第7話 税を取る大魔王
みんなが納得できる税金の使い方って何でしょうね。
―某所・勇者アレクの潜伏地―
「ついに……来たか……」
勇者アレクは、静かに呟いた。
精霊を通して見える魔王領。
そこでは、人々が整然と働き、暮らし、笑っている。
「人心掌握、拠点確立、軍勢編成……」
指を折りながら確認する。
「そして次は――」
顔が歪む。
「搾取だ」
断言した。
「支配した民から、すべてを奪う……それが魔王のやり口……!」
(※かなり偏った魔王観である)
「来るぞ……必ず来る……!」
その時だった。
精霊が映し出す掲示板に、新たな張り紙が貼られる。
アレクは目を見開いた。
「……始まったか」
―魔王城 前庭―
「ゾフィーよ!」
「はい」
「金が足りん!」
「ですよね」
「給料も払っておるし、飯も出しておるし、家も用意しておる!」
「はい」
「減る一方じゃ!」
「はい」
「おかしいのう!」
「収支という概念を覚えましょうか」
「しゅうし?」
「お金の出入りです」
「ほう」
ターニャんは腕を組む。
「つまり……」
ピコン、と閃いた顔。
「人間どもから金を回収すればよいのじゃな!」
「言い方」
「くくく……ついに来たのう……」
不敵な笑み。
「“搾取”の時間じゃ……!」
(税ですね)
―掲示板前―
ざわ……ざわ……
「また張り紙だ……」
「今度はなんだ……?」
そこに書かれていたのは――
【魔王領 税制度について】
・生活基盤維持のための共同負担です
・収入に応じた段階的負担(低所得者は軽減)
・徴収した税は以下に使用されます →医療・食料支援 →インフラ整備 →教育 →防衛(魔王軍)
「……あれ?」
「なんか……普通じゃない?」
「むしろ優しくない?」
「え、前より生活安定するのでは?」
ざわめきが、安心に変わる。
「ちゃんと説明してくれてる……」
「領主の時と全然違う……」
「あの時は全部持ってかれたからな……」
「しかも理由も言われなかったし……」
誰かがぽつりと言った。
「……これ、払った方が得じゃね?」
「それな」
結論が早い。
―魔王城―
「くくく……どうじゃゾフィー」
ターニャんは満足げに笑う。
「人間ども、震えておるじゃろう?」
「いえ、安心してます」
「なに?」
「むしろ喜んでます」
「なぜじゃ!?」
「透明性がありますので」
「とうめいせい?」
「何に使うか明示してます」
「むしろ怖いのう!?」
(普通です)
―徴収初日―
「魔王様!」
役人(元村人)が頭を下げる。
「税の納付、始まっております!」
「よし!」
ターニャんは腕を組む。
「泣き叫びながら差し出しておるのじゃな!」
「笑顔ですね」
「なぜじゃ!?」
「納得しているからです」
「納得……?」
「はい」
「恐怖は?」
「ありませんね」
「解せぬ」
魔王、混乱中。
―医療施設―
「次の方どうぞー」
「はいー」
整備された診療所。
「薬は無料でお渡ししますね」
「助かります……!」
「これも税のおかげです」
「魔王様、ありがとうございます……!」
深々と頭を下げる人々。
―農地―
「この用水路、すごいな……!」
「税で整備されたらしいぞ!」
「水の心配がなくなった……!」
「収穫増えるぞこれ……!」
―学校(仮)―
「はい、ここテストに出ますよー」
「はーい!」
「勉強楽しいー!」
(教育まで始まった)
―遠方―
「……なんだ、これは」
勇者アレクは、固まっていた。
「搾取では……ない……?」
目に映る光景。
笑顔の民。 整備された生活。 感謝の声。
「なぜだ……」
震える。
「なぜ苦しんでいない……!?」
頭を抱える。
「税を取られているんだぞ……!?」
めちゃくちゃ正しいツッコミである。
「なぜ……笑っている……」
理解が追いつかない。
―魔王城―
「くくく……」
ターニャんは玉座(普通に座り心地いい椅子)に座る。
「ついに人間どもから富を搾り取ることに成功したのじゃ……!」
「はい」
「これで我の恐怖はさらに広がる……!」
「いえ、信頼が広がってます」
「なに?」
「支持率上がってます」
「しじりつ?」
「人気です」
「なぜじゃ!?」
(善政だからです)
その日。
魔王は、民から“税”を得た。
それは恐怖による略奪ではなく、
人々が自ら差し出す、未来への投資だった。
魔王は知らない。
自分の行いが、
“搾取”ではなく――
“社会保障”であることを。
そしてその制度が、
一つの国を、さらに強くしていくことを――
まだ、理解していなかった。
棒国家試験で社会保障の項目が0点だったことはナイショです。




