第5話:信じる必要はありません
最近、タイムラインを眺める時間が長くなった。
理由は単純で、ネタ探しだ。
俺のチャンネルはオカルト系——心霊スポット、都市伝説、怪異体験談。
再生数はそこそこ伸びてきたけど、そこそこ止まりでもある。バズる一本が、どうしても出ない。
だから毎日スクロールする。面白い話が転がっていないか、誰かが変なものに遭遇していないか。
我ながら地味な作業だと思う。でもこれが仕事だ。いや、仕事にしたい、が正確か。今はまだ無職だから……。
そんなある日、また出てきた。
【1週間1名限定・完全無料】霊視占い、受付中。信じる必要はありません。
アカウント名は「常夜 凪」。ここ最近、やたらとリツイートが回ってくる。何万いいねだよ、ずいぶんバズってるな。
ネタとしては悪くない。でも——。
俺はスクロールしながら、ふん、と鼻を鳴らした。
占いなんて、まぐれかやらせに決まってる。当たった報告だけが拡散されて、はずれた話は誰も上げない。
そういう仕組に違いない。信じるやつの気が知れない。
でも……。
スクロールする指が、少しだけ止まった。
このまま動画投稿を続けていけるのか。YouTuberとして、ちゃんと食っていけるのか。
誰かに聞きたくて、でも誰に聞いても答えが出るわけじゃなくて、ずっとそれだけが頭の隅に引っかかっていた。
もし万が一、何か言ってもらえたら——。
……バカらしい。
自分で自分にツッコんだ。
でもその三秒後、いいね・リツイート・フォローで応募完了していた。
どうせ当たらない。記念応募みたいなもんだ。それに当たったとしても、ネタになればいい。そういうことにした。
当選DMが来たのは、四日後の夜だった。
『このたびは応募いただきありがとうございます。当選のご連絡を差し上げます。
なお、当選の事実は他の方にお伝えいただかないようお願いします。 相談内容は当日、直接お聞きします』
「……当たった」
声が、少し上擦った。
通話のみ、とある。顔出しなし。まあ霊能者なら、そういうものかもしれない。
しかも事前に何も聞いてこない。普通、占いって生年月日とか血液型とか、色々送らされるだろ。なのに日時の調整だけで終わった。
なんだかモヤモヤする。
ネタになるかも、と思っていたはずなのに、当日まで少しそわそわしていた。そわそわしていることは、誰にも言わなかった。
当日。
繋がった瞬間、声だけが聞こえてきた。
落ち着いた、静かな声だった。年齢や性別は、なんとなくぼやけている。でも不思議と、聞いていて嫌じゃない。
そしてよどみなかった。
「高校のとき、続けていたことを途中でやめていますね」
「……はい」
「やめた理由を、誰にも正直に話していない」
「……そうです」
「去年の夏、よく行った場所があります。川沿い、ですか」
「な——」
なんで知ってる。
そこからは、もう反論する気が起きなかった。好きな食べ物、昨日の行動、部屋に置いてあるもの——次々と、気味が悪いくらい当ててくる。
声だけなのに、目の前にいるみたいだった。いや、目の前にいるより、ずっと近い気がした。
そして最後に、俺は聞いた。
今後、YouTuberとして食っていけますか。
少し間があった。
「あなたはもうすぐ、誰も見たことのないものを見ます。それが答えになります」
意味がわからなかった。でも、なぜかそれ以上聞けなかった。
まぐれじゃない。これは。
もしかして、霊能力って——本当に存在するのか。
イヤホンを外した後も、しばらく声の余韻が残っていた。
この世界には本当に当たる占いというものが、もしかしたら霊能力的なものがあるかもしれない。
これは俺のチャンネルに登場してもらえたらバズるんじゃないか!?
通話後、俺はすぐにDMを送った。
「占いしてくださって、本当にありがとうございました。実はご相談したいことがあります。
俺のチャンネルにゲスト出演してもらえませんか。顔出し不要です。声だけで大丈夫です」
返信は、思ったより早く来た。
『面白そうですね。やってみましょう』
コラボ配信の反応は、思った以上だった。
凪さんの声は配信でも変わらなかった。静かで、でも確かで、視聴者の質問に次々と答えていく。
チャット欄が止まらない。コメントが追いつかないくらい流れていく。
こ、こんなの初めてだ……。
配信は盛況のまま終了した。
配信後、せっかくなのでそのまま少し話した。
お礼を伝えようとしたら、凪さんの方から先に口を開いた。
「……1つ、お願いがあるんですが」
「はい?」
「調査をしてほしいんです」
「調査?」
「はい」少し間があった。「心霊探偵として」
心霊探偵!?
なんかかっこいい響きだな、と思った次の瞬間、内容を聞いて肩の力が抜けた。
メタバース内のフリーマーケットエリアで、ちょくちょく不審な取引が行われているらしい。それを調べてほしいと。
——なーんだ、心霊じゃないのか。
少し悩んだ。動画のネタになるか、微妙なラインだ。でもコラボもしてもらったし、断るのも気まずい。
それに——誰も見たことのないものを見る、という言葉が、頭の片隅に残っていた。
「……わかりました。調査しましょう。」
俺は心霊探偵としての最初の仕事として、教えてもらったメタバースへログインした。
もう引き返せないことも知らずに。




