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メタバースゴースト  作者: 0x0nullrabi


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5/7

第5話:信じる必要はありません

 最近、タイムラインを眺める時間が長くなった。

 理由は単純で、ネタ探しだ。

 俺のチャンネルはオカルト系——心霊スポット、都市伝説、怪異体験談。

 再生数はそこそこ伸びてきたけど、そこそこ止まりでもある。バズる一本が、どうしても出ない。

 だから毎日スクロールする。面白い話が転がっていないか、誰かが変なものに遭遇していないか。

 我ながら地味な作業だと思う。でもこれが仕事だ。いや、仕事にしたい、が正確か。今はまだ無職だから……。

 そんなある日、また出てきた。

 【1週間1名限定・完全無料】霊視占い、受付中。信じる必要はありません。

 アカウント名は「常夜とこや なぎ」。ここ最近、やたらとリツイートが回ってくる。何万いいねだよ、ずいぶんバズってるな。

 ネタとしては悪くない。でも——。

 俺はスクロールしながら、ふん、と鼻を鳴らした。

 占いなんて、まぐれかやらせに決まってる。当たった報告だけが拡散されて、はずれた話は誰も上げない。

 そういう仕組に違いない。信じるやつの気が知れない。

 でも……。

 スクロールする指が、少しだけ止まった。

 このまま動画投稿を続けていけるのか。YouTuberとして、ちゃんと食っていけるのか。

 誰かに聞きたくて、でも誰に聞いても答えが出るわけじゃなくて、ずっとそれだけが頭の隅に引っかかっていた。

 もし万が一、何か言ってもらえたら——。

 ……バカらしい。

 自分で自分にツッコんだ。

 

 でもその三秒後、いいね・リツイート・フォローで応募完了していた。

 どうせ当たらない。記念応募みたいなもんだ。それに当たったとしても、ネタになればいい。そういうことにした。


 当選DMが来たのは、四日後の夜だった。

 『このたびは応募いただきありがとうございます。当選のご連絡を差し上げます。

 なお、当選の事実は他の方にお伝えいただかないようお願いします。 相談内容は当日、直接お聞きします』

 「……当たった」

 声が、少し上擦った。

 通話のみ、とある。顔出しなし。まあ霊能者なら、そういうものかもしれない。

 しかも事前に何も聞いてこない。普通、占いって生年月日とか血液型とか、色々送らされるだろ。なのに日時の調整だけで終わった。

 なんだかモヤモヤする。

 ネタになるかも、と思っていたはずなのに、当日まで少しそわそわしていた。そわそわしていることは、誰にも言わなかった。


 当日。

 繋がった瞬間、声だけが聞こえてきた。

 落ち着いた、静かな声だった。年齢や性別は、なんとなくぼやけている。でも不思議と、聞いていて嫌じゃない。

 そしてよどみなかった。

 「高校のとき、続けていたことを途中でやめていますね」

 「……はい」

 「やめた理由を、誰にも正直に話していない」

 「……そうです」

 「去年の夏、よく行った場所があります。川沿い、ですか」

 「な——」


 なんで知ってる。

 そこからは、もう反論する気が起きなかった。好きな食べ物、昨日の行動、部屋に置いてあるもの——次々と、気味が悪いくらい当ててくる。

 声だけなのに、目の前にいるみたいだった。いや、目の前にいるより、ずっと近い気がした。

 そして最後に、俺は聞いた。

 今後、YouTuberとして食っていけますか。

 少し間があった。

 「あなたはもうすぐ、誰も見たことのないものを見ます。それが答えになります」

 意味がわからなかった。でも、なぜかそれ以上聞けなかった。

 

 まぐれじゃない。これは。

 もしかして、霊能力って——本当に存在するのか。

 イヤホンを外した後も、しばらく声の余韻が残っていた。


 この世界には本当に当たる占いというものが、もしかしたら霊能力的なものがあるかもしれない。

 これは俺のチャンネルに登場してもらえたらバズるんじゃないか!?

 通話後、俺はすぐにDMを送った。

 「占いしてくださって、本当にありがとうございました。実はご相談したいことがあります。

 俺のチャンネルにゲスト出演してもらえませんか。顔出し不要です。声だけで大丈夫です」

 返信は、思ったより早く来た。

 『面白そうですね。やってみましょう』


 コラボ配信の反応は、思った以上だった。

 凪さんの声は配信でも変わらなかった。静かで、でも確かで、視聴者の質問に次々と答えていく。

 チャット欄が止まらない。コメントが追いつかないくらい流れていく。

 こ、こんなの初めてだ……。

 配信は盛況のまま終了した。

 配信後、せっかくなのでそのまま少し話した。

 お礼を伝えようとしたら、凪さんの方から先に口を開いた。

 「……1つ、お願いがあるんですが」

 「はい?」

 「調査をしてほしいんです」

 「調査?」

 「はい」少し間があった。「心霊探偵として」

 心霊探偵!?

 なんかかっこいい響きだな、と思った次の瞬間、内容を聞いて肩の力が抜けた。

 メタバース内のフリーマーケットエリアで、ちょくちょく不審な取引が行われているらしい。それを調べてほしいと。

 ——なーんだ、心霊じゃないのか。

 少し悩んだ。動画のネタになるか、微妙なラインだ。でもコラボもしてもらったし、断るのも気まずい。

 それに——誰も見たことのないものを見る、という言葉が、頭の片隅に残っていた。

 「……わかりました。調査しましょう。」

 

 俺は心霊探偵としての最初の仕事として、教えてもらったメタバースへログインした。

 もう引き返せないことも知らずに。

 

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