第8話:橋の番人(1/2)
今日も今日とて、カメラに向かって視聴者からの心霊体験エピソードを読み上げる。
我ながら板についてきたな、なんて思いながら。
「さーて、今回のお便りは——関東にお住まいの、カワゾコさんからです」
手元のスマホに視線を落としたまま、読み上げる。
『私はだいぶ田舎の方に住んでいるのですが、近くに大きな吊り橋があります。普通に人気の観光スポットなのですが、どうやら思い詰めてやって来る方もいらっしゃるようで……』
『大半の人は吊り橋のあまりの高さに驚いて、そのままお帰りになるようです。でも町としては万が一のことがあってはならないということで、観光案内スタッフを配置して——
裏の目的としては、 事故が起きないよう見張らせていたようです』
『ただ、シーズンオフはほとんど誰も来ないのに人を配置し続けるのは予算的に厳しい。
そこで商工会で話し合った結果、最近だいぶ値下がりしているAIカメラを設置することになりました』
AIカメラ。カメラ機能で周囲を見渡し、人間を感知すると話しかけて会話ができる代物だ。表向きは観光案内ロボという体裁で設置された。
訪問者の思い詰めた様子や不安定な言動が見られたら、自動で商工会に通報が入り、様子を見に行くという仕組みらしい。
『てっきり深夜に来る方が多いと思っていたのですが、意外と早朝が多いそうです。真っ暗だと別の恐怖がありますからね。
早朝なら、元気なお年寄りが犬の散歩がてら吊り橋を渡ったりと、多少の人の出入りもある。
実際に毎朝、観光案内ロボに「おはよう」と声をかけているお年寄りも何名かいるそうです』
なんかほのぼのしてきたな。
これ、心霊話か……?と思い始めた、そのとき。
『ここからが本題です。ここ最近の話なのですが——早朝、散歩中のお年寄りたちが吊り橋を通りかかると、AIが誰かと話している声がするというんです。
不思議に思って近づくと、AIは普通に挨拶を返してくれる。でも、さっきまで何を話していたのかと聞くと、ダンマリを決め込む。
メーカーの人に検査してもらいましたが、故障ではないと言われたそうです』
『凌さんは現地調査もされているとのことで、ぜひこの件を調べていただけないでしょうか』
スマホから目を上げて、少し天井を見た。
AIが、誰もいないのに話している。
幽霊でも感知して、会話しているのか——?
興味深い。かなり興味深いが……。しかし1つだけ問題がある。
高所恐怖症の俺に、吊り橋案件。
心霊より怖いわ、それ。
しばらく唸った後、俺は立ち上がった。上着を引っ掴んで、スマホをポケットに突っ込む。
怖いのと、気になるのと、どっちが強いか。
——まあ、気になる方が強いに決まってる。
俺はその吊り橋へ向かうことにした。




