第4話 洗脳の大魔王
ここの話はけっこうノリノリで書きました。
―ファリスの村―
雨は降った。 大地は潤った。
――だが、それだけだった。
「作物が育つまで、どれくらいかかる……?」
「早くても一月は……」
皆が口をつぐむ。
村の中央には、わずかに残された食料が積まれていた。
だが――
「……これ、もう傷んでるぞ」
「水は手に入ったけど…これじゃあな」
「こっちも…これ以上は腐る……どうすればいいんだ……」
「捨てるしかないのか……?」
誰も答えられない。
子どもが、空の器を抱えている。
「おなか、すいた……」
母親は、何も言えなかった。
手に入った水も一過性のもの。
次に雨が降るのはいつか、また女神の慈悲を待つしかないのか。
救われたはずの村に、 まだ“明日”はなかった。
―ファリスの村 外れ―
「村人たちをどうした」
アレクは低く問う。
「どう、とは?」
「とぼけるな! 心を操り、“救われた”と思い込ませているのだろう!」
「……?」
本気でわかっていない顔。
「くくく……なるほどのう!」
突然、ターニャんが笑い出す。
「我の恐怖が強すぎて、感謝するしかなくなったのじゃな!」
「違う!!」
勇者、全力否定。
「もういい……」
聖剣を構える。
「ここで断つ」
「よいぞ!!」
ターニャんの目が輝く。
「絶望を味わわせてやるのじゃ!!」
「方向性は同じなのにズレてるんですよね……」
ゾフィーが呟いた、その瞬間――
地面を蹴る勇者。
一瞬で間合いを詰める。
「はあああああ!!」
閃光。
聖剣が振り下ろされる。
「おそいのじゃ!」
ターニャん、片手で受け止める。
――が。
ドゴォォン!!
衝撃が地面に叩き込まれ、大地が裂けた。
「しまっ――」
勇者の顔が引きつる。
ミシ……
地面の奥から、音。
ゴボッ――
「……え?」
水が、吹き上がった。
ーファリスの村ー
「み、水だ……!」
遠くで見ていた村人が叫ぶ。
「水が出たぞおおおお!!」
歓声。
大地の奥から水が息を吹き返したように溢れていった。
―ファリスの村 外れ―
「くくく……」
ターニャん、腕を組む。
「どうじゃ! 大地を裂き、絶望を見せてやったのじゃ!」
(完全にライフライン確保なんですよね)
「まだだ!!」
勇者が踏み込む。
聖剣による突きがターニャんを狙う。
が、
「ふん」
ターニャんは指先一つで受け止める。
「ぬるいのぉ」
「…貴様…!」
「貴様自体はニンゲンの中で強い方なのであろう?
そういった者を絶望させるにはな……」
「……!!まさか」
「守ろうとしたものを守れないと自覚させることじゃ」
「やめろっ!」
「あの村ーふぁ、ふぁ……」
「ファリスの村です。ターニャん様」
「ファリスの村の食糧を絶望に沈めてやるのじゃ!」
「くっ!弱いものを狙うとは……やはり魔王か!」
ターニャん、両手を掲げる。
空気が凍りつく。
キィン――
白い霧が村へ流れ込む。
「やめろおおお!!」
勇者が突っ込む。
剣と魔力が衝突した瞬間――
バキィィィン!!
衝撃が弾けた。
ーファリスの村ー
村の食料庫。
中にあった作物や肉が――
すべて、完全に凍結していた。
「……え?」
「腐ってない……?」
「これ……保存できるぞ……!」
「冬まで持つ……!!」
ざわめきが広がる。
やがて――歓声。
村の歓声を聞く勇者。
「なぜだ……!」
勇者が叫ぶ。
「なぜ被害が出ない!?」
「くくく……苦しんでおるなぁ!」
ターニャん、満面の笑み。
「人間どもは、絶望して声も出ぬのじゃ!」
「違うだろ!!」
(むしろ歓声です)
「くっ……」
勇者は歯を食いしばる。
村の方からは喜びの声が聞こえてくる。
水が湧き、食料が守られ、村人は笑っている。
「……そうか」
ぽつりと呟く。
「わかったぞ、魔王……!」
「なんじゃ?」
「最初に救いを与え――油断させる」
「その後、すべてを奪うつもりだな……!」
「なにそれかっこいい」
(違います)
その時、
「勇者さまー!!」
村人の呼びかける声。
「!?」
「女神さまのおかげで助かりましたー!!」
「!?!?!?」
「ありがとうございます女神さま!」
「洗脳が進んでいる!!」
「してません」
ゾフィーの突っ込みは冷静だった。
「くくく……」
腕を組み、胸を張って笑うターニャん。
「人間どもは絶望しておるのう」
村人たちの歓声が聞こえる。
「女神様、ばんざーい!!」
(幸せそうなんですよね)
ゾフィーは一人冷静に事実を受け止めていた。
戦いが終わり、次からは内政(?)パートに入ります。




