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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第一部

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第9話 治安を支配する大魔王

聖女、動きます。

―魔王領・とある路地―


「ひっ……!」


 男が尻もちをついた。

 目の前には、ナイフを持った荒くれ者。


「へへ……金目のもん全部出しな……」


 震える村人。

 ――その時。


「そこまでです」


 静かな声が響いた。

 振り向くと――

 そこには、腕章をつけた数名の人影。


「魔王領警備隊です」


「け、警備隊……!?」


「武器を捨ててください」


「ちっ……!」


 男が襲いかかる。

 だが――

 バシィッ!!

 一瞬で取り押さえられた。


「確保」


「え、強っ」

(めちゃくちゃ訓練されている)



―魔王城―


「ゾフィーよ!」


「はい」


「最近、悪さをする人間が増えておるらしいのじゃ!」


「はい」


「許せん!」


 ターニャんは立ち上がる。


「恐怖で支配してやるのじゃ!」


「来ましたね」


「秩序とは恐怖で成り立つもの!」


「だいぶ危ない思想ですね」


「悪いことをしたらどうなるか――」


 ビシィ!!


「思い知らせてやるのじゃ!!」


(治安維持ですね)



―魔王城 前庭―


「よし!集まれ!」


 集められたのは、警備隊と村人たち。


「これより“見せしめ”を行う!!」


「「「……ごくり」」」


(言い方が完全にアウト)


「悪さをした者はどうなるか――」


 ドン!!

 縛られた盗賊が連れてこられる。


「ひぃぃぃ……」


「くくく……」


 ターニャんが近づく。


「覚悟はできておるか?」


「す、すみませんでした!!」


「遅い!」


 腕を掲げる。


「貴様には――」


 全員が息を呑む。


「労働を課す!!」


「「「え?」」」


「働け!」


「は、働く……?」


「そうじゃ!」


 ドヤ顔。


「働いて償うのじゃ!!」


「……あれ?」


(更生プログラムですね)



―数日後―


「すみませんでした……」


 元盗賊、畑を耕している。


「いや、助かるよ」


「人手足りてなかったしな」


「ちゃんと飯も出るし……」


「なんか……普通に生活できてる……」


 戸惑う元犯罪者。


「もう悪いことしなくてよくない?」


「……そうだな」


 改心した。



―街中・酒場―


「なあ、最近思うんだけどよ」


「ん?」


「ターニャん様って……魔王なんだよな?」


「……まあ、そうらしいな」


「でもさ」


 一人が笑う。


「暮らし良くしてくれるなら、魔王でもよくね?」


「……それな」


「むしろ前の領主より全然いいわ」


「“魔王様”って呼んだ方がそれっぽいか?」


「はは、それもそうだな!」



―街中・住宅街―


「最近、治安めっちゃ良くない?」


「夜も安心して歩けるわ」


「警備隊が巡回してくれてるし」


「魔王様のおかげだなぁ……」


 平和だった。



―遠方―


「……おかしい」


 勇者アレクは頭を抱えていた。


「恐怖政治を始めたはずだ……」


 見えた光景。

 犯罪者は処罰され――

 しかし、死んでいない。


「なぜだ……」


 むしろ――


「犯罪率が下がっている……?」


 震える。


「なぜだ……!!」

(仕組みが機能しているからである)



―魔王城―


「くくく……」


 ターニャんは満足げに頷く。


「人間ども、規律に縛られておるのう!」


「はい」


「恐怖が行き渡っておる証拠じゃ!」


「いえ、安心が行き渡ってます」


「なぜじゃ!?」


(暮らしやすいからです)




―街中・掲示板前―


ゾフィーは掲示板を更新し、人々が新しい情報を得ようと集まって来ていた。


ターニャんは満足そうにそれを眺める。


「うむ!これで我の恐怖による支配もいっそうはかどりそうじゃな!」


 人垣の隙間から、小さな子供が顔を出した。


「ねえ」


 無邪気な声。


「魔王様って、なんで魔王様になったの?」


 一瞬だけ、周囲が静まる。


 大人たちが慌てて止めようとするが——


 ターニャんは、気にした様子もなく。


「……なんでじゃろうな」


 ぽつりと呟く。


 少しだけ、考えるように視線を落として——


「そうする方が、楽だからじゃ」


 それだけ言って、歩き出す。


「えー、なにそれー!」


 子供が不満そうに声を上げる。


「知らんわ」


 手をひらひら振るターニャん。


「ターニャんさま‥‥‥?」


去っていくターニャんに普段と違う様子を感じながらも、ゾフィーは追いかけるのだった。





―聖協会本部―


「……報告は以上です」


 騎士の声が響く。

 聖女リリーは、静かに目を閉じていた。


「軍を持ち、税を取り、領地を広げ……」


 ゆっくりと目を開く。


「治安まで掌握した、と」


「はっ」


「……妙ですね」


 小さく呟く。


「通常であれば、民は疲弊し、反発が生まれるはず」


 だが――


「報告では、すべて逆」


 顔を上げる。


「民は安定し、支持し、広がっている」


 騎士が口を開く。


「で、ですが聖女様!相手は魔王です!きっと何か裏が――」


「ええ」


 遮る。


「あります」


 断言。


「だからこそ――」


 立ち上がる。

 ヴェールが揺れる。


「この目で確かめます」


 静かな決意。


「準備を」


「はっ!」

 

 空気が変わる。


「魔王ターニャん」


 小さく呟く。


「あなたが何者なのか――」

 

 その瞳は、まっすぐだった。





 その日。


 魔王は、“治安”を支配した。


 それは恐怖による統制ではなく、

 誰もが安心して暮らせる秩序だった。

 

 魔王は知らない。


 それが“圧政”ではなく――

 “法と更生”であることを。

 

 そして。


 本当の意味で自分と対峙する存在が、

 すぐそこまで来ていることを――


 まだ、知らなかった。

刑事司法とか更生保護法とか勉強しても実際はうまくいかないことの方が多いから、ターニャんのような魔王がいてくれたらね、って思ったり思わなかったりしています。

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