第6話 魔王軍を作る大魔王
さきほど検索履歴を見たら「溶接化になろう」と表示されて、「私は一体何を検索しているんだ…?」と反省したところです。
―某所・勇者アレクの野営地―
パチ……パチ……と、焚き火が静かに音を立てる。
「……間違いない」
勇者アレクは、目を細めていた。
彼の視線の先――正確には、精霊を通して見ている光景。
そこには。
「魔王は、拠点を築いた」
白亜の城。
整備された街路。
規律ある人の流れ。
どう見ても――発展している。
「まず村を救い、信仰を得る……」
拳を握る。
「次に、拠点を築き……人を集める」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
「そして――」
震える声で、言い切った。
「軍を作る気だ……!」
ドン、と地面を叩く。
「間違いない……!これは段階的侵略……!世界征服の準備だ……!」
※ほぼ雇用創出と都市開発である
「急がねば……奴が軍を完成させる前に……!」
勇者は、完全に正しい方向で、完全に間違っていた。
―ファリスの村(魔王領・仮)―
「うーむ」
魔王ターニャんは腕を組んでいた。
「どうしたのじゃ、ゾフィーよ」
「いえ、珍しく考え込んでいらっしゃるので」
「ふむ……最近の人間ども、あまり苦しんでおらん」
(めちゃくちゃ幸せそうですね)
「恐怖が足りんのではないか?」
「そうですね(棒)」
「やはり必要じゃな」
ターニャんはビシィ!と指を突きつける。
「“軍”が!!」
「来ましたね」
「恐怖とは力!力とは数!数とは軍勢!」
「だいぶ雑な三段論法ですね」
「人間どもを従わせ、我の命令で動く軍を作るのじゃ!」
「なるほど(雇用ですね)」
「名付けて――魔王軍!!」
ドーン!
「ゾフィーよ!募集をかけるのじゃ!」
「はいはい」
―ファリスの村・掲示板前―
ざわ……ざわ……
「な、なんだこれ……」
「また女神様の……いやターニャん様の張り紙だ……」
そこに書かれていた内容は――
【魔王軍 募集要項】
・職種:各種(戦闘・建築・農業・流通・魔導 ほか)
・給与:金貨支給(経験・能力に応じて優遇)
・勤務時間:1日8時間以内(超過勤務禁止)
・休日:週休二日制
・福利厚生:住居支給・食事補助・医療完備
「……軍?」
「軍ってこんなんだっけ?」
「待遇良すぎない?」
「え、入る」
「俺も」
「私も」
即決だった。
―魔王城 前庭―
「よし!集まったか!」
ターニャんが胸を張る。
その前には――
めちゃくちゃ整列した人々。
「本日より貴様らは我の配下じゃ!」
「「「よろしくお願いします!!!」」」
「声がでかいのぅ!恐怖に震えておるな!」
(やる気に満ちてますね)
「まずは部隊を編成する!」
「おおー!」
「戦う者は“戦闘部隊”!」
「はい!」
(自警団ですね)
「物資を運ぶ者は“兵站部隊”!」
「はい!」
(物流です)
「作る者は“建築部隊”!」
「はい!」
(建設会社です)
「魔法を扱う者は“魔導部隊”!」
「はい!」
(インフラ整備です)
「くくく……完璧じゃ……!」
(国家機能ですね)
―その頃・遠方―
「見える……見えるぞ……」
勇者アレクは震えていた。
精霊越しに見える光景。
「統率された動き……!」
人々が列を成し、指示に従い動いている。
「役割分担……!」
それぞれが異なる仕事をしている。
「訓練された兵士たち……!」
普通に働いているだけ。
「くそっ……もうここまで進んでいるのか……!」
膝をつく。
「俺は……間に合わなかったのか……」
めちゃくちゃ間に合っている。
―魔王城 前庭―
「よーし!次は演習じゃ!」
「演習?」
「軍といえばこれじゃろう!」
ターニャんは高らかに宣言する。
「行進じゃ!!」
「おおー!」
(おおー?)
「いくぞ!いち!に!いち!に!」
「「いち!に!いち!に!」」
ザッ、ザッ、ザッ……
整然とした行進。
揃った足並み。
響く掛け声。
「くくく……見よこの統率……!」
(普通にすごいですね)
「恐怖で支配された者どもの動きよ!!」
(モチベーション高いだけです)
―数時間後―
「すごーい!!」
「きれいに揃ってるー!!」
「もう一回やってー!!」
観客が増えていた。
「なんじゃあれは」
「近隣の人たちが見に来ています」
「なぜじゃ」
「多分、楽しいからです」
「なに?」
困惑するターニャん。
「我は恐怖を見せておるのじゃぞ?」
「パレードとして大人気ですね」
「ぱれーど?」
「はい」
「……恐怖とはなんじゃ?」
魔王、哲学に迷い始める。
―遠方―
「……終わった」
勇者は膝から崩れ落ちた。
「軍勢が完成した……」
整然とした行進を見てしまったのだ。
「統率、規律、士気……すべてが揃っている……」
震える。
「これが……魔王軍……」
※ただのパレード
「世界は……もう……」
めちゃくちゃまだ大丈夫である。
その日。
魔王軍は誕生した。
誰もが笑顔で働き、
誰もが安定した生活を得て、
誰もが未来に希望を持っていた。
――魔王のもとで。
魔王は知らない。
自分が作ったものが、
“恐怖の軍勢”ではなく――
“理想的な組織”であることを。
そして。
その組織がやがて、
一つの“国”へと変わっていくことを――
まだ、誰も知らなかった。
今しばらくは内政(?)パートにお付き合いくださいませ。




