表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猪可以飛  作者: ヨシトミ
32/40

第32話 リボルバー

第32話 リボルバー


「高岡くんも知っているかも知れませんが、若の元の名前は姜淑子、在日3世です」

「それはシンレイから聞いとる」

「ハングルが使えるであろう事を見込まれ、通訳目的でさらわれたのですが、

若は日本生まれの日本育ちで、日本語しか話せません。

通訳としては使えない女でしたが、若はとても美しい女だった…。

商品としてはこれ以上ない価値があった」


ハングルか…。

おやじさんはその組織が国家ぐるみである事をほのめかした。

そうなると大体の見当はつく。


「シンレイのおかん…伊さんはシンレイをよこす言うてくれはったけど、大丈夫やろか。

伊さんの仕事に差し支えへんやろか」

「台湾伊家は日本寄りの組織だし、お嬢様の事もあってその組織とは対立しています」

「なら大丈夫やな…武田さん、国内の窓口はどこや?」

「日本海側にいくつかと、この近くだと新宿に国内窓口の管理事務所、

でも私と上杉は品川の倉庫で若と出会いました…乗り込むおつもりですか」


武田のじいさんはそう言うと、家にいる若い組員を呼んだ。

そしてちらりと目配せをした、車を出してくれるつもりらしい。

それから部下に電話をかけて、何か報告をさせていた。


「乗り込むかどうかは上杉次第やな」

「神政会に動きはありません、たぶん若はまだ組織と接触していない。

組織が若と接触したなら、神政会もすぐに動き出すはずだ」

「上杉が出奔したのは俺のせいやと思う…だから俺が行かんと」


俺はシンレイに連絡を入れた。

シンレイはすぐに電話を取った。


「…シンレイ、事情はおかんから聞いとるやろ。これから上杉の家を発つ。

品川の倉庫を目指す、付近まで来たらまた連絡するわ」

「品川の倉庫…大体の位置はわかる。了解、私も移動してる」


シンレイの声は落ち着いていた。

それは普段のふにゃふにゃした声ではなく、殺し屋の声だった。

先ほどの組員が戻って来た。


「会長、今準備をしているのですが、隠してあった拳銃がひとつありません」

「若が持ち出したのか…とにかく急いで欲しい」


俺たちも急いで支度をし、武田のじいさんの出してくれた車に乗った。

俺たちの乗った車の前後に、何台かの車が合流してついている。

たぶん武田のじいさんから連絡を受けた味方だ。

その車たちは途中でまた別れて行き、品川に着く頃には3台に数を減らしていた。

シンレイに連絡して合流する。


「言さん、とし姉ちゃんがこの近くに?」

「武田さんがこの近くの倉庫やて言うてた、上杉と初めて会うた場所やて」


シンレイは応援の者らと一緒だった。

俺は彼女から武器と弾薬を渡され、それを装備した。

武田のじいさんが彼らに挨拶し、分散と包囲を指示した。

敵も上杉も逃がすな、もしくは侵入させるなという事か。


シンレイたちの車も別れて分散して行った。

春近いとは言え、夕方ともなるとまだ暗かった。

朝から曇っていた空はいっそう曇り、寒さで白みを帯びていた。

雪でも降るか。


積まれたコンテナの影から、武田のじいさんが言う問題の倉庫を見る。


「何も動きはなさそうやな…ほんまに上杉ここにいてる、来るんか?」

「新宿は窓口とは言っても全国の窓口の管理事務所、ただのオフィスです。

この品川倉庫が人身売買や麻薬など、実際の業務の窓口になっています。

若が現れるならこちらの可能性が高い」


その時、武田のじいさんの電話に着信があった。


「はい、武田…どうした山本」


電話は山本さんという、上杉の幹部からだった。

彼は通話しながら、俺の方を向いて言った。


「不審車両が接近している、神政会の車らしい」

「ほんまかいな…嫌やな、こんな時にそれはあかんやろ」


武田のじいさんは電話の先の山本さんに言った。


「私らは分散して倉庫を包囲している。

もしもこれ以上の接近あるならば、最寄りの者らで攻撃せよ。

神政会ごときで戦力を消耗してはならぬ、近くの者を交代として行かせる」


武田のじいさんは山本さんとの通話を終えると、また別の電話をかけ移動を命じた。


「武田さん、俺らは動かんでええのん?」

「みんなが周囲を守ってくれている、私らはその中央にいる。

この場合中央が一番安全だ、高岡くんは私とここにいてください」


そうこうしているうち、俺たちが来た方角が突然賑やかになった。

戦いが始まったのだ。

俺と武田のじいさんは、コンテナの間に出来た陰に身を潜めた。

倉庫街の広い道路の向こうに、上杉の隊が次々に移動して行くのが小さく見える。


「彼らは外周をぐるぐる周りながら、交代で敵の前に出て戦っている」

「リボルバーみたいなもんか」

「そうです、交代して敵の前から外れた者たちは回復して、また次の戦いに備える。

これは全員が強くなければ出来ぬ事、上杉の家は小さいですが精鋭揃いです。

今ここで神政会と全面対決するのは得策じゃない」

「ふうん…すごいんやな、武田さんて」

「私の考えた策じゃないですよ…しっ、お静かに」


倉庫の中から男たちが駆け出して来た。

彼らは俺たちのいるコンテナの近くを通って、騒ぎのある方向へと走って行った。


「…行きましたか」


武田のじいさんは辺りを見回し、安全を確認した。


「この策は上杉の策です…まだ敵対していた頃の私も、これにはだいぶ手こずりました。

上杉軍のお家芸『車懸かり』…たぶん上杉もそこから流用したのかと。

時代も規模も違いますが、私らもまた上杉の軍に違いありませんから」


その時、一台の車が包囲を猛スピードで突破して、

俺らの近くのあの倉庫の前で停止した。

車から男が出て来て、中にいるもう一人の腕を引っ張っていた。


「…ありがとう。でも大丈夫、ひとりで歩ける」


もう一人の男も車から出て来た。

黒のスーツに黒のコートを着込んだ、細身の男だった。


「…若!」

「上杉…」


その男は上杉悠一、俺の一生の人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ