第3話:心霊スポットクリエイター (1/2)
チャンネル登録者数が三桁を超えたのは、最初の動画を投稿してから4ヶ月後だった。
200人。
画面に表示されたその数字を見て、俺は複雑な気持ちになる。伸びてはいる。確かに伸びてはいるんだが……収益化の壁は遠い。まだ遠すぎる。
YouTubeのオカルトコンテンツというのは、大まかにいくつかのジャンルに分かれている。
都市伝説を掘り下げる「考察系」
有名人や視聴者の怖い体験を紹介する「怪談系」
依頼を受けて実際に現場に足を運ぶ「調査系」
そしてなんらかの霊的な能力を前面に押し出す「スピリチュアル系」。
俺のチャンネルは——たぶん「怪談系」に分類されるんだと思う。
思う、というのは、俺自身よく分かっていないからだ。最初はそのつもりだった。
視聴者から怖い話を募って、それを丁寧に読み上げる。
シンプルで、再現性があって、霊感ゼロの俺でも続けられる。
そう計算していた。
だが現実は甘くなかった。
じわじわと、再生数が落ちていったのだ。
原因はわかっている。差別化できていない。視聴者から集めた怪談は、気づけば他のチャンネルでも読み上げられていたりする。
話が被る。コントロールできない。俺だけのコンテンツじゃない。
そもそも「怪談を読み上げるだけ」の動画は、声が良くて編集の上手い人間がやればいい話で——俺はそのどちらも突出したものがない。
……方向転換、するか?
深夜、モニターの光だけが照らす六畳間で、俺は顎に手を当てて考える。
都市伝説系は結局、大手の考察チャンネルに食われる。スピリチュアル系は論外だ、霊感のかけらもない人間が霊能者のフリをするのは流石に倫理的な問題があると思う。
となると……調査系か。
ネットで競合を調べてみる。廃墟探索、心霊スポット潜入、いわくつきの土地を歩く——そういう動画はすでにゴロゴロある。二番煎じにしかならない。
うーん、と俺は唸る。
そこでふと思いついた。
「視聴者の怪奇体験を、俺が現地調査する」というのはどうだろう。
怪談系と調査系の、いいとこ取り。視聴者との距離感も近くなる。
しかも——どうせ俺には霊感がない。心霊スポットに行ったところで、幽霊に遭遇するわけがない。
怖い目に遭うリスクも低い。
悪くない、むしろかなりいい気がする。
どうせ今の俺は無職で時間は有り余っているし。
その日のうちに、Googleフォームで怪談投稿フォームを作り、動画の概要欄とエンドカードに貼り付けた。
【東京近郊で怪奇現象を体験した方、ご連絡ください。実際に現場調査します】
https://forms.gle/k7uXt9EvfCbwUizd8
これが——俺の、最悪のターニングポイントだったのかもしれない。
壁が薄い。
安い家賃にはそれ相応の理由があって、隣の住人がくしゃみするたびに俺は現実に引き戻される。
深夜に動画を撮っている時、これが一番困る。
それでも俺はカメラに向かって話し続ける。
「さて今回、投稿フォームに届いたのは……」
フォームを公開してから、ちらほら投稿が来るようになっていた。大半はネタ半分の内容だったが、これは少し毛色が違った。
差出人は、都内でラーメン店を営む四十代の男性だという。フォームに加えて概要欄のメールアドレスにも同じ内容が届いていたので、本人はよほど困っているのだろう。
内容を要約するとこうだ——。
三ヶ月前から、毎晩深夜三時になると、店の前の電柱のそばに花束が置かれている。
事故は起きていない。事件も起きていない。それなのに閉店後に必ず、まるで示し合わせたように、新しい花束が現れる。
定休日の翌朝には、複数の花束が並んでいることすらある。
まるで献花みたいだ……。
誰が。何のために。
謎は深まるばかりで、客足は遠のき、店主は頭を抱えているという。
……普通に、いたずらじゃないか?
俺は内心でそう思いながらも、カメラの前では神妙な顔を作る。
確かに不気味ではある。都市伝説めいた感じもする。だが直感的に、これは心霊現象じゃないと思った。
犯人がいる。動機がある。
つまり——追えるはず。
俺はこの投稿を読み上げた動画を「前編」として保存し、「解決編」と銘打って実際の現場へ向かうことにした。
撮れ高があるかどうかは、行ってみないとわからない。
それでも、久しぶりに——少しだけ、血が騒いだ。




