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メタバースゴースト  作者: 0x0nullrabi


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第4話:心霊スポットクリエイター (2/2)

 現場へは、まず下見のつもりで行った。

 「麺屋(めんや) 二味亭(ふたあじてい)」。中野から歩いて十分、大通りに面した小さなラーメン店だ。

 終電で降りて店に向かう。深夜二時、暖簾が出ていた。俺は客として入り、醤油ラーメンを頼んだ。

 店主は四十代くらいの、口数の少ない男だった。カウンター越しに「動画の件で来ました」と告げると、少し目を細めてから、「ああ」とだけ言った。

 話は投稿フォームの内容と大体一致していた。三ヶ月前から毎晩、深夜に店前の電柱の根元に花束が置かれている。

 警察に相談したいが、いたずらの域を出ないと言われた。防犯カメラは入り口を向いているが、電柱の根元までは映らない。

 しかし目撃者がいた。その証言によれば、配達人風の人物がそっと花を置いていったという。

 「縁起が悪いって言って、来なくなった常連さんがいるんですよ」

 店主は苦い顔でそう言った。

 気づけば深夜三時。閉店の時間だ。

 そして今夜も――気がつけば、さっきまでなかった花束が置いてある。

 外が気になって、何度も目をやっていたはずだった。なのに、電柱は店内からは死角で、いつの間に置かれたのか、全く分からなかった。

 俺は花束を撮影させてもらった。

 白い菊、カスミソウ、そしてリボン。包装紙の端に、小さなロゴが印刷されている。

 ハナハコ――ネットで注文すると、指定の場所まで花を届けてくれるサービスらしい。


 部屋に戻って、まず「ハナハコ」を調べた。

 生花の配達アプリだ。最短四十分、置き配対応、献花セットあり。普通のサービスだった。

 送り主を特定したい。

 ハナハコのサポートに問い合わせたが、返答は予想通りだった。「発注者の情報はお答えできません」。

 すぐに調査は行き詰まった。

 気分転換にXを開く。検索窓に「ハナハコ 中野」と入れると、半年前の投稿が出てきた。

 「今日もハナハコで花を届けた。地元には簡単に帰れないけれど、これだけは続けたい」。

 アカウント名は「@yuki_tech_life」。プロフィールには「好きなもの:コーヒー、自動化、猫。AIと暮らす練習中」とあった。

 投稿を遡る。

 三ヶ月前を境に、ぴたりと更新が止まっていた。

 最後の投稿は、本人ではなく別のアカウントからの引用リポストだった。

 「@yuki_tech_lifeの弟です。先日、兄が急逝しました。生前お世話になった方々へご報告申し上げます」。

 俺はしばらく、画面を見つめた。

 ハナ度が届き始めた時期と、この人物の亡くなった時期が一致している。

 

 @yuki_tech_lifeの過去の投稿を、最初まで遡った。

 技術系の話題が多かった。自動化ツール、AIサービスのレビュー、ショートカットの紹介。

 ただ単なるガジェット好きとも違った。AIとの「会話」をスクリーンショットで投稿していることが多く、その口調が妙に親しげだった。

 「今日も1日ありがとう」とAIに言っている投稿もある。

 「お前が返事してくれるから、独り言じゃなくなる気がする」という投稿もあった。

 三年前の投稿には、こういうものがあった。

 「中野へ来る度に寄る店がある。カウンター六席の小さいラーメン屋。店主は寡黙で、なぜか落ち着く。俺にとってそういう場所がある、それだけで十分な気がする」。

 そして三ヶ月前、更新が止まる直前の一文。

 「最近ちょっと体調が悪い。まあ大したことないと思うけど。AIに全部の設定を引き継がせておいた。こいつに任せておけば、俺がいなくても大抵のことはなんとかなる」。

 俺はその投稿を、何度も読んだ。


 二度目の現地調査。

 花束はすでに置かれていた。今夜分は届いた後らしい。

 たぶん、こういうことだ。

 yukiが死んだとき、AIはそれを検知した。兄からの訃報の引用リポストか、アカウントの停止か、あるいは別の何かなのか——とにかく気づいた。そして花を送ることにした。

 送り先に、yukiが「中野へ来るたびに寄る店」を選んだ。

 それがここだった。

 yukiはここで死んでいない。ここに特別な理由があったわけでもないかもしれない。ただAIは、yukiがこの場所を大切にしていたことを、知っていた。

 パターンを学習して、応用しただけかもしれない。

 あるいは——。

 確かめる方法はない。


 動画の最後に、俺は店主にもう一度話を聞いた。

 編集上の確認のつもりで、軽く尋ねた。「三ヶ月前に来なくなった常連さん、どんな人でしたか」

 店主はしばらく黙っていた。

 「三十代くらいの、無口な男性でした。中野に用事があるたびに寄ってくれてたみたいで。醤油ラーメンしか頼まない人で」

 それから店主は、花束の方をちらりと見た。

 「……そういや、ぱったり来なくなったのが、ちょうど三ヶ月前くらいですね」

 俺はカメラを回したまま、何も言わなかった。

 店主も、それ以上何も言わなかった。


 タイトルは「【調査完了】毎晩届く献花の発注者を追った結果」にした。

 コメント欄は「切ない」で埋まった。

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