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猪可以飛  作者: ヨシトミ
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第13話 上杉の友達

第13話 上杉の友達


「友達! なんで俺が美映子の彼氏…つまりライバルなんかと…!」

「ほんまや、なんで俺が…!」


俺と上杉は揃って上杉のおやじさんに反発した。

おやじさんは目を細めて、ただにこにこと嬉しそうに微笑むばかりだった。

その日の帰りはおやじさんが車で送ってくれた。


「高岡くん、悠一の事なんだけど…」


車の中でおやじさんが上杉の事を切り出した。


「はい?」

「あの…いつもありがとう、悠一があんなに楽しそうな顔をしているのが嬉しくて。

悠一本人や高岡くんのところの美映子さんから、悠一の事は聞いていると思う」

「…はい、シンレイ…美映子から聞いとります」


俺はシンレイと言ったが、「美映子」と訂正した。

上杉のおやじさんの中でシンレイは「美映子さん」なのだ。


「あの子は海外へ売りに出されそうになっていました…海外のテロ組織へ。

悠一はそれは美しい女だった、ただ出会った時にはもう若くはなかった。

若くもない、さんざん男に犯され続けてきた女の用途など、だいたい想像がつく。

あんな子が麻薬を打たれ爆弾を抱かされ、男たちの中へ飛び込まされるかと思うと…」


上杉のおやじさんの目が揺れた。

彼のまぶたの裏には上杉の過去が、美しい女だった姜淑子の姿が映っている事だろう。


「私も極道の端くれです、若く美しい女はいくらでも手に入る。

それでもあの子を放ってなどおけませんでした。

戦って、あの子をさらって、『悠一』という名を与え男にしました。

女である限りあの子は解放されない、ならば男にするまで…」


おやじさんは本当に上杉に惚れているのだな。

だって彼は男になった上杉を妻に迎えた、彼を自分の戸籍に入れた。

俺はこのおやじさんのように、シンレイを深く思えるだろうか。


「そんな環境だったから、あの子には友達と呼べる人がまだひとりもいません。

美映子さんはあの子の恋人でしたから、正確には友達とは言えません。

高岡くん、あなたが悠一の最初の友達だと思います」


…俺にも友達はいない。

声優をしていた頃の「友達」は皆、利害関係にある「友達」だった。

事件を起こして、出所してみると、見事にそれが証明されてしまった。

古いスマホのアドレス帳に記載されてあった連絡先は、ただの文字列だった。

誰ひとりとして電話に出てくれる者はなかった。

俺がいかに驕っていたか、その時初めて身に染みた。


上杉はこんな俺でも心配して、的外れだがシンレイのおかんの事を話してくれた。

シンレイのためにではあるが、俺に料理も教えてくれる。

俺が間違えると本気で叱ってくれる…。


「友達…そうやね、大事な友達やな」


上杉のおやじさんは「それ見ろ」と笑った。

その時、運転手をしていた上杉の組の若いのが、車を急停止させた。


「おやじさん、敵襲す! タイヤを撃たれました!」

「くそ…神政会め、逃げるぞ」


俺たちは車から降りた。


「高岡くん、走れるか?」

「走れる」


俺たちは走った。

後ろからワゴン車が追いかけて来る。

ワゴン車の窓が少し開いており、そこから細長い筒状の物が先っぽを覗かせていた。

角を曲がり、車が入って来れないような細い路地をくねくねと通り、駅前の繁華街に出る。


「おやじさん、今応援呼んでるす」

「応援て…来るまで時間かかるやろ、どないすんねや」

「そうだな、どこかに隠れたいが…」


上杉のおやじさんが建物の陰から辺りを見回した。


「あのパチンコ屋だ、走るぞ」


俺たちは一斉に飛び出し、向かいのパチンコ屋に飛び込んだ。

このパチンコ屋は入った事がある、たしか裏にも出入り口があった。

だがおやじさんたちは裏口を目指さず、パチンコ台の前に座った。


「裏口もたぶん押さえられている、ここで客を人質に時間を稼ぐしかない」


上杉のおやじさんは玉を買って、遊ぶふりをした。

運転手の若いのもそれに習う。


「…ごめんな高岡くん、こんな事に巻き込んで」


おやじさんは視線をパチンコ台から逸らさず、玉を買うよう金を渡しながら言った。


「構わんよ。でもシンレイが家で心配しとる、遅くなるて連絡くらいはしたい」

「そうだな、今のうちだ」


俺はシンレイの、あのセンス最悪なスマホに電話をかけてみた。

俺の悲鳴があの狭い部屋に鳴り響いているはずだ。

…出ない、仕事に行ったのか。

別のところに連絡してみる、こっちにいるかも知れない。


「はい…あ、高岡さま」


こっちは出たか。


「伊さん、シンレイは仕事中やろか? そっちに来たはらへんやろか?」

「シンレイ? 仕事とは聞いていないが…どうされた? だいぶ慌てておられる」

「ちょっと込み入った事情で遅うなる、もし会うたらそう伝えて欲しいねや」

「…もめ事ですか?」


シンレイのおかんが、電話の向こうで目を光らせているのがわかる。

上杉のおやじさんたちが不思議そうな顔をしていた。


「家じゃないのか? どこに電話してるんだ?」

「あ、シンレイのおかんに…シンレイが来とるかなて」

「代わってくれ、私が説明しよう」


上杉のおやじさんが電話を代わり、シンレイのおかんの声を聞くなりびくんとし、

姿勢を正して状況を報告し、電話を俺に返した。


「上杉より事情は聞いた、とんだ災難に巻き込んでまこと申し訳ない…。

でもいい機会だ、ちょうど高岡さまの近くにうちの者がいる。

彼らの戦いをご覧いただきたい、そして少しでもお心を傾けていただけたらと思う」

「…はい?」


シンレイのおかんはにこやかな挨拶で通話を終了した。

俺も電話を切って、スマホをポケットにしまった。

すると、店内にいる客が全員一斉にがばりと立ち上がった。


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