されてトーンダウンする糜芳。
「あの~嫁さんて色々と俺の事を、こまめに爺さんに書いて送っているの?」
「・・・ああ、惚気話をタップリ添えてのう。」
げんなりとした表情で頷く。
「え~と俺、州牧の業務で手一杯だから、とても監督業務をする余裕は無いんだけど?」
「又しょうもない嘘を申すな嘘を。
業務がかなり落ち着いていて、しょっちゅう黄昏れていたり、暇潰しに歌曲を歌っていたりしておるそうではないか。」
ジットリと半眼で糜芳を見詰める。
「ちゃんと良の報告で把握済みじゃ。」
「ちょっとぉ!?義兄さんん!?」
まさかの裏切り行為(?)に、再度後ろを振り向くと、土下座状態で両手を合わせて、「義父上には逆らえないんだ、ゴメンね!」とばかりに、謝り込んでいる蔡良が居た。
(・・・可哀想過ぎて、何も言えねえ・・・)
婿養子の悲哀を目の当たりした糜芳は、何も言えなくなり沈黙したのであった。
「え~じゃあ施工業者を仲介しますから、監督業務は司空にやって貰ってくださいよ。」
蔡良追及を諦め面倒事回避の為に、折衷案を提示してブー垂れるも、
「戯けた事を申すな。
今の司空である种拂殿は、剛直一本気な性格を買われて、先月病死した荀爽殿(荀攸の一族)の後任に指名されて任官した、只のド素人じゃ。
あくまでも司空府連中の監視役に過ぎぬし、門外漢にやらせた所で、マトモな結果に成らんわ。」
キッパリと無理と断じられた。
「・・・それに閣下に含む所が有ると、チラホラ不穏な噂が出回っており、建設事業を任せるのは正直言って、かなり不安な所も有ってのう。」
ついでに裏事情も吐露される。
「それを言うなら俺も現在進行形で、含む所が増大中なんスけどねぇ!?」
「ほうお主、閣下に叛意が有ると申すか?
急ぎ閣下に報告せねばのう・・・厳しい詮議を受けて、拷問を受けるつもりとな。」
髭を扱いて糜芳を見据える。
「い!?い、いや~其処までは~・・・。」
「為らば暇で無聊を託っており、暇を持て余していると報告致そうかのう?
色々な雑務に忙殺されておる故、閣下もさぞやお喜びになろうぞ。」
にたりと微笑みかける。
「いやいや、それもちょっとぉ・・・。」
「選択権は与えてやるから、好きに選べ。
さあ、性根を据えて返答せい!糜芳よ!?」
ビシッと指を突きつけて問い詰める蔡邕。
「ううっ・・・やりますよ、やりゃあ良いんでしょうが、やりゃあ!
一生懸命頑張った苦労の末に、漸く安息の日々が訪れた所なのに。
噛み締める間もなく、こんな降って湧いた様な厄介事・・・あんまりだぁ~!!
汚ねーよ本当に!鬼!獣!妖怪!」
約束された選択肢を選び、orzと崩れ落ちて、悲痛な叫び声と共に蔡邕を罵る。
「ふん、問答無用で滅亡に追いやる策謀を企てる、お主にだけは言われとう無いわい。」
鼻を鳴らしてあしらう。
こうして済し崩し的に、新都市建設の統括責任者に成った糜芳であった。
「う~んう~ん・・・イーの呼びかけで浮屠の穴太衆(日本の江戸期以前に活躍した建築集団)みたいな連中が、集まったのはいいけどさ?
「ある程度の完成予想図がないと、どうにも成らないから、絵図面を書いてくれ」って、どうしろっちゅうんじゃい?」
板に張り付けられた真っ白な布を眺めつつ、めそめそと泣き言をボヤく。
(そらーね!?曲がりなりにも建築科出てるから、卒業制作で商業施設の設計図ぐらいは、書いた事は有るけどもさ、流石にシムな街造りは無茶振りにも程が有るってばよ!?)
脳内で呻き、
(それに建築科卒って言っても、昭和期には「リアル戦争学校」、平成期には「リアルとあるボーズの学校orカラスの学校」って呼ばれてた、バリバリの不良校の出よ俺って?)
溜め息を吐く。
今では考えられないかも知れないが、前世の母校はガチの不良校で、昭和期には学校の廊下を族車仕様のバイク(当然無免許)がフツーに疾走し、校舎の窓は割れ放題で落書きだらけだったらしい。(卒業生・大叔父談で、何気にラグビーが強く、花園に出場経験有り)
平成期も入学式を終えてすぐに、「新入生歓迎」のバケツの水が、各校舎から降り注げられ、即座に上級生にケンカを売られる始末で、ケンカ両成敗のルールに依り、停学プラス丸坊主のペナルティが課せられ、3日間の自主休学になる程酷かった。(本人談で、学校最短停学記録を更新した)
(そんな試験勉強を一切しなくても、フツーに入れて卒業出来る妖怪学校レベルのモンに、こんな無茶苦茶高難度な要求をされてもねぇ・・・無理に決まってるやろ!?)
再びボリボリと頭を掻き毟る。
因みに前世の母校には、母方の大叔父(剥製祖父ちゃんの弟)・伯父・自分と三代に渡って入学していて、専門科目の建築関連の成績が、他の一般科目より三代揃って頗る悪く、「お前らの一族は、何で建築科を選択したんだ?」と、最長老の科長(科目主任)に首を傾げられていた。
それはさておき、
「えっと、あの州牧閣下?
私に出来る事は何か御座いますか?」
恐る恐るといった体で、蔡良が問い掛ける。
「じゃあこの任務を、全て委託するから宜しく。」
「無茶言わないでくださいよ!?
門外漢の私では、とても全う出来ません!」
ブンブンと手を左右に振る。
「じゃあ現実的に出来る事を頼もう。
ちょっとその辺の城で反乱を起こして、立て籠もってくれるかな?
そうすれば新都市建設処じゃ無くなって、計画自体が立ち消えに成るだろうから。」
司令官スタイルで蔡良に告げる。
「承知しましたって言うわけ無いでしょ!?
洒落にならない物騒な頼み事を、子供をお使いに出すみたいに、あっけらかんと気軽にポンポン言わないでください!?
流石に閣っ?・・・め、目が笑ってない・・・本気で言ってる・・・。」
戦慄の表情で戦く蔡良。
当然の如く糜芳の要求は却下されたのであった。
(う~んう~んう~ん・・・駄目だ思い浮かばん!
助けて~レジェンドヒーローパイセン!!)
三度頭を抱えて悩んだ末、前世の母校の大々先輩で、元祖国民的変身ヒーローになった、レジェンドに助けを求め始める糜芳。
掃き溜めに鶴と言うべきか、鶴が出た時から掃き溜めだったと言うべきか、悩ましい話ではあるが、何故か戦争学校な時代の母校で、夏の始まりっぽい名前の、悪の組織と死闘を繰り広げたヒーローを輩出していた。
因みにレジェンドヒーローは、テレビでは少しぎこちない格闘シーンが有るが、リアルに荒廃した世紀末学校を、3年間に渡り生き抜いたガチンコの猛者なので、まかり間違ってもリアルファイトを挑んではいけない。
それはさておき、
(う~ん・・・そう考えると董卓のオッサンがラスボスで、蔡邕の爺さんはさしずめ某博士って感じかなぁ・・・キャスティング的に)
現実逃避気味に、益体もない事を思考する。
そして暫くの熟考の後、
「はっ!?そうだ!
董卓閣下と蔡邕の爺さんに、正義の飛び蹴りをかませば、2人共爆散して万事解決やんか!」
現実逃避の余り、迷案が思い浮かんだ糜芳。
「何がどうなって、そういう結論に至ったのかが一切理解不能ですが、落ち着いてください閣下!ホンマ止めて~!?
相国閣下を蹴り飛ばしなんかしたら、ウチの一族一門の首が飛びますから!!
義父上、義父上なら構いませんから、義父上迄にしてくださいお願い!」
取り縋る様に糜芳の足元を掴み、半泣きで義父の蔡邕を売り飛ばすのであった。
~~只今主人公が絶讃錯乱中につき、暫くお待ちください~~
(いや~何故か蔡良義兄さんが新都市建設が済むまで、州牧の仕事を代行してくれるって言ってくれたんだけど?
まぁ、ノンビリ出来てラッキー・・・でもねーな。
新都市の構想を練る課題は、シッカリ丸残りだし)
錯乱から立ち直って、振り出しに戻った糜芳。
すったもんだの末、とりあえず新都市建設の課題を脇に置いて、州牧の職務を果たそうとすると、「州牧の仕事は別駕従事の私がしておきますから、どうぞ閣下は相国閣下の依頼に専念為さってくださいませ!!」と言って竹簡を取り上げ、蔡良が一切の仕事を代行してくれたのである。
因みに蔡良が何故そうしたかと言うと、「今の状態で下手に州牧の職務をさせると、意図的にわざと反乱を誘発しそう・・・やりかねないというか、十中八九やる」という懸念が有ったからで有った。
日頃の言動の賜物(?)であった。
それはさておき、
「う~ん・・・とりあえず爺さんには、運転手キックをお見舞いするのは決定事項としてだ。
新都市の外部形状と規模の策定も面倒だけど、内部の街割り(区画)の方向性を、考えて決めにゃあならんのが何よりも面倒くさい。」
机に足を乗せて筆を鼻の下に置き、天井を眺めつつボヤく。
「まぁ、つっても外部の方は形状以外は、洛陽の規模を基準に換算すりゃいい訳だから、未だマシなんだよな~。」
形状が問題なんだよなぁと、溜め息を吐く。
「洛陽には約50万人住んでて、その内の約20万人が新都市に移住予定と。
記録だと洛陽の一辺の城壁の長さが約10里(4Km)、つまり新都市は一辺の長さを、大体半分の5里(2Km)に設定すれば良い訳だ。」
大凡の概算値を算出する。
「・・・そう考えると現大阪城(徳川家が築城)と、道頓堀(豊臣秀吉が築城した大阪城バージョンの1番外の堀)って約3Km有るらしいから、太閤さんの大阪城って滅茶苦茶デカかったんだなぁ。」
20万人クラスがスッポリ収容出来る、超大規模の太閤大阪城に改めて感心する。
「まぁそれは置いといて、新都市の外壁は版築工法に日干しレンガを使うか。
汎用性の高い資材を使わねーと、いざという時に修繕・修復が出来なくて詰むしな。
城壁の高さは6丈~7丈(1丈=約2.4mで約15m)にするかな?
大体5階建てのビルぐらいの高さだな。」
とりあえず簡単に設定出来る項目を、すらすらと書き連ねていく。
「こういった時に大概のチート転生者さんの場合は、「コンクリートで城壁を造るんだ!」って無造作にやるんだろーけどなあ・・・。」
溜め息を零す。
「現実を知ってる専業者の観点からすれば、現代工法を模倣してコンクリート造にしても、壁面の養生=内部圧力の対策が出来ないから、確実に型枠が吹っ飛んで、灰色の津波が発生するのが判りきってるんだよなぁ・・・洒落になんねーわ。」
人夫さん達が、コンクリートの津波に飲み込まれる姿を想像し、ゾッとして身震いする。
「かと言って奈良の大仏(盛土)工法だと、撹拌(かき混ぜる事)が出来ないから混合物のコンクリが砕石・セメント・砂利に分離して、下部は※マメだらけで上部は※粉が吹くといった、マジで指先1つでダウンしかねない雪花菜城壁に成っちまうし。
・・・ほんまもんにコンクリって、この時代つーか機械化が進むまで実用性がねぇな。」
前世の職業経験・知識が、悲しくなる程役に立たないのに凹む。
※マメ=キチンとセメントと砕石と砂利が混ざらず、重力に従って型枠の下部で、砕石だけが堆積してデコボコな表面になった状態。
当然碌に強度も無く穴だらけなので、指先でボロボロと砕石が取れる。
※粉が吹く=キチンとセメントと砂利と砕石が混ざらず、重力に従って型枠の上部で、砂利だけが堆積してサラサラな表面になった状態。
実質上砂の塊なので非常に脆く、息を吹きかけただけでサーッと飛んでいく。
「とりあえず外部は無難に四角にしとくか。
そんで街の中央部分の行政区画を高くして、四方を緩やかな下り勾配にしとけば、都市が雨で水没するリスクも減るし、恐らく大丈夫だろう、と思う。」
水道屋さんや道路屋さん達と違って、完全に門外漢なのでテキトーに決めていく。
一瞬、日本の信州真田家の拠点・上田城みたいに、町並みを迷路状にしようかと考えた糜芳だったが、よくよく考えて観ると、5階建てクラスの城壁を制圧された場合、町並みが丸見えで意味が無い事に気付き、残念ながら諦めたのであった。
「後は郿塢の方向性をどうするかだよなぁ。
地理的に郿塢から長安迄は約1日半の距離だから、商業系都市でも宿場町系が適性なんだけど、とっくに郿県自体が宿場町に成ってるから、郿塢を同系統の宿場町にしても結局、お互いに客の取り合いになって、潰し合いにしかなんねーしなぁ・・・。」
地域適性だけで観ると、既存の都市とモロ被りしてしまう問題点と、
「だからって敦煌の様な交易都市や、長安みたいな商業都市にしても、意味が無いしな。
国内の交易商人だったら先物買いで敦煌を選ぶし、国外の交易商人だったらより多く売買出来る、長安で商売する事を選ぶだろうし。」
地理的に中途半端で、別の商業的な分野での発展性に、かなり乏しい事を嘆く。
「じゃあいっその事、農業系都市にしたらって・・・無理だわ。」
速攻で無理と断じる糜芳。
地域特性上、羊や馬を生まれた時から接して、扱いに長けた涼州民が移住するなら、羊馬のセリや売買をメインとする、農業系都市に方向性を持って行くのもワンチャン有りだが、羊や馬をマトモに扱った事の無い素人の洛陽民に、羊馬管理等の都市運営を期待するのは、荷が勝ちすぎるからである。
「移住予定の洛陽民の適性を考えれば、商業系都市がベストで望ましいけど、地域的には発展性に乏しい・・・だぁぁ!にっちもさっちもいかねー!?」
20万規模の都市にそぐわない立地条件に、思わず声を上げる。
「もう神様でも仏様でもええから助けてくれ~。
はぁ・・・ベガかベガスにお出かけかぁ。
・・・うん?ベガに・・・ベガス・・・こ、これだぁ!!我、天啓を得たりぃ!?」
ピコーンと頭上に電球が点る。
天啓を得て(?)閃いた糜芳は、勢い良く平面図・立面図を書き、完成予想図も書き上げたのであった。
そうして糜芳が涼州でのんびりしていた中、流星群の如く各地に散った将星達が、「我こそが覇を唱えん」と徐々に、乱世に向けて輝きを増していた。
そんな将星達を支える、名臣・名将と後世に呼ばれる輔星達も又、世に出んとしていたのであった。
徐州下邳国東成県
「・・・・・・。」
1人の青年が馬の背に乗って仰向けになり、雲がゆっくりと流れるのを眺めていた。
青年即ち魯粛は、才気に満ち溢れた人物であった。
学問所の成績は優秀で弁説も立ち、武芸・馬術にも秀でており、性格は気は強いが快活で爽やか、加えて生家も徐州で有数の資産家と、天は彼に二物も三物も与えていた。
だがしかし彼の周り=世間は、決して彼を優れた人物とは誰も評価せず、相手にしなかった。
彼は確かに才気に溢れた人物ではあったが、残念ながら優秀な人物ではなかったからである。
コレは古今の中国に於いてそうらしいが、「伝手やコネ」を重視する傾向が古来から強く、俗に言う「コネ入社」は父祖からの恩恵であり、父祖の遺徳を表した美徳という、儒教的な価値観を持っていた。
その為、特に儒教一尊と呼ばれる後漢時代は、儒教の影響が強いが為に、その風潮が依り強かったのである。
例えば袁術などは、政治的には痴政を敷いて民を苦しめた暗君であり、軍事的にはマトモに勝った事の無い愚将であったが、「四世三公」の家門に生まれた恩恵で群雄に成れ、一瞬とは言え「皇帝」を名乗る事が出来たのであった。
つまりはこの時代の「優秀な人物」というカテゴリーは、「家柄や血筋が良い」=「上位者(権利者)に強い伝手やコネ持つ」=「生まれ持った家門に恵まれた人物」こそが優秀な人物であり、当人の才気・才能の有無は、二の次三の次だったのである。
現代風に例えれば、一流大学で主席に成れる程の能力を持っていても、コネや伝手が無ければマトモに就職も出来ず、逆に三流大学のみそっかすな無能でも、コネや伝手が有れば一流企業に就職出来る様なモノであった。
その為才気・才能に優れた人物であるにも係わらず、マトモな家門を持たない魯粛は、この価値観に因って弾かれる反面、才気・才能に乏しくて品性が劣る愚物でも、生まれた「家門」の恩恵で「優秀な人物」と評され、世に出て出世するという或る意味で、世も末の体を成していた。
そんな時代の風潮なので、大概の寒門の人が立身出世を果たそうとするならば、何処ぞの涼州牧の如く強者に諂ったり(当人は自覚無し)、遜ったり阿ったりするモノだが魯粛は違った。
持ち前の負けん気も相まって、「じゃあ俺自身が一旗揚げて、自分の力で世に出てやる!」と思い至ったのである。
そうして思い立った魯粛は、地元界隈で碌でなしと言われている不良達と交わり始め、時には実力で従わせ、時には弁説で言いくるめて瞬く間に劉備の如く、数百人規模の愚連隊を作り上げたのであった。
来たるべき将来に備えて家の財力を、愚連隊の手下達に惜しまず注ぎ込んで装備を整え、馬の野駈け(騎馬訓練)や弓槍の習熟(歩兵・弓兵訓練)を精力的に行っていた。
そうした青雲の志を理解する者は、相変わらず魯粛の周囲には居らず、近隣からは「魯家の跡取りは気が狂った」と言われ、身内からでさえ「酔狂な狂人」と、陰口を叩かれる始末だった。
そんな世間の評判に魯粛は、馬耳東風と聞き流して無視していた。
「百弁連々と口で言うよりも、1つの行動で示す方が効果的」と理解しているからである。
それはさておき、
(さて、どうするか・・・一旗挙げる準備は整いつつある・・・しかし)
雲を眺めつつ漠然と思い悩む魯粛。
「智者は未萌に見ゆ」の言葉通り智者で有る魯粛は、一旗揚げた場合の将来に於ける、メリット・デメリットを明確に自覚し又、自覚しているからこそ躊躇が出るのであった。
(・・・こんな気狂いと周りに言われてる俺に、一途に愛情を注いでくれて、今まで育ててくれた祖母ちゃんに1つも孝行もせずに、果たして飛び出していいのか?魯粛子敬よ?
それに残される形になるお袋は?)
自問自答する。
彼の生家である魯家の男系は、悉く不思議と夭折(若死)して何故か短命であり、家付き娘で有る祖母と結婚して婿養子に入った祖父、祖父母の一粒種である父も揃って、子供が産まれる前に亡くなり、魯粛自身も遺腹の子(遺児)として生まれていた。
その為裕福な家なのに傍系(親族)が殆ど居らず、直系に至っては魯粛只1人な状況で有る。
自分だけなら兎も角、祖母と母を残して飛びだす事に躊躇するのは、至極当然であった。
そんなこんなで思い悩む魯粛の許に、
「お頭!お頭の家のモンが来ましたぜ?」
手下が魯家の使用人を連れて来る。
「何だよ一体?」
「若!急いでお戻りください!
お婆様が!お婆様が!?」
「!?」
尋常じゃ無い様子の使用人を観た瞬間、脇目も振らず全力疾走で馬を走らす。
そして転がる様に家に戻り、祖母の居室に駆け込むと、
「祖母ちゃん!どうした!?母上も一体!?」
「おお、粛や、粛やぁ。」
「うう・・・。」
しわくちゃな顔で祖母が母と共に、涙を流して泣いていた。
祖母達の傍らには、商売の交渉に涼州に旅立っていた筈の、祖父の弟で大叔父の胡紹が旅装も解かずに、旅塵にまみれたままの格好で佇んでいる。
「粛や良かったねぇ・・・亡くなったお爺様や伜も、どれだけ泉下で喜んでいる事か。」
再び嗚咽を上げて泣き出す。
「何が良いんだ祖母ちゃん?さっぱり解らん!
大叔父上、どういう事だ!?」
埒が開かないと踏んで、胡紹に問い質した。
「先日儂が涼州に行ったのは知って居るな?」
「それは無論。」
当たり前だろと頷く。
「その涼州に赴いた折に、州牧の糜芳様に謁見が叶い、儂が魯家の者でございと挨拶したら、スラスラとお前の名を挙げられたのだ。」
「はい!?糜芳っつったら天下(徐州)に知られた、あの朐侯様の事だよな?どうして?」
会った事も見た事も無い郷土の偉人が、無名に等しい自分を見知っている事に仰天する。
糜芳自身は、ウッカリと効率重視と保身で行った数々の行動は、結果的に第三者・特に徐州人からは、非常に高く評価されていた。
何せ「東の田舎」と、司隷方面から観られていた徐州から生まれた、時の皇帝に絶讃されて「楽聖」と謳われた文化人であり、寒門で有りながら僅か数年で九卿・侯位に迄立身出世し、政才にも恵まれて州牧に上り詰めた人物だからである。
同時に全くの無名だった国淵を、「屯田制度」の統括者と自分の後任の太守に推挙し、推挙された国淵は糜芳の期待に応え、屯田制度を充実させて州の食糧事情を、大幅に良くした事で確かな見識を示し、涼州でも無名の人物を抜擢して統治に成功した為、「無名才気の名伯楽」と評されたのであった・・・当の本人が知らぬまま。
その為今の徐州では、「名の劉虞、実の糜芳」とよばれ、皇族の劉虞と並ぶ声望が有ったりしてしまうので有った。
それはさておき、
「ああ、その朐侯様がお前の名を知っている事に儂は青ざめた。
お前の狂人っ振りが知られたのかと。
だが案に相違して、朐侯様はお前の事を「国士足る大人物」評されたのだ。
大バカ者のお前をだ。」
目頭を抑えて俯く。
「俺が!?・・・ハハッそんな。」
「ああ、儂もそう思ったさ。
だから恐れ幅ったい事だが、証文を書いてくれとせがんだら、躊躇無く書かれたよ。」
スッと竹簡を魯粛に渡す。
「魯粛子敬なる者、必ずや国士足る器を世に現し、後世の歴史に盛名を遺さん。 糜芳」と書かれた竹簡を読んだ魯粛は、
「うぉぉぉおおおああ!!」
膝を折って絶叫する。
今や徐州屈指の「名士」で、世に知られた国士と成った糜芳の証文は、徐州に於いては仕官を望めば、高級官僚確定のVIPカードに等しく、中央に於いても(董卓陣営に)即採用確定の、プラチナカードに等しい代物で有った。
そして実力・実績を以て名士と成り、才能で評価する「名伯楽」・糜芳に認められた事で、
「お、俺が名士に成った?
そんじょそこらの青瓢箪な批評家と違って、俺自身の才能を以て名士に・・・うう。」
今までの世評が180度ひっくり返る事実に、orzの格好で嗚咽する。
「義姉上、誠におめでとうございます。
貴女の孫は世に羽ばたきましたぞ。」
胡紹が深々とお辞儀をすると、益々泣き崩れる魯粛祖母。
自分が大事に慈しんだ孫が、周囲から酷評されていたのに心を痛めていた所、州で1~2番の名士に絶讃されたのだから、喜びようも一入であった。
「それで粛よ、お前はこれからどうするのだ?」
「どうするって・・・?」
「其処までお前を買ってくれた、恩人とも言える朐侯様に何もせず、このまま無聊を託つつもりなのか?」
厳しい表情で問い詰める。
「そ、それは・・・。」
「朐侯様はな、その証文に加えてお前が望めば、州牧の地位を譲りたいとまで、申されておられたのだぞ?」
「其処まで俺の事を!?」
地方官僚の最高位を譲る程、自分の事を高く評価してくれた事に驚嘆する。
因みに糜芳の心情は、州牧だろうが例え相国だろうが、厄介事のババには変わりないので、よっぽどの碌でなしでなければ、喜んで変わって欲しいと思っていたりする。
「しかし、祖母ちゃんや母を置いては・・・。」
「義姉上もまだまだ健在じゃし、儂もまだピンピンしとる。
最悪は嫁殿(魯粛母)を、商会代理人に立てる事も出来る。
家を惜しんで名を捨てるのは、1人の男子として失格ぞ粛よ!」
躊躇う大甥に激をいれ、
「義弟殿の言うとおりです粛。
「人は一代名は末代」と言う様に、己が成したい事を為しなさい。」
可愛い孫を励ます祖母。
「判りました・・・お祖母様、大叔父上。
先ずは朐侯様に恩返しをした後、身の振り方を考えようと思います。
すぐさま涼州に旅立つ事にします。
・・・どうかご健勝で。」
深々と拝礼する。
こうして1人の輝く輔星が、糜芳の無自覚なやらかしにより、涼州に向かうのであった。
因みにだが、当の本人は「うぇ!?何で孫呉の重要人物が来んの?」と混乱し、鶏の様に右往左往して取り乱す事になるのは、全くの余談である。
続く
え~と、私自身は「1日平均で千文字ぐらい」をモットーに、書いているのですが・・・結構コレって長文なんですかね?
他の作者様の作品を、ちょくちょく拝見させて貰っているのですが、なんとなしにそう感じる今日この頃であります。
もしかしたら3千字から5千字ぐらいが、キリ良く読める文字数なんでしょうか?
まぁ、それはさておき、
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
優しい評価を宜しくお願いします。




