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猪可以飛  作者: ヨシトミ
39/40

最終話 豚は飛べる

第39話 豚は飛べる


…大きな紙袋の中から、出て来る出て来る。

アニメのキャラクターグッズや、テレビ番組のグッズ、CD、DVD、ゲームソフト…。

どれも俺が声を当てたり、出演したりした物だった。

それは「高岡言グッズ」だった。


「…お客さん、高岡言のファンだったんすか? 

すごいすね、どうやってこんな非売品とか超レアな物まで…?」


店員もその量とレアさに驚きを隠せなかった。


「まあな…」


当たり前だ、俺が高岡言本人だったのだから…そして最大のファンだったのだから。

でも事件を起こした声優のグッズなど、大した値段にはならないだろう。

ネットの掲示板でヤクザとつながってるとか、悪い噂も流れている事も知っている。


「いいのか、大事な物じゃないのか? せめて少しぐらいは…」


上杉が泣きそうな顔になって、俺の腕にしがみついた。


「かまへん。言うたやろ、俺の決意て。

…あ、買い取り不可の物は処分でお願いします」


俺は店員に付け足した。

そしてそのまま言った。


「指環がええか? それとも何ぞ他のもんがええか?」


ヤクザとつながっているという噂は本当、ヤクザなのだから。

俺は上杉言、上杉会の新入りにして上杉の婿。



「やっぱり大した金にならへんかったな…」


事件を起こした声優のグッズなど、やはり業者も買いたがらず、

持ち込んだ物のほとんどを処分する事となってしまった。


「帰ろか、仕事に戻らんと武田さんが怒らはる」

「私ら研修中の身だしな…武田はいちいち細か過ぎるんだよ。

今日のサボりも絶対『甲陽軍鑑』に書いてるって」


俺と上杉は二人して、武田のじいさんについて研修を受けていた。

俺は新入りだったし、上杉に至っては「次期会長が最弱でどうするんですか」と、

武田のじいさんがその弱さに嘆いた結果だった。


そんな上杉会も武田のじいさんの代になってからというもの、

他の組からいよいよ笑われるようになってしまった。

まず組の名前が「上杉」なのに、トップが「武田」である事。

組の記録が「上杉家文書」ではなく、「甲陽軍鑑」と呼ばれている事。

それからお決まりの、給料が塩で支払われているのではないか、 

組員研修の場所は川中島だろとか。


「そうだ言さん、そのお金を元にして二人で刺青入れない?」

「今どき刺青かいな」


俺は口を尖らせた。

今どきのヤクザはほとんど一般の企業みたいになっており、業務に支障が出るからと、

刺青を入れている者はもう少なくなっていた。


「おやじさんとか武田もがっつり入れてるじゃん」

「それは古くからの人やからやん、山本さんも宇佐美さんも若い人らは入れてへん」

「私ね、いい事思いついたんだよ…それが刺青って訳。

美映子、私らの毘沙門天を刺青にするって素敵じゃん?」


先を歩く上杉は振り返り、とびきりの笑顔を俺にぶつけた。

上杉、ずるい女だねお前は…まだそんな武器を隠してる。

俺も思わず笑顔になってしまった。


「毘沙門天、ええね…隻眼の女毘沙門天、どや?」

「美映子だから、『むふう〜』と満足そうな顔で寝ているのがいいな」

「よだれも垂らしとんのがええ」

「文字も入れようぜ言さん、『一粒で二度旨』!」


俺たちはあれこれ話しながら、春の街を歩いていた。


「あかん、笑える…こら今日はもう仕事にならん、どっか店でん入ってじっくり考えよ」

「いいね、今日はもうサボり決定だな」

「帰りに遊んでく?」

「私ゲーセン行きたい! それからカラオケだろ? ダーツもいいな。

それからディスカウントストアで買い物したいし、それからそれから…」

「それから?」


そう話しながら俺たちは駆け出し、自然とその手をつないだ。

通行人らが俺たちを珍しそうな目で見る。

そりゃそうだよな、傍目に俺たちは男同士だ。

…何この組み合わせ、なんでこの俺が上杉悠一とか男と。

俺もそう思っていた、でも今隣にいるのは上杉淑子という女だ。

俺の一生の人、親友にして最愛の妻だ。


シンレイ、これもお前のくれた奇跡なんだね。

あの日、俺の目の前に突然現れて。

愛のなんたるか、人を思うことを教えてくれた。

猪可以飛、豚は飛べる…奇跡は起こる。

それはシンレイが、俺を豚にして飛ばしてくれたから。


俺は豚、空を飛ぶ豚。

愛の先へ、先へと。









「猪可以飛」 完

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