第38話 決意
第38話 決意
翌朝上杉が仕事に行くと帰ったあと、俺はテーブルの上からスマートフォンを取った。
そして検索窓に「高岡言 男性声優」と入力した。
逮捕後、そして事件後、初めて自分の事を検索する。
検索結果は散々な内容だった。
最低だの、がっかりだの。
あちこちへの賠償金は事務所が立て替えてくれたものの、
今でも分割で支払い続けている。
シンレイのおかんもあのカードを使って、全部を一括で支払ったらと言ってくれるが、
今までは誠意を見せるという意味で、分割支払いを譲らなかった。
でももう残りの過去をきちんと精算せねば。
俺は別の世界に生きるのだから。
俺はシンレイのおかんに電話して、カードを使う事とその内容を話した。
「言さん、それは良い使い道だと思いますよ! もっと早くでもよかったのに…!」
シンレイのおかんは大賛成だった。
「そうだ、今度井上会の集まりで日本へ行きます。
ちょうどその頃に言さんの入門の盃事をすると、電話で武田が言っていました。
私も無理言って客人にしてもらいました、何があっても絶対行きますよ」
「えっ、ほんまにい? いやっ、これは嬉しいわあ…」
「台湾伊家は外部団体ですが、私個人は井上会の出身です。
上杉会とは井上の家を通してつながっているのですよ…親戚みたいなものです」
「…ほんま、おおきに伊さん」
俺は電話の向こうで笑うシンレイのおかんに、つい深々と頭を下げてしまった。
「それから言さん…淑子さんといつ結婚するんですか」
「いや、そやから上杉は家の事もあるからわからんて…」
「だめですよ、ちゃんと結婚って形にしてさしあげないと。
淑子さんだって心の底ではそう望んでいるはず。
好いた人と添いたいってのは女の夢…わかるんですよ、私も女ですから」
「伊さんまで…おかんみたいな事言わはる」
電話の向こうの彼女の姿が見える。
高そうなスーツを着込んだ、顔の濃い、渋いイケメンの姿が。
彼女は声を立てて笑った。
「だっておかんですもの…! シンレイを通して、言さんと淑子さんの」
入門の盃事は上杉の会社に祭壇を設けて執り行われた。
武田のじいさん、上杉、それからシンレイのおかん、山本さんはじめ上杉の者たち、
きちんと正装した皆の前で、盃を酌み交わした。
俺の場合は少々特殊で、おやじさんからもらったあの夜のあの盃がすでにあるのと、
若頭だったとは言え、武田のじいさんとおやじさんが兄弟分という事もあって、
一般のヤクザの入門のように、親子盃とはいかなかった。
武田のじいさんはおじとして俺と盃を酌み交わした。
それから、上杉とも改めて兄弟の盃を交わす事となった。
上杉は俺より2つ年上だったし、武田のじいさんの次に会長となる人なので、
上杉が兄、俺が弟という事になった。
こうして、俺は上杉会の一員となった。
儀式が終わり皆がおめでとうを言う中で、俺は上杉の向かいから発言を求めた。
「新参の俺が言うのも気が引けますのやけど…」
「どうしたんだね、高岡くん」
新しくおじになった武田のじいさんが怪訝そうな顔をした。
「もう一度盃の儀式をしてもらえませんか? 俺と兄さん…いえ、淑子さんとで」
「ちょっ、言さん…?」
紋付羽織袴姿の上杉も目を丸くして、俺の発言にぎょっとしていた。
「せっかく皆が集まってくれたはる…シンレイのおかんも。
ちょうど皆正装もしたはる、盃もある、ええ機会やと思うねや」
俺は姿勢を正すと、上杉に頭を下げて一礼した。
そして彼女の目をじっと見つめた。
「上杉…淑子さん、俺と夫婦の盃も交わしてもらえへんか?」
上杉は驚き、でも次には涙を目に浮かべた。
「言さん…はい…!」
武田のじいさんは、それを見て嬉しそうに皆に目配せをした。
参列者たちも嬉しそうにもう一度きちんと整列し、姿勢を正す。
儀式が始まる、向かい合って見つめ合う上杉は、
きっと同じ事を、シンレイの事を思っているだろう。
シンレイも見ていてくれているだろうか。
この式を誰よりも喜んでくれるだろうか。
俺と上杉は仕事を抜け出し、一旦家に戻ってから街に出た。
入門してすぐの金曜日だった。
役所に寄って、それから街をぶらぶらしていた。
「あのさ言さん、その紙袋ずうっと持ち歩いてるけど…何入ってるんだ?」
俺は家から大きな紙袋をずっと持ち歩いていた。
「ふふん、これには俺の決意がやね…」
俺は中古ショップを見つけた。
看板にアニメ、ゲームと書いてあるのを見て、その店へと入った。
上杉も俺の後に続く。
「なんだここは…お前オタだったんか?」
「お願いします」
俺は上杉を無視して、カウンターの若い男性店員に声をかけた。
「はい、買い取りですか?」
「はい」
俺は紙袋をカウンターに乗せた。
店員が失礼しますと言って、紙袋の中身を取り出す。
すると、上杉の顔色が変わった。
「言さん、これ…!」




