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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第18話 正義の重さ

 夜の森。

 

 冷たい風が、ローブの裾を揺らす。

 

「……こちら第七班。痕跡を確認。進行方向は北西」

 

 淡々とした報告。

 

 だがその声には、わずかな迷いが混じっていた。

 

 男の名は、エリオット。

 

 聖協会・執行部隊の一員。

 

「……了解。包囲網を狭める。決して取り逃がすな」

 

 通信結晶の向こうから、上官の声。

 落ち着いた静けさと冷たさを感じさせた。

 機械のように、正確な声だった。


 エリオットは、短く息を吐く。

 

「……了解」

 

 通信を切る。

 

 足元には、折れた枝。

 

 わずかに残る足跡。

 

 そして――

 

 微かな、血の匂い。

 

「……痕跡をなくすほどの余裕はない、か」

 

 立ち止まって回復魔法を使うほどの余裕はない、つまり近くまで追いつめている、ということだ。


 逃走者。

 

 ――英雄ターニャ

 ――聖女リリ


 枢機卿殺害の容疑者。

 

 “聖協会に仇なす者”

 

「……本当に、そうか?」


 言葉が、無意識に漏れる。

 

 顎に手を当て考えようとすると、

 

「エリオット」

 

 背後から声がした。


 振り向くとそこには、同じ部隊の女性――ソフィが立っていた。


「どうしたの?」


「……いや」


 エリオットは、視線を逸らす。


「ただの確認だ」

 

 ソフィは、しばらく彼を見る。

 

「……見たでしょ」


 小さく、言う。


 エリオットの肩が、わずかに揺れる。


「……ああ」


 あの光景。


 塔の中。

 

 倒れていた、枢機卿。


 だが――


 “傷の形”が、明らかにおかしかった。


「……あれは」


 ソフィが続ける。

 

「どう見ても、外部からの攻撃じゃない」


「…………」


「なのに」

 

 ためらいの間。


「“彼女たちの仕業”って、即断された」


 エリオットは、拳を握る。


「……命令だ」


 それは、答えになっていない答え。


「わかってる」


 ソフィも、すぐに返す。


「だから従ってる」


 一歩、近づく。


「でも」


 さらに、もう一歩。


「エリオット」


 言葉が響く。


 

「あなた、自分で納得してる?」


 

 その問いは、鋭かった。

 


「……納得は、必要ない」

 


 エリオットは言う。

 


「我々は、“正しさ”を執行する側だ」

 

 唇を噛む。


「個人の感情は、排除する」



 言葉は、整っている。

 

 まるで、教本のように。

 

 ――だが。

 

「……それ」

 

 ソフィが、静かに言う。

 

「“正しい”って、誰が決めたの?」

 

 すぐに言葉は出なかった。


 森の音だけが、響く。

 

「……上だ…枢機卿会議が」

 

「最高決定権限を持ってた枢機卿は、死んだよね」

 

 言葉が、突き刺さる。


「しかも、“不自然に”」

 

 エリオットの呼吸が、わずかに乱れる。

 

「やめろ……今は任務中だ」


「うん」


 ソフィは、あっさり頷く。

 

「だから聞いてるの」

 

 視線が射貫く。


「任務中に、疑問を持ったまま進むの?」

 

 その言葉は。

 

 静かで。

 

 逃げ場がなかった。

 

 エリオットは、目を閉じる。


 思い出す。

 

 塔で見た光景。

 

 そして。

 

 逃げる少女の顔。

 

 恐怖。


 混乱。

 

 ――“加害者の顔”ではなかった。


「……」

 

 長い沈黙の後。


 エリオットは、ゆっくりと目を開く。


「……だからこそだ」


 低く、声が落ちる。

 

「捕まえる」

 

 ソフィが、目を細める。

 

「……殺すためじゃない」

 

 エリオットは続ける。

 

「真実を、確かめるために」

 

 意思がこもる。


「そのために、逃がさない」

 

 その言葉は。

 

 さっきまでとは、少しだけ違っていた。

 

「……そっか」

 

 安心したように答える。

 

「じゃあ、同じだね」


 ソフィは、小さく笑う。

 

「私も、“確かめたい側”」

 

 エリオットは、わずかに驚く。

 

「……従うよ、命令には。でも」


 ソフィの言葉もまた、意思をこめたものだった。

 

「盲目的にはならない」

 

 風が、強くなる。

 

「私の出身の村にね、英雄と聖女が立ち寄ったんだって」


「なに?」


「瞬く間に問題を解決して、謝金以外にお礼をあげたみたいなの。プリンだって」


「プリン??」


「甘いものに目がないみたいで、二人して目を輝かせてたって言ってた。

 ほんとはさ、きっと。英雄とか聖女なんて呼ばれてても普通の子たちなんだよ」


「‥‥‥‥」 

 

 ――ピリッ


 二人の表情が変わる。

 

「……魔力反応」

 

「近い」

 

 エリオットは、剣を抜く。

 

 ソフィも、構える。

 

「……行くぞ」

 

「うん」

 

 二人は、同時に駆け出す。

 

 その先にいるのが。

 

 “罪人”なのか。

 

 それとも――

 

 “被害者”なのか。

 

 まだ、誰も知らない。

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