第10話 勇者が壊れる日
勇者の常識が崩れて、聖女と合流します。4人PTになるのはいつになることやら…
―魔王領 外縁―
「……ここが、魔王の国か」
勇者アレクは、立ち尽くしていた。
目の前に広がる光景。
整備された街道。 行き交う荷馬車。 笑い声。
「……ありえない」
呟きは、かすれていた。
「魔王の……領地だぞ……」
ゆっくりと歩き出す。
一歩、また一歩。
足が重い。
―街中―
「いらっしゃい!新顔さん?」
明るい声。
「え……?」
振り向くと、露店の店主。
「うちのパン、安くてうまいよ!」
「……あ、いや……」
「旅人でしょ?はい、これあげる!」
「な、なんで……」
「なんでって?」
きょとんとした顔。
「なんか悩んでるみたいだったからさ。困ってそうなら助けるの、普通じゃない?」
「普通……」
言葉が刺さる。
―別の通り―
「この道、最近整備されたんだってさ」
「税のおかげらしいぞ」
「ターニャん様すごいよなぁ」
「な……」
アレクの足が止まる。
「税……?」
笑顔で話す人々。
「助かってるよなぁ」
「生活めっちゃ楽になったし」
「……違う」
震える。
「違う……これは……」
否定しようとする。
だが。
―医療施設前―
「次の方どうぞー」
「はいー」
「無料で診てもらえるなんて……」
「ターニャん様のおかげだねぇ」
「ありがとうって言わないとねぇ」
「やめろ……」
アレクは頭を押さえる。
「やめろ……やめてくれ……」
世界が、壊れていく。
―広場―
「いち!に!いち!に!」
整然とした行進。
「おおー!」
「今日もやってるー!」
歓声。
笑顔。
拍手。
「……」
アレクは、その場に立ち尽くした。
「……これは……軍……」
だが、
「……違う……」
恐怖がない。
絶望がない。
「……なんなんだよ……これ……」
膝が震える。
―魔王城 バルコニー―
「くくく……」
ターニャんは街を見下ろす。
「どうじゃゾフィー!我の恐怖、行き渡っておるじゃろう!」
「はい(平和ですね)」
「人間ども、規律に縛られ、逃げ場もないのじゃ!」
「はい(住みやすいですね)」
「完璧な支配じゃ!!」
(理想国家です)
―街外れ―
「……俺は……」
アレクは、ふらふらと歩いていた。
「俺は……何を……」
勇者としての使命。
魔王を倒す理由。
すべてが――
「わからない……」
崩れ落ちる。
「誰を……救うんだ……」
目の前には、
幸せそうな人々。
「……俺は……」
声が、消える。
―その時
「立ちなさい」
凛とした声。
「……!」
顔を上げる。
そこに立っていたのは――
白いヴェールの少女。
「あなたが勇者アレクですね」
「……誰だ」
「聖協会所属」
一歩、近づく。
「聖女リリーです」
静かな名乗り。
「聖女……」
アレクの目が揺れる。
「見たのでしょう?」
リリーは言う。
「この国を」
「……ああ」
「どう感じましたか」
問い。
やがて。
「……わからない」
絞り出すような声。
「魔王は……悪のはずだ……」
「だが……」
拳が震える。
「人が……笑っている……」
リリーは目を細める。
「ええ」
「それが問題です」
「……は?」
「魔王が善である可能性」
静かに言う。
「あるいは――」
一瞬の間。
「より大きな災厄である可能性」
「……!」
「だからこそ」
リリーは空を見上げる。
「見極める必要があります」
視線の先には――
魔王城。
「共に来なさい、勇者」
まっすぐな声。
「真実を確かめます」
アレクは、立ち尽くす。
「俺は……」
揺れる心。
だが――
やがて、ゆっくりと立ち上がる。
「……ああ」
まだ、終わっていない。
勇者の物語は。
そして――
魔王の物語も。
その日。
勇者は、“壊れかけた”。
だが同時に、
新たな視点を得た。
そして。
本当の意味で魔王と対峙する者が、
ついに動き出した。
魔王はまだ知らない。
この出会いが――
自分の“世界”を揺るがすことを。
次回、魔王ターニャんの様子が‥‥‥??




