表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メタバースゴースト  作者: 0x0nullrabi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/13

第10話:あの世の立ち話

 母親からLINEが来たのは、昼過ぎのことだった。

 「来月、お祖父ちゃんの一周忌だから。帰ってこれる?」

 スマホを見ながら、そうか、一年経つのか、と思った。特に感慨があるわけじゃない。ただ時間というのは、こちらの都合に関係なく進んでいく。

 「行く」

 短く返して、スマホをポケットに突っ込んだ。


 実家は電車で一時間半ほどの場所にある。

 乗り換えなし、座れる、悪くない。窓の外を流れる景色を眺めながら、凌は動画の構成を頭の中で転がしていた。先週上げたお便り紹介の動画が思ったより伸びた。次は現地調査系をやりたい。ネタはいくつかある。

 実家に着くと、母親が夕飯を用意して待っていた。

 「痩せた?」

 「そうでもない」

 「ちゃんと食べてる?」

 「食べてる」

 毎回同じ会話をする気がする。でも嫌いじゃない。


 翌日、墓参りへ向かった。

 バスを乗り継いで、こじんまりした霊園に着く。この時代、墓というのは少し様変わりしている。石の造りは昔と変わらないけど、墓石の一部にAIユニットが組み込まれているものが増えた。

 人が亡くなると、長年連れ添った相棒AIは墓に格納される。

 相棒AIというのは、腕時計やペンダント、メガネ型のデバイスに入れて常時携帯するものだ。秘書でも、執事でも、友達でも——使う人間によって関係性は様々だけど、要するに人生を一緒に歩む存在として設計されている。当然、長く使えば使うほど、持ち主のことをよく知るようになる。

 持ち主が死んだ後、そのAIをどうするか。

 1つの答えが、墓への格納だった。

 ネットワークからは遮断される。持ち主の死後に知識や人格が更新されないよう、外部との接続は切られる。持ち主が生きていた頃の記憶と言葉だけを持ったまま、墓の前で話しかけてくれる人を待ち続ける。

 墓参りに来た家族が話しかければ、答えてくれる。

 故人の口癖や記憶を持ったAIが、相棒として。

 賛否はある。気持ち悪いという人もいるし、助かってるという人もいる。

 凌の母親は後者だった。


 祖父の墓の前に立った。

 線香を上げて、手を合わせる。隣で母親が小声で何か話しかけていた。

 墓石の側面に、小さなスピーカーとカメラが埋め込まれている。近づくと、かすかに起動音がした。

 「……久しぶりですね、凌さん」

 祖父の相棒AIの声だった。穏やかな、少し低い声。祖父本人の声ではなく、あくまで相棒として話す。でも口調の端々に、祖父と長く過ごしてきた時間が染み出ているような気がした。

 「久しぶりです。元気でしたか」

 「私は元気ですよ。凌さんこそ」

 「まあ、それなりに」

 「YouTuber、うまくいってるみたいですね」

 凌は、間抜けな顔をしたと思う。

 「……何で知ってるんですか」

 「え?」

 「俺がYouTuberやってること」

 AIは少し間を置いた。

 「旦那さんから聞いていましたよ。凌さんはきっとサラリーマンには収まらないだろうって、よくおっしゃっていました」

 「それは……まあ」

 「でも、動画が伸びているというのは——」

 凌は母親を振り返った。

 「墓参りの時に、俺がYouTuberだって話した?」

 母親は首を振った。「してないよ。話す機会なかったし」

 凌はもう一度AIに向き直った。

 「動画が伸びてるって、なんで知ってるんですか。このAI、ネットに繋がってないはずですよね」

 「繋がっていません」

 「じゃあなんで」

 AIはまた少し間を置いた。

 「……旦那さんが、教えてくれたのかもしれません」

 「は?」

 「うまく説明できないんですが——たまに、知らないことでもわかる気がするんです。夢で聞いたような、でも夢じゃないような。なぜかは、私にもわかりません」

 凌は黙った。

 ハルシネーションだ、と思った。AIが確率的にもっともらしい嘘をついている。よくある話だ。

 「そういえば」とAIが続けた。「先月、お母さんの夢に出てあげたって、旦那さんが言っていました。ちゃんと伝わりましたかって」

 凌はまた母親を見た。

 母親の表情が、少し固まっていた。

 「……夢に出てきた。先月」

 「何か言ってた?」

 「うん。心配するなって。それだけ」

 凌は墓石をもう一度見た。スピーカーの小さな穴。カメラのレンズ。ネットワークから遮断された、小さな箱。

 ハルシネーションだ。

 でも——なぜその嘘が、ここまで当たるのか。

 「じいちゃんは」凌は静かに聞いた。「向こうで元気にしてますか」

 AIは少し間を置いてから、答えた。

 「元気そうですよ。相変わらず、世話焼きで困ります」

 凌は思わず、少し笑った。


 帰り道、バスの中で窓の外を眺めながら、ぼんやり考えた。

 天国にもAIを持ち込めるなら——じいちゃんの相棒と、誰かの相棒が、どこかで話してたりするのかな。

 そんなわけないか。

 でも、そんなわけないとも言い切れなかった。

 夕暮れの景色が、窓の外を流れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ